世界をめぐる、銀白の翼
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第四章 RE:BIRTH
悪い子登場
次元世界オルセア
数十年前から南部諸国での内戦が絶えない世界だ。
時空管理局もこういった世界に公的支援を送ることで内戦を止めようとすることはしていたのだが、この世界はそれを拒否し続けているらしい。
蒔風たちが降り立ったのは、そんなオルセアの中でもまだマシに機能している場所の次元空港だ。
ただ・・・・・
[Gate Open―――Olsere]
正規の手段は踏んでいない。
「よっと・・・・到着だな」
空港の隅、周囲から比較的見にくい場所に、ゲートから蒔風が出てきて、銃痕がいくつかある空港内の待合ベンチに座った。
その五分後、違う場所から今度はフェイトが、またその五分後にランサーがやってきた。
おそらく、空港にも内戦に組している人間はいるだろう。
そしてその人間は、この世界にやってきた人がどんな人間か、データをどこかに送っている可能性を考えると、律儀に航空券など買っていられない。
そのデータから時空管理局やら「EARTH」やらの人間が来たと知られては、後々面倒なことになりかねない。
「まあこうやってきてるのも問題なんだけどね・・・・・」
あはは、と笑いながら、フェイトがこの方法を褒めるやらなんやらしている。
今回のメンバーはこの三人だ。
当然私服で来ているし、その服装も適当なものを取って来たので上等なものはない。
こういった調査には執務官の仕事でなれているフェイトに同行を頼み、あと一人くらいはほしいと言ったところでランサーが逃げてきたように駆け込んできたのだ。
おそらくは鬼シスターから逃げてきたのだろう。
内戦が激しいのはこの世界の南部諸国だ。
空港があるのは北部よりの地域。
ここから南部に入る。
「直接行ってもよかった気がするけどなぁ」
「多分街には見張りがあるから急に出てきた人はばれちゃうし、出てくるところを見られるのはまずいよ」
幻術を張って周囲の意識を攪乱させたうえで、蒔風が車を出して三人がそれに乗り込み、荒野を南に進む。
そっちの方向に向かう車は一台もない。
代わりに、その道の両脇には爆破でもされたような跡を残した、錆びた廃車が打ち捨てられている。
「で?これからどーすんだ?」
よく内容を聞かされていないランサーが、運転する蒔風に向かってそんなことを聞いてきた。
彼も一応、あの町での事件の話は聞いているのでそこは省き、ルネッサからの情報の話だけした。
「なるほどなぁ」
「で、それがここ」
そういうと運転席と助手席の間の、普通ならカーナビが取り付けられる場所から宙にモニターが現れてオルセアの地図を表した。
そこには目的地の青い点と、自分たちの車の位置を表す移動する赤い点が映っており、もうそろそろ南の地域に入り込むことを表していた。
「オルセアでバトってんのはこの三国。名前は・・・・うげ、長くてめんどい。適当に右上を「バカ」左上を「ボケ」下を「クソ」と命名しよう」
「酷ぇな!」
「ちゃんと読もうよ・・・・「バルガソウスベラ・カラッソス」と「ボルボダロングス・ケルッツァーリン」と「クックレリオウデリュス・ソーベクラウン」でしょ?」
「じゃあ前後の頭文字で略して「バカ」「ボケ」「クソ」だな」
「か、変わらない・・・・」
「ま、その方がわかりやすいわな」
自分たちが勝者だと信じて止まない指導者たちが、自国に偉大な名前を考えたらそれも対抗しあってこんなに長くなったらしい三国の名前を、便宜上適当に決め、話を進める。
地図を見るとこの三国は逆三角形の形をしており、それぞれを蒔風が言った通り右上、左上、下の三つに分けて所有している。
今蒔風たちはとりあえず分かれ道がないので真っ直ぐに走っているので、このままだと「バカ」と「ボケ」の間に入ることになる。
そしてトレヴィアの隠れ家というのが「クソ」の奥地にある遺跡らしい。
そこで彼は生活と発掘を同時に進めていたようだ。
「だから俺たちは「バカ」か「ボケ」かのどっちかを通過していかなきゃいけないわけなんだが」
「そうだな」
「まあ向こうがここを通る車を素通りさせてくれるわけもな、くッッ!!」
ギャォッ!!
