世界をめぐる、銀白の翼
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第四章 RE:BIRTH
四面楚歌
兵士の装備は銃が一つのみ。
服は分厚いもので、深緑色をしている。
ヘルメットのようなものをかぶっており、蒔風はそれで目元を隠している。
(しかし熱い・・・・夜に逃げればよかった)
地面からの照り返しと、直射日光が身を焦がす。
あの施設の中で時間も何も分かったものではないので、飛び出せるときに飛び出したらこのざまだ。
夜だったら闇夜に紛れることができたというのに。
(もぐりこんだはいいがこのままじゃ帰っちゃうし・・・・・いや?こいつらは死人。だったら夜通し探すだろうからその隙に乗じて・・・・)
様々なことを考えながらついていく蒔風だが、実をいうとついて行くだけでも結構な神経を使う。
先頭のジープは決して速く走っているわけではない。
しかし、この兵士たちの足並みが気持ち悪い程にそろっているのだ。
その足並みが少しでもずれればバレるかもしれない。
そう考えると、一歩一歩に神経を使うのは当然で、そんなことをしながら妙案も何も思いつくはずがない。
(こりゃぁ行き当たりばったりになりそうだぞ・・・・・)
そう思いながらも「いつものことか」と気を取り直す蒔風。
(しっかし・・・・どこまで行くんだ?これ)
おそらくこれは自分を捜索する隊だ。
それにしては結構歩くし、散開した方が見つけられるんじゃないか、と考える蒔風だが、そんなことを考えているうちにジープが止まった。
ジープの上の男(研究所で見た顔だ)が、コンソールをいじって指示を出す。
蒔風の首にも首輪は付けているが、当然壊したものをばれないようにつけているだけだ。受信機能なんてあるわけない。
だがそれでも周囲の兵士が散開していくのを見て「そう言う指示か」と判断し、蒔風も走り出した。
パンッ!
「ッ!?」
そして、発砲音。
蒔風が身体を回転させて、弾丸を回避する。
ジープを見ると、その上に立つ男が銃(普通の拳銃)を手に蒔風を見下ろしていた。
「周囲の動きを見ての瞬時の判断。しかも、その一瞬で誰も向っていない方向を見極めて走り出しているのだから、流石と言わざるを得ないな。まあ、その一瞬が命取りだったわけだが」
「くそ・・・・」
「ああ、あと今の発砲はお前だと気づいていたわけじゃなく、すぐに動かない欠陥品を処分しようとしただけだ。お前はこの状況にしては完璧だったよ」
男が蒔風を称賛しながら手を上げる。
すると周囲に兵士がやってきて、無言で蒔風に銃(こっちは兵器の)を向けてきた。
数にして十三人。
十三の銃口が蒔風を狙う。
「あんたなら耐えるだろ。じゃ、逆戻りだ」
スイッ
「ドォァッッ!!!」
カチッ、ドゴゴゴゴォンッッッ!!!
男の腕が下がり、蒔風がしゃがんで大声と気合を発し、引き金が引かれて十三の銃口からとんでもない威力のレーザーが発せられた。
その爆発に蒔風の姿が砂煙に消える。
「・・・・・砂煙だと!?」
蒔風に、もしくはレーザー同士が当たっただけなら、砂煙はこんな上がらない。
せいぜい風に砂があおられる程度だろう。
この上がり方は、間に遮る何かが入ったものだ。
男が驚愕した直後、その煙の中から黒い石のようなものが十四個、空に向かって投げだされた。
そしてそれが十三人それぞれの足元とジープの上に落ち、各人が逃げ出そうとする。
しかし
「牢壁・畳返し!!!」
ガゴゴゴン!!という音と共に各人とジープを畳返しの壁が囲い、逃げられないように逃げ道を遮断する。
ドォムッッ!!!!
