NARUTO~サイドストーリー~
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SIDE:A
第十二話
前書き
久しぶりに投稿します。
今から半年前。当事、ヒナタとの見合いの場を設けられた俺は始めて、婚約者と顔を合わせた。
前世の頃から原作で好きだったキャラもあるが、実際にこの目で見て、耳で聞いたヒナタという少女にぶっちゃけ一目惚れしたのだ。
前世の記憶があるため精神年齢は青少年相当だが、実年齢はまだ八歳の子供。今世での初恋が同年代の子供だったのは正直、俺自身意外だった。
男は度胸ということで『後は若い子同士で』と二人きりになったのを利用し、思い切って告白。
すると、ヒナタちゃんは急に涙を流し始め、声を詰まらせながら、俺のことを好きだと言ったのだ!
両想いだった……!
感極まりつい抱き締めそうになると、廊下の方から――。
「でかしたヒナタァ! よく頑張ったなっ!」
「偉いわヒナタ! あの引っ込み思案な子が、よく勇気を出したわねっ……!」
歓喜の表情でヒナタのご両親が駆け寄ってきた。
その後ろからニヤニヤした顔の母さんと、ぶすっといじけているクーちゃんが続く。
さては、見てやがったな……っ!
「え、えっ? お、お父様、お母様……?」
両親に肩を抱かれ目を白黒させているヒナタ。
ヒアシさんは嬉々とした顔で声高にこう言い出した。
「今日は吉日だな。めでたくヒナタとハルトくんが恋仲になり、晴れて婚約が正式に決まったのだから。ミオ、今宵は宴だ!」
「ええ、そうね! 腕によりをかけて作るわ!」
ヒアシさんの恋仲発言にヒナタが顔を真っ赤にする。初心な反応いいねぇ。
ていうか、そうか。両想いなんだし、恋仲といってもいいんだよな。
そうか、ヒナタの恋人か。なんか、気恥ずかしいな……。
その後、ヒアシさんたちに誘われた俺たちうずまき一家は日向家で夕飯をご馳走になった。
ヒアシさんが言ったとおり宴会の席を設けられ、長テーブルの上には大量の料理や酒が並べられている。
席にはヒアシさん、ミオさん、ヒナタちゃん、そしてヒナタちゃんの妹であるハナビちゃんや、たまたま居合わせていた親族の方々が十名ほど並んでいた。
俺はヒアシさんたちに勧められて半ば強引にヒナタちゃんの隣に座ることになった。ヒアシさん夫妻や母さんの絶妙なコンビネーションで詰められ、必然的に腕が触れ合うほどの距離で隣り合わせで座る破目になる。密着といってもいい距離にヒナタが顔を赤らめた。
そこからは飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。
親族の方々にはヒナタのことをよろしくお願いしますと、八歳の子供相手に一人一人挨拶してきたし、アルコールが入って上機嫌な様子のヒアシさんは日向家はこれで安泰だと笑って肩をバシバシ叩いてくる。日向家って結構厳粛な家だと思ってたけど、めっちゃ破目外してるし!
母さんも問題なく婚約が進み上機嫌。一方クーちゃんは不貞腐れているけれど。
「楽しそうですね、姉上」
「あ、ハナビ」
ヒナタと会話に花を咲かせながら箸を進めていると、背後から鈴の音が転がるような可憐な声が聞こえてきた。
振り返ると、そこにはオレンジジュースが入った瓶を手にしたハナビちゃんが立っていた。
彼女とはヒナタちゃんに家の中を案内してもらった時に紹介してもらい、少しだけ会話をした。
二歳のハナビちゃんはヒナタとよく似た顔立ちをしていて、髪は姉と違って背中の半ばまで伸びている。
「どうぞハルトさん」
「ああ、ありがとうハナビちゃん」
コップにオレンジジュースを注いでくれる。なんて出来た子なんだ。二歳とは到底思えないんだけど。
「ハナビでいいです。しょうらい、わたしのおにいさまになるんですから」
「は、ハナビ……!」
「ははっ、了解。じゃあハナビって呼ばせてもらうよ」
そう言って微笑むハナビちゃんにカァッと顔を赤くするヒナタちゃん。姉妹揃って美人さんだな。
「ほら、ハナビもこっち座って飲みな。こういうのは楽しんだもの勝ちなんだから」
