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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~ Another

作者:月神
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第5話 「想いはそれぞれ」

「もう飽きた!」

 と、アリシアは大声を出しながら寝転がる。
 アリシアが今まで何をやっていたかというと、レイディアントノワールを使って脳内シミュレーションでの訓練だ。
 レイディアントノワールは俺用に渡されたデバイスなのだが、アリシアにはデバイスがない。それに元になった存在が魔力資質が低く、また訓練を受けたこともないため自分だけで行うのもきつい。そのためレイディアントノワールに補助をしてもらっているというわけだ。
 丁寧にレイディアントノワールのことをレイディアントノワールと言ったわけだが、俺は略してレイと呼んでいる。

「マイマスター……飽きたと仰られていますが?」
「なら放っておけ」
「了解です」
「いやいやいや、そこは放っておくんじゃなくてわたしの話を聞くところでしょ! ショウもレイもクールというかドライ過ぎ!」

 と言われてもな……話を聞いたところで結論は変わらないと思う。どうせシミュレーションじゃなくて実際に訓練したいとか言うんだろうし。

「特にショウはせめて話は聞くべきだよ。まったく……女心が分かってないなぁ」
「実際に魔法を使って訓練したい、とかでないなら聞くが?」
「ぅ……」

 その顔からして実際に魔法を使いたいんだな。
 まあ……気持ちは分からなくもない。正直シミュレーションはどこまでやってもシミュレーション。実戦とは訳が違うし、実際に魔法を使うことで得られる経験もある。シミュレーションじゃ魔力を使い切っても仕切り直せば全快する以上、本当の意味での魔力運用は身に付かないだろうから。

「この話は終わりな」
「うぅ……勝手に終わらせないでよ。ショウって何でそう意地悪なのかな!」
「意地悪なんかしてない」

 人聞きの悪いことを言うな。
 俺だってジュエルシードを巡る事件がまだ先なら実際に魔法を使わせてやるよ。だが……あの事件が起きたのは俺が小学3年生の時の春。進級して間もない頃だった。
 つまり……前の世界と大差がなければ、もうじき事件が始まるということ。
 ジュエルシードが地球に散らばった経緯などは知ってはいるが、実際にいつ散らばったのか。フェイトがいつこの街に来たのかまでは知らない。
 それに元々俺という存在がいなかった世界なだけに大まかな流れは同じだったとしても、細かい部分で多少のズレがあるかもしれない。迂闊な行動は避けるべきだ。

「下手したらすでにフェイトがこの街に来てるかもしれないんだ。別の世界で訓練するならともかく、このへんじゃできるわけないだろ。結界を張っててもそれで俺らの存在が知られることになるわけだし」
「それは……そうだけど」

 アリシアの顔を見る限り、そのへんは理解しているようだ。それでも我が侭を言っているのは、おそらく今の生活にストレスを感じているからだろう。
 まあ……無理もない話なんだが。
 アリシアは性格的に色々とやりたいと思っているはず。だが現状では流れを乱すようなことは可能な限りしないということで、基本的に外には出ていない。出たとしてもリニスさんの手伝いで洗濯物を取り込む時くらいだろう。
 俺は学校に行っているし、リニスさんは買い出しなどで外出する。アリシアもリニスさんと一緒に行くことが出来れば多少は改善されるのだろうが……。

「ショウさん、どうにかなりませんか?」
「リニスさん……」
「アリシアさんも外に出てはいけないと分かっているとは思います。でもずっと家の中というのも窮屈だと思うんです」
「それは俺も思ってますが……」

 使い魔としての特徴がなくなっているリニスさんと違い、アリシアはアリシアのままだ。
 リニスさんなら彼女が惚ければ他人の空似で済まされる可能性はあるが、アリシアは少し幼いとはいえフェイトと瓜二つ。髪色や声に至るまで見れば誰もが姉妹と思うだろう。
 そんな彼女がフェイトと接触すれば何が起こるか分からない。
 確か……この時期のフェイトはアリシアの存在を知らない。アリシアの記憶を持ってはいるだろうが、それを自分の記憶だと思っているはず。
 もしアリシアの存在がフェイトやプレシアに知れれば……俺達の知らないところでフェイトが捨てられてもおかしくない。
 この時期ではプレシア以外に精神的な支えはなかったはずなので、そうなればフェイトは生きることも諦める可能性もある。アルフが一緒に居るとは思うが……性格的にプレシアに向かって行って消滅させられる事態も考えられる。
 魔法を使って変化していたとしても、魔力といった反応でバレるだろう。それだけに……いや待てよ。
 俺は難しく考え過ぎなのではないだろうか。別に見た目を変えることは魔法を使わなくてもできる。本人の意思次第ではあるが、その意思があるなら外を出歩くことも出来るのではないだろうか。

