グランドソード~巨剣使いの青年~
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第2章
1節―旅の中で―
非日常という名の日常は…
「ん~っ。やっぱり気持ちい風を浴びるのはいいものだな…」
ソウヤは1人、朝一に海を渡る船の上で大きく伸びをしていた。
今のソウヤの装備は『鎖帷子の服』の上に『魔麻のコート』を着込んでおり、武器はルグドが作ってくれた『ダマスカス鋼の大剣』だ。
しかし、その大剣に折れていた『鋼の剣』と『合成』させて固有名付きの大剣…『ジーク』を背中にソウヤは背負っていた。
ジグドは剣の部分がダマスカス鋼の特徴の1つ、鉱石が漆黒なのを引き継いで刀身が漆黒にそめられており鍔の部分がコウモリ状の翼に似ている。
「おや、もう起きていましたか?」
「ん?あぁ、船長か。そうだな、護衛という名目もあるからな」
「私たちとしてもBランクの人が護衛についてくれるのはありがたいもので…」
この船の船長の男はソウヤにそう感謝の意を込めながらそういうと、ソウヤはそれに「まぁついでだ」と適当に返す。
船長はソウヤの言葉に苦笑いを浮かべて「それでもです」と言葉を返して、そしてソウヤの横に立つ。
そしてしばらくの間、沈黙が続いて風の音と鳥の鳴き声だけが2人の鼓膜をゆする。
すると、船長が口を静かに開けてた。
「…その大剣はやはり固有名付きですか?」
「まぁな、依頼でお金がたまっていたからな」
この世界には固有名付きの装備があり、それはどうしても貴重なものだと思うものは多いかもしれない。
がそうでもなく、固有名付きの武具は安ければ1万Rほどで買えるほど安易な価格で、その1万Rは冒険者でもやっていればすぐにたまる金額であった。
しかし、固有名付きの武具はピンからキリまであって良いものだとソウヤの魔魂剣は完璧に超高級品として扱われるだろう。
レジドはシルフの大陸一の『瞬死の森』の魔物を大量に注ぎ込んだ大長剣であり、その強さは世界に数十本ほどしかない『魔剣』と言えるほどの力に匹敵する。
反対にジークは価格でいえば4万ほどで作ってもらえる品だった。
「ソウヤ様は大剣使いで?」
「仲間がスピードタイプなので、慌てて装備を変えた」
「なるほど…」
ソウヤは口ではそう言ってはいたが、心の中ではそんな気持ちはひとかけらも存在しなかった。
普通ならスピードタイプの仲間府が居たら、ソウヤのような大剣をつかったり大盾を使ってMMOでいう『タンク』と呼ばれる役割をするだろう。
しかし、ソウヤやルリ、それにエレンにはそういう常識の式には当てはまらなく、全員が全員でチート級の強さを誇っている…しかもスピード系で。
なので3人にはよほどの敵でない限り攻撃はこちらには喰らわず、圧倒的になる…。
それを理由に、ソウヤは大剣が良いなどと思わなかった、ただ大剣を選んだのは”丈夫そう”だからであった。
「…そろそろ朝飯を食べたいのだが……?」
「あ、はい。わかりました。準備させますね」
「3人分頼む。いまから仲間を起こしにいくからな」
「分かりました」
船長はそういうとぺこりとこちらに頭を下げて、船の中に戻っていく。
また静かになった甲板で、ソウヤは1人で未だ薄暗い空を静かに数秒の間見つめて、そして船の中に入っていった…。
…私はどこにいるんだろうか…目の前が暗くて良く見えない。
そして目の前に広がる”あの”光景…人々はみな私を軽蔑の目でこちらを見つめて口を開ける。
『あぁもう。あの子早く死んでくれないかしら?』
『そうねぇ…。あの子が居るだけでこの国がすさんでしまうわ』
私はそれを聞いて、それから誰にも負けないようにずっと基礎練や魔物討伐を幼い私は続けた。
しかし、まわりの目線は今でも軽蔑の目線で…ずっと変わらなくて、二つ名を手に入れたのにそれでも軽蔑の目で見られて…。
そして…私のそばから…誰もいなくなった。
いや、もともと私のそばには誰もいなかった…そう、これからも…ずっと――――
「……ン…きろ……だ…」
うるさい…私に話しかけるな…どうせお前も軽蔑の目で見るんだろう…?
