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機動戦士ガンダム・インフィニットG

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第十三話「その力を絶て・後編」

 
前書き

シャルロットは白パンスト。明沙は王道のミニスカ生足。 

 
ラウラは、セシリアと凰を人質に取り、それと同時に第三アリーナを陣取っている。それも、異様な姿を遂げて。
ラウラが纏うISは、機体全体が黒い液状と化してパイロットの彼女を取り込み、その形は徐々に形を変えて鎧をまとう騎士の姿へと変貌してしまった。さらに、巨大なパイプ状の図太い触手の群れが地面から一斉に生え出し、それらをうねらせては周囲を近づけさせまいとその数を増やしていき、その規模はアリーナ一帯を取り囲み、触手の塊で築かれた一つの巨大な砦、城へと変わりその大きさはアリーナを超すほどの巨大さである。
一方の、教員達は対策を開くもIS側の主張はことごとく無効になった。
DG細胞。それはかつてガンダムファイターを息子に持つ科学者、加集雷蔵が開発した自己修復機能を持つ人工細胞である。その修復能力は異常なほど素晴らしく、しかし融合した相手の願望にそって暴走してしまうという、恐ろしい力である。ましてや、超人的な精神力がなければ制御できないのだ。

深夜10時、MS学園・職員会議室にて

「くそっ……どうして、あんなのをドイツの連中が持ってんだよ!?」
ドンと机をたたいてフォルドは叫んだ。彼以外ではないルースやミユ、ユーグ、マオ、マット達もIS側がどういてDG細胞を所持しているのかとに疑いを持ち出したのだ。特に、ドイツと関わりの深い千冬に対してマットが問い詰める。
「織斑先生、これはどういうことですか?」
マットが問う。
「私は知らん。少なくとも、ドイツで教官をしていたにすぎない。軍に関しての詳細など全く心当たりがつかん」
平然と否定する千冬に、周囲のIS側の教員が猛反発して罵声を浴びせてくる。
「そもそも! あんなものを作ったのはそっちじゃないの!!」
「そうよ! どうして織斑先生が疑われるの!?」
「アンタ達が管理を怠ったのがいけないんでしょ!?」
そのとき、ルースは呆れて冷静にこう返した。
「じゃあ……どうしてあんな恐ろしいものを拾ったなら、知らせてくれなかったんだ?」
「はぁ!?」
「どうして、拾った物をネコババしたのかって聞いているんだ」
「それは……」
「そもそも、そっちだって五年前のDG細胞の暴走事件を知っていたはずだ。あんな世界的ニュースは誰でも頭にしっかりと根付いているはずだが? だったら、そんな大それたモノを拾って独占しようとするIS側にも非があると思うぞ?」
「……!」
IS勢は、一斉にルースを睨んだ。しかし、彼は平然としてパイプ椅子にもたれた。
「とにかく、今はDG細胞に感染したラウラの対処をどうにかしないといけません。一様、連邦政府はシャッフル同盟の派遣を要請している模様ですが、そちらの許可を取らなければなりません」
しかし、IS学園からすれば答えはNOだ。そのような事件があれば、学園の治安は疑われて、しまいには学園全体の問題にかかわる。こうなれば是が非でも自分たちの力で解決しなければならなかった。
「学園の信用もある故、その支援は受け入れがたいのだ……」
と千冬は重々しい言葉で返答する。
「しかし、今は人質に取られた生徒や、ましてやDG細胞に感染したラウラが危ういのですよ?」
余談だが、DG細胞に感染したものは長時間の活動によって体の体力が衰えていき、最悪の場合は衰弱死する恐れもある。これは、きわめて時間との勝負である。
そう、時は一刻を争うのであった。
「ラウラからの要求ですと、こちらのガンダムを扱う学徒らと対戦させなければ人質のセシリアと凰の命は保証しないと言っていますが……」
と、マット。ラウラからの要求はいまより一時間前にMS側の教員らの通信に入り込んできた。
『お前たちのガンダムと戦わせろ。さもないと人質の命はない。この条件を容認すれば』
とはいえ、DG細胞に取りつかれた相手にガンダムが単体で勝てるわけなどない。ここはやはりシャッフル同盟を派遣するよりほかないのだ。
「これは、我々の学園で起きた問題だ。我々の力で解決する」
そう、千冬が言い張るがやはりDG細胞の恐ろしさを過小評価しているにしか見えない。
「では、貴方ならどうお考えなのですか?」
マットは問う。
「私が代表としてラウラの元へ行こう。あの娘は私の教え子だ。一喝して辞めさせてくる」
「そう上手くいけばいいですが、今のラウラがあの状態で果たしてあなたの声が届くかどうかもわからない」
しかし、DG細胞の恐ろしさをこの身で体験したマット達には千冬の言うことなど信じられなかった。
五年前の暴走事件、まだ新兵だったマット達は第二世代のMSジムコマンドを纏い、所属された部隊でDG細胞の暴走を食い止めようとしたが、暴走したDG細胞はとてつもなく強力で、次々と部隊の仲間が撃墜されていき、最後は自分達だけが生き残った。彼らも死を覚悟したが、そこに現れた初代シャッフル同盟によってDG細胞はどうにか活動を停止した。幸いにも、まだDG細胞は初期段階ゆえに彼らでも止めることができたがあと少し活動が延びていればもはや防ぎようがないと語っていた。
マットからして、今のラウラの状態は手遅れ寸前か否かの状況とみている。一刻の猶予もない。しかし、ここでの指揮権は千冬にあるため、こちらの言い分を突き通すことができない。
「私の生徒が起こした問題だ。教師である私が食い止めに行く」
「しかし……!」
「此処の指揮権は私にある!」
「ふざけんな! DG細胞の恐ろしさを知らねぇアマ共に任せてられっか!!」
しびれを切らしたフォルドは、立ち上がってそう叫んだ。
「フォルド教員、話し合いの邪魔だ。これ以上の反論を続けるようなら、ご退場願おう」
千冬の厳格な視線がフォルドに向けられた。
「チッ……!」
舌打ちして、フォルドは椅子に座って黙り込んだ。
「織斑先生!」
同じく、マットもしびれを切らし、腹を立てた。
しかし、その時。突如ラウラの居座る第三アリーナ上空から何者かによる戦闘が行われていた。その知らせに血相を書きながらノエルが職員会議室へ飛び込んできた。
「た、大変です! 謎のMSがラウラさんと交戦しています!!」
「なに……!」
マット達は、会議室のカーテンからそっと窓を除き込んだ。第三アリーナ上空の夜空には戦闘の光が発せられている。
「いったい何者だ!?」
デジタルスコープで遠方の夜空を確認するマットの目に映ったその正体。
――ジオン系のMS!?
上空から急降下する青いイフリートタイプの機体。両脚部より取り付けられたミサイルポッドを数発ずつ発射して、両手には刀を模様したヒートサーベルを握り、野太いパイプ状の触手を次々となぎ倒していく。
