| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~ Another

作者:月神
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第4話 「知らないけれど知っている」

 かつて毎日使った通い慣れた道を使って登校しているが、やはり違和感がある。
 人に言っても信じてはもらえないだろうが、俺はごく最近まで社会人だったのだ。だが今は小学3年生である。体も縮んでしまっており、実に小学生の制服が似合っている。
 世間で言うところの春休みが明けて新学期がスタートしたわけだが、再び小学3年生を経験しているのはきっと俺だけのはずだ。
 一度経験した学年をやり直すというのは何とも言い難い気分である。まあ懐かしさもあったりもするのだが。
 だけど……昔からではあるが、同級生のテンションには付いていけない。子供はどうしてあんなにも元気に活発に行動できるものなのだろうか。全ての生徒がそうではないのだが。
 あれこれ考えながらこれから1年間通うことになっている教室に入り、クラスメイトと簡潔に挨拶を交わしながら自分の席に座る。

「……早く学校終わらないかな」
「あんた、来て早々何言ってんのよ」

 近くから声がしたので意識を向けてみると、そこには金髪の少女が呆れた顔を浮かべて立っていた。
 この少女の名前はアリサ・バニングス。俺の記憶にある小学生のときの彼女と何ひとつ変わらない容姿をしている。
 ただこの世界のアリサは俺の知る彼女よりも社交的なのか、それとも前と違って俺が話しかけやすくなっているのか、このように自分から話しかけてくる。
 まあ意外と嫉妬深いというか、素直じゃないけどやきもちを焼く奴だからな。前の世界ではすずかと繋がりがあったからツンケンしてたところもあったけど、この世界のすずかとは繋がりがない。そのへんも親しくしてくれている理由なのかもしれない。

「そういう日もあるだろ」
「まあ……ないとは言えないけど。あたしの知る限り、あんたは毎日のように思えるんだけど?」
「ん、それは毎日俺を見ているってこと?」
「なっ……ち、違うわよ! 隣の席なんだから視界に入るだけで。勘違いしないでよね!」

 大丈夫、それは分かってるから。
 何の因果か……会ったことはないが存在しているという神様のせいかもしれないが、俺は見事になのは達と同じクラスになっている。席はアリサの隣ではあるが、3人のうち誰かに関われば必然的に残りの2人とも関わるようなものだ。
 例えばすずかなんて、俺が工学系の本を読んでるだけで興味を持ってくれた。
 だが内気な性格故か……自分から話しかけてきたりもすれば、話しかけてこなかったりするわけで。構ってほしいというか、話したいような視線を向けてくるのでこちらから話しかける羽目になったりする。まあ今は時期的に距離感を図りかねているだけかもしれないが。

「してないから安心していいよ」
「……そこまで淡々と言われるとあれね、何だか玩具にされてるような気分になってくるわ」
「まさか。確かに君の反応は面白くはあるけど、別に玩具にしているつもりは……」
「面白いって思ってるってことは、わざとやってるってことでしょうが!」

 そう言ってアリサは俺の両頬を手で引っ張る。
 怒っているからか、子供なので力加減が分かっていないのか結構痛い。
 これと同じことをつい先日アリシアにやったわけだが、今後はよほどのことがない限りやらないようにしよう。これは本気でやられると痛い。子供だったら泣いてしまうかもしれないくらいに。

「アリサちゃん、暴力はダメだよ!?」

 慌てた様子で割って入ってきたのは月村すずかである。
 大人しそうな顔をしているが、こういうときは積極的に動いてくれる心優しい少女である。ごく稀にいたずら染みた発言をしてアリサあたりを困らせることがあるが、基本的に良い子なのに変わりはない。

「失礼ね、今のは暴力じゃないわ。あたし達なりのスキンシップよ」
「痛みの伴うスキンシップはどうかと思うんだけど?」
「う……悪かったわよ」
「謝る相手は私じゃなくて夜月くんでしょ?」

 この世界でも相変わらず仲の良いことで。まあ仲が悪かったら違和感が凄いことになるんだが……。
 とはいえ、仲が良かったとしても別の感情は生まれてしまう。いくら見た目や性格が同じでも、ここにいる彼女達は俺の知っている彼女達とは別の存在だ。
 積み上げてきた思い出もなければ、関わり始めた時期も違う。きっと俺の知っている未来にはならないのだろう。分かっていたことではあるが……親しくしていた人間なだけに悲しいと思う。

「ちょっ夜月……そんなに痛かったの? わ、悪かったわよ」
「え? ……あぁうん、別にいいけど。こっちにも非があったし」
「急に何事もなかったような顔するんじゃない。罪悪感で満ちていたあたしの気持ちは、いったいどこに向ければいいのよ!」
「どこにも向けなければいいと思う」

 俺の言葉にアリサは頭を掻き毟り始める。
 お嬢様にあるまじき行為だとは思うが、暴力なしで彼女のストレスが発散されるのならそれに越したことはない。毎日のようにしていると頭皮や髪が心配になるが。

