| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

TATOO

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二章

 その目でだ。私は友人達に語った。
「この町を変えられる位の人にね」
「何か言うわね。そういう人がいいっていうのね」
「そういう人と付き合いたいっていうのね」
「そうよ。誰がいるかしら」 
 私は尋ねた。
「本当にそういう人が」
「探せばいるんじゃないの?」
 友達の一人がまた私に言ってきた。
「そういう人もね」
「いるかしら」
「何なら今から飲みに行くけれど」
 バーに。行きつけのその店にだ。
 そこで見つければどうかと。そう言うのだった。
「果たしてどうかしら」
「いるかも知れないじゃない」
「ひょっとしたらね」
「じゃあ期待しないで待ってるわ」
 私は本当に期待していない感じで微笑んで。そしてだった。
 彼女達に応えてだった。彼女達と一緒に店に入った。
 バーも町と同じで今までと変わらない。薄暗く演出された店の中に白く丸いテーブルが幾つも置かれていて黒いカウンターには洒落た椅子が並んでいる。
 そのカウンターの向こう側には洒落た黒いベストに蝶ネクタイ、それに口髭とオールバックのバーテンダーが色々なボトルを背にしてカクテルを振って作っている。下からの薄明かりでそうした姿が浮き上がっていた。
 音楽はサックスだった。ジャズのそれを聴きながら私達は空いている席に座って。そしてそれから。
 カクテルを注文してクラッカーをあてにして飲みだした。その中で。
 私はそのカクテル、ブラッディマリーを飲みつつ述べた。
「お酒もね」
「美味しいわよね」
「この店のお酒って」
「ええ、ただね」
 言いたいことは決まっていた。その決まっていることを言った。
「その。危険な相手はね」
「それねえ。何かね」
「いないわね、どうもね」
「皆それぞれ格好いいけれどね」
 今店にいる男達は確かに皆それなりに整ってる。顔立ちもスタイルも。
 ファッションも。本当にいい。けれどだった。
 誰も彼も同じの。アンドロイドだった。本当に見事な位。
 そのありきたりのクローンみたいな彼等を見て。また私は言った。
「こういうのが嫌なのよ」
「そうなのね。皆同じっていうのが」
「そういうのがなのね」
「ええ、だからまた言うわ」
 言うことはここでも同じだった。
「個性的な。危険な相手がね」
「そうした相手が欲しいのね」
「彼氏が」
「何だったらね」
 ここからは思わせぶりに、自分で自覚して述べた。
「女でもいいけれどね。相手は」
「言うわねえ。レズビアンってやつ?」
「そっちに走るっていうのね」
「ひょっとしなくても」
「いなければね」
 そうした男がこの世にいないのなら、殆ど本気だった。
 そしてだった。私は実際にだった。
 店の中を見回す。そうしてそうした女がいるかどうか見回した。けれどそんな相手がそうそういる筈もなくて。私はとても面白くなさそうな顔でまた呟いた。
「一人もね」
「そりゃまあいないでしょうね」
「そうした人はね」
「女の人も同じね」
 誰もがだった。もう一つの性の方もだった。
 同じ様な服を着て同じ様な髪型で。化粧もそうだった。
 耳をすますと話題もだった。音楽にドラマに仕事に流行のことに。
 そんな話題も聞いて。私は溜息をついた。
「本当に同じね」
「ううん、じゃあレズも駄目なのね」
「そっちも」
「ええ。男も女もなのね」
 誰もがアンドロイドだとわかった。それでだった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