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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第4章
3節―刹那の憩い―
  状況把握

「――そうなのですか、世界神…ウィレスクラがそう言ったなのですね?」
「あぁ。これで今までの経緯は終わりだ」

 現在、ウィレスクラによって事実上布告が成された後、ソウヤ達一行はエレンの都市…エミアが治める城に居た。
 それはもちろんエミアに言われていたのもあったが、何より急な事態の変貌に混乱した現状況を把握する必要があったからである。

 ソウヤから聞いた現在までの全てを聞いたエミアは、大きくため息をつく。

「不味い…なのです」
「はい。ウィレスクラに挑む前準備も出来ていない現状、こんな状態で挑んでも無駄死にするだけでしょう」

 そう言って眉間に皺を寄せるのは、わざわざシルフの都市からここまでやってきたライトだ。
 どうやら、少しでも考える頭を増やしたいとエミアが考えたらしく、ソウヤの旧友と知られているライトを呼び寄せたのだという。

「期限はあと4日…いや、4日後に攻めてくると言ったのだから実質3日ですね」
「…ソウヤ、残り3日でどれだけのことが出来ると思う?」

 世界の運命を大きく変える日、その日を聞いたエレンはソウヤに問う。
 半分期待の目で見る仲間達の視線を浴びながら、ソウヤは首を横に振った。

「残念ながら、3日じゃどう足掻いても時間が足りない。“剣神”の熟練度上げには最低でも天使以上でないと意味がないしな」

 “最低”天使…というだけで、実質は下級天使とどれだけ戦っても得られる熟練度はスズメの涙ほど。
 それに、その問題の天使はウィレスクラの布告の後は一切姿を現していないらしい。

「期限はすぐ、熟練度上げは無理…となると――」

 ライトはしばらくの間考えるそぶりをして黙り込むと、不意にソウヤの方へ歩み寄り両肩に手を置いた。

「――ソウヤ、“申し子”の人たちに2日の休暇を上げる…というのでどうでしょうか?」
「…は?」

 それは、切羽詰まった状況では考えられない結論。
 少なくとも思わずライトを除くこの場の全員が、呆けた顔で聞き返してしまうほどには在り得ないものだった。

 全員からの否定…とも捉えられる反応を受けながらも、ライトは表情を崩さず説明を始める。

「ソウヤ含め全員ここ最近全くと言っていいほど働き詰めじゃないですか。凡人ならとっくに体壊れていますよ?」
「いや、そんなこと言ってる場合じゃないだろう…!」

 ライトの言葉に、流石にソウヤも動揺を隠せず反論する。
 しかし、その反論を聞いてもライトはこの結論を変える気はないらしかった。

「だからこそ、だよ。どうせウィレスクラを倒さなきゃこの世界も、僕らも終わるんだ。なら今のうちにしっかり休んで、健康体に出来るだけ近付けるのが最も重要なことだよ」

 中々の正論にソウヤ達はぐぅの音も出ない。
 残り少ない時間を使いつぶし0.001%の成長をするのならば、現段階の100%を出せるようにした方が何十倍も得なのだ。

「それにね、ソウヤ、そして“申し子”の皆さん――」
「?」

 ライトはソウヤ…ではなく仲間の方へ顔を向け、一番の理由を口にする。

「――これが、“最期の機会”なんですよ」
「――――」

 “最期の機会”。
 それはウィレスクラとの決戦を行った後、勝つにしても負けるにしても“元の世界に戻りたい”とソウヤが願う限りこの世界に帰ることはない。
 だから、“最期”とは“ソウヤと接せる機会”のことなのだ。

「2日はしっかり休んで、英気を養って、思うが儘に挨拶をしてください」

 ライトはそう言うと、部屋に備え付けられた光が差し込んでいる窓から外を見る。
 外はお祭り騒ぎで皆が皆、笑顔に溢れて止まらない。

「幸いにも4日後、世界神がこの世界を滅ぼすと知っているのは数少ない人のみ。多くの人は世界が救われたのだと安心しています」
「…あぁ、そうだな。お前の言う通りだよ、ライト」

 ソウヤは大きくため息をつくと、微妙な笑顔でライトを見る。
 微妙な笑顔なのはライトの本心が薄々理解しているからこそ…ではあるが、ソウヤはそれに今回は嫌々ながら甘えることにした。
 本当にライトがこちらを心配していることは、この場の誰もが分かっていることだったから。

「俺はここまで付き合ってくれた仲間達に、別れの挨拶をしたい。きっと今しないと、俺は“後悔”するからな。だろ?」

 “別れの挨拶をしたい”。
 その気持ちは仲間達も同じなのか、顔を見合わせ――

「あぁ、ご厚意に甘えるとしよう」
「はい。私も挨拶、したいですから」
「えぇ、最後にガツンッと一言ソウヤに言いたいわ」
「おう、俺は構わないぜ」
「ん…。私も、ソウヤと居たい……」
「当然、拙者もまだまだソウヤ殿と話したいことがあるでござる」

 ――次々にライトの提案を受けていく。

 無茶をしないと約束したとも取れるその言葉を聞き、ソウヤは内心で安心する。
 と、一人返事をしなかった人を見つけソウヤは、彼女に近づいていった。

「なぁエミア。お前も休めよ、な?」
「えっ…?」

 自分にもその提案が来るとは思っていなかったエミアは、驚きながらオドオドとしてライトに視線を向ける。

「えぇ。エルフの王女よ、貴女にも休息が必要かと」
「で、でも私にはまだやるべきことが残っているので――」

 王女だから休めない、と逃げるエミアにライトは容赦なく言葉を続けた。

「――大丈夫ですよ、執務は私が行うので休んでくださって。2、3日程度ならば幾らでもできますよ」

 あっさりと人外染みた発言をしたライトに根負けしたのか、エミアは渋々と頷く。
 渋々、と言ってもそれは王女としての義務から逃げていると思い込んでいるからだろうが…それでも内心は喜んでいるはずだ。
 全員がライトの提案に一致…ということで、ライトは言葉を続けていく。

「休暇は明日からの2日で、決戦は今日から3日後。それまでに僕が準備や執務諸々をこなしておきます。それで良いですね?」

 もちろん、それに反論する者はこの場に誰もいなかった。




 そうしてたった2日…それでも2日の休暇が始まる。
 ソウヤ、エレン、ルリ、レーヌ、ナミル、ルビ、深春、エミア達はそれぞれ悔いのないよう、残された時間で動き始めた…。 
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