「イフリート? もしや、こちらに亡命した例の強化人間の!?」
マットは目を細める。戦闘スタイルは強化人間らしいトリッキーな戦いぶりだ。しかし、分が悪すぎる。
「ガンダムタイプでもないのに。イフリートじゃ相手が悪すぎるぞ!?」
隣のルースはそう言いつつも、イフリートの戦闘を見守った。
しかし、戦況は次第にイフリート側の苦戦へと傾いてしまう。触手の先端の群れによる突進の猛攻に避けきれずに直撃を受け続け、さらには触手の胴回りから展開されるビーム弾幕を立て続けに食らい、イフリートのダメージは甚大となる。
しかし……
「ッ……!」
劣勢に追い込まれるイフリートに異変が起きた。機体は両腕を広げると同時に、青い光を発し、モノアイの眼光はよりいっそう鋭く光る。
『EXAM SYSTEM・STANDBY』
夜空に蒼い光を発するその光景はまさに幻想的であった。そして、その異常なイフリートは触手の弾幕や突進に恐れることなく一直線に再び突っ込んでいく。避けきれぬ弾幕や突進を直撃しても構うことなく核となる黒い鎧の騎士へと向かって二刀のヒート刀を振り下ろす。それに迎え撃つ黒騎士は剣でその二刀の刀を受け止め、はじき返すとつかさず反撃に剣を振り下ろすが、素早い身のこなしでその攻撃を避けるイフリートは騎士の懐へヒート刀をバツの字に切りつけたのだ。
「や……やったか!?」
異様な力を発するイフリートの勝利かと思われた。しかし……
「ッ……!?」
バツの字に切りつけられた騎士の懐の傷口からは、露になってラウラの姿が見えた。ラウラはイフリートを睨みつけ、その姿に戸惑うイフリートの前に触手の一体が目の前に回り込んで、イフリートの腹部へ強烈な突進をしかけ、イフリートはラウラの領域から激しく飛ばされてしまい、イフリートはアリーナの外へ放り出されてしまった。うくそっ! ダメだったか……!!」
「ちょ、ちょっと! あれ見ろって!?」
スコープでラウラの姿を拡大すると、黒騎士の懐の傷は再生せずにラウラを露出させたままであった。再生する気配がないのである。
「まさか……あの異常な光を発する機体の力だというのか?」
「あの光、もしや……EXAM!?」
「マジかよ……!?」
「だが……もしかすると!!」
ルースは、不安に睨みながらもかすかに微笑んだ。
「織斑先生、もはや、一刻の猶予もありません。大変残念でありますが……ラウラ生徒には犠牲になっていただくより他ありません」
ルースは、そう決断した。
「断る! ラウラは私の生徒だ」
「このまま野放しにすれば、ラウラ生徒は本当に取り返しのつかない『化け物』になって、恐ろしい事態に陥りますよ!?」
「しかしだな?」
「あなただって、五年前の事件をニュースで見たことがあるはずです! 多くの犠牲を払ってまで解決した、あの悍ましき『DG細胞暴走事件』を。ましてや、ラウラは軍人です。それなりの責任と覚悟を背負っているはずですよ?」
「……」
ルースの説得に認めざるを得なくなる千冬だが、そこへマットが割って入る。
「……いや。もしかすると、ラウラ君を助けることができる可能性もあります!」
しかし、ラウラの犠牲を望むMS勢の中で一人だけ、マットだけはふとそう発したのだ。
「マット、なに考えてんだよ!?」
フォルドは、気でも狂ったのかとマットに問う。
「あのイフリートのおかげで、対話できる状態になったと思わないか? 一か八かな状況だが、織斑先生によるラウラとの対話も可能かもしれない!」
「一か八かだろ!? そんな博打、できるわけないじゃねぇか!?」
フォルドは猛反対した。
「そうだ。危険すぎる」
同じくルースも反対する。彼らだけではなく、半数以上のMS教員が反対した。
「しかし……」
「……いや、私はそれに賭けてみたいと思うな?」
だが、そのなかでマットの考えに同意したのはユーグであった。先ほどから静かに周囲の会話だけを聞いていたが、このマットの考えにかつての自分を重ね、席から立ち上がったのだ。
「私は賛成したい……」
「しかし、ユーグ先生!」
マオは考え直せと言うも、ユーグはマットと同じ考えを発した。
「もし、犠牲を減らす戦い方があるというならば、私は一か八かでもそれに賭けたい」
「ユーグ先生……」
マットは、そうユーグを見た。
「マット先生、私はあなたに協力します」
「あ、ありがとうございます!」
「だからって、俺たちは反対だぜ!?」
しかし、反対勢のフォルドらは断固たる姿勢だった。しかし、そんな彼らの前にもう一人賛同の声が現れる。
「あの……皆さん、私からもお願いします!」
ノエルであった。
「私は、これまでマット先生……いいえ、マット隊長のもとで一緒に戦ってきました。戦いの中で何度も窮地に追い込まれたって隊長は決して私たちを見捨てずに、敵味方関係なく犠牲のない戦い方で私たちの小隊を守ってきてくれたんです。今回だって、隊長は相手がMSだろうと、ISだろうと、絶対に見捨てたりはしません! だから……私からもお願いします! 私も、マット隊長の元オペレーターとして、皆さんが傷つかないよう全力でオペレートします!」
「ノエル君……」
「マット先生? 私も、先生の副担任としてあなたにお供します!」
「……しかたない。私も賛同しよう」
すると、マオもユーグの隣に歩み寄った。
「私もかつてはユーグ先生の元で共に戦ってきた。ユーグ先生は一度言い出せば聞かない主義でな? 我々の部隊も無理な任務だけが一番の売りだ」
マオは一瞬微笑んだ。
「……」
ルースはそんな賛同する彼らを見て、昔の出来事を思った。彼が、かつて戦闘機のパイロットをしていたころ、数多くの戦場の空を飛び続けては幾度となく実戦の恐ろしさを経験した。そして、次々と仲間が目の前で死んでいく。あのときは、ただ落ちていく同機を見つめることしかできなかった。常に「死んだ奴のことは忘れろ」と言いきかされてきた。それは軍隊では当然のことだ。大切な戦友だろうと死んでしまえば元も子もなくなる。
しかし、ルースとて目の前で落ちていく仲間達をこれ以上みることができず、忘れることも出来なくなり、戦友を助けたいという思いが度々強く感じた。だが、それも叶わずにMSパイロットへ転属されたのである。
そして今、忘れかけていたあの時の思いが再び胸に込みあがってきた。
――こういう奴らと、もっと早く会っていればなぁ……
フッと笑むと、ルースはマットの前に立った。
「仕方ねぇな……手、貸してやるよ?」
「ルースッ!?」
「フォルド、どんな奴だろうと決定的な敵じゃねぇんだ。一様、借りを作りに行くぜ?」
「うぅ……」
ルースが言うなら……と、フォルドも呆れながら賛同した。
「そうね、行きましょ!」
ミユも、協力することを選んだ。彼女もまたオペレーターとしては犠牲を払ってでもできるだけ最善とみられる方を選択するだろう。しかし、ノエルの発言を聞いて、マットの理論にやや押されたのである。オペレーターとは、部隊の損害を最小限に留めるのではなく、部隊の仲間を絶対に死なせないようフォローするものだと……

