魔法少女リリカルなのは 絆を奪いし神とその神に選ばれた少年
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第四十二話 悲劇、そして……
アースラを抜け出した後、全は海鳴に戻ってくるないなや、一直線に自身の家へと向かっていた。
というのも、先ほど仮定として出た結論に沿って行われたのならば次に行われるのは……全の帰る所を無くすという物だったからだ。
(敵は最初、過去を改変して俺の街での評価を下げた。これにより俺はこの街で居場所を無くした。次に管理局のデータベース及びに局員などの過去も変えた。これによって俺は管理局への帰属も出来なくなった。極めつけはなのはの撃墜。これで俺は全てにおいて居場所を無くした。残されたのは……俺の家!!)
走りながらそれでも全は考えるのを止めない。
(しかし、先ほども思ったがタイミングが良すぎる。過去が改変された翌日に俺はなのはの撃墜容疑で拘束。タイミングが合いすぎている……もしや、アースラ乗員の仕業?)
そう思った所で全はある一人の男を思い浮かべる。あの男ならば邪魔な自分を排除したいと思っている筈、と全はそこまで考えてそれは意味がない事だと悟った。
(そうだ。何を考えてるんだ、俺は。あいつに神様のような力は存在しない。それは既に知っている事だろう。しかし、だとすれば誰に……)
しかし、全の思考はそこで閉ざされる。
なぜならば
「……っ、なん、で……」
全の家が、燃えているからだ。
衝撃的すぎるその光景を見て全の脳内が真っ白に染まっていく。
すると、近くで見物していた主婦が全の顔を見て駆け寄ってくるやいなや
「あんた!自分の家に火点けるなんて何してんだい!?」
「………………ぇ?」
か細い声が全の口から漏れる。
今、全の目の前にいる女性は何と言った?自分で火を点けた……?
「な、何を言ってるんだ!?俺はそんな事」
「でもあんた!さっき火が出る瞬間、家の中に入っていったじゃないか!そして火が出たらそそくさと出て行ってたよ!!」
「……………………」
全は目の前の主婦の言葉が信じられなかった。自分が火をつけた?
いや、それはありえないと断言できる。なぜならばつい先ほどまで全はアースラで事情聴取を受けていたからだ。
ならば主婦の見たものとは………………あの映像の中にいた、全自身しかいない。
「っ!!!!!!!!!」
全は怒りで叫びそうになるのを堪え、燃え広がる自身の家に飛び込む。
「ぐっ…………くそ、消化するのはもう無理か……!でも、せめてアレだけでも……!」
全は自室に飛び込む。自室はまだ火の勢いが来ていないのかまだ大丈夫であった。しかし部屋の前まで既に火の手は迫っている。その前に何とか、アレだけでもと思い、全は机の上に置いてあった五つの写真立てを手に取り、上着の内ポケットに入れる。
(これさえあれば、俺はまだ頑張れる……)
全は安堵したがすぐに気持ちを切り替える。先ほども言った通り火の手はすぐにそこまで来ているからだ。
自室を出ていたのでは間に合わない。となれば、脱出口は一つ。
「窓から……出るしかないだろっ!」
全は自身の部屋の窓を開け放つと、一気に飛び降りた。高所から飛び降りるのは慣れていた為、全は難なく着地する。
全は着地した所から少しだけ離れると燃えていく我が家を見る。
(父さん母さん……二人の思い出の家、守れなくてごめん……)
全はそう心の中で両親に謝罪をし、その場を後にする。
数分歩いた後、近くにあった公園で水分を補給する。
「んぐ、んぐ、んぐ…………っはぁ……はぁ、はぁ……」
『マイスター、これからどうなさるんですか?』
全の体調を心配したシンが全に問いかける。
「何も考えていない……もう、考えることも出来なくなるかもしれないが……」
『え?』
「何でもない。あまり深く考えないようにしているだけだ」
(マイスターの様子が明らかにおかしい。深く考えないようにする?そんなのマイスターらしくない)
シンは不振に思ったが問いかけようとも全は何も言ってくれない事は既にシンも知っている為何も聞かない事にした。
