魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第4章:日常と非日常
第102話「とある来訪者」
前書き
かくりよの門要素の追加回です。
なお、まだ夏休み中です。
=???side=
―――...ご武運を、ご主人様。
―――うん。行ってくるね。
...あの時、私は無力だった。
守るべきご主人様について行けず、ただ私は待つだけだった。
―――まだ...見つからないのですか?
―――はい...。すみません、私がいながら...。
...だから、私は取り残された。
しかし、例えその時帰ってこなかったとしても、私は待ち続けた。
―――では、子供たちは頼みます。
―――しかし....。
―――私にしか、できない事ですから...。
...無力だからこそ、私は生き残ってしまった。
外つ国との戦で、他の皆が逝ってしまったというのに。
「....私は、なぜ生きているのでしょうか...。」
偶にそう自問する。
そして、こう自答する。
「...強くなりたい。在りし日の時よりも。...もう、二度と無力だと思わないために。」
....そのために、今日も私は刀を振るう。
=out side=
「暑い....。」
「暑いわね...。」
海鳴公園にて、アリシアとアリサがそう呟く。
「仕方ないよ。神社は今度ある夏祭りの準備に追われてるんだから。」
「だからと言って翠屋とかに集まる訳にも行かないしね。」
すずかと司がそういう。
そう、司達は、いつものように霊術の特訓のため集まっているのだ。
ちなみに、優輝達は暑いからと飲み物を買いに行っている。
「...失礼。少しよろしいでしょうか?」
「はい?」
そこへ、誰かが話しかけてくる。
アリシアが振り返り、話しかけてきた人物に向き直る。
「えっと...。」
「少々、尋ねたい事があるのですが...。」
短めの黒髪に、赤と黒の入り混じったシャツとスカートを履いた少女。
“どこか、普通とは違う雰囲気を持った少女”...それがアリシアの感じた印象だった。
「尋ねたい事...ですか?」
「はい。」
背には長いものが入りそうな袋を背負っており、また、少し大きめの袋も携えていた。
それを見て、司は何か武術でもやっているのかと予想した。
「この辺りで、剣術に類する道場はありませんか?」
「道場...剣術をしているんですか?」
「はい。各地の道場を巡っています。」
丁寧な受け答えからして、悪い人ではないと皆は判断する。
「なら...なのはの家かな。」
「知っているのですか?」
「まぁね。えっと、“高町”って名前の家を探してみて。そこに道場があるから。」
仮にも道場を持っているため、紹介するアリシア達。
「......?」
「えっと道は...ここを真っすぐ行って―――」
何か違和感を感じ取り、司は首を傾げる。
その間にも、アリシアは道を軽く説明していく。
「...ありがとうございます。では...。」
説明を聞き終わった少女は、そのまま立ち去っていく。
「なのはちゃんの家を紹介したけど、いいの?」
「...恭也さん達、普通とは違うわよ...?」
「あ...。まぁ、手加減はしてくれるんじゃないかな?」
特に深く考えずに紹介してしまった事に少々後悔するアリシア。
そこで、ようやく司が感じた違和感の正体に気づく。
「...ねぇ、さっきの人、霊力を持ってなかった?」
「えっ...?」
「...そういえば...。」
普段から魔力を扱い、コントロールしていたからこそ、霊力の感知もできるようになっていた司と奏が、そう言い出す。
「そっか...!だから普通とは違うって思ったんだ!」
「でも、霊力を持っているってどういう...?」
「なんの話をしているんだ?」
アリシアも普通とは違う雰囲気の正体に気づき、アリサが疑問を口にする。
そこで、優輝達が飲み物を持って戻ってきた。
「いや、さっき霊力を持っている人が尋ねて来て...。」
「霊力を?また珍しい...。」
持ってきた飲み物を渡しながら優輝はそういう。