隣が空席だったからハナビをそこに座らせて今度は俺が彼女にオレンジジュースを注いで上げる。ふと思ったけど、飲み物の注ぎ合いとかおっさんかよ。子供がやる光景じゃないわ。
ハナビとは今日顔を合わせたばかりだ。そのためか少しぎこちない感じで箸を勧めていたが、姉と一緒に俺の話――主に修行での失敗談やネタになりそうな出来事――を聞いているうちに段々と肩の力が抜けたようだ。食事が終わり酔った大人たちが馬鹿騒ぎをしているなか、子供組みの俺たちは離れた場所で遊んでいる。この頃にはすっかりハナビと打ち解け合うことが出来るようになった。気軽にハルトさんと呼んでくれるくらいには懐いてくれたと思う。子供だから打ち解け合うには一緒に遊ぶのが一番だな。
そして、夜も更けてきた頃。帰る前に俺はヒアシさんにあるお願いをしたのだ。
「ヒアシさん、一つお願いしてもいいですか?」
「うん? なんだね?」
「日向は木の葉最強と聞きます。その強さの由縁を知りたいので、一つ手合わせ願えればと」
俺の発言に日向の皆さんが驚いた顔をする。八歳の少年が木の葉最強を謳う日向家の当主に勝負を挑むとは思わなかったのだろう。俺のことをよく知っている母さんとクーちゃんはやれやれと首を振っていたけれど。
ヒナタとハナビが心配気な視線を向けてきた。そんな彼女たちに安心させるように笑って小さく頷いて見せる。
一瞬驚いた顔をするヒアシさんだったが、すぐに平静な表情に戻ると「ふむ……」と腕を組んだ。
「ミナトからハルト君の腕前は聞いている。確かに一度、我らの流派を肌で感じるのもいいだろう。ハルト君の腕前なら何か得るものがあるもしれん。それに……」
腕を解いたヒアシさんが珍しくニヤッと好戦的な笑みを浮かべる。
「将来私の息子になる者の実力を知るには丁度良い機会だ」
† † †
ヒアシさんに案内されてやって来たのは離れにある道場だった。百メートル四方ほどの空間で床は木の板で出来ている。
母さんたちには壁際のほうへ離れてもらう。ヒナタとハナビはいつまでも不安そうに俺の側に居ようとしたが、母さんに悟られてようやく離れてくれた。
普段の格好のままでいるヒアシさんはリラックスした状態で静かに立っている。俺は邪魔になりそうな羽織だけ脱いだ。
「よいかね?」
「はい」
ヒアシさんと少し距離を取って正面から対峙すると、審判役を買って出たミオさんが前に出た。
「降参、もしくは気絶で敗北。有効打が入る、もしくは詰みの状態で勝ちとします。忍術の使用はあり。制限時間は無制限です。それでは――始めっ!」
ミオさんの合図にヒアシさんが構えを取る。手刀にした右手の掌を前に、左手を引いた半身の姿勢だ。
先手必勝! チャクラを循環させて肉体を強化し、その上で瞬身の術でヒアシさんの懐に潜り込む。強く踏み込み一直線に拳を突き出した。
右の正拳突き。手の甲で滑らすように力を流された。逸らされた勢いを利用して旋回しまわしけりを放つ。これは一歩下がって避けられた。
――やっぱこのくらいの速度じゃ避けられるよな。なら、ギアを三段上げる!
「す、すごい、ハルトくん……」
「話にはきいていましたが、とうさまのスピードについていけるなんて……。すごいですね、ハルトさん」
ヒナタたちの黄色い声が聞こえる。だが、驚くのはまだ早い。
最近習得した技術をここで使う。どのくらい通用するか実験も予ねてな!
「――はぁぁぁぁっ~~!」
「むっ」
足底、両肩、両肘、両の掌からチャクラを噴出させることで推進力に変換し、一気に加速する。体のいたるところに小型のジェット噴射機を取り付けたようなものだ。
まだ実験段階なため常時チャクラを垂れ流している状態だ。膨大なチャクラがあるからこそ出来る芸当だが、いずれは必要な時に必要な部位のチャクラを噴出させて効率的に運用していきたい。
チャクラが物凄い勢いで放出され推進力を発生させる。突然加速した俺に一瞬、眉を跳ね上げたヒアシさんだが、流石は日向の当主というべきか、取り乱すことなく冷静に対処しようとする。
ガトリングごとく両の拳打を手の掌と甲だけでことごとく逸らしていく。すごいなこの防御力……!
