「お二人とも。ご心配をおかけしました」
俺が仕事を休んだあとの休校日を2日挟んだ今日。俺は出勤して開口一番、暖かく出迎えてくれた大淀さんとソラール先輩に対し、深々と頭を下げた。
「いえいえ。ともあれ体調が戻って何よりです。こちらは大丈夫だったんで、カシワギさんもどうぞおかまいなく」
優しいなぁ……大淀さんは天使だなぁ……病人の身体を容赦なくペタペタと触ってくる、どこかの小悪魔夜戦バカと違って……。
一方のソラール先輩も俺のことを心配していたらしく、朗らかな笑顔で……いや兜かぶってて顔は見えないけど……俺の肩をポンと叩いてくれた。肩を叩かれた瞬間、先輩のずっしりとした腕の重みが、先輩の心配と喜びを俺の肩に届けてくれた。
「それよりも貴公、体調が相当悪かったみたいだが、大丈夫だったか?」
「ええ。おかげさまで」
「ならよかった。俺も見舞いに行こうか迷ったのだが……」
「な、なるほど……」
なぜだろう……この人がお見舞いに来たとすると……このままの格好のソラール先輩が、フリフリのエプロンを着て台所に立っているところしか想像出来ん……
――♪〜♪〜……
ちくしょう。あのアホの台所姿を見たからか。あの、どこか楽しげで安心出来る姿が、妙に印象に残っているからか。
「でも、だったらどうしてお見舞いに来てくれなかったんですか?」
そうだ。迷ってたのなら、せっかくだから来てくれても良かっただろうに。どうせ来てたのは川内ただ一人。ソラール先輩と川内だったら、すぐに仲良くなるだろう。太陽と夜戦。お互い崇拝する時間帯は正反対だが、その根っこは似ている物同士、心が通じ合う部分もあるだろうに。
「……えー」
「えー?」
「……あー」
「あー?」
「……た、太陽が出てなくては……」
なんだか言いづらそうに、もごもごと答えるソラール先輩。兜のせいで見えないが、きっと口をひょっとこのようにとんがらせ、それを向かって右上の方に持ち上げて声を発しているに違いない。そんな感じがする、くぐもった声だった。
「結局太陽ですか……」
「お、俺の太陽が……」
「貴公……」
でもなんとなくだが、理由はそれだけではない気がした。そんな俺達の事を微笑ましく眺めている大淀さんなら、事情を知っているかも知れないな。ソラール先輩本人が言いづらそうにしてることだから、あえてこちらから追求することもないけれど。
「ところで大淀さん」
「はい?」
「俺が休んだ日は忙しかったですか?」
確か……その日に限って、やたらと生徒さんの数が多かったはずだが……おれ、最初休む時にすんごい罪悪感があったもんなぁ……。
俺の心配をよそに、大淀さんはいつもの柔らかい微笑みを向けながら、メガネをくいっと持ち上げた。
「生徒さんは多かったですけど、大丈夫でしたよ。ソラールさんの知人の方が助っ人に来てくれまして」
ほう……変態太陽戦士ソラール先輩の、知人とな?
