ハイスクールD×D/EXTELLA
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旧校舎のディアボロス
アーシアの過去
棟夜side
イカれ神父、クソったれフリードを振り切って俺はアーシアを連れて家に逃げ帰った。
「ここが俺の家だ。暫くは家にいて良いぞ」
「お、お邪魔します!」
「そう固まるな。気楽でいい」
ガッチガチのアーシアを家に入れる。ちなみに両親の位牌は神様が生前の家から持ってきて置いてある。これには感謝だな。
「あ、あの。トーヤさんのご両親は?・・・」
やっぱ両親はいるか気になるよな。
「いないよ。俺が小さいころ事故で亡くなってるからね。一人暮らしだ」
俺が素っ気なく答えると、アーシアはバツの悪い表情を浮かべて謝ってきた。
「すみません。不躾なことを聞いてしまって」
「謝ることはないさ。慣れた・・・って言えば嘘になるけど、もう割っ切ってるしさ。ソファーに座ってていいぞ」
それに、今じゃ親友とオカルトメンバーがいるから寂しくはないけどね。
リビングに入りソファーに座らせ、ホットミルクを作る・・・前に要望を聞く。
「アーシア。ホットミルクとホットココア、どっちが飲みたい?」
「え、えっと・・・ホットミルクでお願いします」
「OK」
コップを二つ取り出し、一つにホットミルクと俺のコップにココアを入れる。ホットミルクにはリラクス作用もあるから、さっき見た光景を少しでも和らげれば良いと思うんだがな。
本当はレモネードやジャスミンティー、ホットジンジャーも良かったんだけど切らしたのを忘れてた・・・補充をしねば。
「ほいホットミルク。熱いから火傷に気をつけてな」
「はい。ありがとうございます」
両手で受け取り、小さな口で懸命にフーフーしてゆっくりと飲み始めた。
「温かくて美味しいです」
「そりゃ良かった」
これで少しは気が晴れれば良いんだがな。そう思いココアを飲む。
互いに飲み終え無言でいると、アーシアの表情に影が差して震えだした・・・思い出しちまったのかな?
「さっきの事、思い出したのか」
「っ。はい・・・さっきの光景が忘れられなくて」
振るえる身体を止めるように自分で抱きしめた。まぁアーシアにあんな死体はキツいだろうな。純粋無垢な女の子だし、怖いはずなのに自分の身を投げ出すような行為・・・一誠が守ってあげたいって気持ちが分かる。
とりあえず俺は気になっていた事を聞いてみる。
「アーシア。シスターは本来神に使えるものなんじゃないか? あのクソッタレフリードが堕天使の加護がない生きていけないと言っていたが、何かあったのか?」
俺が問いかけると、アーシアは指輪を取り外して俺に見せてきた。
「これは聖母の瞳≪トワイライト・ヒーリング≫。いかなる傷も治す素敵な物なのです。それがたとえ・・・」
「悪魔であっても治すことが可能、だろ」
続きを言うと、驚いた表情で俺を見てきた。
「どうしてトーヤさんが悪魔を治せることを知っているのですか?」
「なんとなくだよ・・・なんとなくさ。そのせいで何かあったんだろう?」
「トーヤさんの言う通りです。これは悪魔も治せる力を持っています。そのせいで・・・私はッ」
思い出したのか俯き瞳に涙をため、両手で顔を隠し咽び泣きだした。俺はそっとアーシアの横に移動し背中を撫でる。昔、母がよくしてくれたことだ。
そこで俺は彼女から、「聖女」と祭られた少女の末路を聞いた。
「私は欧州のとある地方で生まれました。でも、すぐに両親から捨てら、先の協会兼孤児院でシスターと他の身寄りのない子供たちと共に育てられました。子供のころから信仰深く育てられた私は、八つの頃でした。偶然、ケガをした子犬を負傷を聖母の瞳で治したところをカトリック協会の人に見られました。それから私の人生は変わりました。私はカトリック教会の本部に連れて行かれ、主より治癒の力を宿した聖女と崇められました。私は訪れる信者に加護と称して、体の悪いところを治癒してあげる毎日でした・・・でも、私は嬉しかったんです。自分の力が役立つのが。主が授けてくれた事に感謝しました。だけど、私は少しだけ寂しかったんです。友達と呼べる人が一人もいなかったんです。みんな優しくて大事にしてくれました。でも私の友達になってくれる人は一人もいませんでした・・・分かっていたんです。私の力を、まるで異質なものを見るような目で見ていることに。一人の女の子ではなく、人を治療できる生物といった感じでした。そして、その力が私に転機を呼びました」
