提督はBarにいる。
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生酒について学ぶ
前書き
はい、春イベも無事に終了しましたのでリクエスト企画の方始めていきたいと思います。今回はかなりの蘊蓄回になる予定ですので、『ウンチクうぜぇ』という方は回れ右しましょう。
※ちなみにですが、春イベ実装艦はコンプしましたが13(ヒトミ)ちゃんが出ませんでしたo………rz
「はぁ、香取の着任記念日ねぇ……」
「そうなんです提督さん!」
鹿島にそんな相談を受けたのは、ちょうど鹿島が秘書艦を受け持った日の事だった。とは言え香取がウチに着任したのは何年も前。今や演習の指揮や新任の艦娘への一般教養の教官として『香取先生』は人気が高い。
「だからこそ、ですよ!来月は香取姉の誕生日もあるんです。でも香取姉『こんな歳で誕生日のお祝いは恥ずかしい』ってお祝いさせてくれないんです……」
姉妹仲が良好な2人だが、香取は特にも教導艦としてのポジションを期待されてか建造当時から精神年齢が高い。自分の事をおばさんに近いと捉えているらしく、気恥ずかしさがあるようだ。
「成る程……まぁ解った。そういう頼みなら俺も受けてやる」
「本当ですか!?じゃあ、お礼は鹿島のカラd……」
「それはいらん」
忘れていたが、鹿島の奴は俺に惚れているらしい。しかもちょっと危ない方向に。錬度は92とケッコンは間近なのだから、もう少し我慢しろと言いたい。鎮守府内の鉄の掟『提督に手を出していいのはケッコンしてから』を破るとエラい事になるのだ……お互いに。しかも鹿島は1度“やらかしている”疑惑を持たれているのだ。ウチのおっかない連中とOHANASHIさせるのは避けてやりたい。
「もう、提督さんはいけずです!」
「うるせぇ、それよりメニューのリクエストは?香取の好きな食いもんとか酒とか、何かあんだろ」
「あ、お酒は持ち込みたいのがあるんです。それとお料理は天ぷらを」
む、ウチに酒を持ち込みたいって?それはウチのラインナップじゃあ満足できないという挑発か何かか。まぁ、何か特殊な酒なんだろうけどな。
「OK、適当に見繕っとくわ」
「うふふ、お願いしますね提督さん♪」
さて、何にするかな……。
それから数日後、鹿島の予約を入れた当日。
「もう、鹿島ったらいつも強引なんだから……」
「まぁまぁ香取姉、今日は折角のお祝いなんだから。怒らないで楽しんで、ね?」
無理矢理引っ張って来られた香取が少しご立腹だが、まぁ概ね予定通りか。
「そうだ、『香取先生』にゃ普段から世話になってるからな。俺からの労いだと思って今夜は楽しんでくれ」
「もう!提督まで私をからかって……」
香取は恥ずかしいやら嬉しいやらで、頬を紅く染めている。何というか、熟女的というか大人の落ち着いた色香を感じる。
「ところで、鹿島が酒を持ち込みたいって話だったが……どんな珍しい物を持ってきたんだ?」
「ふっふっふ……これです!」
カウンターに置かれたのは、なんの変哲もない一升瓶。ラベルも貼られていない所を見ると、一般的に売られているような物では無いのか?中の液体が僅かに発泡しているように見えるが……はて。
「少し利いてみてもいいか?」
「えぇ、元々提督さんと3人で呑もうと思ってましたから♪」
鹿島からの許しも得たので遠慮なく蓋を開け、猪口に注ぐ。匂いはかなり甘い……メロンに近いような吟醸香が近いか。どれ、味は……おっ!