ISを纏う千冬を囲うようにMSジェガンを纏ったマット達が上空を飛び、DG細胞に取りつかれたラウラに向かった。
「いいですか? 我々がラウラの攻撃からあなたを援護します。あなたは構わずラウラの元へたどり着いて説得してください?」
マットはもう一度千冬へ説明する。
「わかった。援護を頼む……!」
MS勢は全速力でラウラの元へ突っ込む千冬を援護しつつラウラの弾幕や触手の攻撃を防いだ。
『熱源! さらに増加していきます!!』
ノエルの通信が飛び込んだ。
『各機、弾幕を強化せよ!』
ノエルと共にマオもオペレートする。
「了解! 織斑先生にあたらないよう注意して射撃を続けるんだ!」
マットを指揮の下で、ジェガンはビームライフルやバルカンで触手を払いのけていき、千冬の行く先の突破口を作っていく。
「ラウラ! 私だ、いい加減に目を覚まさんかッ!?」
黒騎士の懐からのぞくラウラの姿が見えたところで、千冬は大声で叫んだ。
「この馬鹿者! はやくその姿を解除するんだ!!」
千冬も至近距離から迫りくる触手の防御を払いのけてラウラの元へたどり着いた。そして、DG細胞の鱗が浮かぶラウラの頬に手を添えて千冬は必死で呼びかけた。
「いい加減に目を覚まさんか! お前は、そんなことをしでかすような戦士じゃなかったはずだぞ!?」
「……」
その呼び声に、ラウラは徐々に千冬の目を見つめた。通じているのかと千冬はもうひと押しに呼びかけようとするが……
「ガンダム……!」
しかし、帰ってきた返答は違った。
「ガンダム……ガンダムゥー!!」
「なっ!?」
そして、千冬は横からの触手に気づかず、それに体をはじかれてしまう。
「……っ!」
千冬は、そのままラウラへと距離を取り、MS勢の元へ戻った。
「どうだ!?」
マットが問う。
「駄目だ……私の呼びかけに応じてくれない」
「どうすんだよ! 俺たちだってこれ以上防ぎようは難しいんだぜ!?」
フォルドは、ライフルの残量に不安を持つ。頭部のバルカンもすべて撃ち切ってしまった。
「すまない、もう一度行く。これが最後だ、もうしばらく付き合ってくれ!」
そういうと、千冬は今一度ラウラの元へ振り返った。
「だめだ! こちらも少なからずの被弾を受けてるんだ。悪いが……もう無理だ」
ルースの言葉に、千冬は表情を険しくさせる。
「くそっ! ここまで来たのに……」
マットはそう悔しく歯を食いしばった。
と、その時だ。
「まだです! まだあきらめないでください!!」
「先生! 俺たちも協力します!!」
後方より五機の機影が見えた。ガンダム4機とガンキャノン2機であった。
「お、お前たち!?」
フォルドはどうして来たのかといわんかのように驚く。
「何故来たんだ!? 待機命令だと言ったはずだぞ!?」
マットは彼らを叱る。
「俺たちも手伝わせてください! 狙いは俺たちなんでしょ!?」
一夏は、そう言うと彼に続いて周囲も同じように言い出す。
「そうです! 俺たちのせいでセシリアと凰が人質に取られたなんて聞けばジッとしてはいられませんよ!」
と、カミーユ。
「そうそう! それに、売られた喧嘩は買わないとね!」
ジュドー。
「狙いがガンダムなら僕たちが行けばいいだけのことですよね?」
アムロも同じよう言い出した。
「よせ! お前たちにもしものことがあったらどうするんだ!?」
「だからって、これ以上好き勝手されるとIS学園がヤバいんでしょ!?」
「危ないから! 下がってろ!!」
フォルドは怒鳴るも、一夏達は一歩も引かない。と、その時。彼らの通信よりある人物からの連絡が入った。
『聞こえるか? 少年たちよ……』
ある男の声である。
「誰の声だ!?」
「こっちも聞こえるぞ!?」
生徒だけでなく教員たちの通信にもその男の声が流れた。そして、その声は続いて自身を名乗った。
『私は、加集雷蔵……DG細胞を開発した研究者だ。あの少女に取りついたDG細胞は、オリジナルをベースに生み出された第二のDG細胞だ。通常のファイターやパイロット達ではあのDG細胞を打ち破ることはできない。だが、一つだけ方法がある』
「方法だって!?」
『第二のDG細胞はそれに取りついた感染者の負の感情、すなわち欲望と悲しみ、憎しみによって結晶化していく。その邪悪な力を打ち破れるのものは、優しさという清らかな正義の力、「ニュータイプ」の力だ! ニュータイプとして生を受けた若者たちよ、君たちの力であの少女を開放するのだ! 頼むぞ……ニュータイプの子供たちよ!!』
そして、通信は途絶えた。しかし、今はその助言に疑問を持つ時間などない。一夏はともにその通信を聞いていた教員達に振り向いた。
「先生! 皆さんの力も貸してください!!」
一夏がマット達にも協力を頼んだ。
「そうです! 皆の力があれば……」
