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ロザリオとバンパイア〜Another story〜

作者:じーくw
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第60話 テスト結果と小さな天才






 さてさて 先週? はいろいろありました。

 冤罪事件やらは 学生にとっては非常にそぐわないとも言える大きな事件だ。
 妖怪が通う学園である事もあるが、それ以上に色々とつくねにとっては現実逃避してしまいそうになってしまいがちだが、忘れちゃならないことがある。

 この陽海学園は妖が通う学園なのだが、その辺りは妖怪も人間も変わらない。
 即ち 学生の本分は学業である。

「そうだ! その通り!! べんきょーが第一! 第一優先だ! 間違っても部活で軍隊みたいなシゴキを受けるだけのために、がっこーにきてるんじゃなぁーい!!! 体育会系部活反対! ダンコ反対!!」
 
 盛大に宣言しつつ、ぐっと拳を握り掲げるのはカイト。脳裏にはいろいろと思い出してしまっているから止まるに止まれない。
 突然そんな事を言い出したから ぎょっと驚きつつ、奇怪なモノを見る様につくねは声をかける。

「………カイト? いったいそれ誰に言ってるの?」

 奇怪な、と言うよりは不審者でも見るような視線だった。ついこの間に助けてくれた友達に、恩人とも言える友達に向ける視線じゃない、と思うが カイト自身も致し方なく思っている。これもついこの間まで教室で盛大に騒いでいたつくねと変わらないから。

「……あぁ いやぁ……。 すまんすまん。これじゃつくねの事言えないな。 でも判ってくれないか……。ほんと、オレには いろいろあったんだよ……。そう、いろいろと……」

 見る見るうちに、身に纏うオーラが負のモノに変わっていっている。良い具合に両肩を落としている。

「あははー! まあ しっかりしてよ。カイトっ。 ほーら! 今日は試験結果発表だよね? 皆で見にいこーよ!」

 事情を当然ながら知っているモカは、元気づけようと話題を変えた。
 カイトが色々とあったのは、過去の部活動の記憶だから、勉強関係であれば問題ないだろう、と言う事で。

「あ、そうだったな。(うん。……もう過去? に捕らわれてちゃダメだ! オレは文字通り生まれ変わったんだし! ……でも まあトラウマみたいなもんだし、ゆっくりと だな……)ぃよし! 行くか! そう言えば2人とも試験はばっちりだった?」

 気を取り直したカイトは2人を見ながら 試験の事を聞いてみた。

「うん! それなりにね!」
「…………ううん……」

 その返答はまさに対照的だと言える。そして凄く判りやすいともいえる。

「はぁ つくね大丈夫か? まさか……赤点とかは無いよな……? オレも結構面倒見てやったつもりなんだが……」

 教える事に関しては、それなりに自信を持っていたカイト。だがつくねの様子を見て少しばかり心配だった。でも、つくねは直ぐに否定する。

「あああ! それは大丈夫大丈夫! カイトだって 熱心に教えてくれたんだし…… それなのに赤点なんか取ってたらあわせる顔ないさ。 でも……、今までテスト結果を張り出される事なんて無かったからさ……」

 自分自身の成績が盛大に公開されるのだから、つくねの気持ちは判らなくもない。自信があれば楽しみだと言えるかもしれないが、それでもそう感じているのは正直少数だろうと思えるから。

「ま、いいじゃないか。うん。受け入れろよ。これがこの学園の方針なんだし、競争心を煽る良い事だとも取れる。オレだって色々と受け入れるからさ。……ま、とりあえず、行ってみようか、2人とも」
「うん………」
「うんっ!」

 つくねは気乗りは正直してない様だが、ここは覚悟を決めて進む事にした様子。
 モカは、いつも通り笑顔だった。




 ここは妖怪たちが通う秘密の学園。



《私立陽海学園》



 この場所では たくさんの妖怪たちが人間社会に適応するための勉強をしている。
 妖怪ならではのとも言える実技の授業もあるが、基本的には教育の課程(カリキュラム)は人間の学校が基本(ベース)だ。

 所謂基本的な普通科の授業「5教科」+「家庭科などの実習」があり、更に課外学習などもある。
 そして今回の様に当然ながら5教科には試験があり、人間の学校と同じく中間テスト、期末テストと揃いに揃っている。

 つまり ここにいる妖怪たちはいずれは人間の社会の大学や企業へと旅立っていくものもいるのだ。


※陽海学園には大学はありません。高校以上は人間社会で学びます。




“ざわざわざわ…………”



 ここは丁度学園の玄関口にあたる広場。

 全校生徒が満遍なく確認できる為に、生徒の往来が一番多い場所に試験結果が張り出されているのである。
 当然ながら、その場所では歓喜の声などは無く……悲鳴ばかりである。


