フルメタ妄想最終回
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02
トゥアハー・デ・ダナン
深海を航行する強襲潜水艦トゥアハー・デ・ダナン、ソースケの装備なども整えられ、発進間近の艦内。
上空では対潜哨戒機まで飛び、発見されればホーミング魚雷や旧式の爆雷など、虫けらでも踏み潰すように沈められる。移動する要塞も、天敵にだけは弱い。
「一番発射管開け、目標、上空の対潜哨戒機、発射」
「発射」
居場所は知られるが、まず目先の敵を落とすため、対空ミサイルが発射された。対潜哨戒機が近くに複数いたり、駆逐艦に包囲されれば終わりであるが、地上装備は充実しているアマルガムも、何故か水上装備と航空兵力だけが欠落していた。
「着弾、目標ロスト、撃墜したものと思われます」
アマルガムの数少ない航空兵力を減らし、首の皮が繋がったデダナン。
アマルガムもベヒモスなど無駄な兵力に予算につぎ込むより、最新のソナー装備の安い魚雷艇でも複数用意し、対潜哨戒機から連絡でも有り次第、ホーミング魚雷で飽和攻撃すれば勝てたものを、余程海軍と仲でも悪いのか、この海域まで出張してくれる駆逐艦も無く、上陸を許そうとしていた。
「サガラ軍曹をブリッジに出頭させて下さい」
「アイ・マム」
出撃前、コンセントレーションを高め、まるでレース前のレーサーのように、目がイって集中していた部隊の中から、ソースケだけが出頭を命じられた。
艦長であるテッサからの命令だったので仕方なく応じ、少女らしく今生の別れでもするつもりなのかと思ったが、集中を切られて迷惑とさえ思ってしまうソースケであった。
「相良軍曹、出頭しました」
敬礼し、不動の体制で待つと、まずマデューカスに声を掛けられる。
「サガラ軍曹、艦長殿をレディチャペルまで護衛する任務を命じる。但し、余計な事はするな? 日常会話、挨拶までを許可する、肉体的接触は許さん。もし違反した場合は……」
「サー!イエス・サー!」
いつものように舐めるように近寄ってきて、キスや手をつなぐと言った、子供の接触さえ禁じる副長。続きは効かなくても違反すれば「君を300キロの爆薬とともに発射管から射出するつもりだ」と言われるのは理解していた。
「サガラさん、ではお願いしますね」
以前カナメを連れて、乗っ取られた艦内を逃げて、艦長室から鍵を出し、連れて行った謎の部屋。
操艦を握れる場所だったようだが、当然のように「君には知る権利がない」と却下され、何のための場所かは教えてもらえなかった。
「それでね、カネメさんと歩いてると、私がパイプにぶつかってしまってコケてしまったんですよ、うふふっ」
何故か過去の楽しい話しかしないテッサ。蒼白な顔面やリップの下に見える青い唇には気付いたので、本当に貧血で倒れてしまわないか友人としても心配し、少女の決意の一部を知らされた。
「大佐殿、いや友人として聞く。テッサ、これから何をするつもりだ?」
隔壁が閉じられている艦内で、艦長室に戻る短い通路で質問をする。
「あの部屋に入って、船と私を接続して操船しやすいようにします、それから……」
「それから?」
テッサは言葉に詰まり、話しながら歩いていると、通い慣れた場所でもまたパイプに躓き、倒れる前にソースケの胸に飛び込んだ。
それは故意なのか、恋なのかは不明だったが、テッサの細く小さい体を抱いたソースケは、その体が震えているのにも気付いた。
「テッサ……」
「もし、もし時間があれば、30分でも、いえ10分でもあれば、貴方に抱いて欲しかったんです」
少女は明らかに今生の別れをしていて、もう逢えないのだと思っているのにも気付かされた。
「やめるんだ、テッサ。死を覚悟して戦うのはいい、しかし、自殺攻撃はしてはいけない、それは負け犬のする事だ。捕まっても、船が沈んでも戦い続けるんだ」
自殺攻撃や自爆が大好きな日本人から、自殺禁止のキリスト教徒に忠告する。
「大丈夫です、死んだりしません、帰ってきます」
ソースケには聞かせていなかったが、ウィスパード同士で話し合った内容。「紅茶とミルクを混ぜてしまえば、もう元には戻せない」それを実行するつもりでいた。
「サガラ軍曹、姿勢を低くして目をつぶり、別命あるまで不動の体制を取りなさい」
「はっ」
少女にできるほんの少しの我儘、最期の命令をされ、指示通り目をつぶり、低い姿勢を取った。