カミーユのゼータガンダムはビームサーベルを両手に握りだす。
「ハイメガランチャーの威力は伊達じゃないぜ!」
ダブルゼータの額よりエネルギーのチャージが始まった。
「そうだ……優しさは、ニュータイプの武器なんだ!」
ガンダムの両腕はバックパックより二刀のビームサーベルを引き抜く。
「ニュータイプ、か……軍では迷信扱いされているが、これにも賭けてみるか!」
残された希望がまだあるなら……マット達はアムロ達の背後へと周り、残った弾数すべてをこの一戦に賭けた。
「おいおい! 本当に大丈夫なのか?」
フォルドはその賭けに不安を募らせた。
「信じてみようじゃねぇか? なによりもドクター雷蔵の言ったことだ」
と、ルース。
「しかし、雷蔵博士は現在……」
ユーグが言いかけるも、「今はやるよりほかないさ!」と、マットが押し通した。
「ニュータイプねぇ……そう言われてみりゃあ、ラウラから胸糞わりぃ感じがプンプン臭うぜ?」
ガンキャンの該もそうつぶやいた。
「……確かにこのザラついた感覚、僕にも感じるぞ!」
隼人も同じくそう発した。
「よし! 行くぞぉ!!」
一夏を先頭に五人のニュータイプ達が一斉に突っ込んでいく。ガンキャノンの二機が後方よりガンダム達を支援し、彼らに近づく触手の群れを次々に高い命中力で撃ち抜いていくではないか、その威力は教員以上だ。さらにその周辺をマット達のジェガンと千冬のISが援護に回る。
『アムロ、この邪悪な力……油断しないでね?』
学園敷地内の公園からはアスナとファが通信機を持ち出して彼らをサポートしていた。
「ああ、感じるよ。この邪気、けど……負ける気はしない!」
そして、先陣を切る五体のガンダム達はライフルを捨て、それぞれのビームサーベルを手にした。それに対してラウラはイレギュラーな力を感じて、触手を張り巡らさて巨大で分厚い防壁を築いた。しかし、そこにはゼータガンダムが立ち向かう。
「邪悪な力は、闇へ帰れッー!!」
突如、ゼータが両手に構えるビームサーベルは増大していき、巨大なビームの大剣となって、それを勢いよく振り下ろして触手の防壁を真っ二つに溶接、切り裂いたのである。
切り裂かれた先の向こうへ、ラウラが待ち構える彼女の領域へ、三体のガンダムが突入した。触手で張り巡らされた不気味な空間を三体のガンダムが侵入し、内部で防衛にあたる触手の攻防をガンダムとゼータガンダムのビームサーベルが次々と切り裂いていく。
『アムロ! もうじきラウラさんのところへ到達するよ!? 十分に気を付けて!?」
「わかった!」
『カミーユも、無茶はしないで!』
「大丈夫だ! 俺はそんな軟じゃないって!」
ゼータガンダムはビームサーベルと共にバルカンも交えた中距離攻撃を繰り返しながら代表生らしい優れた突撃戦術を繰り出す。
そして、三体は内部での激しい攻防を突破してついにラウラこと、黒騎士が待ち受けるコアのエリアへと入り込んだ。黒騎士も、剣を振るって三体に立ち向かうも、そんな彼女の剣を、ダブルゼータの図太いビームサーベルが受け止め、切り裂いた。
そして、アムロが纏うガンダムはガンダムハンマーを召喚させる。
「明沙! ガンダムハンマーを!!」
『わかった!』
数秒で召喚された鋭い棘が生えそびえる黒い鉄球のチェーンを、ガンダムは思い切り振り回して、騎士の顔面めがけて鉄球を投げ飛ばした。
「行っけェー!!」
一直線に突き進んで飛ぶハンマーを頬に食らう騎士に怯みが生じ、騎士は再び周囲に触手を呼び出して、またあの分厚い防壁を築いた。
だが、それもダブルゼータの前では無意味だ。ダブルゼータの額の巨大な砲身からはチャージを終えた必殺技、ハイメガキャノン砲の発射体制が入った。
「憎しみは、憎しみを呼ぶだけだってわかれッ!?」
そして、ダブルゼータの額より眩い巨大なビームが撃ち放たれた。
「食らえッ! ハイメガキャノン砲ー!!」
キャノン砲は分厚い防壁を貫いていく。
「その憎しみを……吐きだせェー!!」
ジュドーは叫ぶ。その思いがダブルゼータのハイメガキャノンの威力に繋がっていき、そして防壁は見事に破られた。
そして、目の前は懐の傷からあらわとなるラウラの姿が見えた。それを、一夏が見つめる。
「俺は……俺は、彼女を止めたい。止めなきゃならないんだ! ガンダム、俺に力を貸してくれぇ!!」
ユニコーンガンダムの姿は純白の装甲から紅いラインが走るデストロイドモードへ姿を変えると、そのままガンダムと共にラウラめがけて突っ込んだ。
「ガンダムゥ……!」
最後の悪あがきにラウラは再び触手の突進を仕掛けるも、それもアムロのガンダムが繰り出すビームサーベルによって一瞬で切り裂かれた。
「今だ! 一夏ァ!!」
アムロの合図の叫びに一夏のユニコーン・デストロイドは手のひらをかざして、鱗の浮かぶラウラの頬へ触れた。