そしてくぐもったような爆発音が響き、牢壁の空いた上部から火柱が上がった。
倒れていく牢壁の中から、ズシャリと何かの炭が倒れ込んでくる。
「貴様・・・・・」
ジープの牢壁から、男が出てくる。
手にしている者を見てみると、運転手を盾にして生き延びたようだ。
土煙が晴れる。
「無駄な力は使いたくないんでな低コストで行かせてもらう」
地面に手を当て、蒔風が男に言う。
男はコンソールをいじり、さらに戦力を投じてくるだろう。
(さぁて・・・翼人の力は使わないとして、俺のカードは結構少ないな・・・・)
蒔風が風林火山を手に握る。
逃走劇は、闘争劇へと変わっていく。
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「ハァッ!!」
ヒョイッ
「セイッ!!」
ヒョイッ
「ヌァアアア!!」
スッ、パァン!!
「アタァっ!?」
「士郎おにーちゃん・・・・よわっ」
「うるさいな!!!」
「EARTH」地下訓練場
そこでイリヤに言葉に士郎が叫び返していた。
相手は唯子だ。
士郎だって弱いわけではないのだが、それは投影した剣を握ったときぐらいなもの。
普通に木刀を握った彼は、一般人に毛が生えた程度の力量しかない。
その士郎の攻撃をヒョイヒョイ回避し、突っ込んできたところで後頭部に突っ込みのような平手打ちを入れたのだ。
結構いい音がしていた。
一方唯子はイエーイ!とVサインし、ぴょんぴょん跳ねながらティアナのもとに走って行っていた。
落ち込む士郎を尻目に、その様子を黙って見ていたアーチャーが立ち上がり、唯子に向かって声をかけた。
「次はオレがやろう」
「アーチャー?」
「私なら、少しは通ずる部分があると思うがね」
アーチャーが進んでこういうことをするのは珍しい。
頼めばしてくれないこともないのだが。
「いくぞ?準備はいいか」
「あ、はい。宜しくお願いします!!」
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周囲に兵士が転がり、クリスタルの残骸が砕けて光を反射している。
大地に剣が突き刺さり、銃によるクレーターがいくつもできている。
そこにまた、新たに剣が突き刺さる。
しかし飛んできたものではなく、使用者が杖のように支えにしたものだ。
「ハァ、ハァ・・・・・・」
蒔風が肩で息をして、周囲を見渡す。
誰一人いない。
追っては破ったか?
もう来ないか?
そう考えながらも、彼は走ることしかできなかった。
ちょうどいい岩場を見つけて、そこに腰を下ろす。
(兵士や残骸でオレの居場所はすぐにバレる。くそ・・・・ここがどこだかわかればな・・・・・)
どことも知らないこの世界から、なるほど、確かに飛び出すことは出来る。
だがそれでは次元の狭間を漂っているうちにつかまってしまうのがオチ。
意味のない事に力は使えないのだ。
(せめてここがどこだかわかってから逃げるべきだったかなあ・・・・・行き当たりばったりなのは悪いところだ)
そんな自己評価をしている場合ではないのだが、そうでもしないとやってられないのだろう。
自分に苦笑する蒔風。
ガォン!!
「!! 来たか」
蒔風がそうしていると、また新しいジープ三台ほどが走ってきた。
うち一台の荷台に搭載されているガトリングが唸りを上げて回転し、先端から火花と共に鉛玉を弾きだしてきた。
さらに一台はボンボンボン!と気の抜ける音でロケット砲を打ち出し、さっきまでいた場所を爆撃してくる。
蒔風が岩場から飛び出し、荒野を駆ける。
いくつか迫る銃弾、爆撃は蛇行して回避し、さらに剣で弾き飛ばしていく。
最後の一台の荷台には静電気発生装置みたいなのが乗っていて、そこから翼人の抑圧波が出ていた。
しかしそれを破壊しようにも他のジープが守っているし、そもそも今の体力でそこまで力が出るかどうか。
ドォン!!