「剣術関係の道場がないか探していたから、なのはの所を紹介したけど...。」
「神社でも、さざなみ寮でもなく、剣術...?」
「意外...というか、普通ではないわね。」
退魔士関連であるならば、その二つに行くはず。
それなのに道場を探すのは不自然だと優輝や椿は思った。
「...あたし達も行ってみる?」
「もしかしたら何かわかるかもね。」
そうと決まればと、優輝達は高町家へと向かった。
「ここですか。」
少女は、一足先に高町家の前に着いていた。
「一見、普通の一軒家ですが...なるほど、確かに道場があり....。」
聞こえてくる音に少女は耳を澄ます。
「そして、並々ならぬ腕前の様子。」
竹刀、もしくは木刀を振るう際の踏み込みの音。
それを聞き取って少女はそう呟く。
「......。」
静かにインターホンを鳴らし、少女は反応を待つ。
しばらくして、士郎が道場から出てくる。
「何の用だい?この辺りでは見かけないが...。」
「突然の来訪失礼します。私は各地の剣術を扱う道場を巡っておりまして、先程こちらの道場を紹介され、ここに来ました。」
「道場破り...と言った雰囲気ではなさそうだね。」
「はい。ただ、手合わせをお願いしたく。」
少女の言い分に、士郎は少し考える。
雰囲気や、真っすぐと目を見て話す様子から、冗談ではないと判断する。
「いいよ。そういう事なら招き入れよう。」
「ありがとうございます。」
そういって、二人は道場の方へと向かっていく。
「...なるほど、手合わせか...。」
「でも、霊力を持っている説明にはならないよ?」
その様子を、遠くから見ていた優輝達。
なぜ剣術関連を尋ねたかは分かったものの、霊力を持っている理由がわからないとアリシアが言い、まだ様子を見る事にした。
「....ねぇ、かやちゃん。」
「...ええ。もしかして、彼女は...。」
そこで、椿と葵が何かに気づいたように会話する。
「知っているのか?」
「ええ。確信は持てないけど...ね。」
「とりあえず、あたし達も行くよ。」
日光の下いつまでもいられないため、優輝達も道場へと向かう。
「今日は来客が多いね。」
「すみません、大勢で押しかけて...。実は...。」
またもや士郎が出てきて、優輝は軽く経緯を説明する。
「ああ、通りで彼女がここを訪ねてきた訳だ。」
「それで、件の彼女は?」
「手合わせするためにいつもの服装に着替えるそうだ。あ、ちなみに相手は恭也だ。」
見学も構わないらしく、優輝はしばらく道場内で待つことにした。
「あれ?その姿になっても構わないのかい?」
「ええ。私たちの予想が正しければ...ね。」
椿たちは式姫としての姿に早変わりし、その状態で待つことにした。
そして、そこへ件の少女がやって来た。
「お待たせしまし...た...。」
「....やはり、ね。」
「まさか、生きているとは思わなかったよ。」
少女は、先程アリシア達に会った時と違い、黒を基調とした着物に着替えていた。
そして、椿たちを見るなり驚きの表情へと変わる。
「な、なぜ貴女達が...。」
「ちょっと縁があったのよ。まぁ、詳しい話は後でするわ。手合わせ、するんでしょ?」
「....そうでした。では、お願いします。」
「ああ。」
驚愕や、訳を知りたい衝動を抑え、少女は恭也と相対する。
「木刀に...鞘?珍しいな...。」
「本来、木刀に鞘は必要ないもんね。多分、現代では無許可で本物の刀を所持する事は禁止されているから、そのために代わりとして似せたんだと思うよ。」
「なるほどな。」
優輝のその言葉が終わると共に、士郎が合図を出し、試合が始まる。
「........。」
「........。」
互いに相手の力量を計り、動き出さない二人。
だが、そこから滲み出る雰囲気に、アリシアやアリサ達は気圧されていた。
「...では、こちらから参りましょう。」
「....!」
少女がそう言った瞬間、恭也は一気に間合いを詰められた事を察する。
見えなかった訳でも、油断していなかった訳でもない。
ただ、予想以上だった事に動揺し、反応がほんの数瞬遅れる。
「くっ...!」
カァアアン!