「うわぁぁぁ!! テスト結果がはりだされてるぅぅぅぅ!!!」
「みっ みたくねーーー!!」
「くそぅ…… はいってなーーい………」


 様々な種類の声が上がっていた。
 中にはそれなりに頑張ったのであろうか、悔しそうな表情を見せる者もいた。だが、それは圧倒的に少数派である。



 そして場面はやや端の方。1年生・256人中100番までの成績が張り出されている場所でちょっとした騒ぎは起きた。
 何故なら、学園でも非常に人気が高いモカ達の順位を皆が注目していたから
 さてさて、人気№1のモカの結果をまず紹介。



 赤夜萌香(あかしやもか)――――13番




「すげぇーーー モカさん13ばんだって!」
「学園一の美しさを誇りながら頭も良いなんて!!」
「更に性格も良いし!! 言う事ねぇ――っっ!」

 モカの周りにはあっという間に男子生徒が集まりに集まった。



「「「「完璧だ!!!理想の女性NO.1だーー!!」」」」



 そして示し合わせたかの様に一斉にハモった。

「きゃ……っ な、なになに??」

 当然ながら、モカはただただ驚くだけだった。成績が良かっただけで今まではこんな事は無かったから。そもそも、公にされる事 事態が陽海学園からだった。

「ははは…… すげー人気だなモカ。結果も流石の一言」

 集まっている男子生徒達の間を縫うように、モカに近付いていったのはカイト。
 さて、ある意味モカにも負けずと劣らない色んな意味での人気を持つ御剣怪斗の結果を紹介しよう。


御剣怪斗(みつるぎカイト)―――15番


 惜しくもモカに届かなかったが、点数的にはほぼ僅差である。ケアレスミスを1つしたら、ひっくり返ってしまう程度の点数差だった。


「きゃーー!!」
「わぁ~カイト君だっ!! カイト君がいるっ!」
「やっぱり カイトくん頭良いねー! 授業の問題もあっという間に解いちゃったしーっ」
「今度勉強一緒にしよーよーー!」


 カイトの周りにはモカとは逆に、女子生徒が集まる集まる。


 この時のカイトは、また以前の様に凄まじい力? で襲われるかと思ったが、今回ばかりは広場には生徒人数が多いから リアル鬼ごっこするには狭すぎるようで押しかけたりはしてこなかった。

「ほっ……。時間が潰れなくて良かった………」

 あからさまに、カイトはほっとしていたが、それでも警戒は続けている様子。

「あははは。カイトも他人の事、言えないじゃん♪ すっごいよ?」
「………ははは……… まー、そうみたいだが だけど追いかけられないだけ モカよりマシだよ……きっと」

 色々と思い出しているのか、カイトは苦笑いし、モカ自身も判っているからか、笑顔で答えていた。
 
 女子生徒たちに囲まれそうになってるカイトの姿を見て―――モカの胸のロザリオが何だか妖しく光った様な気がするが……、きっと気のせいだろう。はい。


 そして、当然ながら主要人物はもう1人存在する。


「モカさーん! カイトー!」


 忘れちゃならないのが、この学園唯一の人間であり モカとカイトの大切な友達でもある青野月音。
 彼の順位を紹介しよう。



青野月音(あおのつくね)―――128番



 因みに学年の生徒数は256人。つまりは見事にど真ん中だという事。ある意味狙って出せない順位だが、よく言えば平均レベル。悪く言えば平凡。良くもなく悪くも無い。

 そんなつくねだからか、モカやカイトが眩し過ぎて直視できなかった様子。


「ええっと…… すごいなー やっぱり2人とも。オレも見習わなくちゃ」
「でもな、勉強が全てじゃないからな つくね。まあ 教えていた身から言えば 赤点とらなくて良かったよ」

 カイトはつくねの結果に対しある程度好評する。何せ、数学に至ってはつくねは『英数字の呪文』とまで言っていたから、非常に心配だったのだ。因みにモカは。

「あ、あははっ そんなこと無いヨ!」

 と照れ笑いを浮かべていた。つくねに褒めてもらえるのは モカにとってとても嬉しい事の様だ。それだけでも、カイトよりも勝っている部分だと言えるのだが、当の本人は気付いてない。

 ただただ、モカともっと仲良くなりたい、と言う事を考えていた。

「(よし! もう勉強得意じゃないのばれてるから……うんっ。恥を忍んでも!) 今度モカさんも教えてよ! ほら、カイトも一緒で、3人で勉強しよ! もっともっと頑張れると思うんだ!」

 手を上げて提案するつくね。
 それを訊いて、思わずズッコケそうになるのはカイトだ。

「(っておい。何で3人? ここは 2人でって言うんが普通じゃないか?)」

 小声で肘を突きながらそう言う。

「(え、えと いやいや…… まずは ホラッ!3人でさ……? うぅ……い、いきなりの2人っきりはちょっと……)」

 つくねはそう返していた。モカと2人っきりだったらとても嬉しいけれど、やはりまだハードルが高い様だ。

 大体の事を察したカイトは、はぁ……、っとため息をしていると モカは目を輝かせてOKを出していた。
 その事に歓喜するつくねだったが、次のモカの返答を訊いて 反応が変わる。

