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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第三章 X《クロス》
  忠犬



「ハァッ!!」

斬ッ、ドンッ!!


「「「ギィィイイイイイイイイイイ!!!」」」

「凶、斬りッ!!!」


ドドドンッッ!!!



ブオー!!ギャー!!フシュルルルル・・・・ピギャー!!コォー、コッコッコ・・・・

「いい加減に・・・しろ!!!」


キィン・・・・ドゴォウ!!!




迫りくるアンデット。
それを指揮するドーベルマンアンデットは、無限とも思えるようなアンデットと互角以上に渡り合っているクラウドを眺めてヒュ~、と口笛を吹いた。


飛び掛かって来たものは横一線に切り裂き
真正面からの大群は凶切りで消し飛ばし
遠くから攻撃してくる敵はファイガ等でまとめて吹き飛ばすその姿は、まさに現「EARTH」最強と言われるほどの物。



「全滅もこりゃ夢じゃないなぁ・・・・ま、そのころにはアイツも体力尽きるだろうし・・・・」


そう言いながらドーベルマンアンデットがクラウドの放ったサンダラを回避し、アンデットの中に隠れて再び様子を見る。
そして銃を取りだしその銃身をズルゥ、と大きな舌でなめた。


「こいつでお前の命を討ち取ったるってのよ・・・・・」



自分は未熟。
ゆえに、こうして策で攻めよう。

これでいい。
まだ勝負するには自分は早い。
相手は翼人なのだから。



だが、このアンデットは一つ大きな勘違いをしている。





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所変わって



コックローチアンデットが、その固く握りしめた拳を長岡に向かって振り下ろす。


だがその直後に吹き飛んだのは長岡の体ではなく、その小さな従者のモノだった。



「凩ッ!!」



ドッ、ドサッ、という地面を撥ね、凩の体が投げ出され、あたりに血液を振りまいていく。
長岡は凩に押しやられて地面に倒れていたため大丈夫だが、今は凩のほうが心配なようだ。


一方コックローチアンデットはというと、自分に降りかかった緑の返り血を見て「?」という仕草をしていた。
しかし、それを考える間もなくスバルとWのパンチが背後から迫って来たためにそれを中断せざるを得なくなる。


「!!!」

「「『ウゥオリャぁぁああアアアアアアアアアア!!!!』」」


ドゴッ、ガガシィッ!!!



コックローチアンデットは二人の拳に対し、超速度で振り返り掌で受け止めてまるで合気のように二人の腕を回した。
二人が地面に倒れ、そこに踏みつける動作でコックローチアンデットが足を振り下ろしてくる。


二人が転がってそれを回避しているうちに、長岡は立ち上がってその場から離れ、凩の体を抱えあげた。



「凩?凩ッ!!」



呼びかける長岡に、凩は小さく声を漏らすだけで、ぐったりとしてしまっている。
口からはアンデットの緑の血液が流れており、死なないとはわかっていてもあまりにもひどい状態だった。

キャロが近くに駈け寄って治癒魔法をかけようとするが、なぜか効かない。
スカリエッティもその体を診るが、あまりにも衝撃が強かったからか再生が始まらない。




やられ、倒れた凩の姿にWとスバルがキレ、エリオまでもが咆哮を上げて切りかかって行っている。



が、それを相手にしてもコックローチアンデットの動きは彼らを超えていた。

Wとスバルはあしらわれ、エリオは投げ飛ばされ、ティアナの弾丸は当たらない。




「竜召喚士の御嬢さん。もう治癒はやめたまえ」

「な、何を言ってるんですか!!あなたやっぱり・・・・!!!」


いきなりそう言ったスカリエッティに、キャロが睨みつけて反論した。
その目には涙が溜まっており、「睨み」には思っていたほどの効果はない。


「その犬はアンデットだ。ここで戦力になるならまだしも、あくまでもこうして盾になることしかない。ならばその治癒を、ほかの仲間のために回す必要があるのではないかい?」

「そ・・・それはそうですけど・・・・でも・・・・」


ぼそぼそと反論の言葉を探すキャロだが、いかんせんここはスカリエッティの言葉が正しい。
凩をここで復活させても、幾分かの戦力にもならない。
それに彼はアンデット。ほっといても死にはしない。

ならば、その力は他の仲間が負傷した時に使うべきではないのか。


彼らは「死ぬ」のだから。




それを聞いてうろたえるキャロの手に、長岡がそっ、と手を当てた。



「ありがとう。でももう大丈夫よ。あなたのサポートなしで勝てる相手じゃない。行ってあげて」

「で、でも!!」

「自分の身は自分でも守れる。だから・・・・」

「・・・わかりました・・・・でもこれくらいはさせてください」



長岡の言葉を承諾し、キャロがバリアを張ってその場から戦線のサポートに向かった。


中に残ったのは、スカリエッティと長岡、瀕死の凩。




しかし





「オラァ!!!」


コックローチアンデットがスバルたちに何かを投げつける。

それは黒い塊で、それを咄嗟にスバルが魔法陣のバリアで防いだ。




その瞬間





ドォン!!!





