| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第4章:日常と非日常
  第101話「合間合間の非日常」

 
前書き
一気に飛んで夏休みでの話です。
え?音楽会?なんの事ですか?(おい
ちなみに、3章で残った怪我やリンカーコアの損傷も治っています。
 

 




       =優輝side=





「はっ!」

「なっ!?」

 すぐ傍の次元犯罪者組織の一人に肉迫し、即座にバインドで拘束、無力化する。

「クロノ、残りは?」

「後五人。だが気を付けろ。情報を見た限り、その内一人は...。」

 クロノからそんな返事が返ってき、僕は気を引き締める。
 ...そう。僕は今、嘱託魔導師として地球近くの次元世界に潜伏していた次元犯罪組織の制圧に来ている。
 神降しの代償も治ったため、こうして管理局を手伝っているのだ。

「外は椿と葵が制圧してくれているな。なら、クロノ...。」

「...他の奴は任せろ。君は親玉を頼む。」

「了解!」

 現在、嘱託魔導師としているのは僕と椿、葵だけだ。
 なのは達はミッドの方に行っているし、奏と司も別件でいない。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ!お前たちをロストロギア不法所持、密輸、その他諸々の罪で拘束する!」

 クロノと共に残り五人がいる場所へ突入する。
 ちなみに、他にも十人以上いるのだが、そいつらは外の方で椿たちが戦っている。

「ちっ、どんな奴が来るかと思えば、ガキ二人じゃねぇか!」

「ガキ...。」

「クロノ...。」

 クロノは今年で16になる。しかし、見た目で言えば中学1年生ぐらいだ。
 それがコンプレックスになっているため、少し頭に来ているらしい。

「『....一人が隠れている。隠密性の高さからそいつが親玉だろう。不意打ちの対処はするから、まずは4人を...。』」

「『ああ。...行くぞ!』」

 念話で合図し、僕らは一気に魔法を行使する。

「なにっ!?」

「僕らがここまでこれたのに、油断しすぎだ!」

「“スティンガーレイ”!!」

 身体強化魔法で僕が肉薄し、それを援護するようにクロノが射撃魔法を放つ。
 貫通力の高い魔法と、リヒトの一閃で一瞬で二人を片付け、バインドで拘束する。

「速い...!?」

「驚いている暇はない!」

「はぁっ!」

 間髪入れずに残りの二人にお互い肉迫する。
 そして、掌底の要領で魔力を撃ち込み、吹き飛ばす。

「(っ、来る!!)」

 そこで、殺気を感じ取る。
 狙いは....クロノか!!

「はぁっ!!」

     ギィイイン!!

「ちっ...!」

「クロノ、他の奴は任せた!」

「ああ!」

 斧型のデバイスを扱う大男...組織の親玉だ。
 管理局の情報によると、Sランク相当の強さを持つらしい。

「(カートリッジを使った一閃でも防ぎきれないか...。)」

「てめぇ、気づいていたな?」

「そっちこそ、その図体でよく隠れていたと思えたな?」

 正直言って隠密には明らかに向いていない体だ。

「仲間はほとんどやられたようだが...俺を捕まえられるとでも?」

「慢心していると足元を掬われるぞ?....こんな風にな!!」

 足を踏み込むと同時に、仕掛けておいた魔法を発動する。
 大男の足元から爆発するように魔力が膨れ上がり...。

「ふんっ!!」

 その上から大男の魔力で叩き潰される。まぁ、予想通りだ。

「その程度の魔力で粋がるなよ!ガキが!」

「......!」

 魔力が少なく、出力も足りなかった。だから叩き潰された。
 その事実により、大男は僕に近接戦を仕掛けてくる。

 ...かかった。

「ふっ!!」

   ―――導王流“撃衝(げきしょう)