「どんな方だったんですか?」
「ええ。ロー……お名前、なんでしたっけソラールさん?」
「女神の騎士ロートレク。偶然白サインを見つけたので召喚した」
白サインというものが何なのか気になるが……それよりも、なんかもうその通り名だけで分かる。その人が、いかにめんどくさい人なのかが。そらぁソラール先輩の知人つーからには、一筋縄ではいかないと思っていたけれど……。
「そうそう、ロートレクさん。その方に岸田さんの相手をしてもらったんですが、岸田さんが萎縮しきってましたね」
「最初は岸田殿もカシワギと同じように接していたのだが、あの男にそういうのは通用せんからな」
その後、大淀さんとソラール先輩が代わる代わる教えてくれたのだが……件のロートレクさんという人は、相当厳しい先生だったらしい。岸田さんは、最初俺に接する時と同じ話し方でロートレクさんに文句を言っていたのだが……
『えー……先生変わるの? そんなに頻繁に担当者変わっていいの?』
『ほう』
『そもそもあんた、大丈夫なの?』
『貴公、もはや人間性が限界と見える』
『へ?』
『哀れだよ。まるで炎に向かう蛾のようだ』
というよく分からないやりとりの後、手元確認禁止、ミス一回につき100文字追加、一分あたりの打鍵数低下が確認される度に100文字追加の、地獄のタイピングブートキャンプをずっと行っていたそうだ。タイピングを行う手元には、ロートレクさんお手製のダンボールの覆いが設置され、手元が絶対に見えない状態で二時間もの間、岸田さんは半べそでひたすらタイピングを行っていたらしい。
「そうだ。岸田殿を担当しているカシワギに、ロートレクから伝言がある」
「へ? 俺にですか?」
「ああ」
――貴公はぬるすぎる ヤツの人間性を限界までむしり取れ
「だそうだ」
だから人間性って何だよっ!? 今Y字ポーズで気持ちよく上に伸びてるソラール先輩もこの前言ってたけどっ!!
「でも、一度お礼を言いたいです。俺に貴重なアドバイスもくれたし」
「そうですね。ソラールさん、近いうちにまた、ロートレクさんをお呼びしてください」
とはいえ俺のヘルプをしてくれたのだから、お礼を言うのは当然だ。それに、その言葉ぶりから見ると、ロートレクさんは相当なインストラクター……もっといえば、熟練のエンジニアの雰囲気が漂う。同じエンジニアとして、一度話をしてみたいと思ったのだが……
「残念だが、今回はたまたまロートレクの白サインが見えた故、召喚出来たのだ。次はいつ会えるか、俺にも分からん」
「そ、そうですか……」
その辺のシステムがいまいちよく分からないが……まぁいい。いつ会えるのかわからないというのなら、その日が来るのを楽しみに待つとしようか。
謎の助っ人、ロートレクさんの話が一区切りついてしばらくすると、入り口ドアがガチャリと開き、お昼からの生徒たちが顔を出し始める。
「こんにちはー。今日もよろしくお願いしまーす」
「はいモチヅキさん、今日もよろしくお願いしますね」
「こんちはー。あらカシワギ先生! もう風邪は大丈夫?」
「ええおかげさまで。ご心配をおかけしましたタムラさん」
「んじゃ黄金糖たべる? 今日も持ってきたわよ?」
「あ! ありがとうございます!!」
無論、あの夜戦小悪魔の妹にして見た目常識人だけど中身はなんだか変な人、神通さんももちろんやってくる。今日は彼女も授業だ。
「こんにちは。今日もよろしくお願いします」
「はい。神通さんもこんにちは」
「あ、カシワギ先生。具合はいかがですか?」
「おかげさまで快調です」
「姉がお役に立ったみたいですね」
「ありがとうとお伝え下さい。実際、とてもよく診てくれました」
「はい。でも、直接伝えていただいたほうが、本人も喜ぶと思いますよ」
……ま、たしかにそうだ。もちろん本人にもお礼を言うが……なんか軽口の叩き合いになりそうなんだよなぁ。アイツと面と向かってだと……。
神通さんはキョロキョロと周囲を見回し、教室の方へとかけていく。黄金糖のタムラさんを案内して先に教室に入っていった、ソラール先輩を探しているのかな? 神通さんがパーテーションの向こう側へと足を踏み入れた瞬間、彼女のうれしそうな声が聞こえてきた。
「ソラール先生!」
「お……おお、神通!!」
……んー?