暗闇の中で、裸のラウラは蹲り、震えていた。恐怖と悲しみ、そして憎しみによって支配される自分になす術もなく怯えていた。だが、そんな彼女の耳元からある一人の青年の声が聞こえる。
「ラウラ……!」
「……?」
蹲るラウラは、ふと上を見上げた。そこから舞い降りて、こちらへ手を指し伸ばす少年の姿があった。一夏である……
「織斑……一夏……」
無表情のラウラは、そう少年の名を呟いた。
「ラウラ、やめるんだ……こんな事を繰り返していたら、心が壊れて人間ではなくなってしまう!」
「……」
しかし、負の感情によって衰弱する彼女に返答する力などなかった。そして、その言葉を聞きたくないように目をむせる。しかし、それでも一夏は呼びかけた。
「誰だって……悲しみや憎しみを抱えて生きてるんだ。それを力に変えて他者を傷つけようなんてことは間違ってる。憎しみを浄化することなんて簡単にできることじゃない。けど……だけど、長い時間をかけて互いを慈しみ、許し合うことができるとしたら……復讐以外の道もあるはずなんだ!」
「一……夏……」
「君だって、本当はこんな事したくはないはずだ! 憎しみという苦しみに耐え続けることなんて嫌なはずだ!」
「……」
「それでも、立ち上がることができないなら……そのときは、俺がお前の憎しみと悲しみをすべて受け止めてやる!」
「……!」
ラウラは、その言葉に突き動かされるかのようにして弱った体を振り絞りながら、一夏の差し伸べる手にその白い手を指し向けた。