「がはっ!?」

 袈裟切りに振るわれる斧を、リヒトで滑らすように逸らす。
 同時に、空いた右手に魔力を込め、思いっきりカウンターをぶちかます。

「はぁっ!」

「がっ...!?」

 さらに、右足を軸に体を回転させて左足で上段蹴りを顔面に当てる。
 もちろん魔力込みなため、威力は高い。

「はい、チェックメイト。」

「ぐっ、まだ、だ....っ!?」

 それだけでは大男は倒れなかった。...が、これで終わりだ。
 掌底と蹴りが当たった所からネット状のバインドが広がり、拘束する。

「なっ!?攻撃を当てた所に魔法を...!?」

「言ったろ?“チェックメイト”と。」

 魔力を撃ち込み、無力化する。

「相変わらずの手際だな。さすがに僕もそれはできないぞ。」

「魔力が少ないのなら少ないなりに生かすのがポリシーだからな。...外の戦闘も終わったみたいだな。」

「なら、帰還しようか。」

 魔法陣を展開し、僕らはアースラへと帰還する。





 ...と、まぁ、こんな感じで管理局の手伝いを続けている。
 夏休みの宿題も終わらせれるものは終わらせたので、修練も兼ねて戦っていた。









「そうそう、そうやって術式を組んで...放つ。」

   ―――術式“火焔旋風”

「わひゃぁああっ!?」

 もちろん、アリシア達の霊術の指導も怠っていない。
 僕はともかく、椿や葵は地球にいる事が多いため、頻繁に教えているようだ。

「いちいち驚いていたらキリがないぞ。コントロールはできてきたから、次だ。」

「うぅ、出力の調整が難しい...。」

 アリシアは、霊力関連に才能を持っていたのか、メキメキ力を伸ばしている。
 威力の調整はともかく、それ以外は既に一人前に迫っている。

「アリサは火属性、すずかは水属性が得意なのね。」

「司ちゃんは聖属性で、奏ちゃんは...他の人程得意ではないけど、風と聖属性かぁ...。」

 今回、椿と葵は司達の方を見てもらっている。
 それぞれ向いている属性があるようで、それを見極めていたらしい。

「くぅ。」

「軽い声でこの威力なんだ...。」

 そして、今回は那美さんと久遠もいる。
 久遠は前々から雷として霊力を使っていたため、アリシアより上達が早い。
 那美さんも治癒系の術を中心に霊力を扱えるようになっている。

「久遠は...分類上は、風か聖属性か。那美さんは言わずもがな聖属性と...。」

「久遠、いつも凄いよね...。」

 今まで雷だけだった久遠の攻撃手段が、霊術を習得した事で凄い増えた。
 霊術勝負なら僕でも苦戦する程だ。...導王流が混ざって勝ってしまうけど。

「ほら、次行くぞ。次は加護を与える術式を組む練習だ。」

「りょうかーい。それは得意だよ!」

 ここで椿たちの方と一緒になる。加護関連は椿の方が詳しいからな。

「それにしても、優輝達も有名になったよねー。」

「ん?...あぁ、管理局での話か。」

 嘱託魔導師としてちょくちょく戦っている僕だが、これまで何度も活躍していたからか、管理局でそれなりに名前が知られているらしい。

「魔力量の割に強いから、そういう部分でも評価されているみたいだよ?」

「本局の方とかに行ったら勧誘されて面倒なんだけどな...。」

 ちなみに、椿は使い魔として、葵は椿のユニゾンデバイスとして知られている。
 さすがに式姫の存在は易々と知られる訳にはいかないしな...。

「“魔導師殺し”とか、“対魔導師魔導師”とか言われてるよね。」

「後者は分かるけど、なんで“魔導師殺し”...?」

 相手の魔法をよく解析して打ち破るからかな...?
 偶に霊力も使ってしまうし、対人戦が多いし。

「比較的少ない魔力なのに、Sランク魔導師とかを簡単に倒しているからだと思うよ。クロノやなのはだって、結構手間取るのに。」

「油断させた所を一点突破でさくっとやってるだけなんだけどな...。」

 ほとんど騙し討ちに近い。
 牽制に創造魔法を使えば警戒されるため、まるで強くなさそうな魔力量を示してから、接近戦で一気に片づけるだけの戦法だ。
 その際に解析魔法で防御魔法の類は悉く破壊し、導王流で大ダメージ。
 おまけに術式を仕込んで一気に決める....あ、普通に考えたら結構凄い事だな。これ。