「ふっ!」
数瞬遅れた事になり、恭也は防戦一方になる。
二刀に対し一刀で攻め立てている事から、少女の剣の腕が相当なものだと分かる。
「はぁっ!」
「っ...!」
だが、恭也も負けてはいない。
すぐさま反撃に移り、手数で少女を攻める。
互いに、避けれる攻撃は避け、それができないものは適格に受け流している。
「す、すご....!?」
「...純粋な剣の腕なら、僕以上か...。」
「......。」
試合を見ている優輝達は、各々感想を漏らす。
司達は純粋に、優輝は剣の腕が自分以上な事に驚き、椿と葵、士郎は黙って見続けた。
「はぁっ!」
「っ...!?」
そこで、流れが変わる。
御神流・徹、それをまともに受け止めてしまったため、少女の片手が痺れてしまう。
本来なら弾かれる程の衝撃なのだが、その点においても少女が凄い事がわかる。
「(片腕が封じられましたか...。ですが...。)」
「....!」
片手でしか木刀を振るえなくなったのにも関わらず、少女の闘気は強まる。
むしろ、より洗練され、鋭くなっていった。
「はぁっ!」
「(速い...!それに鋭い!?)」
間合いを詰めると同時に放たれた突きを、恭也はギリギリで躱す。
咄嗟に一瞬だけ神速を使っていなければ当たっていた程だった。
「くっ...!」
「....!」
反撃に振るわれる二刀を少女は飛び上がって躱す。
さらにそこへ追撃が振るわれるが、その攻撃を利用して少女は大きく飛び退く。
「...強いですね。まさか、このような街中にここまでの使い手がいるとは。」
「先程の会話からして、彼女達と関係があるのだろう。だから、その強さに関して驚きはしない....だが...。」
「ですので....。」
「「全力で行かせてもらおう。」」
瞬間、二人が同時に踏み込み、間合いが一瞬で詰められる。
徹の性質を見抜いたらしく、少女は攻撃の対処を受け流す事にし、恭也は攻めにくくなったのにも関わらず、隙を突くように立ち回る。
「そこっ!」
「なにっ!?」
躱し、受け流し、反撃する。その攻防の中で、ついに少女が攻勢にでる。
円を描くように振るわれた木刀に恭也の木刀が受け流され、隙を晒してしまったのだ。
「(片手だけで、俺を追い詰める....とはっ!)」
「っ!?」
そこで、ついに恭也は“神速”を解禁する。
知覚外のスピードで少女の突きを躱し、そのまま決着を着けようとして...。
「甘、い!」
「なっ...!?」
腰に差していた鞘によって、受け流されてしまう。
「...なるほど。そのための鞘か。」
それを見て、なぜ鞘を付けていたか納得した優輝。
意表を突く事を含め、少女は鞘による二刀流を扱ったのだ。
「(早い...!見切れなかった...!ですが、あれほどの動き、今まで使ってこなかった事を見るに、所謂切り札のようなもの...!ならば...!)」
「(来るか...!)」
少女が間合いを詰め、恭也が神速で迎え撃とうとする。
「はぁっ!!」
―――御神流奥義之六“薙旋”
「....っ!」
自身の間合いに入る瞬間、恭也は踏み込みつつ、神速からの四連撃を放つ。
それに対し、少女は....。
「なっ....!?」
「くっ....!」
―――刀奥義“一閃”
鞘を盾のように据え、受け止めると同時にそれを足場にして跳躍。
恭也の真上を取り、強力な一閃を放った。
「(御神流の神速に、対応した...!?)」
「...そこまで!」
優輝は、恭也の神速を見切り、その上動きで上回った少女に驚きを隠せなかった。
