レーヴァティン

「ここまで抜くことが難しい刀はない」
「それ故にだ」
「世界を救えるだけの力があるか」
「そういうことだ」
「この冷たさが水、そして氷か」
「そうなる、我が神ヘイムダルの力だ」
「そして天羽々斬もか」
　久志を横目で見てだ、英雄はさらに言った。
「俺を試しているのか」
「そなたが世界を救えるだけの者かな」
「そういうことか。それならだ」
「抜きききるか」
「そうしてみせる」　
　強い声だった、静かであるが。
「天羽々斬、見ることだ」
「抜くか」
「この重さと冷たさに負けはしない」
　苦しい、重さは想像を絶するものでありしかもその冷たさは彼の全身まで包み芯まで凍らせる様だった。しかし。
　彼は抜き続ける、そうして刀身を徐々に出させていた。
　二人はそれぞれの刀剣と闘っていた、最後まで抜ききろうと。その闘いは功を奏してそのうえでだった。
　久志はレーヴァティンの剣身を七割まで抜いた、巨大な剣がその全身を表そうとしていた。彼の横にいる英雄もまた。
　鞘から七割以上抜いた、そこで二人共だった。
　さらに力を入れた、すると。
　八割以上抜けた、だがここでだった。
　二人共動きが止まった、しかしそこで神官達が二人に言った。
「そこだ」
「そこで止まっては駄目だ」
「あと少しなのだ」
「その時こそ力を出すのだ」
「最後まで力を出しきれ」
「何としてもだ」　
　こう口々に言ってきた。
「負けるでない」
「レーヴァティン、天羽々斬にだ」
「そして何より自分自身にだ」
「負けてはならん」
「最後の最後まで抜くのだ」
「あと少しだからこそだ」
「力を出しきるのだ」
　自然とだ、彼等は二人の背を言葉で押していた。それは二人にこの世界を救うという希望を見たからだけではない。二人の闘う姿に心を打たれたからでもだった。
　その彼等の言葉を受けてだ、二人は彼等の言葉通り最後の最後の力を出した。するとそれによってだった。
　レーヴァティン、天羽々斬がだ。どちらもだった。
　完全に抜かれた、その瞬間にだった。
　レーヴァティンの剣身が紅蓮の炎に包まれた、天羽々斬の刀身は蒼白い氷に包まれた。その炎と氷を見てだ。
　久志も英雄もだ、喉をごくりと鳴らして呟いた。
「抜いたぜ、今な」
「俺もだ」
「これでこのレーヴァティンでか」
「天羽々斬でだな」
「世界を救うか」
「それが出来るか」
「見事だった」
　白い服の神官、二人に話してくれた彼が二人に声をかけてきた。