「オゥッ!?」
銃撃を回避し、弾き飛ばした蒔風の背後からロケット砲が飛来し、即座に転がるものの爆風に体が投げ出される。
地面を転がる蒔風が体制を整えて膝立ちになった瞬間、その場に巨大なトレーラーが突っ込んできて蒔風をひき潰そうと爆進してきた。
「ターミネーターかよ!?」
そんな愚痴を叫びながら、蒔風がいつもの二倍はありそうな畳返しでトレーラーの足元を撥ね上げ、軸回転させながらトレーラーを吹っ飛ばす。
蒔風の頭上を飛んでいくトレーラーだが、その荷台部分がガチャガチャと展開され、オフロードのバイクが四台飛び出してきた。
そのうち二台が蒔風の両肩をかすめて行き、衝撃に蒔風が吹き飛ばされる。
さらにトレーラーの爆発で地面を転がり、引きずられるように滑る。
「ごっぉ!!野郎!!」
嬲られる蒔風が憤るが、向かって行ってもしょうがない。
今は逃げるだけだ。
とはいってもあっちと蒔風の機動力は違いすぎる。
今の蒔風は抑圧で開翼もできないのだ。
それに対し相手は高性能のジープやバイク。
逃げるには、撃墜するしかない。
そうしていると蒔風に向かってバイクが走ってきて、すれ違い様に蒔風に蹴りを放ってきた。
その足を蒔風が掴み投げようとするが相手の勢いが強いのか、そのまま押されてゆく。
その蒔風にさらに背後からもう一台が同じようにして蹴りを放ってきた。
両者の脚もただでは済まないだろうが、おそらくそんなのはどうでもいいのだろう。
それを見て蒔風が紙一重のタイミングで一人目の脚の上で逆立ちしてそれを回避する。
そしてバイクの後部に立って男に殴りかかる。
しかし背後からの攻撃に対し男もそれを受け止め、裏拳で反撃して、蒔風の腕を掴んで前に投げた。
ブゥン、と蒔風の体がバイクの上を越え、それでもバイクにしがみつき、脚が地面に付いて滑って行く。
数十メートル進み、バイクの後輪が上がった。
蒔風がその両足に力を込め、バイクごと投げ放って爆発させる。
一台撃破した蒔風だが、即座に攻撃の手が伸びた。
バイクの男がペンのようなものを投げ放ち、そのお尻(ペンならノックする部分)から火が噴き出して蒔風に向かって飛んで来た。
文字通りロケットペンシルとでも呼べそうなそれを蹴り飛ばし、蒔風の周囲で爆発が起こる。
そこにジープからの爆発が襲い掛かり、さらなる爆風に押されて蒔風が加速する。
周囲は砂埃がひどい。
しかし、その先に蒔風が何かの影を見た。
それは
「あれは・・・・勘弁してくれってのによぉ・・・・」
それを見て、蒔風の顔が歪む。
まるで質の悪いコメディを見たかのような、そんな顔だ。
目の前に見えたのは、まぎれもなく彼が脱出してきたあの施設だった。
目標物の見えないこの荒野。
本来なら幾度も地図と方角を確認して進まなければならない場所だ。
そこを蒔風は一心不乱に走り抜け、さらには送り込まれる戦力も相手にしていた。
そんな状態で、しっかりと離れていくことなどできるはずがない。
彼は気づかないうちに、元の場所に向かって走っていたのだ。
「くそったれ・・・・・」
悪態をつく彼の前方数百メートルの位置から、ガキン!!!という音がして地面から数百以上の砲門がせり出してきた。
それは足元にちょこんとあるような小さなものだったが、先端から飛び出している棘を見ればそれがどんなものかわかる。
そして、その形は蒔風にも見えていた。
「あれは・・・・!! 止めてくれよ!?」
その棘の先端は、刺さりやすく抜けにくいという形をしたものだった。
進行方向とは逆に向いた棘のついた針。そして外見からは見えないが、その針にはワイヤーが取り付けられていた。
ドンッッ!!!