結局、少女が放った一閃は寸前で勢いを弱めたため当たらなかったが、それを見て決着はついたものだと士郎が判断し、試合が終わる。
「...まさか、鞘を盾にするどころか、足場にするとは...。」
「いえ、それよりも最後の一撃を寸止めしてしまってすみません。どうもあのまま放っていれば貴方の骨を折っていたかもしれませんので...。」
「やはりか...そういった理由で止めたのならば構わない。」
真剣勝負で寸止めをしてしまった事で少女は謝るが、理由を聞いて恭也は許す。
「まさか神速についてくるとは...。」
「先程の動きですか...。途轍もなく速い剣士は相手にした事があるので対処できましたが....この時代にこのような流派が残っていたとは思いませんでした。」
どちらもどこか満足した様子で、互いを称え合う。
「す、凄かったね優輝君...。」
「...ああ。だけど、それよりも...。」
試合を見て、常時驚いていた司が優輝にそう言うが、優輝はそれよりも少女を気にする。
椿たちと知り合いであり、並外れた剣の腕の持ち主。加えて霊力の持ち主である。
その事から、少女の正体には予想がついたが、それでも気になるのだ。
「今日は突然の手合わせを受けてくれてありがとうございました。」
「いや、こちらとしても身内以外の相手と手合わせはありがたかったよ。しかし、もっとゆっくりしてくれていいんだが...。」
「...そうしてもいいんですが...。」
「...なるほど。じゃあ、家の方に寄っていくといいよ。幸い、皆僕の知り合いだからね。今日は翠屋は定休日だからそっちに行くこともできないし。」
高町家の家は広く、今日は翠屋は定休日なためにそちらに行くこともできない。
外は暑く、少女にとって他人に聞かれたくない話なため、ちょうどよかった。
「...では、お世話になります。」
「じゃあ、こっちへ。皆も寄っていきなよ。シュークリームも出すから。」
「ホント!?優輝!私たちも行こうよ!」
「も、元よりそのつもりだからそんな食いつくなよアリシア...。」
そんな感じで、優輝達も高町家にお世話になる事にした。
=椿side=
...まさか、彼女が生きていて、この街に来ていただなんてね...。
「直接話すのは、いつ以来かしら?」
「...まだ江戸があった頃...私たちがご主人様を待つのを止めて以来ですね。」
「それほど会ってなかったのね...。」
かつて残った...残ってしまった私たちは、それぞれで生きる事にした。
それ以来、各地に散らばったため会わなかったのだけど...。
「こちらこそ驚きです。その様子だと、この街に滞在しているようですが...。」
「これまでは葵...薔薇姫と共に山とかを渡り歩いていたんだけどね。彼...優輝が霊力を持っていて、ちょっとした事件に巻き込まれた時に助けてもらったのよ。それからは、彼の家で暮らしているわ。」
「なるほど...。しかし、彼だけでなく他の子どもたちも霊力を...。」
「あぁ、それはね...。」
私は次元世界や魔法の事を軽く説明し、アリシアが霊力を多く持っている事を伝える。
「...まだまだ知らない事があるとは...。」
「それで、貴女はなぜこの街に?」
今度はこちらが聞く番よ。
優輝達も興味を示しているようだしね。
「その前に、自己紹介がまだですよ。」
「...そうね。」
私は知っていても、優輝達は知らないのを失念していたわ。
優輝は彼女がどんな存在かは検討がついていそうだけど。
「私は小烏丸と申します。今は蓮と名乗っています。」
「優輝は予想がついているだろうけど、彼女も私と同じ式姫よ。」