「エ…ン起き…朝…ぞ」
誰だ…本当に私から出ていけっ!目障りだ…どうせ…私なんて……………ッ。
「エレン起きろ朝だぞ!!」
その瞬間、暗闇が一瞬で消し飛び、そこには私に一切の負の感情を抱かない目をしたソウヤがそこにいる。
ソウヤの顔を見た瞬間、私は気が付いていたらソウヤを抱きしめていた…。
「エ、エレン。お…起きたか?」
後ろからソウヤの少し震えた声が聞こえてくる…きっと私の行動に困惑しているのだろう。
だが私はその腕を放すことは出来なかった…私の瞳はきっと、ソウヤが居る安心さで涙で溢れそうなのだから…。
そして初めて気が付いた…男の人の腕の中はこんなにもあったかくて、安心するのだと…。
「…すまないソウヤ。変な行動にでてしまって……」
「別に気にしてはいない。怖い夢でもみたんだろうしな」
ソウヤとエレンは、エレンの部屋から通路に出た。
それと同時にエレンはソウヤに抱きついたという行動に恥で頬を染めて謝ってくる。
ソウヤはそれに対して怖い夢でもみたという仮説を立てて気にしていないことを言い、エレンはそれを聞いて安堵した。
コツ…コツ…コツ……。
と気持ちのいい音を通路内に響かせながらソウヤとエレンはルリの部屋へ向かわんと通路に足を進め始める。
しばらく歩いていると、こちらへ向かうルリの姿をソウヤとエレンは確認出来た。
しかし、そのルリの行動が走っているというのにソウヤとエレンは気付き、2人は顔を見合わせてルリのもとへ向かう。
「ルリ、どうした…?」
「ソウヤさんとエレンさん!?いいところです」
「どうしたんだ?」
「海に巨大な魔物が現れて船の邪魔をしているそうで…」
ソウヤはそれを聞いてげんなりとした顔で「わかった…」とルリに告げて甲板に走り出す。
そのあとをエレンとルリは追うが、その次の瞬間ソウヤの口から出た言葉にあっけにとられた。
「チックショウ…!少しは休むことも出来ないのかああああ!」
それは、ソウヤの心の底から出てきた言葉であり休みたいと言っている生き物の本能でもあった。
ソウヤ達は甲板に上がると、その巨大な魔物の姿にあっけに取られる。
その巨大な魔物のその姿は女型の人魚のようで実に男が引きつられるような妖しく美しい姿を見せていた。
ソウヤは一瞬三大欲の1つに引きつられそうになるが、我慢をして後ろに背負ってあるジークを取り出す。
「エレンとルリは『攻撃役』として敵をかく乱しながら攻撃してくれ」
「わかった」
「わかりました」
ソウヤがそういうとエレンとルリはそれにうなずき自分の武器を取り出して構える。
そしてソウヤは次に船員たちに見られないようにこっそりと月文字魔法を描いていく。
その内容は『我の願いをかなえよ さすれば汝に対価を授けよう 我の願い すなわち飛躍』というもので、ソウヤは自分とルリにそれをかけた。
「俺が『防御役』になる。…出来るだけ特殊魔法使うなよ」
「了解」
「はい」
ソウヤはそれだけ言うと一歩目を踏み出して…その名の通りに……”飛んだ”。
身体に風が巻き付きその風力によってソウヤは羽なしで―一応小さい羽がパタパタしているが―自由に飛んでいる。
女型の人魚はソウヤに気が付くと、手に持った巨大な刀で薙ぎ払いを仕掛けるが、それと同時にソウヤもジークでそれを受け止めんとその刀に対して大剣を振り下ろす。
ガキンッ…!と鈍器と鈍器がぶつかりあったような音を奏でて周りに響く。
そこでエレンは長剣に風を纏わせて斬りやすさを増強して女型の人魚にむかって長剣を振り下ろす。
「―――――――!!」
人ならぬ超音波に似た声を人魚は口から吐き出してギロリと目がエレンに向かう。
ソウヤはそれを見逃さず力が緩んだ刀を打ち落として、一瞬で人魚の懐に入り込みジークを横に払う。
ブシャァ…!と少々青みを含んだ赤い血を傷口から勢いよくだした。
「――――――――――!!!!!」
人魚は甲高い音を口から発生させて左手に刀を作りその両手の刀でエレンとソウヤに刃を振るう。
そこで、さらぬ後ろからルリが現れて合成してできた武器…『ラーズ』とダマスカス鋼の剣の2振りの剣で人魚の背中に攻撃を加える。
そしてトドメとしてソウヤとエレンは剣に高密度の風を纏わせて呟いた。
「「『ウィング・ステイク!!』」」
2振りの剣を纏った風の両刃の剣が人魚を容赦なく首を裂き、そして人魚を絶命へ導いた。
グラリ…と人魚の身体が大きく揺れてその身体が落ちようと傾く。
「っとあぶないあぶない」
その瞬間、ソウヤはメインスキルを『戦士』に変更させて身体の力が溢れあがったのを確認しながら人魚の身体を受け止める。
そして、それを船員の見えないところでアイテムストレージに収納すると、人魚の2振りの刀がストレージ内に現れた。
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人魚の巨刀 質…普通 必要腕力…25
攻撃力+440 防御力+60 素早さ-5 魔法力+100
固定スキル…水属性付加 刀スキル
