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NARUTO日向ネジ短篇

作者:風亜
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【花火のように】

 
前書き
 二部の従兄妹のハナビとネジの、夏祭りなお話。 

 
「ネジ兄さま、タイミングよく任務から戻れてよかったねぇ。明日ちょうど、夏祭りだよ?」

 長期任務から戻ったばかりで、その事を日向家に報告し終わった従兄の元にハナビがやって来て話しかけた。

「...そうでしたか。わざわざそれに合わせて戻って来た訳ではないですけどね」

「それでね、ヒナタ姉さまがナルトを誘って二人きりで夏祭り行くの……知ってた?」

「───知りませんよ、任務から戻ったばかりなんですから」

「そうだよねぇ、知らないよねぇ。姉さまったら今、明日着て行く浴衣選ぶのに迷っててなかなか部屋から出て来ないんだよ? てゆうか、あの姉さまが1人でよく誘えたと思わない? やれば出来るんだねぇ」

「…………」

 ネジはそれを聞いても特に顔色を変えずにいたので、ハナビは若干けしかけるように言った。

「兄さま、いいの? このままで」

「俺には関係ありません」

「じゃあ兄さま、明日の夏祭りわたしと一緒に行かない? 打ち上げ花火も見たいし! どうせ誰とも行く予定ないんでしょっ?」

「─────」

 ネジが答えずにいる所へ、ヒナタが小走りでやって来た。

「あ、ネジ兄さん、お帰りなさい…! ごめんなさい、出迎えるのが遅れちゃって」

「そんな事は構いませんよ。…ナルトと、明日の夏祭りに二人で行くそうですね。良かったじゃないですか。…では、俺はこれで失礼します」

 心なしか棒読みのネジは、その場を離れようとする。

「えっ、あの、待ってネジ兄さん…! 兄さんも、よかったら……一緒に行かない? ハナビも、どうかな」

「ちょっと、どういうこと姉さま。わたしと兄さまを"ついで"みたいに言わないでよねっ」

 怪訝そうな表情でヒナタを見るハナビとネジ。

「何を言い出すかと思えば……せっかくの機会を、自ら手放してどうするんです」

「その通りだよ姉さま、1人で一生懸命誘ったんでしょ?」

「そ、それが……実は、サクラさんにも手伝ってもらっちゃって……な、ナルト君はやっぱり、サクラさんと行きたいみたいだったし、その───」

「…サクラに、ナルトとは行かないという事をハッキリ告げてもらい、ヒナタ様と二人きりで行くよう促してもらったんですね」

 ネジはそのように察した。

「う、うん、そんな感じなんだけど……や、やっぱり私、ナルト君と二人きりになる自信なくて、だからこの際、ネジ兄さんとハナビにも一緒に来てほしいな、なんて……」

「姉さま、ざんね~ん。たった今ネジ兄さまは、わたしと二人で夏祭りの花火見ることにしたの! ねっ、兄さま?」

「───えぇ、まぁ、そうですね」

 了承した訳ではなかったが、ハナビに話を合わせておくネジ。

「え、そ、そうなんだ…?」

「だから姉さまは、ナルトと二人きりで行かなきゃダメだよ~。…ってことで兄さま、わたしが着て行く浴衣選ぶの手伝って!」

「それくらい、自分で選んでください。…それでは、失礼します」

「夏祭りの時くらい、兄さまも浴衣着て来てよね~っ!」

 歩き去る背中にそう呼びかけられても、ネジは反応を示さずに自宅へ帰って行った。

「───そういうことだから姉さま、ナルトと二人きりの夏祭りデート、がんばってねぇ」

 ハナビは楽しげに自分の部屋へ戻り、取り残されたヒナタは観念した様子で再び浴衣選びに取りかかった。




 ……翌日の夏祭り当日の夕刻、日向家で待っていたが痺れを切らしたハナビは従兄の家に迎えに来ていた。

「ちょっとネジ兄さま~、昨日一緒に行くって言った夏祭りの約束、忘れたんじゃないでしょうね~?」

「───ハナビ様、あの場限りの口約束ではなかったんですか?」

 玄関先に現れたネジは、普段通りの格好をしている。

「えっ、そんな風に思ってたの? ヒドいよぉ、わたしは本気で兄さまと夏祭り行くつもりで言ったんだから! 今さら行かないとか、言わないでよ? せっかく浴衣着て来たのに……」

 寂しそうに語調を弱めるハナビの姿は、色とりどりの花火柄をあしらった浴衣を着ていた。

「……浴衣にしては、丈が少々短いと思われるんですが」

「この方が動きやすいからいいの! ヒナタ姉さまは無難に朝顔柄の浴衣着て、ナルトと待ち合わせの場所に恥ずかしがりながら先に行ったけど......兄さま、今からでも浴衣に着替えられないの?」

「俺はハナビ様と行く前提なんですか。まぁ、構いませんが...。このままで十分でしょう、祭りに乗じた不届き者が居ないとも限りませんし、いつもの格好の方が動き易いですから」