そこで蒔風が急にハンドルを切り、直進していたところを右に逸れた。
するとあのまま直進していたら車がちょうどいたであろう場所に、ヒュルルルルルルル・・・・とミサイルのような魔力弾が飛んで来て爆発、地面をかなり吹き飛ばした。
「そぉらきた!!」
「お?爆撃か?」
「このままだと・・・・」
「「ボケ」だ!!」
その後、絶え間なく振ってくる爆撃の嵐を、蒔風が車を飛ばして一直線にばく進していく。
「こ、この車大丈夫!?」
「防弾使用だ!!」
「けどあれに当たったらひっくり返されちまうぞ!?」
爆撃のほかにも小さな魔力弾の一斉掃射も受けている車は、少しずつその形を変形させられながら「ボケ」の方へと突っ込んでいく。
もう少し、もう少し!!
街の中にまで爆撃が来ないとは限らないが、とりあえず飛び込めば何とかなるかもしれない。
そう(実に行き当たりばったりな感じに)思った蒔風が、車のアクセルを踏み込んでいく。
時速がどんどん上がり、このままなら国の中に入れる!!!
そのゲートが見え、ラストスパートだと蒔風がこれでマックスだ!!と思い切りアクセルを踏んだ。
すると
バキン!
そんな音と共に、蒔風の体がガクンと揺れた。
同時にドンドン顔が青ざめて行った。
「ど、どうしたの舜!?」
「ふ、踏み込んじゃった」
「え?」
「アクセル踏みすぎて・・・・・」
クイッ、クイッ
「車の床、踏み抜いちった」
「「えええええええええええええええええ!?」」
蒔風の足元を見るとそこにアクセルはなく、穴が開いていてその先に流れる地面が見える。
この男、力みすぎて踏み潰しやがったのだ。
「ど、どーすんの!?」
「わからん!!ブレーキも効かないし!!」
「飛び降りるしかねぇじゃねぇか!!!」
「「「うおオオオオオオオオオオオオオオ!?」」」
バッ!!ガシャァッ!!!ドゴンドコン!!!バキバキバキ・・・・・・
咄嗟に車から飛び降りる三人。
車はというと、そのまま街の方へと突っ込んでいった。
車対策のまきびしを越え(パンクしないから意味無し)
バリケードを突破し(衝撃で車が浮く)
フェンスをぶち破り(浮いたところからのダイブで)
そのまま着地、止まることなく街の中を爆走していった。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・あ~あ」
「「あ~あじゃないよ(ねぇ)!!」」
おそらくは車の方に目が向けられているのだろう。
三人の方には誰ひとりとして来ない。
あ、今町中から爆発音と火柱が上がった。
多分爆破されたのだろう。
しかしこうなってはもう「ボケ」には入れない。
仕方なく三人は「バカ」の方へと歩いていき、そこから国内に入って行った。
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「はは・・・・何とか来れたな」
「つ、疲れた・・・・」
「俺なんでこんなとこ来ちまったんだ・・・・」
その場しのぎの笑いをする蒔風に、フェイトとランサーが身体ではなく心労の方でへとへとになっていた。
蒔風たちが入ったのはバルガソウスベラ・カラッソス、略称「バカ」(命名・蒔風)だ。
門というかフェンスの扉というか、そこをとおって普通に入国する三人。
すると
「おい兄ちゃん」
「ん?」
そこに、四人くらいのヤンキーが突っかかってきた。
うち二人は肩からアサルトライフルを掛け、残り二人は豚でも解体するのかというほど大きなコンパットナイフをちらつかせていた。
そして、その真ん中にいた蒔風に向かってこんなことを言ってきた。
「俺たちゃここの門番でよ。通りたきゃ賃金置いてきな」
明らかなからみである。
当然、彼らも門番などではない。
しかし
「あ、そうですか。いくらですか?」
蒔風は律儀にそんなことを聞いた。
その言葉に「え!?」となるフェイトとランサーだが、蒔風は至極普通だ。
まあ当然と言えば当然だ。
多くの世界をめぐり、戦ってきた彼だが、こんな地域に足を踏み入れるのは初めてである。
“No name”であった彼の世界では、こんな争い事はテレビの中か、小説、漫画の中だけだったし。
だから「ま、現実ならこんな門番もいるのかな」と変に理解してしまったということ。
一方、蒔風の質問にぎゃははと笑いながら、男が応えた。
「そうだな。まず持ってる金目の物は全部出してもらおうか」
「普通に現金しかないが?」
「じゃあそれ全部だしな」
「あとそっちの女もよこしな」
金を要求し、さらにフェイトにまで目を付けてくるあたりは予想通りというかなんというか。
欲望に忠実な奴らである。