――なら、これはどうだ!
しゃがみ込み水平に足を薙ぐ。足払いの攻撃は跳躍して回避するヒアシさんだが、それは悪手だよ!
「せやっ!」
地に両手をついた状態で勢いよく伸び上がるようにして右足を突き出す。さらには両手の掌からチャクラを噴出させて加速する!
右足を突き出した逆立ちのような姿勢での蹴り。ヒアシさんは身動きの取れない空中にいる。一本の槍のように伸ばされた変則の蹴りにどう対処する!?
「甘いっ」
右手の前腕で蹴り足を上空に逸らしたヒアシさんはそのまま腕を絡めて体を捻り、なんと空中で俺を投げた。予想外の行動に俺ビックリ!
投げられた俺は宙で体勢を整えて危なげなく着地する。
顔を上げると、ヒアシさんが例の構えを取った状態で静かに立っていた。
――わかってはいたけど、やっぱ強いな……。
完全に流れを断たれたため仕切りなおしとなった。
静かな眼差しを向けてくるヒアシさんが口を開く。
「――ミナトが自慢するのも頷けるな。齢八歳でここまで戦えるとは大したものだ。日向の子供たちでも君ほどのレベルで体術を修めている者はそういない」
あ、ていうことは少なくても一人はいるということですね。誰だろう? 天才と名高い分家のネジかな?
「では、今度はこちらがお見せしよう。日向の流派――柔拳法を」
――っ! ついに来るか!?
ヒアシさんの手にチャクラが集中するのが分かる。そして、すり足のような静かな動きで間合いを――って、早っ!
気がついたら目の前にヒアシさんが迫っていた! なにそのすり足、めっちゃ早いんだけど!
間合いを盗まれたような錯覚すら覚えるなかで、チャクラを込めた掌底を放ってくる。回し受けのような動きで掌底を逸らし、カウンターの正拳突き。
前腕辺りを掌底で打たれ突きの軌道が逸らされる。反転して肘打ち、回し蹴り、手刀と立て続けに繰り出すがどれも紙一重で避わされた。
「……ん?」
その時、右手に違和感を感じた。一旦距離を取ってから右手を見るは、特に変化は無い。
が、しかし――。
「……? なんだ、力が入らない?」
痺れているわけでもないのに手に力が入らない。握力が急激に下がったような感覚だ。
「体に張り巡らされた経絡系と臓器や器官などに対して、チャクラを流し込み体内組織を破壊して内側から攻撃する。それが日向の柔拳法だ。今ハルトくんの右手に軽くチャクラを流し、一時的に神経を麻痺させたのだよ」
「なるほど、これが柔拳……」
実際に味わってみるとよくわかる。体の内部から攻撃されるということはガードが効かないということだ。
これは厄介だな。
「そして、日向が木の葉最強と謳われる由縁。それは――」
一度目を閉じるヒアシさん。再び目を開くと、目尻から外側に筋のようなものが浮き出た。
「この日向一族の白眼と柔拳法が合わさることにより、チャクラを放出する経絡系や点穴をも見極め相手のチャクラを封じることが出来るからだ。今日は柔拳で体の自由が奪われる感覚というのがどのようなものなのかを教えよう」
再び高速のすり足で間合いに入ってくる。気配が読みにくいから距離感が狂う!
「柔拳法・波緩穴!」
掌底や突きが弾幕のごとく繰り出される。威力は然程ではないが手数が多いため避けきれない。いくつかは受け流し、ガードに成功するが結構な数を受けてしまった。
「……っ!?」
全身の力が抜けていき立っていられなくなる。バランスを崩し尻餅をついてしまった。
「そこまで!」
勝敗は明らかだ。ミオさんの声に構えを解くヒアシさん。た、立てない。辛うじて両腕が動かせるだけだ……。
「全身の力が抜ける経絡を突いたから、しばらくは力が出ないだろう。無理に動かず安静にしなさい――」
「ぬぐぐぐ……!」
震える足や体を叩いて渇を入れ、よろよろになりながらもなんとか立ち上がることに成功した。あ、でも倒れないようにするので精一杯で動けそうにないわ。
立ったはいいけれど、動けずどうにもできなくなってしまった。そんな立ち往生して困っている俺を驚いた顔でヒアシさんが見ている。
「すぐに動けるはずがないのに、まさか立つとは……。君には本当に驚かされるよ」
え? えっ? なに? 結構頑張れば動けるけど、何でそんなに驚いてるん?
