歌集「春雪花」
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雨そ降る
涙も降りし
心なる
忍びて想ふ
在りし日の影
長年住み慣れた家に別れを告げ…世話なった人達に頭を下げ…一人電車に乗る…。
気丈にしていても、ふと寂しさが込み上げる中…シトシトと雨が降り始めた…。
電車から見る通り過ぎてゆく風景…あぁ、あの交差点やあの町並みを、写真に撮っておけば良かったなどと思うと、寂しさに押し潰されそうになってしまった…。
彼と他愛もない話をした場所…彼と偶然鉢合わせた場所…彼を想い歩いた道…何もかも思い出の中だけの風景になってゆく…。
堪えられず、そっと目を閉じたら…様々なことが思いだされて、泣きそうになってしまった…。
立ち去るは
君なき里と
思ゆるも
ゆくは縁なき
地ぞ侘しきし
こうして私は生まれ故郷から離れるが、その故郷に彼の姿はないのだ。
そう思い、寂しさを乗りきろうとしたとて、私の行く先は…愛しく想う彼とは、縁も所縁もない土地…。
ともすれば…私と彼との間の微かな縁さえ、事切れてしまうかも知れない…。
ここには彼を思い出させるよすがもないのだ…。
なんと…侘しいことだろうか…。
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