「見ろよ。でけぇ乳だぜ」
「顔も最高だ。いじめたくなってくるぜェ」
銃に肘を乗せ、それを持った二人がそんなことをコソコソと話している。
それをきいてフェイトが胸を押さえて真っ赤になるが、蒔風が肩にポン、と手を置いて気にすんなと言う。
「まあ君たち待ちたまえ。とりあえずフェイトをいじめたくなる気持ちもわかるが待つんだ」
「わかるんだ!?」
そんなことを言う蒔風にフェイトがえぇ~!?という顔をするが、まあ冗談だよね?と思い直してランサーの方を向く。
ランサーは見事なフェイトの胸に向かってサムズアップしていた。
フェイトは強く生きようと心に誓った。
「だがまあ、金はともかくこの人は上げられないな」
「あん?何お前逆らうの?」
「やられちゃう?やられたいの?」
「まあ渡してもぶっ殺しでしたけど!!」
やっぱり・・・・という顔をして、フェイトとランサーがどうしようもない顔をしてヤンキーを眺める。
だが、蒔風は少し顎に手を当てて考え、直後に聞いた。
「うん、で?いくら払えばいいのかな?」
「あ!?だから全部出せっつってんだろぉが!!」
蒔風の全くビビらない態度にイラついたのか、ヤンキーが大声を上げて喚きだした。
しかし「うわー!テンプレ通りだー!!」とか言って楽しむ蒔風。
そして「よしよしわかったよ」といった感じで懐をまさぐって、そこからこの世界の紙幣を取り出して彼らの目の前に見せつけた。
「お、けっこー持ってんじゃん」
「ところで、君らはホントに門番なの?」
「・・・・・・ぎゃっはっはっは!!そんなわけねぇだろ。ッバーカ!!」
そういって蒔風の手から紙幣を掻っ攫おうとするリーダー格。
が、その手は空を切る。
「だったら君らはただのカツアゲってわけだ」
「おい、それ寄こせよ」
蒔風がひょい、とリーダー格の手を回避し、紙幣を握らせない。
それに対し、蒔風が笑顔のままでこう言った。
「おいおいぃ・・・お金がほしいんだろ?恵んで欲しぃんだろ?だったら物乞いみたいにくださいって言えよ」
超ドSだった。
にやにやと笑いながら、蒔風が言葉を続ける。
「俺はお金を上げる側。お前らはもらう側。お金貰うんだからぁ、くださいって頭下げろよぉ。どうしたの?欲しいんだろ?哀れにも働くだけの能力がないからこうやってもらうことしかできないんだろ?ほらほらほらぁ、人に頼むときには態度ってものがあるだろぉ?」
「でた。ドSモード」
完全に上から目線で、口だけがにんまりと笑う蒔風は悪役にしか見えないほどに悪い顔をしていた。
悪い奴である。
それに対しヤンキーたちは、少しずつボルテージが上がっているようでナイフのグリップを握る手に力が入り、銃口を蒔風に向け始めた。
と、そのタイミングで蒔風がポイ、と紙幣を投げた。
パラパラと蒔風とヤンキーの間に紙幣が落ち、それをヤンキーたちは拾い始めた。
が、膝をついてそれに手を伸ばすと、ワイヤーでもついているのか、蒔風の手に紙幣が戻っていく。
そして
「プ、プフー!そこまで這いつくばってお金が欲しいんですかー?プフー!!!」
噴き出した。
口に手を当て、目に涙をためながら。
「て、テメェ!!アゴッ!?」
リーダー格が青筋を立てて、立ち上がって蒔風に掴みかかろうとする。
しかし、その行動は立ち上がったところで止まってしまった。
「おいガキ。調子のンなよ?」
それは、蒔風が銃をリーダー格の口内に、ゴツイ銃身を咥えこませたからだ。
銃口は44口径というハンドガンとしては大きい方。
「お、これが口に入るなんて、君は大きな口してるねー♪」
「あ、あが・・・・」
「俺はともかく、俺の仲間にちょっかい出すなよ。ゲスなこと考えてんじゃねェバカ」
「は、はひ」
「うし、行ってよし」
その一言で蒔風が銃を降ろした。
それを見た銃を持った二人や、残りの一人が突っかかろうとするがリーダー格がそれを止めて手を出すなと叫ぶ。
そのヤンキーたちの姿が消えると、フェイトが蒔風の銃を指さした。
「舜、銃口を向けるのはよくないよ?」
「大丈夫。これ水鉄砲だから」
そういって、蒔風がトリガーを引くと、先端からは水が飛び出してきた。
そこから街を進んでいき、ほどなくしてホテルを発見。
今日はそこに泊まることにした。
最初のヤンキーを追っ払ってから、絡まれることもない。
蒔風は少し残念そうにしていた。
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翌日、特にからまれることもなく、また国内を進む蒔風一行。
また車を出して襲撃されてはもったいないので、今回は自転車を出して進む。