「きゃあアアアアアアアアアアア!!」

「スバル!!!」




その塊が爆発し、砕けたバリアがスバルを襲う。
塊はコックローチアンデットの力を凝縮させた爆弾だ。


それを周囲にばらまき、一気に爆破させるコックローチアンデット。


その爆発にWやエリオは下がり、コックローチアンデットの姿は爆煙に消えて見えなくなってしまう。

そしてヒュボッ、という音を立てて、その煙の中から長岡達のバリアに向かって突撃していった。



「狙いはそっちよぉ!!」

「しまった!!」



ゴォォォォォォン――――――――――――――――――!!!



コックローチアンデットの拳とバリアがぶつかり、とんでもない衝撃を振りまいて長岡と凩を守っていたバリアが砕けた。


しかし、衝撃は中にいる長岡達には一切当たらず、逆にコックローチアンデットの身体を後方に吹き飛ばした。

とはいえ、それだけだ。
そのバリアの性能もすごいが、それを耐えて着地、間髪入れることなく再び長岡へと走り出すあたりこいつも只者ではない。


そう、コックローチアンデットは全く怯むことなどなく、再度長岡へと突撃していった。



「ガァウ!!!」

「凩!?」




そしてその迫りくる脅威に、野生が雄叫びを上げて突貫していった。


迫るコックローチアンデットの腕。その腕には先ほどの黒い塊が握られている。
その腕に向かって、凩が最後の力を振り絞るかのようにして長岡の腕から飛び出し、果敢にも向っていってしまったのだ。



しかし、凩はアンデットと言っても完璧にただの柴犬とそう変わらない。
結果は当然・・・・・・・



ガッ

「ギャォオオオオオオウ!!!」

ドォン!!!



コックローチアンデットの腕のすぐ前で、その塊が爆発して凩が炎に包まれる。
その煙に凩の姿が消え、その場の全員が唖然としてしまう。


最後まで主人のために立ち向かい、そして果てて言ったその忠犬に・・・・・・




「ハァん・・・・ま、アンデットだから死んでないだろ?まったく、無駄な悲しみだな」



そう「ハン」と笑いながらコックローチアンデットが再び走り出す。


長岡に防ぐすべはない。
コックローチアンデットに先を走られては、スバルたちにも止めるすべはない。



「終わりッ!!」



コックローチアンデットの腕が突き出され




「それはそちらのことだろう」




背後からの声と、その持ち主によって、その拳が掴まれて止まっていた。

コックローチアンデットの背中に立つそいつが、振りかぶった右腕内肘を掴んで止めていた。



「ゼァッ!!」



そして、その腕を一本背負いで投げ飛ばし、長岡からコックローチアンデットを離した。

彼女の前に立つその姿は、侍と騎士を合わせたような体裁で、うっすらと小麦色の乗った色をしている。
腰には刀を携え、真っ白なマントを羽織り、頭からはまっすぐに立った耳が一対あった。

目元にはマスク――――というよりも真っ白なバイザーをしており、視界確保のための穴が鋭い視線を放つかのように空いている。
そう、まるで正体を知られてはいけないヒーローのように。



そして腰にあるベルトの紋章で、彼がアンデットであることが窺い知れる。



だが、どうやらコックローチアンデットの味方ではないらしい。
それはコックローチアンデットの表情からしてわかる。コックローチアンデットの顔にある感情は「驚き」そしてほんの少しの―――――




「貴様・・・・アンデ・・・・・!!!」

「すまんが、それは適切な名ではない」



コックローチアンデットの口から出るその言葉を、違うと言って遮るシバイヌアンデット。


そう、これこそが彼の真の姿。

自分は力なきアンデット。
消して自らの繁栄のためだけではなく、他者のためにあろうとするもの。

ゆえに、彼らは強大な力の大半を捨てた。





しかし今こそ。

守るために、防ぐために、立ち塞がるために
自らの肉体を再構築し、かつては捨てた本体の姿と力を以って、主を守護する騎士とならん。




腰の刀に手を乗せて、長岡の前に立ち主を守らんとするその忠犬は、自らを種族でではなく、確固たる個体としてこう名乗った。




「我が名は凩!それが・・・・我が主より承りし誇りある名だ!!」




ドォウ!!