「アリシア」
「うん?」
「お前、外に出たいか?」
「出たいかって……それは出れるなら出たいよ。でも……出ちゃ不味いのは分かってるし」

 俺はアリシアに対して出るなと言ってる派のようなものだが、今みたいに我慢している子供みたいな顔をされると居た堪れない気持ちになる。

「確かに今のお前が出るのは不味い。魔法で変化させても調べられればバレるしな」
「だから……分かってるよ」
「なら……お前が物理的に姿を変えてもいいと思ってるなら外に出てもいいんじゃないか」
「え……物理的に?」
「髪を切るとか染めるとか、カラーコンタクトを使うとか……そういうの使えば顔立ちは似ててもフェイトとは別人に見えるだろ」

 バレる奴にはバレるかもしれないが、そのまま出歩いたり魔法を使うよりは怪しまれることはないはずだ。
 もしも……アリシアの外出が理由で流れに影響が出てしまったならそのときは

「確かにそうかもしれないけど……でも出歩いたらそのぶん影響が出る可能性は高くなるし」
「いいよ別に」
「でも……」
「でも、じゃない」

 自分から我が侭を言ってたくせに、いざ話が進むとなるとやめてしまおうとするのはやめてほしいものだ。
 確かに俺はあの子達に少しでも幸せな時間を過ごしてほしいと思っているが、この世界ではアリシアの方が身近に居る人物だ。明るい笑顔が似合うだけに暗い顔をされると嫌に思ってしまう。

「ストレス溜められて絡まれる方が面倒だし、ご近所にいつも家に居るって思われてもリニスさんに変な誤解が生まれるかもしれないからな。そういう意味で多少は外に出るべきだ」
「ショウ……本当の良いの?」
「お前が今の姿から変わればな……今後予想通りに進むかは分からないんだ。流れが変わったら変わったでどうにか出来るように努力するだけさ。だから……あんまり気にするな」

 本気であの子達の幸せな時間を願うならアリシアにも厳しくするべきなのだろう。
 だが……この世界にとって俺は異物。俺のことを最も理解できるのは同じ境遇であるアリシアやリニスさんだけだ。
 ふたりも目的は同じ。だけど……ふたりに我慢をさせて、苦しい顔を見ながら目的を果たすのは何か違う気がする。
 そもそも……俺の思う幸せがあの子達にとっての幸せとは限らない。
 俺がやろうとしていることなんて余計なお世話なのかもしれない。もしもあのときこうしていたなら、こう出来ていたなら……そんな自己満足を行うためにここに居るのだから。
 それを抜きにしてもあの子達は自分だけが幸せになりたいと思う人間じゃない。他人が苦しんでいるなら自分が苦しんでも助けたいと思う人間だ。アリシア達の存在が知られてそれまでの経緯を知られた時、きっとアリシアを閉じ込めるような生活をしていたと知れば間違いなく怒るだろう。
 ならある程度好きにさせた方がみんなが笑顔になれる気がする。流れが変わってしまったのならそのときに出来るだけ努力すればいい。
 たとえ後悔するようなことになろうとも……俺は人間であって神ではないのだから。

「ショウ……ありがと」
「別に。勝手にあれこれされるよりはマシだからな」
「む……素直じゃない。でも今日は許してあげる。それと……もうしばらくは外に出るの我慢する」
「アリシアさん……せっかくお許しが出たのにいいんですか?」
「うん。わたしだってあの子達に幸せになってほしいし……あの子達よりもお姉さんだからね。レイやリニスも居るし、大丈夫だよ」

 少し強がっているようにも見える笑顔だが……まあここでそれを指摘するのは野暮なものだろう。
 時期的に妹であるフェイトが流れの中心になる。ここでの流れは今後の彼女の人生に影響を与える可能性が高い。それだけにアリシアにとっては最も重要な時期な気がする。
 それに……自分でお姉さんだって普段から言ってるからな。
 あとあとバカにされないようにしようとしているのか、それともそうありたいという願いを込めて自分を励ましているの言葉なのか。
 まあ何にせよ……本人が強くそう言うのなら好きにさせるべきだろう。別に俺にとっては悪いことではないし、俺達の目的を基準にすればプラスのことなのだから。

「ところで……何でリニスさんは若干泣きそうになってるのかな?」
「い、いえ何でもないんです。おふたりの優しさや想いが胸に来ただけで……」

 いやまあ……確かに良い話風な流れだったといえばそうだけど。でも涙ぐむほどのことはやってないよね。
 まだあの子がこんなに成長して……、と言えるほどリニスさんと一緒に暮らしてはいないし。そもそも保護者的立場になってもらう人ではあるけど、厳密には保護者でもない。そもそも……精神年齢とかで言えば俺もそう変わらない気がする。

「私、おふたりを支えられるように頑張ります。それがきっとフェイト達のためにもなりますし……おふたりにも幸せになってほしいですから」
「リニスさん……わたしやショウだってリニスさんのこと支えるよ。一緒の目的を果たす仲間だし、一緒に暮らしてる家族なんだから。リニスさんにも幸せになってほしいしね」
「アリシアさん……」
「リニスさん……ガシ!」