「高ランク魔導師がいとも簡単に倒されているからそう呼ばれるんだよ。」

「まぁ、別に呼び名とか気にしてないし、いいか。」

「それよりアリシア、手が止まっているわよ。」

 会話をしている内に、アリシアの手が止まっていたため椿から叱責される。

「うーん...あまり上手くいかない...。」

「アリシアちゃんみたいに高等な術式はできないね。」

 アリシアの事は椿に任せ、僕はアリサとすずかの方を見る。

「アリシアの場合は霊力の多さで無理矢理発動しているだけだ。あれぐらいなら僕でも簡単に防げる。...久遠の方は感覚でやっているから参考にもならんぞ?」

「うぅ...でも、上手く行っている気が...。」

「...まぁ、実際使いこなせてはいないな。」

 基礎を教えただけなため、正しいやり方を真似ようとしているだけだ。
 “真似”なため、本来の威力にも劣る。

「型にはまりすぎだな。さっきは久遠は参考にならないと言ったが、むしろ感覚に頼る方がいいかもしれん。霊術は命の力を生かすもの。心の持ちようで変わるぞ。」

「なるほど...。」

「それじゃあ...っ!」

     パキィイン!!

 僕の言う通りにすずかが感覚に頼って“氷柱”を発動する。
 すると、先程までよりも威力が出た。

「あっ...。」

「凄いわすずか!よし、あたしも...!」

 アリサもそれを見て実践しようとするが、先程より少し上がった程度だった。

「えっ、なんで...。」

「アリサは理系寄りだからかな。無意識に型に当て嵌めてるのかもしれん。」

「うっ...。」

 それでも先程よりは威力が上がっているため、マシな方だが...。

「頭固いよ、アリサ!」

「うっさい!」

 その時、アリシアがからかった事で反射的にアリサはツッコミと共に術式を放つ。
 すると、すずか以上に威力が向上した。

「っと。なるほど、アリサは感情で変化しやすいみたいだな。」

「...そうみたいね。」

 先ほどまでの二倍以上の大きさで“火炎”が発動した。
 しかも、威力は二倍どころではない。
 僕が防いだが、その手応えは三倍以上に膨れ上がっていた。

「えっ!?私への心配はなし!?」

「アリシア、続きするわよ。」

「あ、ごめんなさい。」

 アリシアが突っ込んでいたが、椿に封殺される。...まぁいいや。

「御守りとして作るとなるなら、見本はこんな感じね。ちょっと持ってみなさい。」

「....?霊力は感じるけど...。」

「優輝。」

「はーいよっと。」

 一度見本を見せてから教えるのか、椿が僕に声を掛けてくる。
 何をするべきかは分かっているので、リヒトを棒にしてアリシア目がけて振るう。

     キィイイン!

「...と、言った風に、悪意ある攻撃を弾く...。それが今渡した御守りの加護よ。」

「そ、それより...いきなりの攻撃に驚くんだけど...。」

「慣れなさい。どうせ霊術を習得するんだから、戦闘にも慣れてもらうわよ。」

「鬼畜ー!」

 スパルタだなぁ...。弓道の時もそうだったけど。
 なまじ才能があるから無駄にはしたくないんだろうな。

「優輝君、優輝君。」

「ん?どうした司。」

 魔法の知識のおかげで独自でも練習ができる司が、尋ねてくる。

「ここの術式が上手く行かないんだけど...。」

「ここか。ここはこうして...。ついでにこんな風に書き換えると応用も利くぞ。」

「なるほど!」

 司と奏は前世で僕と知り合っているのが共通しているからか、仲がいい。
 霊術関連でもよく二人で教え合っている。
 司は遠距離の攻撃や回復、奏は身体強化などを得意としているから相性もいい。

「今更...なんだけど、小学生が皆して霊術の修行をする絵面ってどうなの?」

「江戸なら家系によってはおかしくはないわよ。」

「あ、そうなんだ。」

 那美さんのツッコミに椿がそう返し、那美さんは納得する。
 いや、そんな事で納得しないで。普通におかしいから。

「(アリシアの場合は幽霊とかに襲われる可能性があるから教えてるけど、皆は興味を持ったから...あれ?こういうのって秘匿にするべきじゃ...。)」

 ...考えないようにしよう。あって困る訳じゃないし。
 ...それに、そう遠くない内に必要になる気がするしな。











「...こんなものか。」

 ある日の事、僕はミッドチルダに行く用事ができ、今は帰る所だった。
 ついでに買い物もしておこうと、現在地の最寄りのデパートに行く。
 ちなみに、椿と葵は地球で霊術の指導だ。



   ―――きゃぁああああ!!