全身から噴き出る闘気が、マントをなびかせてバタバタと騒がせる。
まるでそれが、この者の怒りを表しているかのごとく。



それを見てコックローチアンデットがうろたえながらもハッ、と笑い、凩を指さし叫んだ。


「己が種の繁栄ではなく、統率者についた物好きな野郎がいたってのは聞いてたがな・・・・なるほどね・・・・お前が!!」

「いかにも。我らのような不死生物には、だからこそ信念や誇りといった確固たる柱が必要なのだ」

「なにをわけのわからんことを!!!」



ドッ!!



凩の言葉を一蹴し、コックローチアンデットが高速で動きその場から姿を消す。


攪乱のためか、コックローチアンデットはと凩と長岡の周囲を駆けまわる。
二人の周囲がバシシシシ!と地面が少し撥ね、明らかに狙われている状況。


しかもこれだけ開けたこの場所で、奴の姿は影すら見えない。
だがこの忠犬は、その状況でも一切怯む様子は見られない。




ビッ!!

と、そうしてから十秒ほどで凩の真正面にいきなり黒い塊が出現した。
コックローチアンデットが投げ放ってきたのだろう。

しかし



シュチン――――!!!!ドドンッッ!!




構えもなく立つ凩が、気づかないほどの一瞬で動いた。

長岡の少し後ろの左右で爆発が起こり、凩の腕はまっすぐ伸び、その手には刀が鞘に納められまっすぐ縦に握られていた。



「な・・・に!?」

「居合、縦一文字」


コックローチアンデットの目にすらも捉えきれない縦一閃。聞こえたのは音のみ。

構えの動作も、抜き放った刀身すらも見ることなく、凩はそれを真っ二つに切り裂いていた。




「解っていないようだな。我らは不死だ」

「だからどうした」

「だからこそ。我らには確固たるものが必要なのだと」

「だからそれがなんだってンだ!!!」




パァンッッ!!!




音速を超えたその音を上げ、コックローチアンデットが再び消えた。

もはやクロックアップや風足、加速開翼ですらとらえきれないほどのスピードで動き出したコックローチアンデット。



地面を蹴るごとにその場が抉れ、跳ねればクレーターのように窪んでいく。
風すらをも置き去りにする速度で、コックローチアンデットが凩の周囲を撹乱し始めた――――!!!



「凩!?」

「離れないで、そばにいてください。主」



その中心にいる長岡をそばに寄せ、凩が周囲を見渡すように首を回す。



『見えねェだろ!?声を聴いて居場所を特定することすらままなるまい!!』

「・・・・そうだな」

『はっは!!これが我が力!!太古より生き延びてきた、我が一族の集大成!!』





どこからか――――というより、この空間自体から響くようにコックローチアンデットの声が聞こえてくる。

もはや音からのサーチは無理だ。


しかし、凩に一切の緊張はなく、淡々とコックローチアンデットに話しかけていく。



「我らは不死だ。「死」という物がない。ゆえに、そこに覚悟はない」

『だからどぉした。だからこいつらよか強いんだろが!!』

「・・・・それがない以上、「誇り」と「信念」しか残らぬ我らは、それを強く持たねばならん。生き抜く「覚悟」がない以上、貫く「信念」と抱く「誇り」をより強くしなければならない。ゆえに、私は仕えることにしたのだ。本来三本で支えるものを二本で支えあわねばならんのだから、それを強くしなければならないのは当然」

『は、何言ってんだ。だったら一本だけメチャクチャ強くすればいいだろ?』

「フ、もはや・・・・妄執ともいえるな。生き残ることしか頭にない、傲慢なプライドしか持ち合わせていない貴様には解らないさ」




足音とはもう到底思えない音が周囲を唸っていく。

そして




ドスッ!!