「……?」
ラウラは目を覚ますと、そこは医務室の白いベッドに寝かされていた。日の光が指してらす窓辺には外から流れる風がカーテンを心地よく揺らす。そして、その窓辺には一夏が座って彼女を見守っていた。
一夏は、ラウラが目が覚めたことに気づくと、真っ先に彼女の様子を問う。
「気分はどう?」
「お、お前は……」
やや、ラウラの目が強張った。
「なぁ? どうして、俺のことが嫌いなの?」
「嫌いだと? ‘‘憎い‘‘の間違いだろ!」
「……じゃあ、どうして俺のことが憎いの? 怒らないから、言ってみてよ?」
「……!」
しかし、ラウラは寝返りを打って、一夏から目を背けた。すると、一夏は次にこう言い出す。
「……姉貴の、こと?」
「……!?」
その一言で、一瞬ラウラはビクッとした。一夏は、それを図星とみて続ける。
「そのあと、嫌だったけど姉貴から聞いた。三年前に俺が誘拐されたことで姉貴が優勝できなかったことだろ?」
「それが、どうした……!」
「そのあと、姉貴はドイツ軍に頼んで俺を探してもらった。その代わりに軍の教官を務めてくれってことで姉貴はアンタの元へ行ったってことだろ?」
「……」
答えない代わりに、ラウラは頷いた。
「でもさ? 考えようには、姉貴が優勝できなかった代わりに、お前と出会うことができたって、考えればいいんじゃないかな?」
「黙れ! お前のせいで、教官は名誉を……」
「じゃ、姉貴と会えなかったほうがよかったの?」
「そ、それは……」
「まぁ、いいじゃん? 終わり良ければ総て良し! 結果オーライってさ?」
「う、うるさい!」
顔を赤くして強がるラウラだが、一夏はさらに続けた。
「お前だって、本当は辛かったんだろ? こんな事して……」
「……」
「別に笑いはしないよ? 俺だって、同じことしたかもしれないしさ?」
「……辛かった」
「……?」
ラウラは、しぶしぶと彼にその心境を話した。
「だが、それ以上に怖かった。次第に膨れ上がっていく己の憎しみの感情に怖くなって、それと同時に自分の力がすべて復讐に注ぎ込まれていき、弱っていった。とてつもなく、怖くて、辛くて、どうしようもなかった……」
「そっか……でも、無事で本当によかったよ」
「だ、だが! 私はまだお前を完全に許した覚えはないから!?」
「じゃあさ? そんなに俺のことが嫌だっていうならさ? 一発殴るなりして好きにしていいよ? あ、殺されるのだけは勘弁な?」
「……ッ!!」
すると、ラウラは勢いよくベッドから身を乗り出して、その小さな拳を一夏の顔面に向けて放とうとしたが……
「……!」
一夏は固く目をつむった。それと同時に、ラウラの拳は寸前で止まっていた。
「……ッ~!!」
何かに呆れたラウラは、そのままベッドに座った。
「ハハハ。最初は俺、裏路地でボコられるほど恨み買われるから凄いとんでもないことしでかしちゃったかと思ってびっくりしたよ? でも、誰かが死んだりとか、傷ついたりとかしなくてよかった」
「う、うるさいぃ~!!」
ラウラは、枕に顔をうずめて恥じらった。
「まぁ……何はともあれ、IS学園にようこそな? ラウラ」
「……ボーデヴィッヒだ」
「え?」
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ! お、お……覚えておけ!!」
と、最後にラウラは顔を真っ赤にし、一夏に叫んだのだ。
余談だが、人質に取られていたセシリアと凰はアリーナの出口付近に倒れていた。おそらく、DG細胞が彼女と、彼女の機体に隠された違反システムVTシステムを侵食する間際に、ラウラの善心が全力で抗って二人を触手の塊へ取り込まずに外部近くへ逃したのだろう……