「サガラさん……」
熱く甘い吐息が掛かると、唇にも熱い感触が伝わり、暫くするとテッサの震えが収まった。
「宜しい、休め」
「はっ」
非常に事務的と言うか軍事的な別れの挨拶であったが、副長に爆薬と一緒に発射されるぐらいの価値があった。
ソースケの腕の中から離れたテッサは、艦長室でレディチャペルの鍵を取り出し、無言で歩いた。
すぐに到着してしまい、もう艦長室にもブリッジにも戻らないテッサの為に、背後で隔壁が閉鎖されて行く。
「やめるんだテッサ、何をするのかは分からないが、死んではいけない」
友人としてでは無く、ファーストキスをした恋人として忠告する。
「いいえ、大丈夫。ここはレディチャペル、奇跡を行う場所なんですよ」
本来男は進入禁止のレディチャペル。扉を閉じてお別れするはずがソースケを強引に押し込み、後ろ手に鍵を掛け、操作台に寝るため、同じ年頃の男性の前だが、恥じらいながら服を脱ぎ始めるテッサ。
もし襲われるとしても、ここなら監視カメラもなく、愛し合うことも出来る。ソースケの発進時間には遅れてしまうが、できれば出撃しないでほしいと思う女心もあり、体を使ってでも引き止め、別の女を助けるために命を掛けないで欲しいとも思った。
「なっ、何をしている? ここはそう言う場所なのか?」
変なサービスを受けられるお店に入ってしまったような錯覚を覚え、つい聞いてしまう。
「ええ、操作するには「全裸」下着も付けられません」
メリダ島でテッサが間違えて酒を飲んでしまった時も、ワイシャツに下着姿と言うのは島内の結構な人物が目撃してしまったが、それ以上拝見するのは初めてである。
五時間目にフルモンティウィルスに感染した時も、カナメは保健室、キョウコは校庭、他も生徒会室で閣下と一緒だとか思い思いに過ごし、拝見していなかった。
「や、やめるんだ、テッサ」
目の前で女子高生艦長?のストリップショーを見物させられるソースケ。
「カナメさんのときも見たでしょう? 全部脱いだカナメさんをサガラさんが台の上にセットして」
「そんなことはしていないぞ、あいつは全部一人でやった」
シャツを脱いで顔に掛けられ、床にスカートも落とされ、シャツを顔からどけている間にブラを外したテッサは、手ブラのままブラをソースケの頭に載せた。
「そうでしたか、カナメさんは器用なんですね? 自分で装置をセットして台に寝るなんて」
「そ、そうだ、だから君もそうするといい」
しかしテッサは、悪魔の笑顔でこう言ってのけた。
「うふふふふふふふふ、一人でできません、私が台に乗った後、装置をセットするまでが任務なんですよ~」
「な、な、な……」
とうとうテッサが下着に手をかけた時、白目を剥きながら覚悟を決めたソースケ。
シャツは退出時、脱出時に必要になるので、ブラで目隠ししてから後ろを向いて歩き、艦長が収まるべき台に近付いて、機器をどうセットするのか考えた。
余計な事を考えずに済むよう、とてもとても考えた。
「さあ、サガラ軍曹、私をセットして下さい」
「ど、どうすればいい?」
怪人ブラジャー仮面になって後ろ手に手を組んでいるソースケは、目隠しの中でも上を向いて、テッサには視線を合わさないよう努力した。マデューカスの忠告に従い非常に努力した。
「そうですね~、まず人工呼吸と心臓マッサージをお願いします~」
「そ、それは必要なのか? 君の健康状態は安定しているように見えたが?」
「ええ~、搭乗者の士気、モラルに関する問題なので、非常に重要です、ウフフフフ」
相手が目隠しをしているので、本性を表した顔をするが、相手は油断しているようなので、右手を取って作業場所の上に置いた。
「な、な、な、な、な、な……」
明らかに機械ではない手の感触に狼狽し、1ミリも手を動かさないように努力したが、はじめての地雷除去、とか爆発物処理のときのように手が震え、柔らかくも小さい物体に振動が伝わった。
「そのままグッと掴んで心臓に手を押し当て、肋骨が折れない程度に上下にピストン運動です軍曹、さあ、ムーブイッツ、ムーブイッツ!」
「サッ、サー!イエス!サー!」
人命救助マニュアルにしたがって講習通りに行動する、本来五回に一度鼻を摘んで息を吹き込まなければならなかったが、大佐殿が手を上から置いて離させようとしなかったので、連続で心臓マッサージを続けた。
「こ、これで宜しいでしょうかっ?」