刀の付喪神であり、刀を扱うのが得意とする式姫。それが彼女。
江戸の時は刀の腕はともかく葵より弱かった事から、無力を感じていたらしいけど...。
「この街に来た理由ですが...簡単に言えば刀を極めたいのです。そのため、各地を巡り、名のある道場などに手合わせをお願いして回っていました。」
「名のある...?確かに御神流は一部では有名だけど、世間的には...。」
優輝の言う通り、御神流は要人警護など、“その類”では有名だけど、一般的にはあまり知られていない流派ね。
だから、なぜここに...というか、アリシアの言葉をあっさり信じたのかが疑問だわ。
「既に表立って有名な場所は巡ったので...。各地を巡りつつ、修練を重ね、偶然見つかれば...と言った感じで旅をしていました。」
「それで偶然ここを見つけたのね...。」
佇まいから見て、剣の腕は以前よりも上げたらしい。
だから、恭也の神速について行けたのね。
「....やっぱり、悔やんでいるの?」
「...はい。」
彼女は普段から真面目だった。...だけど、各地を巡ってまで修練を重ねる程ではない。
それなのに、今までずっとそうして来た訳があるとすれば、一つだけ。
あの子の...とこよの力になれなかった事。
「私は...無力でした。戦いに赴くご主人様の助力にすらなれず、ただ待つことしかできませんでした。...それが、私にはとても悔しくて...。」
「....その気持ち、あたし達にも分かるよ。」
私たちも当時は足手纏いに過ぎず、それ以前にあった戦いで重傷を負ってしまった。
そのせいで私たちは何もすることができなかった。
「...そこら辺の話、僕もよくは知らないんだけど...。」
「...また別の機会に話すわ。これは、私たちも悔いとして残っている事だから。」
「了解。そういう事なら、無駄な詮索はしないよ。」
優輝や、司達が私たちの会話を聞いて私たちの過去を気にしてくる。
あまり話したくない...というより、思い出したくない事だからはぐらかす。
結局、そのうち話す事になりそうだけど...。
「貴女が無力を感じ、そして修練を続けている事に関しては止めないわ。...ただ、無茶はしないでよね。貴女だって、大事な仲間なんだから。」
「...承知しています。私も、以前よりも霊力が不足しており、全体的に見ればかなり全盛期に劣っていますから...。」
私たちのように、主もいなく、霊脈を見つけている訳でもない彼女は、やはり以前の私たちのように弱体化していたみたい。
「それにしても、貴女も随分素直な性格になりましたね。」
「ちょ、べ、別にそんな事ないわよ!というか、この会話でどうやってその結論に至ったのよ!?」
「“大事な仲間”と言った所ですね。本来ならあそこまで素直に言わないと思いまして。」
「確かに。以前なら絶対遠回しに言ってたよね。」
小烏丸...蓮と葵にそう言われ、私は顔が赤くなるのを感じる。
「そうそう。小烏丸ちゃん、実はかやちゃんね、好きなひtむぐぐ....。」
「なななな、なに言おうとしているのかしら!?」
「あー...えっと...大体察しました。」
「貴女も貴女で納得しないでよ!」
会話を聞いている皆だって苦笑いしてるし....!
そんな曖昧な表情で私を見ないでよ!?
「そ、それはそうと!」
「あ、話逸らした。」
「逸らしたね。」
「逸らしたわ。」
「...逸らした。」
話の流れを変えようとすると、葵を筆頭にアリシアやアリサ、奏にそう言われる。
別にいいじゃない...!そっちだって恥ずかしい話をされると逸らすんでしょう!?