「じゃあさ! その時 血を吸わせてね♪ つくね!」

 勉強の見返りにつくねの血。
 何だか悪魔との取引の様な気もしなくもないが、モカ程の美人相手であれば この学園で拒む男子はいないと思える。

「ははは…… さすがモカ。どんな時でも血は狙うんだな」

 モカの事をカイトが笑っていると、ニコリと笑顔をつくって、モカはつくねからカイトの方へと向けた。

「なーに言ってるのかな? カイトもだよ! だって、前に吸わせてくれるって言ったもんね~♪」
「げげっ!!」

 どうやら、モカの血のターゲットはつくねだけじゃなかった様子。確かに以前にモカと約束をしているのだが、もう忘れられたとばかり思っていたのだが――、撤回する。
 血関係でモカが忘れる筈もないという事を。



 そしてその後は、ワイワイと騒いでいた。

 
 因みにモカは 勉強関係なくその場でつくねやカイトの血を吸おうとしたが、何とかカイトは阻止する事が出来たのだった。






 そんな楽しそうな3人を、物陰から見ている者がいた。
 背は他の生徒たちに比べて一回り小さい姿。クラスが違う少女。
 その名は仙童紫。そしてそのテストの順位は……驚く事なかれ。


仙童紫(せんどうゆかり)―――1番



 全教科満点の文句なしの学年No.1だ。
 普通はテストと言うものは100点満点を取るのは難しいのは当たり前だ。どれだけ勉強したとしても、5教科の何処かにはケアレスミスと言うものは取ってしまうものだから。だが、彼女は一切ミスをせずに、完璧な回答だった。


「……………」

 そんな天才とも言える少女、ゆかりは ドキドキ、と僅かに頬を紅潮させ、緊張しながら3人を見ていた。

 それにしても、その姿は高校生には見えない程幼い容姿だ。
 因みにそれには訳があったりする。
 彼女について説明をする前に――部外者が割り込んできた。
 

「おめでとう……紫さん・ また一番だった(・・・・・・・)ようですね(・・・・・)

 称賛の言葉なのだが、その声色は その声質は明らかに侮蔑した言い方だった。
 不快感しか凡そ感じられないものだった。

 その声はまだ続ける。


「さすがは天才少女……。 まだ11歳なのに、とび級でこの学園に入学したのはダテじゃなさそうだ。 でも、いいですか? 調子に乗らないでください。 私から見れば君なんて乳くさいだけの青二才なんですよ」

 その男の傍には取り巻きがいて数は2人。取り囲む様にゆかりに近付いてきた。

「……委員長」

 ゆかりは、紅潮させていた頬は直ぐに戻り険しいものへと変わる。
 それを見た委員長と呼ばれた男は卑しく笑みを見せて吐き捨てた。

「だいたい何ですか この格好は! 完全に校則違反でしょう 私ははみ出し物が大嫌いです!」

 そう言ってゆかりを突き飛ばす。

「きゃっ や……やめて下さいです~~!」

 周囲は十分騒がしかったが、場の異質さに勘づいた生徒が多かったのか、一気にゆかりたちに注目した。



「なんだなんだ……?」
「ホラ 例の天才少女の……」
「また自分のとこの学級委員長にいじめられているよ………」
「嫉妬深ぇなぁ……。テストで勝てねぇからって」



 皆が口々に呟くが誰も止めたりしないようだった。
 勿論それには理由がある。……その理由が彼女の正体に直結する根深い問題が。


「君の存在は学級委員長として 頭が痛いですねぇ……」


 周りの声の中には『いじめ』や『嫉妬』等と言う単語が聞こえてきたせいか、更に機嫌を損ねる男。乱暴にゆかりの服を引っ張り、自分に近づけると更に汚い言葉を吐き捨てた。


「どうせ、貴方の正体は魔女(まじょ)なんでしょう? ……汚らわしい! 君と同じ学級ってだけでヘドがでますよ」


 今回ばかりは、何も言わなかったゆかりも怒りに火が付いた。自分の存在そのものを否定された気になったからだ。

 目をキッ、と睨ませて、隠し持っていた(ステッキ)を使う。軽く動かしただけで、落ちていた石が突然何かに吸い寄せられるように宙へと浮いたのだ。

 ひとりでに動く石は、軈てその速度を更に増して勢いよく男の後頭部へと直撃した。

「いでっ!!」

 まさかの背後からの一撃。石礫は結構痛みを伴う。
 その顔を見たゆかりは 幾分か満足した様で。

「プッ あはははーー ザマミロですー」

 ケタケタケタと笑っていた。
 当然だが、痛みを受け、更には笑われて、……ゆかり自身も気に入らない、と言う男の怒りが一気に火を噴く。


「何だコラァッ!! 今何をしたんですか! 君はァーーーーーーッ!!!」


 最初に仕掛けたのは男の方だ。実力行使の一歩手前ではあるが。
 逆上して、その両手を振り上げ襲おうとしたその時。


「やめてっ!!」


 2人の間に割ってはいる者がいた。

 それは淡い桃色の長い髪を持つ女子生徒――モカだった。




 
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