女の執念
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二章
「ですから」
「うちの女房は」
「そうなるでしょう」
「ではわしは」
「女房殿の嫉妬から逃れられます」
当の本人が死んでというのだ。
「近いうちに」
「左様ですか」
「はい、ただ」
「ただ、とは」
「そこまで嫉妬深いとなりますと」
聞いた話からだ、法善は話した。
「お亡くなりになられても」
「それでもですか」
「安心は出来ませんな」
「といいますと」
「はい、人は心で鬼にも化けものにもなります」
「化けものにも」
「あまりにも嫉妬が過ぎると蛇になります」
こう話すのだった。」
「紀伊の道成寺にそうした話もありまして」
「蛇にですか」
「女が生きたまま蛇になり寺の鐘の中にいた男を鐘ごととぐろを巻き身体から火を放って焼き殺したとか」
「それはまた」
「こうした話もありますので」
だからだというのだ。
「成吉さんの女房殿も」
「そうなってもですか」
「おかしくないです」
そうだというのだ。
「ですから」
「それでは」
「何かあればいらして下さい」
「この寺に」
「そして拙僧のところに」
こう言うのだった。
「その時は何とかします」
「そうして頂けますか」
「はい、しかしまずは」
「何といってもですな」
「女房殿のことです」
そのお幸のことだというのだ。
「そのご様子では間もなくお亡くなりになられます」
「だからですな」
「まずはそのことをご承知下さい」
「わかり申した」
成吉は法善の言葉に頷いた、そしてだった。
彼は家に帰ってから自分に女と会わなかったかとしつこく聞いてくるお幸の疑着の相、鬼の様になっているその顔を見た。見れば確かにだった。
人の顔ではない、これでは法善の言う通りかもと思った。
そして実際にだ、お幸はある日やはり夫の狩りに女が心配だと言ってついて行こうとしたところで急にだった。
胸が痛むと言い出しすぐに多くの血を吐いて死んだ。葬式の時弔いに来た法善はお幸のその顔を見て言った。
「やはりです」
「蛇になりますか」
「ここまで嫉妬深いですと」
死んでも疑着の相になっている顔で言うのだった。
「やはりです」
「そうですか」
「若し蛇が出て来てです」
そのうえでというのだ。
ページ上へ戻る