 …………何をやっているんだろうかこのふたりは。
 何やら良い雰囲気を出して抱き締め合っているけど、アリシアがガシ! なんて口にしたせいか茶番にしか見えない。だがリニスさんは割と真面目にしているので……何ていうか噛み合ってない。

「…………」
「…………」
「……チラ……チラ」

 アリシア、チラチラ言いながらこっちを見るな。
 何だよそのショウもこの中に入りなよ! みたいな目は。いいよ別に俺は。茶番に付き合いたいとも思わないし、感極まっているわけでもないから。

「マイマスターはふたりの間に入らないのですか? 先ほどからアリシアさんがそのような目で見ていますよ」
「レイ、そういうことは言われなくても気づいてる。あえて無視しているんだ」
「何故です?」

 真面目というか人間性に興味を持っているというか、淡々とした口調なのにあれこれ聞いてくるなお前も。
 何故って……単純に言って恥ずかしいからだよ。
 アリシアだけならまあ割と引っ付いてくることはあるし、前の世界でもはやてやレヴィと密着する奴は居たから構わない。だがさすがにリニスさんからされるのは精神的によろしくない。見た目も中身も大人だし。

「はは~ん……ショウ、リニスさんのこと意識してるんでしょ。子供のくせにマセちゃって。もしかしてリニスさんみたいな人が好きなの?」
「え、そうなんですか? どうしましょう……私はショウさんの保護者の立場にありますし。でもショウさんが子供なのは見た目だけで」
「アリシア、面倒な方向に話を振るのはやめろ。それとリニスさん、そんなに本気で考えなくていいから」

 俺がもっと大きくなってからなら年の差カップルとして認識されるだろうけど、今すぐはリニスさんがショタコンみたいな感じになるからね。普通の人は俺を小学生としてしか見ないから。

「マイマスター、マイマスターは私のマイマスターです」
「え、あぁうん……そうだな」
「リニスさん今の返事聞いた? ショウって本当に女心分かってないよね」
「そうですね。今のはちょっとレイさんがかわいそうだと思います。……決めました。私、今日からショウさんに女心を教えていきます!」

 ……はい?

「え、な、何でそういう答えになるのリニスさん?」
「一応保護者的な立場ですし、ショウさんが女の子を傷つけるような言動をするのはよろしくありません。なので私が立派な男性にしてみせます……まあ今でも十分に素敵だとは思うんですが」

 リニスさんは顔を真っ赤にしたかと思うと、両手を頬に充てて悶え始める。

「リニスさん!? 今のリニスさんって使い魔だった頃のリニスさんとは違うんだよね?」
「はい、違いますよ。使い魔だった頃のように耳や尾はありませんし」
「じゃあ……何で急に発情した猫みたいに急にショウに対してデレデレになったの?」

 アリシア、確かに俺も気になったけど……それ聞いちゃう。答えによっては俺が結構困るんだけど。

「それは……やっぱり私も女ですから。女性として意識されたら意識すると言いますか……ショウさんの中身が大人だということも知っていますし」
「いやいやいや、それだけでそこまでデレるのはおかしいと思うよ!? ショウが元の姿のままならまだ分かるけど。今は完全に見た目は子供だよ。リニスさん、ショタコン? ショタコンなの?」
「人聞きの悪いことを言わないでください。確かに小さい子を見ると微笑ましいと思ったりはしますが、ドキドキはしません」

 そこはドキドキしてほしかった。
 そうはっきり言われると俺くらいにしかそういう感情を抱かないということで、俺としても余計に意識してしまうというか。
 何だろう……リニスさんって人がよく分からなくなってきた。真面目で優しい人なのは間違いないんだけど、何か変な茶目っ気が混じってるというか。この世界に来るに当たって使い魔だった頃の要素の代わりに何か別のが混じったりしてないよな。

「そそそれって……つまり本気でショウを」
「はい、そうですね。男の子として見てる部分もありますが、中身が中身なので男性としても見てますよ。先ほどのアリシアさんとのやりとりからも分かるとおり、人として好きですし。今後アリシアさんが思うようなことに発展する可能性は否定しません」
「な……わ、わたしの目の黒いうちはそういうことにはさせないからね! 何ていうか目の前でイチャイチャされると癪だし!」

 話が凄まじくおかしな方向に進んでいるような気がするのだが……。
 リニスさんは割と本気なんだろうが、まあ今は子供としても扱っていると言っているわけだし。すぐにどうこうなるということはあるまい。
 だからアリシア……そんなにムキになるな。今のお前は凄く子供っぽいし、他の人から見たら誤解されかねない言動をしているぞ。お姉さんならもう少し落ち着きを持て。

「レイも女の子ならそう思うよね!」
「私は機械なので女の子扱いされるのはあれですが……マイマスターに構ってもらえなくなるのは嫌ですね」
「ふふ、ショウさんモテモテですね」
「あのさリニスさん……この発端を作ったのあなただよね。微笑ましいものを見るように笑うのはやめてほしいんだけど」


 
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