「だが、本当にこれからどうするか……「お前にお似合いなのは、監獄の中だろうに」…………」
全がこれからの事を考えようとした最中、別の人間の声が公園に響き全は声を発した人物に向き直る。
「何をしに来た、聖…………それにテスタロッサ達も」
全の前に姿を現したのは高宮とフェイト、アリシア、はやて、るいの魔導士組だった。なのはがいないのは未だに病院で手当てを受けているからだろう。そして全はテスタロッサ達と苗字で言った。
フェイト達、と言わないのは彼女たちに記憶がないからだが、それでも全からしてみたらとても心苦しい。
「何をしに来たとは心外だな……お前を逮捕しに来たんだ」
「俺は何もしていない」
「嘘をつくな!」
全の言葉にアリシアが真っ向から否定する。
「お前がなのはを……墜としたんだ!そうだろう!?」
目から涙を流しながら、アリシアは叫ぶ。他の面々もそれぞれ目に涙の跡がくっきりと残っていた。
「それだけじゃないだろ?」
ただ一人、聖だけは平然とそう言い放った。
しかし、全はその言葉に違和感を覚えた。
聖はこう言った。それだけじゃない。つまり全の罪は他にもあるという事だ。
「お前ひどい奴なんだな………………………自分の恩人である月神東吾を殺す、なんて」
………………………………………………………全の脳は、その言葉の理解を拒否した。
いや、正確には拒否せざるを得なかったといった方が正しいだろう。
なぜなら当然だ。月神東吾は全が仕事のし過ぎで意識が無くなっていた際に突如として裏の世界から足をあらったからだ。
そもそもだ。なぜ前世での出来事を聖は知っている?全はそこが気になっていた。
「何を、言っている……?」
「言葉通りの意味さ……お前、色々とやってきたみたいだけどそれでも恩人を殺すのはおかしいんじゃないか?」
「だから何の話だ!?俺が、東吾さんを殺す?そんな事、ある訳がない!!」
思わず声を張り上げる全。無意識の内に力がこもっていたのか全の右手からは少しだけではあるが血が滲んでいた。
「じゃあ、証拠を見せてやるさ。アルト」
『イエス、マスター』
聖は自身のデバイスに頼み、デバイスは空中にディスプレイを表示させる。
そこに写っていたのは背丈は今の全と同じ位の少年。しかしもう片方が異常だった。
男はうつぶせに倒れており、倒れている所からは赤色のナニカが見えていた。
そして男の後ろ姿を全は知っている。まぎれもなく、彼は月神東吾……自身に生きる事の大切さを教えてくれた恩師だ。
じゃあ、目の前の映像は真実……?
「これが証拠だ。お前の持ってる短刀には血がびっしりとついてるだろ?そしてお前の目の前には月神東吾が横たわってる……これが証拠以外の何になるって言うんだ?」
そんな聖の言葉は全の耳には届いてはいなかった。
もう、全は視覚から来る情報を遮断しているからだ。それに聴覚から来る情報も遮断している。
現実を受け入れたくない、そんなごく一般的な感情から来る無意識の行動だった。
「あんたがそんな事してるなんて信じられないけど……この映像を見て、本当に愛想が尽きたわ」
そんな中、るいの言葉が全の耳に届く。全は顔をゆっくりとるいの方に向ける。
るいはそんな全の表情など見向きもせず
『宮坂るい!止めろ!その言葉を、マイスターに言っちゃいけない!!!』
そんなシンの忠告も聞かず
「あなたなんか―――――――――――――――――生まれてこなければよかったのよっ!!!!!!」
「 」
その言葉を聞くと同時に、全は崩れ落ちるように膝を地面につける。
その時、上着の内ポケットに入っていた写真立てが音を立てて滑り落ちる。全は写真を見ようとして愕然とする。写真が下からどんどん白くなっていっているのだ。まるでそんな思い出はなかったと言っているかのように。
顔を俯かせ、その表情は見る事が出来ない。
「観念したか、さあ、それじゃ「…………ふふ」?どうした?気でも狂ったか?」
聖が全を連れて行こうとすると、全は小さく笑う。聖はおかしくなったのかと怪訝な表情を浮かべるが、ゆっくりと立ち上がる全の状態からただ事ではない事は悟れた。