「警備班じゃないんだから楽しまなきゃダメでしょ~? ...まぁその格好のままでもいいや、とにかく一緒に行こ! 屋台で色々食べたり遊びたいしっ!」

 ハナビに強引に手を引かれつつ、ネジはそれほど気乗りしないながらも付き合う事にした。



───ハナビはまず食べ物系屋台から巡り、チョコバナナ・焼き鳥・ベビーカステラ・焼きとうもろこし・りんご飴・たこ焼きなどを食べ歩き、

一方のネジはあまり一緒になって食べようとしなかったが、ハナビが熱々のたこ焼きをフーフーして食べさせてあげると言って勧めてくるので、仕方なく身を低めて少しためらいがちに開けた口の中にたこ焼きを放り込まれると、

やはりまだ中が熱々で眉根を寄せてしばらく片手で口を覆いモゴモゴしているので、それを見たハナビは堪えきれずに笑ってしまった。


 遊べる屋台も一通り巡り、知り合いとも会ったりしたがヒナタとナルトには会わなかった。

ハナビは、二人の事を探して声は掛けないで尾行しようなどと持ちかけたがネジは、放っておきましょうと述べるに留めた。


───そうこうしている内に花火が打ち上がり始めたので、ハナビは眺めがいい場所があると言って従兄と共にそこへ向かい、他に人の居ない高台から、大きく鳴り響く音と共に色鮮やかな大輪を咲かせて夜空を彩る花火を二人で見入った。


「ねぇ兄さま……花火、好き? ───って、わたしのことじゃないからね!?」

 ふとネジに聞いてみたものの、急に慌てて自分の事ではないと否定するハナビ。

「嫌いではないですよ。ただ……初めて見た時は、身体にまで響く音の大きさに驚くばかりで、よく見れなかった事は覚えています」

「初めて見た時って...、小さい頃の兄さまだよね?」

「それはまぁ、そうですね。父さ...父上に、連れられて───抱き上げられていたと思うんですが、花火の音が怖くてしがみついてばかりいた気が……いえ、今のは忘れて下さい」

 ネジは幼い頃の記憶を辿って話すが、その当時の情景を見られた気になって少しばかり恥じ入り、話を途切らせた。

「へぇ~、やっぱり兄さまにもカワイイ時期があったんだねぇ...!」

「さぁ、どうでしょうね」

 からかわれた気になって、ハナビから顔を逸らしはぐらかそうとするネジ。


「わたしも初めのうちは、おっきな音とまぶしい光が怖かったなぁ。母さまの着物の裾に顔うずめて、まともに見れなかったもん。

───父上は、どうしてこんなおっかない花火の名前をわたしに付けたんだろうって思ったこともあったけど……いつの頃からか音がそんなに怖くなくなって、ちゃんと見れるようになってからは、すっごくキレイに感じて見とれちゃったな。

あぁ...…父上はもしかして、本当にこんなキレイな花火のように立派になってほしくて、名前付けてくれたのかなぁなんて考えたら、うれしい反面プレッシャーになったりもしてるけどね」


「そんな風に感じる必要はない。───あなたは、あなたでいいんですよ」


 隣り合っているすぐ傍で、花火の輝く明かりに照らされた従兄のこちらを向いた表情は、至極優しそうにハナビには見えた。

「……...ネジ兄さま、耳かして?」

「は...? 何故です」

「ヒミツの内容だから、耳元で話したいのっ」

「俺に秘密など打ち明けて、どうするんですか」

「もちろん、誰にもバラさないでもらうよ? 兄さまは口堅いだろうから、安心できるもの」

「……まぁ、内容によりますね」

「イジワル言わないでよ! いいから耳かしてっ。...てゆうかそのままだと届かないから、身を低くしてってば」

「判りましたよ」

 ネジは言われた通り身を低めてハナビが耳打ちし易いようにした。

───するとハナビは、ネジの片耳の横を流れる長い髪をサッと手でよけ、露わになった頬に軽く口付けた。


「……! それが、秘密の内容、だと……?」

 ネジは一瞬驚いた表情をしたものの、少し困った様子で怪訝そうに間近のハナビを見た。

……当のハナビは、横向いて自分の片方の髪を掻き分け、頬を露わにしてネジに向けている。


「何のつもりです」

「...あれ、やり返してくれないのっ?」

「────する訳ないでしょう」

 ハナビの頭を片手で優しめにぽんぽんして軽くあしらい、ネジは低めていた姿勢を正した。

「あー、子ども扱いー!」

「秘密めいた事などしている内に、花火が終わってしまいましたよ。…帰りましょうか、ハナビ様」

 むくれるハナビだが、ネジは気にした風もなく呼びかけた。


「兄さま、来年も……再来年も、一緒に花火、見てくれる?」

「───任務と重ならなければ、構いませんよ」

 ハナビへと柔らかな口調で答えるネジ。

「ふふっ、約束だよ、ネジ兄さま...!」



《終》

 
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