それを見て、施設に向かって蒔風が一気に走り出す。背中を見せたら貫かれる。
と、同時にババババババンッッ!!と一気に拘束弾が射出されてきた。
ワイヤーの尾を引きながら、いくつもが蒔風に向かって伸びてきて、大地に突き刺さった。
そんなワイヤーと針の隙間を蒔風が駆けていると、そんな中でも関わらずバイクやジープが飛び込んできた。
それを転がりながら回避し、横や下を蹴りあげて転がす蒔風。
しかし、針の一つが肩をかすめて皮膚を裂く。
すぐにそこを押さえて血を抜くが、視界が一瞬で揺れて来てしまう。
血抜きは間に合わなかったらしい。何かの毒が、身体を回る。
するとその隙に一瞬だけ針が止み、そしてすぐに百発ほどが一斉に放たれてきた。
蒔風が獅子天麟を背中に構え、背負った状態から力の限り一回転してから投げ放ち、ワイヤーを五、六本逸らす。
その逸れたワイヤーにぶつかって他のが逸れ、連鎖的に多くのワイヤーを食い止める蒔風。
膝が崩れる。
手がつく。
その手で身体を跳ね上げてそれでも前へ。
ドォドォドォドォドォオッッ!!!!
物凄い音を立てて針が地面に突き刺さる。
山なりに、放物線を描いていたそれが、だんだんと地面と水平に飛んでくるようになってきた。
蒔風がそれを紙一重で回避し、どんどん前へ。
足場がワイヤーに埋め尽くされていく。
そのワイヤーに足を取られるが、青龍刀で斬り裂いて前へ。
ワイヤーの中から数本の触手のような機械が伸びてきて襲い掛かってくるが、白虎釵を投げつけて沈黙させる。
更に襲い掛かる触手やワイヤーは玄武盾で弾き飛ばす。
そして、その砲門群が見えてきて、その先にあの青年の姿を捕えた。
「やっぱ出てくるかよ!!!」
青年が剣を振るい、無数の刃が具現して、ワイヤーをブチ切りながら蒔風へと飛んで来た。
それを蒔風が身体を少し低くするだけで回避する。
「剣を振るって飛ばしてくるってことは、その軌道上しか飛んでこないってことだろ!!!?」
横薙ぎなら、身体を下げる。
縦なら脇に避ける。
それだけで、この攻撃は回避できる。
すると青年はグリンッ!!と螺旋状に剣を振るい、そしてその通りに刃が飛んで来た。
蒔風はその中心に飛び込んで、青年に向かって玄武盾と青龍刀をフリスビーのように投げつけた。
その剣を弾く青年だが、くるくると旋回して玄武盾と青龍刀が蒔風のもとに帰り、再び投げつけられる。
そうしているうちに蒔風が青年との接近戦の域に踏み込み、剣を玄武盾で抑え込んで青龍刀で切りかかった。
しかし、青年はあっさりと剣から手を放して蒔風の青龍刀を持つ手首を掴んでそれを止めた。
そしてそこを蹴り呼ばして青龍刀を飛ばし、玄武盾でのナックルを回避して蒔風から下がる。
そのうちに剣を拾い直して再び蒔風に刃を飛ばそうとするが
「させるかァッ!!!」
ドウッ!!と空気を破る音がして、朱雀槍が青年に向かって飛翔していった。
炎の一閃となって青年に向かう朱雀槍だが、青年はそれを紙一重で回避してしまった。
しかしそれでも彼の頬からは血が流れ、刃の射出は止められた。
そして、蒔風が振り下げられようとする剣の持ち手を足刀で留め、玄武盾を右手に握って思い切り青年の腹部にそれを叩き込んだ。
「甲蓋打滅星!!!」
玄武盾が盾と言う役割からナックルへと変わり、青年の腹に衝撃をぶち込んで吹き飛ばした。
青年の体がノーバウンドで施設の城壁まで飛び、その一部を派手に破壊しながら激突する。
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「む・・・・負ける?」
「どういうことだ?蒔風舜の力は抑圧しているんだろう?」
「翼人は強力ですが、倒せない相手ではないです。事実、一度は彼を死にかけの状態にまで追い込めました」
「確かに」
「しかし、翼人は幾度かの戦いで最終的に勝利をおさめます。それはなぜか」
「正義の味方だから、とか言わないよな?」
「いいえ。それは翼人が「理解者」だからです」
「理解者?」
「ええ。他者の感情をエネルギーに出来る、ということは、それを理解しなければならない。その理解力の高さを以って、一度相手にした者ならばそれなりに優位に戦えるんですよ」
「そう簡単なもんか?」
「・・・・・あなた、小さいころアニメなんかは見ていました?」
「そりゃまあ」
「では、あなたはそのキャラの弱点も、攻撃法も、全部知っているわけですね?」
「今はうろ覚えだけど」
「彼らの理解はそういうことですよ。一度相手にした敵を理解し、そして幾度も立ち上がる心の強さ。それが、翼人を何度も勝利に導かせる理由です」
「なるほど・・・・じゃあ最初で勝てなければもう勝てないということか?」
「いえ・・・・そうでなくとも」
「?」
「まだ見せていない技で倒せばいいのですよ」
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「セイヤッッ!!!」
「甘い」
「ハァッ!!」
「まだまだだ!!」
ドカッ!!