「ふふ、はははは………ハハハハハハハ………………そうだ、そうだよな……」
『マイ、スター……?』
「そうだったよな……ずっと思ってきてた事じゃないか……わかっていた事じゃないか……」
今の全には何も聞こえていない。ずっと共に……前世の頃からずっと一緒に戦ってきた相棒の声でさえも、届かない。
その理由は彼の瞳を見れば誰でもわかるだろう。そう、彼の瞳は
「世界はいつだって…………………」
何も映してはいない。何も映してはいない目で聖達に顔を向ける。
「俺を、否定するって事位………………………!」
何も映していない瞳に涙が一滴生まれ、頬を伝い地面へと落ちた。
それが合図だったかのように、全は腰にさしてあったシンを抜き取ると、両手に握りしめる。
『マイスター……?っ!?お止めください、マイスター!!』
「さあ、世界!!これがお前の望んだ事だろう!!だったら、お望み通りの事をしてやるよ!!」
『マイスター!早まった真似はお止めください!!!』
「な、何をしているんだ…?」
「わ、訳がわからんけど……止めた方がええんとちゃう?」
「で、でもなんか……」
「うん、怖い……」
今の全が明らかに異常なのがわかるのか聖やフェイト達は全に近づこうとしない。
「さようならだ、世界!!!」
そう叫んだ全は両手に握りしめたシンをそのまま―――――――――――自身の首に突き立てた。
ブシャアアっと血が噴き出て、全はその体を横たわらせた。
「っ、きゃああああああ!!!」
「な、なんて事を!」
その様を見て取り乱すフェイト達。彼らは急いで全の元に駆け寄るが出血量から見てももう事切れるのは時間の問題であった。
「少し追いつめられたからって自殺するなんて……」
るいのそんな言葉に
『少し……?』
突き立てられたままのシンが怒りを込めた声音でそう言う。
『あれが、少し?マイスターにとって、居場所というのは特別な物なんだ!生まれてきた居場所を無くして……その上、生きる事さえも否定されたんだぞ!?それをお前は少しの言葉で済ませるのか!!??
』
シンは彼女が前世での全の幼馴染という事を完全に忘れていた。いや、既にそんな物に当てはめたくないとさえ思っている。なぜなら全に止めを刺したのは実質彼女だからだ。
「おい、そこをどけ!!」
「み、ミサキ執務官!?」
聖達を無理やりどかしてやってきたのはミサキだ。ミサキは目の前の惨状を見て愕然とする。
「み、ミサキ執務官!ミサキ執務官なら治せ「無理だ」……え?」
聖はどうにか治せないかとミサキに聞こうとするが聞く前にミサキは無理と一蹴する。
「全は正確無比に首元の動脈を切り裂いている。動脈を切り裂かれたら最後……殆ど、助からん」
「………………………………」
その時。パクパクと、声にならないが確かに全は口を動かして何かを伝えようとしていた。
「なんだ、全?」
ミサキは全の最期の言葉を必死に聞き入れようと口元に耳を寄せる。
本当に、ごく小さな音だったが確かにミサキは聞いた。全の最期の言葉を。
「…………わかった。宮坂」
「は、はい?」
「お前に全からだ…………………………幸せにな、智。だとさ」
「……………………………え?」
その時、智の記憶が再び蘇る。そして記憶が戻ってきた直後、るいは涙が抑えられなかった。
「わ、私……私が、全を……東馬を…………いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そんなるいの悲鳴をかき消すかのように雨が降り注ぐ。こうして橘全の生は終わりを迎えた。
「「間に合わなかった…………」」
そんな聞いた事のある二人の声を最後に……。
「違う…………!」
金色の瞳が、そう呟いた。
後書き
さあて、胸糞展開終了!次回からは逆転劇♪全君の味方も多数参加♪聖君はどうなるのかな?♪
ちなみに…………物語が崩壊した後の話も一応区切りがついた辺りで書きます。というか、書いとかないとこの作品のラスボスが何をしたいのかわかんなくなると思うし。
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