武器スキル…攻撃力+60 魔法力+20
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人魚の巨刀 質…良質 必要腕力…25
攻撃力+450 防御力+70 素早さ-5 魔法力+100
固定スキル…水属性付加 刀スキル
武器スキル…水攻撃無効 MP吸収 空き 空き 空き
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ソウヤをそれを見て「ほぅ…?」とつぶやいてそれをじっと見つめる。
ソウヤがとくに目を引かれたのは刀スキルという固定スキル―その武具に初めから付加されているスキル―だった。
ストレージから人魚の巨刀を2振り取り出すと、それと同時に『空間魔法』で普通サイズの刀に変化させる。
そしてその刀をストレージに放り込むとソウヤは船の甲板の上に飛び上がった。
「おぉ!大丈夫でしたか!?」
「あぁ、問題ない。ただ少々さきほどの戦闘でHPとMPを消費してしまったのでな。休ませてくれるか?」
ソウヤはあくまで普通を演じようとあまり疲れていないのだが船長にそう告げる。
船長はうまくだませたようで「それはすみませんでした、ではこちらへ…」と言われてエレンとルリとソウヤは各自の部屋に戻った。
ソウヤは部屋に戻るとすぐさま2振りの刀を取り出して『合成』の準備をする。
「我、鋼の妖精は望む。この矛に新たなる力を授けたまえ…『グラフトセフ!』」
すぐさま青い線状の光が強化用の刀を取り込み、そしてベースの刀の全体を囲みだす。
最近眩しい光にばかりあっていたため今回は昔のように目を閉じずにすみ、そして現れた1振りの今までの鱗を纏った刀とは一味違う刀が現れた。
ソウヤはすぐさま、背中にかけてあるジークを取り出して強さの違いを見てみる。
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人魚の刀(固有名サイレン)質…良質 必要腕力…25
攻撃力+350(700) 防御力+50(100) 素早さ-5 魔法力+160
固定スキル…水属性付加LV2 刀スキルLV2
武器スキル…水攻撃無効 MP吸収 攻撃力+60 魔法力+20 空き
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ダマスカス鋼の剣(固有名ジーク)質…良質 必要腕力…15
攻撃力+200 防御力+150 素早さ-20 魔法力±0
武器スキル…攻撃力+50 防御力+50 耐久力アップ 鋭さアップ
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ソウヤはやはりな…と納得の表情を浮かべていた。
正直、ジークは固有名付きでも比較的に弱い部類に入り、それがなぜこの人魚の巨刀に耐えられたかというと、それは運だったのだ。
人魚が使う武器がもし長剣などだったら、ジークは耐えて見せるも折れてしまうだろう。
さらにジークのスキルの耐久力アップが付いていなければ巨刀にも負けてしまった可能性があったのだ。
ジークが折れなかったのはある意味奇跡と言ってもいいだろう。
「はぁ…。まぁ普通のBランクに見せるにはこのぐらいが弱いくらいでいいんだろうけど…」
ソウヤは深くため息をついてベッドに腰かけた。
今、ソウヤが言っていることは他のものに言わせれば贅沢な悩みで、それは今まで使ってきた武器が強すぎたせいで弱い武器で強敵との戦いになれていないのだ。
いままでソウヤは1人だったので、ブンブン巨剣を振っていれば勝手に敵は絶命して、強敵相手でもある程度余裕は出来る。
しかし、弱い武器に変わると途端に話が変わってきて、『防御役』と『攻撃役』をしっかりとわけてやる必要性もでてくるし、チームプレイも大事になってくるのだ。
「くっそー。最悪だ…」
ソウヤは今までの力はチートと言ううのもおぞましいほどの力を持った、相手にしてみればどうしてでも仲間に入れたく、そして敵に回って欲しくない者だった。
ソウヤ自身、そんな力になれてしまったのも事実で、否定のしようがない事実の1つだったのだ。
ソウヤはそのままベッドに仰向けになった。
―はぁ…。普通の転生小説だとそこまで苦にならずに行くのがセオリーなんだけど。俺は目立ちたくないし勇者にも魔王にもなりたくない。どうしてこうなったんだろう…。ただ俺は――
そこまで考えてソウヤは眠りが表れ始めたのを感じた…なんだかんだ言って『グラフトセフ』は異常にMPを使うのでそのせいだろう。
そう感じたソウヤは脳の片隅に言葉を残して夢の世界にとびだった。
―”非日常という名の日常に生きて楽しみたいだけなのに…”
しかし、ソウヤは知らなかった…。
この先…なにが起こるのかも…それまで、ソウヤが楽しむ猶予なぞないのだと…。
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