「もしかして、こりゃ“生酒”か?」
「流石提督さん、大当たりです!」
また生酒とは貴重なモンを……。管理も難しいってのに。あぁ、読者の中には『何のこっちゃ?』って人もいるよな。生酒ってのはいわゆる日本酒のカテゴリの中の1つだ。いい機会だし、今回はその辺の話をするとしよう。かなり説明臭い話になると思うんで、嫌いな人はすっ飛ばしてくれ。
そもそも日本酒ってのはとてつもなくデリケートな酒だ。管理の仕方や加工の仕方の違いで名前がコロコロ変わる。生酒、火入れ、生詰、本生、生々、生貯蔵、冷やおろし……素人じゃあ解んねぇよな。その辺ザックリと解説してみたいと思う。
《生酒とは?》
生酒(なまざけ・又はきざけ)とは、読んで字の如く生の酒。製造から店に並ぶまで一切の加熱処理(火入れ)をしていない酒だ。酒の中の酵母が生きていて、保存には細心の注意が必要となる。何せ腐りやすいからな。本生、生々という呼び方もされたりする。
《日本酒の加熱処理(火入れ)について》
日本酒は通常、2回の加熱処理を経てから出荷される。日本酒は火入れを施さないと貯蔵中に乳酸菌の1種である火落ち菌にやられてしまい、白濁して腐造……つまりは腐っちまう。安定した製品作りには欠かせねぇ火入れだが、その分搾り立ての美味しさや芳醇な香りが犠牲になっちまう。まぁ、流通の都合上どうしても防げないコラテラルダメージって奴だな。そんな中、一度も火入れをせずに出荷されるのが生酒だ。出来立てでフルーティーな味わいを楽しむ事が出来る反面、扱いがとてもデリケートで安定した流通と保存が難しい。ほとんどが地元で消費される『幻の酒』だ。
《しぼりたて新酒も実は生酒!》
毎年新酒の出来上がる11~3月に売り出される『しぼりたて新酒』。これも火入れはされずに出荷される為、ある意味では生酒と言える。ただし、一般的に言われている生酒のように熟成はされていない為、深みやコクはあまりない。しかし新酒ならではの爽やかさが味わえる為、こちらの方が好きだという人も多い。
《『生』と付く日本酒の種類》
さて、ここまでちゃんと読んでくれた読者諸兄なら気付いただろう。生酒以外にも『生』という字が入った酒が何種類かあったのを。生詰と生貯蔵だ。この2つは生酒とどう違うのか?その答えは日本酒の製造工程と先程も出てきた『火入れ』のタイミングにある。お次はその辺を解説してみたいと思う。
・日本酒の製造工程
日本酒というのは仕込んでから出荷するまでに大きく分けるとしぼり、貯蔵、瓶詰めの3つの工程を経てから出荷される。いわゆる普通の日本酒は、もろみを搾った後と瓶詰めの前の2回火入れを行い、確実に酵母や微生物を殺してから出荷する。蔵によっては瓶詰めの後で2回目の火入れをする所もあるけどな。
・生貯蔵酒とは?
搾った後には火入れをせず、瓶詰めの前に火入れをする形。貯蔵中は生である為、このような名称になる。
・生詰めとは?
搾った後の段階で火入れをした後は加熱処理をせず、瓶詰めして出荷する形。最近はあまり行われない形態だ。
・生酒とは?
一度も火入れをしないで出荷するのが本来の生酒だ。だが、しっかりとした温度管理で流通させないといけない為に、近頃『生』と呼ばれる日本酒の大半は生貯蔵酒だ。しかし、大概の生貯蔵酒は『生』の字を大きく目立つようにラベルに印刷している為、生貯蔵=生酒と勘違いしている人が多い。ぶっちゃけた話、生詰めや生貯蔵は半生くらいと思っておくのがいい。生酒のフレッシュさはねぇが、まろやかさは普通の日本酒よりも強い。……あぁ、もうひとつあったな。冷やおろしってのは生酒ではなく生詰めの事だ。寒くなると火落ち菌を含む乳酸菌の働きは鈍くなるからな、火入れをしなくても安定した流通が可能になる。なので搾りの後の火入れはしないで出荷する為、冷やおろしは生詰めの一種、と言える。
《生酒の保存方法は?》
それだけデリケートな生酒。当然美味しく飲みたい。だが、生酒は生きている。取り扱いを間違えるとすぐに死んでしまうのだ。まず大前提として、高温多湿は厳禁。間違いなく酒が傷む。そして光を当てるのも厳禁だ、生酒を売っている専門店だと、生酒のコーナーの冷蔵庫だけ照明を落としている、なんて店もあるくらい徹底しているのに、ウチで気を付けなければ劣化するのも当然だ。
そして生酒は開封したら早く飲み干すのも重要だ。開栓すれば劣化が始まる。新鮮さが命だからな、必ず冷蔵保存して早めに飲みきるようにしよう。ケチってチビチビやってると、間違いなく劣化が早まるからな、ケチらず早く飲むようにしよう。……まぁ、未開封で適切に管理しておけば熟成酒に化けさせる事も出来るが、今回は生酒だ。こいつに合う肴を俺は出してやるだけさ。
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