「今日もよろしくお願いします!」
「おお、よろし……く……!!」
なんだ? この、ソラール先輩らしからぬ歯切れの悪さは……? 神通さんはいつも通りの嬉しそうな声だけど……ソラール先輩は……なんだかちょっと、戸惑っているような……
「私の席はここでいいですか?」
「ああ。き、今日は、そこではなくて……」
うん。なんかおかしい。ソラール先輩のあの歯切れの悪さ……普段の先輩なら、もっとこう……
――神通、貴公の今日の席はここだ 太陽が貴公を導くだろう
みたいな感じで、やたらと太陽と結びつけてY字ポーズを取るはずなのだが……今の先輩は……
「先生、今日はこのプリントの続きからでいいですか?」
「そ、そうだな」
「二水戦の誇りにかけて、今日中に作成します!」
「わからないことがあれば、え、遠慮なく……」
「ええ。その時は、私の太陽として導いてください!」
こんな感じで終始神通さんに圧倒されているような、そんな感じが……。大淀さんを見ると、クスクスと微笑みながらパーテーションの向こう側を眺めているが……
「大淀さん?」
「はい?」
「何か知ってるんですか?」
「本人に聞いてみるといいと思いますよ?」
そう答える大淀さんの柔らかい笑顔には、ほんの少し、いたずら心が見え隠れしていた。
今一納得出来ないまま、頭を捻りつつ教室へ入る。教室ではハゲ頭のモチヅキさんがExcelで条件付き書式を設定し、黄金糖のタムラさんがWordでカレンダーを作っていた。カレンダーは今晩、川内も挑戦する予定になっている。
「ぁあカシワギ先生! ちょっといい?」
「ああはい。タムラさん今行きますよー」
タムラさんに呼ばれ、俺は彼女の席へと急いだ。神通さんとソラール先輩の席を素通りする時、2人のこそこそ話が偶然、耳に入ってきた。
『教室ではいつも通りって約束したじゃないですかっ(こそこそ)』
『あ、いや……しかし神通……(こそこそ)』
『もう……しっかりして下さいっ(こそこそ)』
……んー? 教室では? いつも通り? んー?
……あ。なんとなく分かったかも。ひっとしたら、俺が熱を出してくたばってたその時、あの2人は一緒にいたのかもしれない。とすると、さっき俺の看病がうんちゃらかんちゃらって時に、妙に歯切れが悪かった理由も、なんとなく理解出来る気がする。
そう思い当たると、不思議とソラール先輩のあのバケツ兜のほっぺたあたりが赤くなってるように見えるから、人間不思議なものだ。2人ともいい人だから、幸せになってもらいたいね。
「先生! カシワギ先生!!」
「ぁあごめんなさい。えっと……どうしました?」
「はい。作る順番なんですけど、カレンダーでもやっぱり、入力から始めるのよね?」
「そうですね」
タムラさんに声をかけられ、慌てて自分の仕事に戻る。タムラさんの画面はまったく入力がされてない白紙の状態のままだった。カレンダーは表と写真数枚によるシンプルなものだが、今まで作ってきたプリントに比べると、見た目で手順が分かりにくい。そのため、タムラさんは手順に迷い、手を付けることができなかったようだ。
「でも今回作るカレンダーって、日付の表と写真しかないわよ?」
「その時は、まず表から作っていきましょ。写真は大きさの調整が楽ですけど、日付の表の部分は、一回作っちゃったら調整が大変ですから」
「はいー。ありがとう先生」
「いえいえ。分からないことがあったら、また聞いて下さい」
「そしたらまた先生に黄金糖あげるわね~」
「俺、虫歯になっちゃいますねぇ」
「「あはははは~!!」」