「....!」

 買い物も終わり、トイレに寄っていた時、叫び声と同時に騒めきが聞こえる。

「(何が...。)」

 何事かと霊力で気配を探る。

「(...悪意のある人間が複数...。おまけに魔力持ち。周囲の人からは驚愕が大きく、ショックを受けた様子はない。つまり殺人が起きた訳ではなく....強盗か。)」

 強盗ならば、不用意に出ると人質が取られて危ない。
 そのため、一度ここで様子を見る事にする。

「(...占拠したのはこの階だけか。目的は...まぁ、金が妥当だろう。)」

 他の階の気配も調べ、そう予測する。
 なんでこう、行く先々で厄介ごとが起きるのやら...。

「(外に管理局が集まっている。やはり人質を取っているのか...。それも、大人数だな。となると...。)」

 外の気配と、この階を占拠している事から、次の動きを予測する。
 それは...隠れている客を探しに来るという事。

「(隠れるか。)」

 不用意に倒すと気づかれるかもしれないという懸念から、隠れる。
 ...それだけじゃない。気配を探った時、何か違和感があったのだ。
 とりあえず、天井の隅に張り付いて霊術で隠れれば...。

「.......。」

「(質量兵器持ち...か。典型的だな。)」

 銃で武装している上に、おそらく魔法も使う。まぁ、ありがちだ。

「...こちらファング3、どうやら誰もいないようだ。」

「(“牙”...あぁ、最近話題の強盗か。)」

 コードネームらしき言葉から、相手がどんな奴らか理解する。
 “牙”と呼ばれる強盗団で、既に何件かやらかしているらしい。

「...了解。」

「(念話での通信か。既に連絡をした今なら...!)」

 すぐにばれるという事はない。
 そう思って、気絶させようとして...。

「動くな。」

「っ....!?」

 その男に、誰かが銃型のデバイスを突きつける。

「てめ、隠れて...!」

「....!」

 隠れていた茶髪の青年はすぐに男を組み伏せ、気絶させる。
 ...なるほど、先程の違和感は彼だったのか。

「よし、とりあえず拘束して....。」

「バインドでの拘束は魔力を探知されるかもしれないから、やめといた方がいいですよ。」

 とりあえず、敵ではなさそうなので霊術を解いて降り立つ。

「っ...!?」

「縄があるからこっちで拘束しておきます。」

 警戒されるが、今はスルーして御札から縄を取り出して男を拘束しておく。

「君は...。」

「買い物帰りの嘱託魔導師です。偶々遭遇しまして。」

「なるほど...。」

 青年の様子からして、彼も偶然遭遇したのだろう。
 そして、さっきの手際からして...。

「管理局員...ですね?」

「ああ。...俺も、偶然遭遇したんだ。...それに、おそらく妹が人質に取られてる。」

「それは...。」

 家族を大切にしているのだろう。どこか焦りが見られた。

「志導優輝です。協力してこの状況を打破しましょう。」

「君が噂の...!...ティーダ・ランスターだ。こちらこそ協力を頼む。」

 互いに名前を知った所で、状況を再確認する。

「...敵の数は29人。気絶させたのも合わせると30人です。」

「なるほど...。」

「連絡した後とはいえ、すぐに戻ってきていない事にあちらも訝しんでいるでしょう。...なので、行動を起こされる前に決めます。」

 中々の数だが、この程度なら以前クロノと共に捕縛した犯罪組織の方が格上だ。
 しかし、今回は人質がある。短期決戦でなければならない。

「既に念話が届かない事もあり、誰かが様子を見に来るでしょう。...それと同時に、僕たちが仕掛けます。ランスターさんは人質の安全の確保を。僕が斬り込みます。」

「...できるのか?」

「はい。ただ、僕の言った通りにしてください。まず―――」

 作戦内容を念話で伝えつつ、霊術を行使する。
 それにより、僕らは認識阻害で見えなくなる。
 こうすれば、霊力を理解していない相手はほぼ確実に欺ける。

「(来たか...。)」

 聞こえてくる足音から、誰かが来る事を察する。
 すぐに行動を起こし、僕らはトイレから出る。

「『今!』」

「っ...!」

 トイレから飛び出し、瞬時に配置を確認。
 同時に魔力弾を展開し、射出する。

「何っ!?」

「ふっ...!」

 突然の襲撃に動揺する強盗達。
 その隙を逃さず、僕は斬りかかる。

「はっ!」

「がぁっ!?」

「管理局か!?」

 動揺しているのを利用し、近接攻撃で一人。同時の射撃で一人片づける。
 ランスターさんの方も、人質を守りに動いている。
 射撃魔法が得意と聞いたが、確かに上手い。適格に撃ち抜いていた。