翌日、アムロはアスナと共にMS学園のネット資料館へ足を運んだ。アスナの元にも通信で加集雷蔵と名乗る声を聴いたのである。しかし、あの雷蔵博士は現在……
よって、二人はその真相を突き止めるために滅多にはいかないネット資料館へ出向いたのだ。
「よっ! 確か、ガンダムの……」
と、入り口付近である若者と出会った。自分体よりも年上のように見えるが、どこからか幼さの残る青年であった。
「確か……あんとき、ガンダムであのデカ物やっつけたパイロットの一人だよな?
「そう……だけど? アンタは?」
「俺、ユーマ・ライトニング。覚えてないか? あのイフリートのパイロットだよ?」
「ああ! あの凄い動きした?」
「そうそう! 俺のテクニカルでアクロバティックな操縦っぷり、最高だろ!」
「でも、最後はあっけなかったな?」
「し、仕方ないだろ!? まさか、あの中に人がいるなんて知らなかったんだからさ?」
と、ユーマはポケットからパッキーを一本咥えた。
「そういえば……ユーマ、さん?」
「あ? ユーマでいいぞ?」
「じゃあ、ユーマ。僕、質問していいかい?」
「なに?」
「……君も、あの時の夜に例の通信、聞いてた?」
恐る恐る聞くと、ユーマは平然と答えた。
「ああ、何か聞こえてたな? 俺、弾き飛ばされちゃって半分気絶してたけど……」
「その人のこと、詳しく知らない?」
「気絶半分で聞いてたから、全然わからないや?」
「そう……」
「加集雷蔵って人、しらない?」
と、次にアスナが問う。
「知らない。俺、こう見えて外のことは詳しくないんだ」
「そうか……」
と、アムロはその後もユーマと雑談をかわしながらも資料館内のパソコンの元へたどり着くと、気になるワードをキーで叩いていく。
「何、調べんの?」
ユーマが問う。
「さっき言った、加集雷蔵(かしゅうらいぞう)って人だよ?」
「ふーん……」
「お、でたでた……」
しかし、加集雷蔵の詳細は更新されておらず、いまだに彼は「永久冷凍」されたままであった。
加集雷蔵。優秀な科学者で、後にあのDG細胞を生み出すも、それが暴走したことにより大罪を問われ、永久冷凍の刑に処された。
「あの時の、あの声は……いったい誰だったんだろう?」
アムロは、そう呟いた。彼らの通信に現れたあの助言の主。それは雷蔵博士本人だったのか、それとも彼の関係者だったのか、その真相は誰にもわからなかった……




