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提督はBarにいる。

作者:ごません
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実録!ブルネイ鎮守府24時・その4

13:00 【ウチの鎮守府は色々凄いようです】

 昼食を終えて書類仕事を再開すると、港湾から内線で貨物船が入港したとの連絡が入りました。その船に乗ってきた陸軍の偉い人が提督にご挨拶したいとの事で、連絡を入れたそうです。

「いやこれは金城大将、お忙しい中申し訳ない」

「いやいや、本来ウチで扱った物品の受け渡しですからな。自分も出迎えねばならん所、忙しさにかまけて顔を出し損ねそうになり申し訳ない」

 陸軍のお偉いさんとにこやかに会話を交わす提督。ですが本当は出ていくのが面倒臭いと、嫌がっていたんです。しかし鎮守府のトップという立場上、相手に呼ばれたら行くしかないと心底嫌そうに椅子から腰を上げていました。

「それで、こちらに開発を依頼していた『例の物』は?」

「えぇ、今運搬中ですので間もなく……あ、ちょうど来ましたね」

 キュラキュラという重低音を響かせながらやって来たのは、陸上自衛隊で採用されている一番新しい戦車……

「えぇと確か……90式戦車、でしたか?」

「あら、博識ですね親潮さん」

「いえ、ちょっと前にアニメの影響で戦車に興味を持ったもので」

「成る程、それで今一番新しい戦車についても調べていたと」

「はい、そんな感じです……でも、ウチの鎮守府で何で90式を預かっていたんです?」

「ご説明しましょう!」

「うわっ!……て、夕張さんじゃないですか。脅かさないでくださいよ」

 後ろからいきなり大声を出してきたのは、工廠の研究・開発班副班長の夕張さんでした。どうやらあの90式と一緒にこちらに来ていたようです。

「あはは……ごめんごめん。でも、親潮ちゃんもあの【90式戦車-AYカスタム】に興味があるんでしょ?」

「AYカスタム?」

「明石のAと私のYで、AYカスタム。制作者なんだから、其れくらいの権利は当然よね!」

「何をおバカな事言ってるんですか!ダメに決まってるでしょう!」

 猛烈に反論しているのは大淀さん。まぁ確かに、陸軍からの預かり物に勝手に名前を付けるのはどうかと思います。

「まぁいいわ。それでね、あの戦車の一番のウリは何と言ってもその発射される砲弾なのよ!」

「砲弾?主砲とかじゃなくてですか?」

「ふっふっふ……じゃあ聞くけど、陸軍だろうが海軍だろうが、現代の兵器はほとんど深海棲艦には通用しません。これは知ってるわよね?」

「はい、だから私達艦娘が必要なんですよね」

「だけど、陸軍の兵器……例えば、戦車砲で対抗する手段が出来たとしたら?」

「う~ん……陸軍としては、仲の良くない海軍に頼らなくて良くなるので、喉から手が出るほど欲しいんじゃないでしょうか?」

「そうよね!だからウチに開発依頼が回ってきたのよ」

 うーん……他の鎮守府にはない、特色?

「成る程、深海鋼の砲弾という訳ですか」

「流石はよどっち!閃きがするどい!」

 成る程、深海鋼の砲弾……。私も基礎訓練が終わった時にアーミーナイフを頂きましたが、アレを砲弾にしたんですか。

「理論上は1000m先から姫級の装甲ブチ抜いて、1発で中破に追い込める位の威力なんだけどねー」

「え、凄いじゃないですか!」

「でもねぇ、それ戦車に積む意味ある?って話なのよねぇ」

 言われてみればそうです。戦車に出番があるなんて、敵に相当攻め込まれた状況でもないと有り得ません。

「じゃあ、かなりの無駄って事ですか?」

「まぁ、開発費は陸さん持ちだし?私も研究の応用できそうだから、完璧無駄って訳でも無いんだけどねぇ」

 夕張さんは気楽そうに、ケラケラ笑っています。そんな話をしている内に貨物船に戦車の積込が終わり、出港するようです。そこにちょうど、警備班の娘がやって来て『提督に来客だ』と告げました。

「さて、こっからが本日のメインイベントみたいなモンだな」

 提督は楽しそうに、笑っています。……ちょっと怖いです。




14:00 【提督の恐ろしい所を垣間見ました】

 来客が来たと告げられ、急いで本館に戻ります。途中、本館の玄関先に黒塗りの高そうな車が何台も停まっているのを見かけましたし、その近くには厳つい(提督には負けますが)男性の方々が立っています。一体どういったお客様なのでしょう?執務室に戻ると、ソファに腰を下ろして紅茶を飲んでいる方が一人と、その護衛でしょうか後ろにダークスーツを来た男性が2人立っています。