『がァッ!?』

一刀閃(いっとうせん)、心刺し」



見えもしないコックローチアンデットの胸を、凩の刀が正確に捉え刺し貫いた。


切っ先についた血をビッ、と払い、鞘に納めるが、コックローチアンデットはまだ姿を見せない。




『こ・・・の・・・・その結果、邪神のための封印に取り込まれて!!己の種の繁栄よりも、こいつらの方が大事か!!』




胸を貫かれた程度ではまだ倒れないコックローチアンデットが、凩に叫び返した。

自分たちは己が種の繁栄のためにいるはずなのに、邪神とやらの封印の捨て駒にされた。

それでいいのか。許せるのか。
繁栄のチャンスもなく弾かれた自分たちに、そしてお前に、怒りはないのか、と。



それに、凩は誇りを持って答える。



「我が一族は古くから彼らとともにいた。共に生きてきた。共に歩んできた。これまでも、今も、そして、これからもそれは変わらん!!」

『繁栄こそが生物の生きる理由!!それを放棄した貴様の方が、俺たちよりもよっぽど歪んでいる!!』

「・・・・そうかも、しれん。しかし私の魂は」

『あん?』





「貴様のようなドブ臭さは放っていない」




『・・・・・』



「ま、不死にそんなものがあるのなら、な」


『魂?誇り?信念!?臭え臭え・・・・そんな臭えセリフ、吐いてんじゃねぇ!!』





――――――――――――――――――――――ッッッ!!!!



もはや音すらもない。
凩と長岡の周囲を、とてつもない速さに到達したコックローチアンデットの残像による黒い帯が覆い、今まさに襲いかかろうと拳を握る。


風が、凩の肌を薄く裂いていく。
しかしそれは命に届くことはない。




「・・・・・」




凩が、その場に座り込む。
片膝をつき、もう片方をおろし、きれいに正座へと。


そして―――――――――


「死ィッ!!!!」


ゴォッッッ!!!


そして、その残像のベルトの中からコックローチアンデットが飛び出して





チンッッ・・・・・




そんな音だけが、静かに響いていた。



その状況を見ていた、スバル・ナカジマは後にこう語る。



―――真っ直ぐ見ていた。
だが瞬きをした瞬間に、それはすでに終わっていた―――と



正座していた凩が、瞬きの一瞬で片膝を立たせて腰に手を当てていた。
そして、その少し後方にはコックローチアンデットが。


その二体が互いに背を向けて、その場に立つ。





これからあの居合が!?
構えた!
どうするんだ?



そう思ったのはその場の全員だ。




だが




「こ・・・・・あぁあ・・・・・」

「どうやら・・・・・」




スクッ




凩が立ち上がる。
動きの止まったコックローチアンデットの額から液体が流れ出した。



「私のセリフよりも、貴様の方が臭かったようだな」

「な、なん・・・・で・・・・・」




バキン!!



そして、首を回して背中越しに語りかけた。


「臭うぞ、ゴキブリ」




「バッかなぁアアアアアアアああああアアアアアアア!!!!」





ドォオオウ!!!!





ベルトも身体もまっふたつに切断されたコックローチアンデットが、傷口から爆発して四散した。

シュウシュウと音を立てて、その肉片が消滅していく。



「封印もなしに・・・消滅・・・・?」

「す、凄い・・・・・・」



そのときすでに、すべて終わっていた。



動作も、構えも、何一つとして見せることなく、凩の剣閃はコックローチアンデットを切り裂き、この戦いを終わらせていたのだ。


「ご心配おかけいたしました、皆さん」





驚く一同に凩が頭を下げて一礼した。




コックローチアンデット、消滅





軍配は、白き忠犬に上がることとなる。







to be continued
 
 

 
後書き

戦闘BGM:ガオレンジャー吼えろ!



忠犬、ここにあり。
野生の牙を、誇りの刃と変える。


凩の大活躍回です!!



蒔風
「こいつ速いな」



凩のイメージとしては「学園キノ」のサモエド仮面です。
もちろん頭にリンゴは無しで

あっちはサモエドだけど、まあ変わらないよね!!

「オオカミ剣士」という物を想像すればいいかと思います。柴犬だけど







蒔風
「クラウドはドーベル指揮のアンデットどもに邪魔されてるみたいだな」


そう、彼は賢いからね。
無理はしないのさ。

でもな、その判断がまず間違っているのだよ、彼。


蒔風
「ほう?」



ま、そこは次回。
先に言うと、ドーベルの戦闘はあっけなく終わりそうです




邪神はどうなるのか、そして時々聞こえてきた謎の声は邪神のモノなのか!?




蒔風
「クライマックスになだれ込め!!」

ではまた次回

 
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