真田十勇士
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巻ノ八十八 村上武吉その一
巻ノ八十八 村上武吉
幸村は海野を自身の部屋に呼んで彼に話した。
「御主に共に赴きたい場所がある」
「では」
「うむ、次は御主じゃ」
海野に確かな声で言った。
「わかったな」
「それでは」
「村上武吉殿じゃ」
「あの村上殿ですか」
「毛利水軍のな」
「かつて毛利殿には」
「九州に行く時にお世話になったが」
船で連れて行ってもらった、その時のことも話した。
「その縁ではないがな」
「村上殿ご自身がですか」
「類稀なる水術の方だからじゃ」
「海を縦横に動かれる」
「船でも泳ぎでもな」
そのどちらでもというのだ。
「そうした方だからじゃ」
「それで、ですか」
「拙者は是非じゃ」
まさにというのだ。
「御主があの方にな」
「水の術を授けてもらう」
「そうして欲しいのじゃ」
「それがしもです」
海野もその話を聞いてすぐに応えた、しかも勇ましい声で。
「そういうことでしたら」
「そう言うか」
「はい、それではです」
「すぐにじゃな」
「村上殿のところに参りましょう」
自分からも言うのだった。
「早速」
「よし、ではな」
「まさにですか」
「今すぐにじゃ」
「萩まで」
「うむ、ただな」
こうもだ、幸村は海野に話した。
「果たして萩におられるか」
「それは、ですか」
「わからぬ」
こう言うのだった。
「そこまではな」
「萩藩は周防、長門でしたな」
海野は萩藩、毛利家のことを話した。
「そういえば」
「そうじゃ、二国からなる」
「そうでしたな」
「以前はもっと多かったがな」
国の数はというのだ、毛利家が持っているそれの。
「関ヶ原以降そうなった」
「禄を大きく減らされ」
「そうなった」
このことは同じく五大老だった上杉家と同じである。
「百二十万石から三十六万石だったか」
「それ位にまで、ですな」
「減らされてじゃ」
そしてというのだ。
「国も二国だけになった」
「その周防、長門が萩藩であり」
「そこにおられることは間違いないが」
「萩藩の何処におられるか」
「それはまだわからぬが」
「しかしですな」
「萩藩に行けばな」
それでというのだ。
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