「アリサちゃん、どうかしたの?」

 さすが全力全開がモットーのような高町なのはである。
 触らぬ神に祟りなし、という言葉を無視するかのように自然に怒れるアリサに話しかけてみせた。俺の知るなのははちょくちょく人のことを意地悪だとか言って絡んできた覚えもあるが、もちろんこのなのはにはない。
 まあ……まだあまり話してないからだろうけど。正直魔法に関わらなければ前の世界でも親しくなることはなかっただろうし。

「聞きなさいよなのは、こいつが暗い顔をしていたから謝ったのに次の瞬間にはケロッとしてたのよ!」
「えっと……部分的にしか分からなかったけど、怒るのは夜月くんの話をきちんと聞いてからでもいいんじゃないかな? 暗い顔してたのなら理由だってあるだろうし」

 なのはさん、さりげなく矛先をこっちに戻すのやめてもらえませんかね。
 それに暗い顔をしてたときに考えてたことは話せるものじゃないんですけど。話したら話したで本気で心配されそうだけどさ。それはそれで嫌なものがある。

「そ、それは……そうね。ねぇ夜月、何かあるの? あるなら言ってみなさいよ」
「悩み事がないとは言わないけど、バニングスに言っても意味がない」
「な……人が心配してやってるっていうのに何であんたはそういう言い方するわけ。あたしのことが嫌いなの!」
「いや、嫌いじゃない」

 むしろ現状で言えば、このクラスの中では最も話しているのではないだろうか。
 それ以外でも人間的に好感が持てる奴だし。まあツンケンした状態で絡んでこられたら嫌だけど。ただそれがなければ割とさっぱりとしているというか、変に気を遣わないで話せるし。

「素直じゃなさそうだけど、優しい子だったのは話せば分かるし」
「なっ……」
「あ、アリサちゃん顔赤くなってる。もしかして……」
「う、うっさいわよすずか! そういうんじゃないんだから勘違いしないでよね。というか、本人も居るっていうのに何言ってんのよ!」
「うん? アリサちゃん、そういうのってどういうこと?」
「なのは、あんたにはまだ早いわ」
「え、何で真顔で言うの!?」

 ……何だか懐かしさを覚えるやりとりだ。違う存在だっていうことは分かっているけど、やはり本質は変わらないのだろう。
 これからこの子達は色んなことに関わる。特になのはは……
 魔法に関わらないようにすれば、普通の女の子として地球で過ごすのだろう。アリサやすずかも魔法を知らずに、この3人で大学まで進んでそれぞれの道を歩む。そんな未来が訪れるのかもしれない。
 だけど……ジュエルシードを巡る事件は俺が代わりを務められたとしても、そのあとはどうなるだろうか。なのはが高い魔力を持っていることは現時点で分かっている。なら主のためにあの騎士達はこの世界でも罪と分かっていても行動するだろう。
 ならば……魔法と出会い、フェイトにぶつかって戦う力を身に付けていた方が安全なのではないだろうか。何も知らずに襲われれば、恐怖を覚えてしまう可能性だってある。フェイトやはやてというあちらの世界に居た親友をふたりも失うことにもなるのだ。
 それに……順当に進めば、あのふたりはこの学校に通うことになる。そのときになのはが避けるようなことになれば、あのふたりが気まずい思いをする。すずかははやてと繋がりを持つだろうから立場的に居た堪れないことになるだろう。

「……はぁ」
「夜月くんも何でそこでため息吐くのかな!?」
「やれやれ……なのはは本当にお子様ね。ため息を吐く前の夜月の視線で気づきなさいよ。夜月がかわいそうじゃない」
「え? え? どういうこと!?」
「何でもないよ。バニングス、そういう意味で見てたわけじゃないから」

 だから疑うような面白がるような目を向けるんじゃない。
 まったく……お前は実年齢よりもマセてる奴だな。まあお嬢様故に精神年齢が高くなるのは仕方がないことなのかもしれないけども。
 でもすずかを見習えよ。微笑ましい光景を見るかのように笑ってるんだから……これはこれで実年齢に合っていない気がするが。

「ふーん……まあそういうことにしといてあげるわ。ところで夜月」
「ん?」
「何であんたって人のこと苗字で呼ぶわけ?」
「……別に深い意味はないけど。親しくもない相手を名前で呼ぶ方がおかしいと思ってるだけで」

 さすがに子供の頃の俺より社交的というか人と話はするし、こいつらのことは好きだ。
 しかし、俺が知っているこいつらと今のこいつらは見た目や中身は同じでも存在としては別。それ故に名前で呼ぶわけにもいかないだろう。
 今口にしたことが大半の理由ではあるが、俺の中でのけじめとしての理由もあるわけで……そもそも別に人のことをどう呼ぶかなんて本人次第なんだからそんなに疑問を持たなくてもいいと思うのだが。
 まあ……とある栗毛の少女は名前を呼べば友達! って人なので名前で呼んでもらいたい人なんだろうけど。
 そのへんは今近くにいる彼女も変わりないようで、ちょっとそわそわしている。

