嫉妬を止めて
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第二章
「思うわ」
「そうでしょ、私もいつもね」
「陽菜さんみたいになりたい」
「そう思ってやってるけれど」
「とてもよね」
「なれないのよね」
「そうね、私もよ」
彩は微かに本音を漏らした。
「ちょっと以上にね」
「ああした人にはよね」
「なれないわ」
もっと言えば絶対にだったがだ、あえてちょっと以上と言った。美優紀に本音を隠して自分にも言い聞かせる為だ。
「それこそ」
「だから凄いのよね、お姉ちゃんって」
「高校もいいところ行けるわね」
「間違いなくね」
「それでいい大学も行って」
「出世していくのかしら」
「そうでしょうね、芸術家になれるかも」
絵や書道で、というのだ。
「本当にどうなるのかしら、お姉ちゃん」
「凄い人になるわね」
「絶対にね」
それこそとだ、彩は素っ気なく返した。
「そうなるわね」
「本当にそうよね」
美優紀はにこにこと話していた、彩はかろうじて顔に感情は出さなかったが。
彼女との話の後でだ、一人になって言った。
「何よ、お姉ちゃんお姉ちゃんって」
不機嫌そのものの顔で言った、そしてだった。
家に帰ってだ、兄の宏伸がたまたまリビングで食事をしているのを見て言った。身長は二メートルを越え薄着に覆われた筋肉はラガーマンの様に盛り上がり逞しい。黒い髪の毛は角刈りにしている。端整だがそれを感じさせない男臭さだ。
その宏伸が野菜ジュースで何かを食べているのを見てだ、彩は彼に問うた。
「お兄ちゃん何食べてるのよ」
「ちょっとおやつをな」
「おやつ、ねえ」
山の様な果物だった、林檎もバナナもキーウィもうず高く積まれていてゴリラの食事かと思える位の量だ。
「それで」
「ああ、そうだ」
「よくそこまで食べられるわね」
「何でもって言うけれどな」
「プロのレスラーはなのね」
「食わないとな」
それこそというのだ。
「身体が出来ないんだよ」
「それもプロになると」
「そうだよ、レスラーは食うのも仕事なんだ」
「だからおやつもなのね」
「ここまで食ってな」
「またトレーニング?」
「そうだ」
果物を巨大な口で動物的に食べながらの言葉だった。
「そうする」
「そして次の試合では」
「思いきり戦ってやる」
黒い整った目を光らせてだ、宏伸は言った。
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