まだもう少し医療行為と言うか「お医者さんごっこ」をして欲しかったが、救急隊員?のほうが限界のようなので、次の指令を出した。
「結構、ハーネスで私を台に固定しなさい」
「サー!イエス!サー!」
今後、緊急潜行するスペースも何も無かったが、もしもの時に対応するため「体を直接触ってベルトで台に固定しろ」と命じた。もちろんカナメは自分でやった。
「こ、ここ、これは」
艦長に触れずに目隠ししたままハーネスを操作して金具を固定、などという難易度の高い訓練は受けていなかったが、深夜にパラシュート降下して潜入、明かりがないまま金具を脱着、傘開したパラシュートを回収して埋める作業を思い出して決行する。
「うむう……」
目と目隠しの間の僅かな隙間を利用してハーネスを確認すると、どうしても見えてしまう白い肌を視界から追いやり、どうにかしてベルトを掴んだが、それはテッサの尻の下に潰されて何かに引っかかり引き出せなかった。
「これは?」
テロ屋の何とか21がベヒモスを稼働させ、アーバレストを緊急射出させたが、手榴弾を用いても展開ハッチを開閉出来なかった時よりも苦境に陥ったソースケ。
ちなみに国内でも何とか21と言う団体は、南北統一のトンイルをもじった発音を21で表現しているので、朝鮮系の団体である。
「どうしましたか? サガラ軍曹」
自分で体をどける気がない大佐殿は、また悪魔の表情で微笑み、「サガラ軍曹に尻の肉を掴んで上げさせ、引っかかっている場所から金具を取り出す」と言う難易度が高い作業を強いた。
「くっ」
渾身の力で引き抜こうとしたが、何故か大佐殿はそれを妨害するかのように尻に体重を掛けた。
取り出せないのもそのはず、このハーネスは六点シートベルトぐらいの複雑さで「股間を通して固定する」必要があった。
まず固定するには、テッサの片足を大きく上げてハーネスを股間に通して腹の上に金具を置いて、肩から、胴体に左右からハーネスを通してロックする必要があった。
(ぎゃあああああああ!)
サガラ軍曹に256ポイントのダメージ。
アフガンで苦しんでいる戦友を射殺して楽にしてやる時のように、大きな決断を迫られた軍曹。
(アラーは偉大なり、アラーは偉大なり……)
経典を唱えたりアジーンを頭の中で再生し、僅かな視界の中で、どうにかして大佐殿の足を上げて、固定の中心になるプラスチック製金具を尻の下から取り出し、テッサの体温と同じ温度になっていた生暖かい物体を、股間を通して腹の上に置き、腹の横から出ているハーネスの金具を入れて左右からロックして、肩からのハーネスも取り出して、余分なハーネスを引き絞って、ようやく大佐殿を台に固定した。
「はーーっ、はーーっ、はーーっ」
台の上の「爆発物」を梱包して、ようやく自分の任務が終わったのだと思い、荒い息をする。
カナメがこれを自分でやってのけて、クラッシュダイブだとか、急角度での緊急浮上に対応したのなら、あいつは大した奴だと思えた。
「こ、これで宜しいでしょうか、大佐殿?」
「ええ、それでは最後にお別れを」
手を引かれ、「人工呼吸」を要求されたソースケは、テッサにまた唇を合わされてお別れをした。
装置を作動させたテッサは、MRIか焼き場のような狭い空洞に寝台ごと収容され、ハッチも閉鎖された。
ソースケはほんの少し「あれ? こんだけ厳重ならベルト無しでもイケたんじゃね?」とは思ったが、カナメがこの中でガンガン振り回されて壁に当たり「コンチクショーーー!」とか唸りながら格闘している様が目に浮かぶようだったので、ベルト固定は正式装備で、必要なのだと思うことにした。
「じっ、時間だっ、また後で会おうっ」
ソースケがレディチャペルから脱出を図ってドアに殺到して鍵を開け、結局何事もなく?格納庫方面に逃げられてしまった。
鼻血を出しながら走り去ったソースケ。テッサも血の気が引いていたのが嘘の様で、ちょっと鼻血でも出そうなぐらい血の気が多く、士気が上がっていた。
「ん~もう、でもブラは持って行かれちゃいました~」
装置の中で舌を出してイタズラが過ぎたのを反省するが、恋人に裸を見せて送り出し、カナメを救出に向かわせるのではなく「世界を改変しようとしているテロリストの企みを粉砕する」と思わせて出撃させるのには成功していた。自分のブラのお守り付きで。
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