訓練場で、アーチャーが唯子を翻弄して転がしている。
そして
「投影開始、全射出!!」
ドドドドドドドド!!!!
投影した武器を宙に浮かせ、そのすべてを一斉射出する。
「キャぁアアアアアアア!?」
「ちょ、アーチャーやりすぎ!!」
剣の陰に唯子が埋もれて行き、アーチャーに凛が叫びかける。
しかし、アーチャーはシレッとした顔をしている。
「この空間は非殺傷設定というのが効いているのだろう?ならば、よほどやりすぎない限り大丈夫だ。それに・・・・・」
アーチャーの射出が止まる。
そして、その隙間から―――――――
「この程度は、見切っているだろう」
剣の隙間に、唯子が立っていた。
彼女の立つ場所、わずかな立ち位置だけ、剣が突き刺さってない。
「やはりな・・・・彼女は特に秀でた能力などない」
「え?」
「私と同じ・・・いや、弓や投影がある私よりも、はるかに・・・・・こういってはなんだが、劣っている」
「でもあんだけ動いてんのよ!?」
「だからこそ、彼女が一体どれだけの「実験」を行ったのか・・・・想像もつかん」
そうした会話を脳内で済ませる凛とアーチャー。
その間に唯子がアーチャーに向かって駆け出し、拳を握ってそれを突き出してきた。
それを躱し、いなし、投げようとしたアーチャーだが
ごォッ!!!
「ッお!!」
その拳が眼前に迫って、咄嗟にそれを回避した。
するとその外れた拳から、本来アーチャーに叩き込むはずだった衝撃が飛び出し、レーザーのように一直線に壁に向かって行った。
目に見えない衝撃の光線がアーチャーの顔の横を通過し、凛のツインテールの片方をすり抜けて壁にボゴッ!と穴をあけた。
「ほえ?」
「ん?」
「おぉ」
それを見て唯子が気の抜けた声をだし、凛が何が起こったのか一瞬理解できず、アーチャーが感心の声を上げた。
「おぉ、じゃないわよ!!下手したら顔に穴が開くところだったわよ!!?」
「非殺傷だから大丈夫だろうが(ス・・・)」
「誰が正座やめていいって言った!!正座ッ!!」
「ま、まて!!なぜそこで令呪を光らせる!?」
「なんで俺まで・・・・」
「(膝の上のイリヤ)凛を守れなかったからでしょー?」
「なんでさ・・・・」
説教されてるWシロウを尻目に、唯子が自分の力にびっくりしていた。
「凄い・・・・・」
「あなた、自分の力に気付いてなかったの?」
「力は強くなったなぁ、って思ってましたけど・・・」
「それはそうでしょうね」
と、そこに長岡が彼女のファイルを持ってやってきた。
「あなたの話では、実験は死にもの狂い、そしてそのあとすぐに戻され、洗脳の中で戦っていました。だから実感がないのは当たり前ですね」
「そうなんですか・・・・」
その話を聞いてまた驚く唯子の脇で、ティアナが長岡に聞く。
「長岡さん。唯子って・・・・」
「ええ。私と同じ、“No name”の人間です。世界が一つになって、“No name”でも力を手に入れた者はいます。でも、彼女はそれでも力のない“No name”の人間です」
「それであれだけの力・・・・・」
「異常ですよ。決して力を植え付けることなく、“No name”のままあの域に達するなど」
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ガラガラと城壁が崩れて、その中から青年が出てくる。
蒔風がそれに対して玄武盾を構え、もう一方の手に「風林」を握って身構えた。
と、青年が剣を肩口、型で言う「八相」に構える。
(あの距離で構え・・・・刃を飛ばしてくるか?)