「お待たせしたかな?」

「いやいや、大丈夫ヨ。お陰で美味しいお茶頂いたネ」

 ソファに腰を下ろしていた方は、独特なイントネーションのしゃべり方です。日本人かと思いましたが、どうやら中国系の方のようです。

「初めましてアルな?ワタシーー」

「いや、名乗らんでいい。アンタの事はよ~く『知ってる』よ江(ジャン)さん」

 名乗ろうとしたその男性を右手で制した提督が、事も無さげに名前を告げました。どうやらその名前が正しかったようで、その男性ーー江さん?は驚いています。そのタイミングで男性を観察してみましたが、かなりの大柄でソファが大きく沈み込んでいます。と言っても提督のように引き締まった身体ではなく、提督を熊や虎、狼に例えるなら……失礼ですが豚さんのように肥え太っておられます。


『あの、大淀さんはあの人が誰か知ってるんですか?』

 提督の背後に控えて立っている状況なので、隣に立っている大淀さんに小声で尋ねてみました。何となくですが、大淀さんは知っていそうな気がしたので。

『あの男は江 俊龍(ジャン・チュンロン)。最近勢いの有るチャイニーズマフィアのボスですよ』

 へぇ、チャイニーズマフィアのボスなんですか。って、それとってもヤバい人なんじゃないんですか!?

『えええぇと、それってかなりマズくないですか大淀さん!』

『そうですか?ウチの提督と関わってると、そういう知り合いは自然と多くなりますからね。慣れましたよもう』

 えぇ……提督さんは一体何者なんですか。というかそのマフィアのボスが、ウチの鎮守府に何の用なんでしょうか?

「なら話は早いネ。今日はウチからビジネスの話持てきたよ」

「ビジネス?」

「そうネ。アナタブルネイに駐留してる米軍から武器を買い付ける話してる聞いたヨ?それをウチにも回して欲しいネ」

 そんな話が進行してたんですか!?っていうかそれって本部に知られたらかな~りマズイんじゃ……。

「どこで聞いた話か知らんけどねぇ、ウチは武器商人じゃねぇんだよ江さん。あれはウチが使う為に売買の契約を交わしたブツだ」

「金の心配か?大丈夫ネ、それなら満足するだけ用意するヨ」

「……寝惚けた事抜かしてんじゃねぇぞ、髭豚ァ」

 瞬間、提督の声が低く唸る様な声に変わります。向かい合っている江という男の人は青ざめて、カタカタと震えています。

「裏社会は弱肉強食、あこぎな真似して稼ぐなたァ言わねぇ。だがな、それでも踏み越えちゃ行けねぇ領分って物があんだろ?なぁ?」

 そう言いながら提督は懐から拳銃を取り出して、ゴリッと江の額に押し付けます。瞬間的にの護衛も拳銃を抜き、提督を狙っています。

「おぉっと、動くなよ?俺を撃った瞬間、ウチの連中とこの国のチャイニーズマフィアは戦争状態になるからな?そうなったら負けるのはどっちか……よく考えて行動しな」

 そう言われた江の護衛は、大人しく銃を下げました。チャイニーズマフィアがどれだけの規模があるのか知りませんが、300を超える艦娘と全力で戦えるだけの戦力は無い筈ですから。当然と言えば当然でしょう。

「元々お前さん、クスリの売買やら密入国の斡旋やらで小汚なく稼いでるらしいじゃねぇの。ウチと元々付き合いのあった連中からもクレーム入ってんだよねぇ~?」

 提督が親指でガチリ、と撃鉄を起こします。後は引き金を引けば、弾が飛び出します。

「ひっ、ひいぃ……!こここ、殺さないでくれぇ!」

「狼は肉食、豚は雑食だ。互いに獲物が違うから共存は可能だ……だがな、後からノコノコやって来た豚が残飯を喰わずに新鮮な肉に手を出すってんなら狼は容赦しねぇ。この言葉の意味解るか?」

 江は怯えきって、コクコクと頷くだけだ。

「そうか。ならいい……大淀、お客がお帰りだ。玄関まで見送ってきてくれ」

「了解です」

 大淀さんは軽く一礼すると、腰が抜けて動けなくなったらしい江の腕を掴み、ズルズルと引きずって行きます。呆気に取られていた部下達も、慌てて出ていきました。部屋に残されたのは私と提督、2人だけ。

「あの……提督?」

「ん、なんだ?」

「そ、その拳銃って……」

「あぁこれか?ライターだよ、ライター」

 そう言って提督が引き金を引くと、銃口から火が出ました。本当にライターのようです。提督は懐からタバコを取り出すと、1本くわえて点火して、美味しそうにふかしています。

「もしかしてビビったか?悪いな、脅かして」

「いっいえ!大丈夫です!」

 ……凄く驚きましたが、提督は怒らせないようにしようと改めて誓います。 
 

 
後書き
はい、まだ密着シリーズは続きますが、今回で累計350話を迎えました!てなワケで50話ごとにお送りしている『例の企画』の方、募集を開始したいと思います!皆様奮ってご応募下さいm(_ _)m 
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