そこで一旦区切ると、深呼吸して息を整え、話し出した。
ある日、協会の近くにケガを負った悪魔が倒れていた。普通なら協会に伝えそのまま滅ぼすのだが、アーシアはそうは思わず治してしまったそうだ。見捨てられなかった。悪魔といえど治さなくちゃいけない。彼女の優しさがそうさせたのだろう。
それが彼女を奈落の底へ落しいれたのだ。
その光景を偶然見てしまった協会関係者の一人が内部に報告。悪魔を治したという事実に司祭は驚愕した。
『悪魔を治療できるだと!?』
『そんなバカなことがあるはずがない!!』
『治癒の力は神の加護を受けたものにしか効果を及ぼせないはずだ!』
治癒は悪魔を治せるはずがない。これは協会側からしてみれば常識として認知されていた。治癒とは人間の傷を治すもので、悪魔と堕天使の傷を癒せるわけがなかった。逆に治癒をすれば聖なる力によってダメージを受けるからだ。
だが・・・過去に例外があったのだ。
神の加護を受けない悪魔、堕天使すらも治癒できる力。それは、魔女の力と呼ばれるものだ。
そして協会の司祭者たちが少女を異端視するようになった。
『悪魔を癒す魔女め!』
聖女として崇められていたアーシアは、悪魔を治療できるというだけで今度は『魔女』として恐れられ、呆気なくカトリックから捨てられた。
行き場を無くした彼女を拾ったのがここ、日本の『はぐれ悪魔祓い』の組織だ。
つまり、堕天使の加護を受けなければならなくなった。
少女は捨てられた。神は助けてくれなかった。
一番ショックだったのは、協会で自分を庇ってくれる人が一人もいなかったのだ。少女の味方は誰もいなかった。
「・・・きっと、私の祈りが足りなかったんです。ほら、私って抜けているところがありますから」
アーシアは笑いながら涙を拭った。
想像を絶する過去。悪魔を治したというだけで異端視され、魔女と呼ばれるアーシア。
「これも主の試練なんです。私が全然ダメなシスターなので、こうやって修行を与えてくれているんです。今は我慢の時なんです」
自分に言い聞かせるようにアーシアは笑いながら言う。
「お友達もいつかたくさんできると思います。私、夢があるんです。お友達と一緒にお花を買ったり、本を買ったりして・・・いっぱいおしゃべりしたり・・・ッ。トーヤさん?」
俺は、それ以上話させないようアーシアを強く抱きしめた。悲痛な表情を浮かべるアーシアを見たくはなかったからだ。
「あの・・・トーヤさん?」
「泣いていいぞ」
「え?」
「もう我慢しなくていいからさ。今は思いっきり泣いちまいな。嫌なもの全部吐き出せば少しは楽になるぞ」
「で、でもそれじゃ。トーヤさんの制服が濡れてしまいます!」
「そんなこと気にするな。泣きたきゃこの胸は貸してやる。今は泣け」
俺が背中を優しく叩くと、彼女は俺をきつく抱き着き大声を上げて泣いた。
「うぅぅッ・・・わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ずっと我慢してきたんだな。見捨てられても神の加護を信じ続け、信仰心だけは捨てなかった。
泣き続けるアーシアを俺は泣きやむまで背中を叩き続けた。
「・・・もう大丈夫です」
「そっか」
互いに離れると、アーシアはすっきりとした表情で笑みを浮かべていた。
「あの、本当にありがとうございました」
「気にするな。アーシアには笑っていてほしいからな」
「あ・・・」
思わず頭を撫でると、一瞬驚いた表情を浮かべ・・・。
「えへ」
照れくさそうに笑った。やっぱり笑顔が一番だよな。
「なぁアーシア。よかったら俺と友達にならないか?」
「友達・・・ですか?」
「ああ。友達だ。友達と一緒に買い物をしたりするのが夢なんだろう? 俺が最初の友達になってやる」
「トーヤさん・・・私、世間知らずで」
「一緒に町を歩こう。見聞を広めれば何の問題ナッシング」
「私・・・日本語読めませんよ? 字も書けないです」
「俺が読み書きを教えてやる」
「・・・友達と何を話していいのかもわかりません」
どことなく悲観的なアーシアの手を優しく握る。
「何でもいいんだよ。何気ない会話、アーシアの趣味や好きなことでもなんでもいいんだ。会話なんてそんなものだ」
「私と・・・友達になってくれるんですか?」
「ああ、これからよろしくなアーシア」
「はい! よろしくお願いします! トーヤさん」
さん付けはいらないんだけどな・・・まぁ、アーシアらしくていいんだけどさ。
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