「えっと、今は蓮だったわね。蓮、アリシアと契約をしてもらえないかしら?」
「えっ、私?」
「契約...となると、式姫としてのですか?」
提案したのは、私と優輝のように、彼女とアリシアで契約するという事。
「さっき軽く説明した通り、彼女には霊術の才能があるわ。でも、まだ霊力が多くて扱いきれていないの。そこで契約する事である程度制限すれば制御も簡単になると思ってね。」
「なるほど...。しかし、私は旅をしている身で、長くても一週間ぐらいしか滞在しないのですが...。」
「契約と言っても霊力の繋がりを持つだけよ。そこまで気にしなくていいわ。」
式姫契約は所謂主従になるものだけど、今回は特にそういう事を考えていない。
ただアリシアが霊力を制御しやすくするための提案でしかない。
「えっと...私の意見は?」
「悪くなるような事は特にないのだし、聞かない事にしてるわ。」
「ひどいよ!?」
蓮にとっても、何も悪影響はなく、むしろ霊力の不足を補う事に繋がる。
「なるほど。制御の邪魔になる余分な霊力のリソースを、彼女に割く事でアリシアの上達を早める訳か。互いに利益があるから悪い話ではないな。」
「あ、そういう事なんだ。確かに、悪い提案じゃないよね。」
「...後は、個人の感情による賛否ね。」
優輝、司、奏が私たちの邪魔にならないようにそんな会話をする。
全部優輝の言う通りね。そして、奏の言う通り後は蓮の了承だけだけど...。
「...私のご主人様はあの方だけと決めています。」
「...そう。なら...。」
「ですが、主従関係とは関係ないのであれば、いいでしょう。彼女も私のように修練を重ねる同志。邪険にはできませんしね。」
とこよの事を大事にするため、拒否されるかと思えば、了承が貰えた。
なら、早速契約を結んでしまいましょうか。
「じゃあ...士郎、少し光るけど構わないかしら?」
「害が出なければいいよ。桃子も構わないかい?」
「ええ。いいわよー。」
士郎と桃子に許可が貰えたので、契約のための陣を描く。
もちろん、媒体は優輝に創造してもらった紙よ。本当、便利ね。
「やり方は分かっているわね?」
「はい。元々式姫ですから、知識として覚えていなくとも体が覚えています。」
「ならいいわ。アリシア、彼女の前に立って頂戴。」
「う、うん。」
陣を葵と共に書き、蓮をその中心に、アリシアをその前に立たせる。
...後は蓮に任せればいいわ。
「では...少々霊力を持っていかれますが、落ち着いていてください。」
「わ、わかった....。」
淡い光が二人を包み、式姫契約が為される。
これでアリシアの霊力は制限され、蓮の霊力も余裕ができたはず。
「明日からは、その状態で霊力の制御を特訓するわよ。」
「なんというか...少し持て余してたのが減ったような...。」
「私が一部を持っていきましたから。」
無事成功したみたいで、二人がそういう。
「では、これから...っと、名前を聞き忘れてました...。」
「えっと、アリシア・テスタロッサ...です?」
「アリシアさんですね。では、これからよろしくお願いします。....と言っても、短い間しかこの街には滞在しませんが。」
二人は握手をし、私は陣を書いた紙を片付ける。
「皆、よかったらシュークリームはどうかしら?」
「え、いいんですか!?」
「はいはーい!私食べたいです!」
すると、そこで桃子がシュークリームを持ってきたので、皆で食べる事になる。
というか、アリシアは食いつきすぎよ。気持ちは分かるけど。
「シュークリーム...ですか?」
「貴女も食べていきなさい。せっかくなんだから。」
「...では、お言葉に甘えて。」
そういって、蓮もシュークリームを貰う。
まぁ、ここのシュークリームは美味しいもの。食べたくはなるわよね♪
「あ、かやちゃんから花が出てる。」
「ふふ、それだけ美味しいと思ってくれてるなら、作った甲斐があるわ。」
葵や桃子が何か言っているけど、シュークリームを食べてる私の耳には入らなかった。
...後から皆に微笑ましい表情で見られてるのに気づいて顔を赤くしたけど。
この後、蓮の今までの話や、私たちの話で盛り上がる事になった。
式姫関連の話でなければ、アリサやすずかも話に入ってこれたし、蓮も楽しそうだった。
私自身、懐かしき知己に会えて、会話も弾んだりした。
ちなみに、蓮はアリシアの事を少し見てくれるようで、短い間滞在する事にしたらしい。
後書き
式姫契約…そのままの意味。主と式姫という関係になるための契約。ただし、主従という立場をはっきりさせる必要はない。
小烏丸…かくりよの門にて、最初に召喚する式姫。かつての主に、実力不足故についていけなかった事を悔いており、以来ずっと腕を磨き続けている。ちなみに、本来の二人称は名前に“殿”をつけて呼んでいるが、現代に馴染むためにさん付けにした。
日常回になった途端、上手く締めれなくなる...。
まぁ、こんな感じでもう一人式姫追加です。ただし、レギュラー入りはしません。
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