「まあ納得は出来る答えね。でも普通苗字で呼ぶにしたってさん付けとかが普通じゃない? 呼び捨てにするなら下の名前でしょ」
「俺が普通じゃないみたいな言い方しないでもらえるかな。そもそも……どう呼ぼうと俺の勝手だと思うんだけど。別に悪口みたいな呼び方しているわけじゃないんだし」
「そうね。でもあたしのことは名前で呼びなさい」

 何故に?
 肯定しておきながら命令とかどういう思考をしているんだ。もしかして苗字で呼ばれるのが嫌いだとか?
 まあこいつの親は金持ちだし、媚びてくる大人とかを見てて嫌な思いをしているのかもしれないが。だからといってこの場にそれを持ち込むのはどうなのだろうか。

「……どうして?」
「このクラスになってからあんたとは割と話してるからよ。少なくともこの1年は同じクラスなんだから親しくなっておいて損はないでしょ」
「それは否定しないけど……別に呼び方はどうでもいいと思うんだけど」
「あぁもう、どうでもいいって言うなら呼びなさいよ。あたしが呼んでいいって言ってるんだから。というか、何でこっちが歩み寄ろうとしているのにあんたは距離を保とうとするわけ? 少しはそっちからも歩み寄る努力しなさいよね!」

 正論を言っているようにも思えるが、ただ一点疑問が残る部分がある。

「言いたいことは分かったけど……何で俺だけが下の名前で呼ぶわけ? そっちも下の名前で呼ぶなら対等な条件だけど」
「そ、それは……急に呼んだらあんたが不機嫌そうになるかもって思ったからよ。別に恥ずかしいとか思ったわけじゃないんだから」

 顔を赤くしてそういうことを言っても説得力がないんだが。
 やっぱりこの世界のアリサも言葉は素直じゃないけど、態度は素直な奴だ。大学に通う頃には大分落ち着いてるというか、今ほど感情的ではなくなるんだろうけど。

「ま、まあ別に今すぐ呼べとは言わないわ。少しずつでいいから努力しなさいよね。あんただってこのクラスの一員なんだし、あたしの知り合いに入るんだから」
「はいはい、善処しますよ」
「善処って……」
「アリサちゃんだけずるい! 夜月くん、私とも名前で呼び合おう!」

 さすがは高町なのはさんだ。
 何を持ってずるいと言っているのかは分からないが、人と仲良くなりたい意欲は人一倍である。

「分かった……考えさせて」
「うん……え、考えるの!?」
「まあまあなのはちゃん。夜月くんは少しずつ距離を詰める方なんだよ。だから気長に頑張ろう。私もそうしてるし」
「え……すずかちゃんって夜月くんと仲良くなろうとしてたの?」
「え、あぁうん……夜月くんも工学に興味があるみたいだからそれで」

 だよね?
 みたいな目でこっちを見ながら恥ずかしそうにしてないでほしいんだけどな。まあこの頃のすずかはこんな感じだったけども……。
 でも男子達がな……子供の頃よりも格段に人の視線や気配を敏感に感じ取れるから少しムッとしている奴の存在には気が付いているし。まあそれはアリサやなのはと話しててもあれなんだろうけど。
 今にして思うと……こいつらってこの頃から人気あったんだな。年代的にまだ恋愛って呼べるものではないんだろうけど。
 まあ……確かに可愛いとは思うけど。

「まあね。月村とは話も合うところもあるし」
「ならすずかのことも名前で呼べばいいじゃない」
「ア、アリサちゃん!?」
「別にいいでしょ。すずかが自分から仲良くなろうとしてるって言った奴なんだし」
「それは……そうだけど。……そういうのはもう少し仲良くなってから……急には恥ずかしいし」

 この純情そうなすずかが俺の知っているすずかになるかと思うと……少し恐怖を覚える。だって俺の知るすずかはたまに小悪魔というか茶目っ気を出す奴だったし。常に絡んできたあいつらに比べたら可愛いものだけど。

「すずか、あんた顔赤くし過ぎよ。もしかして……そういうことなの?」
「え……ち、違うよそんなんじゃなくて! もう……アリサちゃんのいじわる」
「ねぇねぇすずかちゃん、そういうことってどういうこと?」
「それは……なのはちゃんにはまだ早いと思う」
「またそれ!? アリサちゃんもすずかちゃんも私のこと子供扱いし過ぎじゃないかな。私達同い年だよね?」

 なのは……まあ仕方ないよ。アリサ達がマセてるってのもあるけど、お前のそれは多分これから先、当分の間は直らないところだから。
 まあ……なのはらしいと言えばなのはらしいんだけど。
 ただそれだけについ俺の知る彼女の面影を重ねてしまうかもしれない。ここに居るなのはが知らないことをうっかり口に出してしまえば……。
 事件が始まったならばいつかはバレてしまうことなのかもしれない。管理局と接触すれば、俺の素性を説明しないといけなくなるのだから。
 だがそれでも……今はまだただの小学生として過ごしてほしい。これから先……君は多くの事に関わっていくことになるはずなのだから。


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