だが、蒔風も相手が何をしてくるかは大体わかる。
「保険」は一応打っておいたが、ここで勝てるなら文句はない。
そして、青年が動いた。
ダンッッ!!!
思い切り地面を蹴り、一気に蒔風へと突っ込んで来る青年。
それを蒔風がバックステップして間合いを整え、その顔面に剣を振るう。
しかし、青年は片手で「風林」の刃を抓み止め、剣を振るう。
蒔風はその剣を玄武盾で受け、「風林」を分離させて「風」を捨て、「林」で再び切りつける。
だがその刃が到達するよりも早く青年の蹴りが、後退させようと蒔風の腹に入る。
「フンッ!!」
「!?」
しかし、その攻撃で蒔風が下がることはなく、仕方なしに青年が地面に伏せて刃を回避する。
そして青年が蒔風に足払いし、一回転。
その勢いで、居合でもするかのように剣を構えた。
(ここから刃か!!えげつないが・・・)
グッ!!
(耐えられなかない!!!)
その攻撃を予測して蒔風が玄武盾に力を込める。
だが、迫った攻撃は全く違う物だった。
ヴゥン・・・・
「!?」
剣の刀身に、淡い光が灯った。それはエネルギーではない。
否、エネルギーではあるものの、青年の持つものではない。
そう、まるで「歪み」そのものであるかのような、強力な―――――――
(渡航の力を歪みに変えて!?これは―――――!!!!)
「槍薙巳」
青年が短く、そう呟いた。
直後、振るわれた剣が世界の歪みの尾を引いて、蒔風の身体を飲みこんだ。
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「が・・・・は・・・・・世界を捩じって・・・・歪みを飛ばす・・・だと?・・・・・ぅ」
蒔風が地面に倒れ、そう呟きながら意識を失う。
その攻撃は読み通り「津波」そのもので、懐という至近距離から喰らった蒔風は、いとも簡単に吹き飛んで地面に大きな跡を作った。
その体を抱え、青年が施設の中に戻る。
「まさかこの技まで引き出させるとは・・・・翼人とは本当に恐ろしい」
「だからこうしてそれに対応できる兵器を作ってんだろ?」
「ええ。兵器とは片方あるだけではだめですから。それの抑止力があって、初めて利用価値が生まれます」
そう言いながら、蒔風を再び中に連れ込む。
黒く、重く、高い扉が、再び固く、閉じられた。
そしてその中で、再び―――――――――
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「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「zzz・・・」
荒野の中で、セイバーが剣を持って座禅を組み、士が毛布にくるまって寝ていた。
こちらの捜索メンバーは少し変わっており、一刀の代わりに星が来て、さらになのはも合流していた。
ちなみに、なのははあれから一睡もしていない。
ヴィヴィオに「絶対に舜君を取り返してくるから」と自分に言い聞かせるように出てきたのだ。
しかし、このままでは体調を崩す。
「なのは。私が見ているので、お休みになっては」
「いいの。セイバーさんが寝ないでいるのに、私が寝るわけにはいかないから。それに、星さんも起きてるし、負けられないよ」
「なのは殿・・・・」
声をかけるセイバーだが、なのはは自分の意地だからと言って眠ろうとはせず、それを見て星が小さくつぶやいた。
「私は・・・・最近分からないのです」
「え?」
「舜が連れ去られたとき、私は確かに悲しみました。しかし、それは本当に「愛」から来たものなのかと、疑問を持ったのですよ」
「星さん?」
客観的に言うのはいかにも星らしいが、彼女にとってはかなり真剣なことだ。
「私は舜のあり方を聞き、何と脆く、そして素晴らしいものだと感じたのです。そして、失いたくないと思った。それを今まで恋愛感情だと思ってきました」
「普通じゃないの?」
「しかし、今になってはこう思います。「それは世界遺産などがかけがえのない物と感じ、失ってはならないと感じているだけじゃないのか?」と・・・・」