タムラさんと共に大笑いしながら、壁掛け時計を見る。授業が開始してすでに20分。今日は岸田さんも来るはずなんだけど……なんか遅いな……。
「ソラール先生、ちょっといい?」
「? どうしたモチヅキ殿?」
一方、そんな俺達の向こう側では、モチヅキさんと神通さんとソラール先輩の、Excel教室が繰り広げられている。
「えっとね先生。ここに写真を入れたんだけど……」
「ああ」
「それで、写真を丸く切り抜きたいんだけど、そんなこと出来る?」
「出来る。『書式』タブの『トリミング』というところの、下向き三角をクリックしてみてくれ」
「ほいほい」
「クリックしたら、『図形に合わせてトリミング』という項目があるから、その中から好きな図形を選択すれば、その図形の形に切り抜けるはずだ。今回は丸を選べば、モチヅキ殿の理想の形になるだろう」
ソラール先輩の説明を受け、『ほうほう……ここ?』と言いながらマウスをカチカチと操作していくモチヅキさん。俺はタムラさんが入力をし始めたのを見計らい、その様子を見学しようとモチヅキさんとソラール先輩の席へと移動し、画面を見た。
モチヅキさんのExcelの画面には、一年の気温変動のグラフと、一枚の桜のイラストが表示されていた。モチヅキさんはソラール先輩の指示通り、イラストが選択された状態から書式タブをクリックし、図形の形にイラストをトリミングしていた。
「ぉおー。できたできた」
「相変わらず、モチヅキ殿は操作が鮮やかで優秀だ」
「何を仰る。ソラール先生の腕がイイからですよぉ」
「俺も、太陽のように朗らかで優秀なあなたを導くことが出来て、光栄だ」
ただ丸く切り抜くだけであれば、図形のスタイル設定を使えば、周囲をぼかした状態で丸く切り抜くことが出来るのだが……そうではなく、モチヅキさんは単純に丸い形に切り抜きたかっただけらしい。そうならば、俺は余計なでしゃぱりをする必要はないだろう……そう思っていたら。
「……で、モチヅキ殿。実はもう一つやり方がある」
「そうなんですか?」
「ああ。今回は図形の形に切り抜いたが、先に図形を書いてしまって、その中にイラストや写真などの画像をはめ込むことも可能だ」
「へー……」
『ちょっとマウスを拝借……』と、ソラール先輩はモチヅキさんのマウスを操作に、真円の図形を描いた。そして、『書式』タブの『図形の塗りつぶし』から『図』を選択し、『太陽.png』という画像を選択する……
「見てくれモチヅキ殿。このように、図形の中にイラストが入った」
「本当だねー。こりゃ、ソラール先生の太陽じゃないかー」
丸の中に入った画像……それは、見間違うはずがない……先輩の鎧と盾、どこかしこに描かれた、アンニュイな表情の、気が抜けた太陽のイラストの顔部分だった。まさかこの男……
「あとは……」
「ほお?」
続けてソラール先輩は太陽の図形を描き、スタイル設定でやや赤が強めの立体的なスタイルに変更すると、それを最背面に移動し、2つを重ねて……
「太陽ッ!!」
「これでモチヅキ殿も太陽の戦士ッ!!」
ま、またしてもやりやがった……! この変態太陽野郎はExcelの機能だけを使って、自分が胸に描いたものそっくりの太陽のイラストを作りやがった……!! しかもモチヅキさんと2人揃って、Y字ポーズで気持ちよさそうに伸びてやがる……ッ!?
「いやぁ! やはりお天道様は素晴らしいですなぁ!!」
「それが分かるモチヅキ殿も、また太陽の戦士っ!!」
二人して元気よくY字のポーズを取っている、80近い老人とコスプレ太陽戦士の2人。ここに来て間もないころの違和感を久々に思い出した。大丈夫かこの教室……?