ジオン公国・皇居にて

「大変だ~! 天下の一大事だ~!!」
「あなた! 何ですか? 騒々しい……」
皇居内の通路を、血相をかきながら一人の中年染みた軍人が走り回っている。そんな彼のを見つけた妻の女性は、騒がしいと呼び止めるが……
「た、た、た、大変なんだ! 王子が……キャスバル様がどこにも見当たらないのじゃあ~!!」
「ええぇッー!?」
「ああ……ダイクン様がアメリカへ御訪問なさっている合間を練って抜け出したんだ。それも悪いことに王子ご愛用の赤いザクも……」
「あ、あなた……!」
「すぐさま動ける部隊を捜索隊にして派遣するんだ!」
「で、でも……最近はロシアとの関係が冷え切っていて、部隊は領空侵犯を起こすロシア機に対して、大部隊がしっぺ返しの権勢に乗り出したっきり帰ってこないから、大した先発部隊はいないわよ?」
「えぇ! じゃあ……今すぐ動ける部隊は!?」
「……アクシズ隊しかいないわ?」
「マジで……」
中年軍人、ランバ・ラルの顔が青ざめた。
「ガトー少佐が転属されたようですから、いくらかマシだとは思いますけど……」
「あの『ハマーン様ファンクラブ』の連中には碌な奴がいないからな?」


 
 

 
後書き
次回
「城を抜け出した赤い貴公子」


~どうでもいいおまけコーナー~

「今更だけどさ? ジムって普通にカッコよくね?」
「どうしたのいきなり?」
「だってさ? 初期ジムはともかく、ジムコマやジムスナ2、ジェガンとか見た目が普通にカッコよくね? ユニコーンじゃリゼルやジェスタやアンクシャとかさ?」
「やられ役の常連だからカッコ悪く見えんじゃね?」
「そうだよね? いや、でもさ……もったいなくね?」
「ま、主人公はあくまでガンダムだし、連中が活躍してたら主人公の見せ場がなくなるってことだろ?」
「でもさ……あんなにやられて、ジオンのMS、特に水泳部にボコられて、なんだかスゲーかわいそうでさ? なんか、ジオンよりも連邦を応援したくなるんだよ? 世間じゃジオン派な連中がおおいってのに、そういうやつらはジム狩り見て何ともおもわねぇのかよ! 断言する、ジムの気持ちの分からねぇジオン派の奴らは正に地球の重力に魂を引かれたやつらだ!!」
「おちつけって……ジムでもコロ落ちとかで主役とったじゃん? ブルーだって一号機がジムだったろ?」
「そうだよ! だからさ……もっとジムがメインの話作れよ!! 本当はジムって強いんだぞ!? 量産率半端ないんだぞ!? 集団行動マジッパネぇんだぞ!? ザクより多いんだぞ!?」
「性能の方で褒めないんかい……」

※ジオン派の皆様、大変失礼しました! ちなみに私はジム系のなかでジムスナイパー2が大好きです。




 
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