「そんなことないよ!!星さんの想いは確かに・・・・・」
「確かに愛だと?しかし、私は貴女のように取り乱すことはなかった。絶対に取り戻すと、心に誓っただけだ」
「それは私が勝手に取り乱しただけで・・・・」
「・・・・まあ、それも彼の顔を見ればわかることでしょう」
そんな話をしている二人を見て、セイバーがふふっ、と笑う。
「乙女ですね」
「あんたもそうだろ」
「(びくぅっ!!)士、起きていたのですか?」
「女三人寄れば姦しいというからな。起きちまった」
「私は話に参加してないですが」
そんな会話をする二人が二組だが、こうしてエクスカリバーで四剣をたどろうとしてすでに三日。
英霊である彼女だから大丈夫だが、ほかはつらいはずだ。
まあ士は旅人ではあるから大丈夫そうだが、なのはや星はこれ以上ここにいるのは難しいだろう。
そうかんがえていた、その時
ビシッ!!!
「「「「!!!!」」」」
ビッ!!ビビッ!!バリッッ!!!
ドシャァッ!!
「うわぁっ!!」「っとと!?」「つ、着けた!?」
空間を裂いて、そこから七人の男が転がり落ちてきた。
なのはにはその七人に見覚えがあった。
「青龍さん!?それにほかのみんなも!!!」
「・・・・なのはさん・・・・」
「何かに引かれると思ったら、エクスカリバーだったか」
蒔風の使役獣・七獣。
その人間体が、次元の穴から落ちてきたのだ。
彼らが言うには、蒔風は脱走した時にうまく自分たちだけを投げて逃がしたのだそうだ。
最初から出していくと相手に利用される可能性があるし、下手をすると彼らも改造されるかもしれないことを考えると、迂闊に出せなかったそうだ。
「それに、相手の剣も世界四剣・・・・我らもばれていれば何をされていたか・・・・」
「相手も・・・世界四剣!?」
「・・・・世界四剣って・・・なんなの?」
なのはが、セイバーに聞く。
しかし彼女も知らないという。
その呼び名はもっと高次での物らしいのだ。
「アリスに聞こう。それが一番だ」
士の言葉に、一同は「EARTH」に戻る。
四剣の実体が、明かされようとしている。
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「お前、剣をどこにやった?」
「さあね」
「お前が投げた剣七つ。そのすべてが回収されていない」
「答える義理があるか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「モニターしました。驚きましたね。これ、十五天帝ですよ」
「では、彼は四剣の所有者だったと!!!」
「オルセアではわかりませんでしたねぇ。いやはや迂闊迂闊」
「待て。伝承では天剣には仕えし獣がいるということだろう?」
「このままではこの場所が「EARTH」にばれるぞ」
「なに。そうはいってもこの世界に来るのは・・・・・・明日でしょう」
「すぐじゃねぇか!!」
「だったら、それまでにことを済ませます」
「こと?こいつに洗脳も何も効かないぜ?」
男が、蒔風の部屋の扉に向かう。
そしてニッ、と、気持ちよく笑ってみせた。
「目標は、高い方が燃えるんですよ」
男が部屋に入る。
処置が、始まった。
「始めますよ。死ぬかもしれないので、覚悟はいいですか?」
「そんなもんははなからないね。やれるもんならやってみろ」
to be continued
後書き
と、言うわけで周りはみんな敵だらけ!!!
四面楚歌でした。
唯子の強さに関しては、本編の通りです。
彼女、まだ実感してないんですよ。恐ろしい
そして、青年対蒔風・第二ラウンド
蒔風、再びの敗北。
男の処置に、蒔風が耐える耐える!!
がんばれー!!
・・・・・応援はこれくらいでいいかな
主人公だから大丈夫だよ!!きっと
ではまた次回
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