翼人は便利である。
「さて・・・・今日は「バカ」の半分くらいまで来たんだが・・・・」
「問題はどうやってあっちに入るかだね」
街をそろそろ抜けるところで、蒔風が地図を出して現在位置と目的地を確認する。
今はバルガソウスベラ・カラッソスの一番南の街の一番南にいる。
わかりにくい表現だ。
「この先の荒野を抜けっと「クソ」に足を踏み入れるわけだな・・・・」
「なんか士気下がるな。「クソに足を踏み入れる」とか」
「命名したのは舜じゃん」
そこら辺の木箱に座って、フェイトが突っ込む。
この先の荒野は基本的には「バカ」と「クソ」の戦闘地域だ。
今は戦闘は行われていないようだが、すぐ見える場所には銃器を持った男が数人いる。
無論、軍人ではないが。
「にしてもこいつらはなんでまたこんな戦ってんだ?」
「昔はいろいろあったらしいけど、今は純粋に食糧が足りないみたいから、って聞いたぜ」
壁に寄りかかるランサーの何気ない質問に、地図を見ながら蒔風が応える。
内戦は長く続いているが、その指導者がいつまでも同じというわけではない。
ほかの国はともかく、今こっちの方の指導者は人口問題に頭を抱えていた。
一見して寂れた町で人数が少ないように見えるが、実は食料の需要と供給が釣り合っていないらしい。
つまり、食料を作る人間が少ないのだ。
しかもあのヤンキーを見て分かるように、内戦しかしていないこの国は戦うことしか知らない人間ばかりだ。
昔はそういった知識人もいたらしく、このままでは国が飢え死ぬと提言していたらしいのだが・・・・
「ま、昔の指導者ってのは本当に戦うことしか知らなかったらしくてな。しかも飢えなど気合いでどうにかしろッつーわけのわからん根性論で反論したらしい」
「飢えを知らなかったんだろうな」
そのままその提言者は国家反逆罪で死刑。
数年後にその指導者も飢餓が進んだために怒り狂った国民に殺されて死亡。
そして今、食料を奪おうとこの国は隣国に攻め込んでいるらしい。
しかも変なプライドもあり、施しは受けないとして管理局の支援は受けたくないらしい。
いらないところだけ受け継いでしまったものである。
「だから昨晩も今朝も今も、こうして隠れて缶詰食ってるってわけ」
そう言う蒔風の背後にはいくつかの缶詰が転がっていた。
これは後で地面に埋めるつもりだ。
「何はともあれ、この荒野を通らないことにはあっちに行けない」
「でも間違いなく見つかるよ?」
「見晴しいいもんな」
そう、ここを通ろうにも、目立つ。
目立ったら、間違いなく撃たれる。
次元世界ではあるので質量兵器(銃など)はないはず。
しかし、一応こうして世界の壁はあれど一つの世界に内包された場所だ、あってもおかしくない。
そもそも魔法だからと言って非殺傷にしているわけがないから、当然当たれば死ぬ。
「どうしよっか?」
「抜けること自体は可能だが、それやると向こうでの動きがなぁ・・・・」
トレヴィアの隠れ家を調べるうえでの障害は少なくしたい。
その為には騒がれずに侵入しないといけないのだが・・・・・
「・・・・よし」
蒔風が思いつき、そしてどっかりと座りこんだ。
「待とう」
「何を?」
「抜けるチャンス」
そんなのあるものかねェ、とランサーが頭を掻くが、大丈夫さと蒔風が応える。
「街中の店を見ると、食料品が少なくなってる。街にいる人たちはくたびれているが、目だけはギラギラしている」
「・・・つまり・・・・」
「ああ。建物の中から殺気も感じるし、そろそろおっぱじめるだろうよ」
ドンドンドンッッ!!!!
わァァァァアアアアアアアああアアアアアアア・・・・・・・!!!!
と、蒔風の発言の終わりと共に、街から一斉に人々が飛び出していった。
先頭には軍用ジープが走り、人々を引き連れている。
どうやら第何回かもわからないような戦いがまた始まったようだ。
「待ってたのって・・・これ?」
「ああ、さて、行くぞ」
蒔風が立ち上がり、民衆の中に入るぞ、と走っていく。
さあ、侵入だ。
to be continued
後書き
さて、オルセアでの一幕です。
今回はかなり少なめにいきました。
よく見れば真ソニックのフェイトさん、最速の英霊ランサー、加速開翼の蒔風と、なんだかスピードメンバーに。
直接行かなかったのは、そこがわからなかったからです。
空港なら写真からわかったから行けたんですが、トレヴィアの隠れ家は写真もないので。
第一章で行けたのは世界の導きがあったからということで。
次回、突破
ではまた次回
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