「(残り24人...!....予想以上に動揺が大きい。一気に片づける!)」

 創造魔法を行使し、一気に武器群を創造。
 同時に射出し、一気に片づける。

「っ...!?くそっ!!」

「ひっ...!?」

 そこで、トイレの様子見から戻ってきた残り一人がやけくそになり、人質...それも、小さな少女に向けて魔法を放とうとする。
 当然、させまいと僕が阻止しようとする前に...。

「がっ....!?」

「......。」

 ランスターさんがすかさず撃ち抜いた。

「...人の妹に手を出そうとするんじゃない。」

「お、お兄ちゃん...!」

 ...どうやら、魔法を向けられた相手が妹さんだったらしい。
 そりゃあ、阻止するよな...。

「(敵意のある存在はなし...。)一件落着か。」

 創造した武器群に仕込んでいた術式を起動させ、一気に強盗を拘束する。
 これで完全に無力化が完了した。

「...ああ。終わった。人質も怪我はない。」

「よ....っと。」

 ランスターさんが外にいる管理局と連絡を取っているようなので、その間に無力化した強盗達を一か所に集めて念入りにバインドを掛けておく。

「助かったよ志導君。俺一人では、どうなる事だったか...。」

「いや...ランスターさん程の射撃の腕前なら、一人でも上手く行けたと思いますよ。」

 本当にそう思う。敵の実力がそれほど高くなかったのもあるが、この人の射撃魔法の腕前なら人質で動きを止められる前に撃ち抜けるだろう。

「とりあえず、事情聴取のため時間を貰うが...。」

「いいですよ。...ただ、買った物を早く保存しておきたいですね。」

 一応、生ものも入っているので冷蔵庫ぐらいには入れておきたい。





「時間を取って済まなかったな。」

「いえいえ、大きな事件に巻き込まれた時よりはマシですよ。」

 事情聴取が終わり、僕はティーダさん(妹もいるので名前で呼ぶように言われた)に見送られる形でミッドチルダを後にしようとしていた。

「ほら、ティアナも。」

「...ありがとうございます。」

「いや、君を助けたのはお兄さんだ。礼を言うならそっちにしなよ?」

 ティアナちゃんは元々ティーダさんと一緒にデパートに居たので、事情聴取とかの時間もずっとティーダさんについていた。
 だからついでとして彼女も僕を見送りに来たのだ。