何か熱い視線のようなものを感じ、その方向に顔を向けた。
「……!?」
神通さんが、ソラール先輩とモチヅキさんに熱い眼差しを向けていた。俺と目が合った途端、顔を真っ赤にしてサッとうつむき、そして何事もなかったかのように画面を凝視し始める。……まさか、一緒になってあのポーズをやりたかったわけではないだろうな……。
「す、すみません遅れましたッ!!?」
タイミングよく教室内に大声が鳴り響いた。入り口を見ると、岸田さんが立っている。こちらに深く頭を下げ、恐縮しきっているようだ。その姿に、以前のような不遜な感じはまったくない。ロートレクさんの強烈なシゴキの効果か。
「ぁあ岸田さん。お待ちしてました」
俺は入り口で頭を下げ続けている岸田さんに声をかけた。岸田さんはハッとして顔を上げ、俺の顔を見るなり、感激したように目をうるうるとうるませ始めた。きもい。
「か、カシワギ……せん……せい?」
「はい。カシワギですが……」
「も、もう体調は……いいの?」
「はい。おかげさまで大丈夫ですよ」
「本当に?」
「はい。げんきーっ!!」
何度も『大丈夫か?』と問いかけてくる岸田さんに対し、俺は両手で力こぶを作って、自分の元気さをアピールしてみせた。……しかし、カワイイ女の子ならいざしらず、若干顔が皮脂でテカっている男に、涙目で顔を見つめられるというのは、なんだか落ち着かなくて仕方がない。正直、やめていただきたいのだが……
「よ、よかった……本当に……じゃあ今日からはまた、カシワギ先生が俺の担当になるんですか……!?」
「ええ。基本的に岸田さんの担当は俺ですから」
「よかった……もう、あの地獄のタイピングブートキャンプは行わなくていいんですね!?」
「ぁあ、ロートレク先生にこってりと絞られたらしいですねぇ」
「よかった……これで、前のような穏やかな授業が……ふぇぇええ」
俺の復活がよほど嬉しかったのか、岸田さんはその場で立ち尽くして、おいおいと号泣しはじめた。タムラさんとモチヅキさんが『何事!?』と岸田さんの方に目をやり、神通さんも悲痛な面持ちで岸田さんを見つめ、ソラール先輩はY字ポーズで伸びていた。ソラール先輩、そのリアクション、ちょっと違うんじゃないですかね?
「よかった……えぐっ……ホントに……」
「ま、まぁ、とりあえず座りましょうよ、岸田さん」
「は、はい……きょ、今日からまた、よろしくお願いします!!」
「はいよろしくでーす」
……しかし、大の大人の男をここまで叩きのめすとは……どれだけ過酷なブートキャンプをやったんだロートレクさんは……。
「カシワギ」
岸田さんの席のパソコンに電源を入れた俺の隣に、ソラール先輩がチャリチャリと鎖帷子の音を鳴らしながらやってきて、俺にそっと耳打ちしてくれた。
「ん? なんです?」
「教室隅っこのテーブルに、ロートレクが使ったタイピング練習用の手元隠しボックスがある。気になるなら見てみるといい。ブートキャンプの過酷さが分かるはずだ」
「はぁ……」
岸田さんのパソコンのOS8.1を起動させた俺は、起動を待っている間、その部屋隅っこに置いてあるという、タイピングブートキャンプに使用された手元隠しボックスを拝見してみた。
「……!?」
「岸田殿が、どれだけ過酷な訓練を受けていたのか分かるだろう?」
「確かに……」
段ボールで作られたその手元隠しボックスには……返り血であろうか……ところどころ血の跡がついている。なぜタイピングの練習で出血する?
そしてなによりも目を引くのが、墨汁が切れかけの筆で書かれたと思われるなぐり書き。墨がかすれ、文字にスピード感と勢い、そして威圧感のような物が感じられる。
――人間性を捧げよ
……だから!! 人間性って何だよッ!?
「何なんすかこの人間性って!?」
「シッ……カシワギ、声がデカい」
「意味わかんないです! 意味わかんないですよ!!」
半狂乱に陥る俺の肩を、冷静にぽんと叩くソラール先輩。先輩は俺に対し、親指で岸田さんを見るように促した。
岸田さんは顔面蒼白になって、ガクガクと震えていた。
「……」
「……」
「……人間性っ」
「ひっ!?(びくぅううッ!?)」
試しに、ぼそっと言ってみる。岸田さんは身体をビクッとさせ、肩を小さく縮こませて、さらにガクガクと震え始めた。そんなに厳しかったのか……。