「しかし...俺より八つも年下なのに、凄いな。」

「出来る事は何でもやるのが信条ですから。...それに、僕はちょっとズルしてるようなものですから。ティーダさんの方が凄いと思いますよ。」

 実際、僕は前世や前々世の経験も含めて成り立っている。
 だから、ちょっと普通とは違うのだ。

「飛ばした剣に術式を付けて捕縛する...俺じゃあ、そんな事はできないさ。レアスキルの事を抜きにしても、君は素直に凄いと思う。」

「...そうまでしないと、いけませんでしたからね...。」

「えっ?」

「いえ、なんでもありません。」

 ベルカ時代の導王だった時は本当に大変だった。
 シュネーを守る事は苦痛に思わなかったが、それでも戦闘が多かったからな...。

「それにしても、そこまで優秀なら管理局でも十分やっていけると思うんだが...。」

「住んでいる世界が大切なのもありますが...こっちの世界ではまだ働ける年齢ではないので、どうもそれが抵抗になっているみたいです。」

「....確かに、幼い頃から戦闘っていうのもどうかとは思うな。」

 本当に子供が戦場で働くというのはどうにかならないだろうか、と思う。
 人手不足とは言え、そんな戦時中の国みたいな事をしなくても...。

「それじゃあ、またいつか会いましょう。」

「ああ。」

「さようなら...。」

 ティーダさんの影に隠れながらも、ティアナちゃんがそう言ってくる。
 ....そうだ。

「...ティーダさん、妹さんは大事にしてくださいね。」

「ん?ああ、元よりそうしているが...。」

「...いえ、ただの念押しですよ。...僕みたいにはなってほしくないので。」

 二人を見ていると、かつての僕と緋雪を思い出す。
 だからこそ、どちらも欠けて欲しくないと思ったのだ。

「君は...。」

「では、機会があればまた。」

 ティーダさんが何か言う前に、僕は転移して地球へと帰還する。
 吹っ切れたとはいえ、あまり根掘り葉掘り聞かれたくはないからね。







「...って事があってさ。」

「...本当、優ちゃんって結構巻き込まれ気質じゃない?」

「というより、自分から首を突っ込んでるわね。」

 家に戻り、椿と葵の三人で夕飯を食べながら今日の事を話した。

「まぁ、予定より遅い理由は分かったわ。」

「悪いね。連絡しておけばよかったな。」

「べ、別に優輝の心配はしていないわよ。...大丈夫だって信じてるもの...。」

 ツンデレ発言は相変わらずとはいえ、信頼されているのは分かった。

「あ、そうだ。アリシア達の進歩は?」

「だいぶ基礎は出来上がったかなぁ...?ただ、応用に移るにはアリシアちゃんは丁寧さ、他の皆は精密さが足りないかな。」

「アリシアは雑で、他は無駄が所々にあるのよ。後、久遠も少し基礎の反復練習が必要ね。あそこまで感覚に頼られると、いざという時暴発しそうだわ。」

「なるほどな...。」

 僕は魔力運用が得意だったから、そういう所もなかったって訳か。

「後はそれらを教えたら、ようやく応用できるって訳か。」

「教え甲斐があるよー。なにしろ、アリシアちゃんは“職業”に特化していなくても、並の呪い師ぐらいの火力はあるからね。」

 呪い師は攻撃系の術に優れていると聞いたが...それは凄いな。
 ...いや、ただ消費霊力に無駄があって火力が出ているだけか。

 ちなみに、“職業”とは陰陽師内での役割分担みたいなものだ。
 椿なら“弓術士”、葵だと“武士”との事らしい。

「そういえば、この所優ちゃんは忙しそうだね。」

「嘱託魔導師だから断ってもいいんだが...まぁ、休みたい時は休むさ。」

 僕はベルカ式を使うため、ミッドチルダ北部にあるベルカ自治領とも交流がある。
 そこの聖王協会とも繋がりを持っていたりする。
 ...そういえば、はやてが新しくユニゾンデバイスを作るとか聞いたような...。

「色々資格も取ろうと思っているしな。主にデバイスマイスターとか。」

「霊力が魔法のように使えるデバイスを作るため...だっけ?」

 他にもリヒトやシャルの性能をさらに向上させたいからな。
 そのための資格として必要だったりする。

「フェイトも執務官試験を受けるってアリシアが言っていたわね。」

「執務官試験か...また難しいものを...。」

 相当難易度が高いと聞いたことがある。そして、ティーダさんも目指しているとか。
 ちなみに、デバイスマイスターの試験はもう受けてあったりする。
 後は合格発表を待つだけだ。

「地球での暮らしと嘱託魔導師としての活動...両立は難しいな。」

「長期休暇の夏休みですらこれだもんね。」

「まぁ、それでも大事件よりはマシなんだけどな。」

「それもそうだね。」

 そういって、三人で少し笑いあう。
 細かい事件があるものの、こうして日常を味わえるのは良い事だ。









 
 

 
後書き
撃衝(げきしょう)…よくある攻撃を受け流すと同時に攻撃を繰り出すカウンター技。導王流の中でトップクラスで使いやすい。

なんだか色々詰め込んだ感満載でした...。
この話を要約すると、“夏休み中、嘱託魔導師としても活躍しており、地球に居る時は大抵霊術を教えている。ある日、強盗に遭遇すると同時にティーダと出会った。”という感じです。
まぁ、非日常とティーダさんとの邂逅をやりたかっただけです。

ちなみに、強盗との戦闘があっさり終わっていましたが、それは想定していたよりも実力が低かったからです。人質で身動きを取れなくなった時の搦め手など、色々優輝は考えていましたが、全部無駄になったという感じです。(笑) 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