よくわからないけれど、知らないところで良い評価を受けたようだ。まあ結果オーライとしておこう。
しかし、完敗したなぁ。俺も結構強くなったと思ってたけど、自信砕かれたわ。まだまだってことだな。もっと力をつけないと!
「は、ハルトくん! だい、大丈夫……!?」
「ハルトさん、だいじょうぶですか?」
ふらふらと立つ俺の元にヒナタとハナビが駆け寄ってきた。おお、丁度いいところに。
「ごめん、ちょっと座りたいから支えてくれる?」
「は、はい……!」
「はい。よりかかってもいいですよ」
左右からヒナタとハナビに体を支えてもらいながら姿勢を崩すようにしてその場に座り込む。胡坐をかいて一息つくと、こちらにやってきたクーちゃんに頭をぺしっと叩かれた。
「こりゃ主! なんなんじゃあのざまは。仮にも妾の主ならもうちょい粘ってみせい」
「いや、面目ない。もうちょいいけるかなって思ってたけど、全然当たんないわ。ヒアシさん強すぎ」
ばつの悪い顔でぽりぽりと頭をかく。本当に驕ってたわ。ちと格好つかないな。
俺の言葉に母さんが呆れたような視線を向けてきた。
「そりゃそうよ。相手は日向家当主なのよ? 下忍にもなってないんだから、そう簡単に勝てるわけないじゃないの」
うっ、ごもっともです。
マイマザーに指摘されて軽く落ち込んでいると、なにやら真剣な顔をしたヒアシさんが俺を見ていることに気がついた。
「ハルトくん。先ほど体の一部からチャクラを放出していたね。あれはミナトから教わったのかい?」
ヒアシさんが聞いてきたのは先の組み手で見せた、チャクラをジョット機のように噴出させることで推進力を生む技のことだった。あれは、修行中に思いついたアイディアだ。実現させるには体の各部位に意識的にチャクラを放出できないといけないから緻密なチャクラコントロールが必要になるけれど。まあ実践レベルまで錬度を上げるのに苦労したけど、チャクラコントロールの修行の一環として考えれば有意義な時間を過ごせたから苦ではなかったかな。
なんで、うちの父さんは関係ありません。
「いえ、アレは独学で覚えたものです。もちろんチャクラコントロールのアドバイスとかは貰いましたけどね」
「なんと、あれを独学でか……!」
くわっと目を見開いて驚愕を露にするヒアシさん。え、そんなに驚くことなんですか?
ヒナタとハナビ姉妹も同じ疑問だったのだろう。仲良く首を傾げていた。
不思議そうな顔をする俺たちにヒアシさんが説明してくれる。
「……いいかいハルトくん。それと、ヒナタとハナビもよく聞きなさい。チャクラ穴から放出されるチャクラをコントロールするのは大変難しい。卓越した技術を持つ忍でも体の一部や手足からしか放出できないのがほとんどだ」
「え? でもお父様や叔父様は……」
ハナビの疑問に頷き返すヒアシさん。
「うむ。まあ私やヒザシ――弟だけではないが。日向家には代々伝わる修行法で幼少の頃から緻密なチャクラコントロールの修行を積む。これは意識的に使用できるチャクラ穴を増やすためだ。これを極めれば全身のチャクラ穴からチャクラを放出することも可能だ」
ほうほう。ようするにチャクラ穴っていうのは汗腺のようなものか。チャクラ穴から意図的にチャクラを放出するのは難しいんだな。確かに、俺もチャクラコントロールの修行では苦労したものだ……。
「里の中の忍でもほとんどが手足からでしかチャクラを放出できない。ましてや全身からチャクラを放出できる者は極めて少ない。それを、ハルトくんは手足以外の、体のいたるところから放出してみせたのだ。しかも独学で。これは凄いことなのだよ」
「さ、さすが、ハルトくんです……」
「はぁ、すごいんですねハルトさん」
ぽわっと頬を薄っすらと朱に染めて俺を見るヒナタ。ハナビも感心したような視線を向けてきた。
そして俺はというと、まさかそんな凄いことをやってのけたとは露も知らず、目をパチクリさせている。実際、修行してたらできるようになったから、大したことではないと思ってたんだけど。
「……ふむ、どうだろうか。もしハルトくんさえよければ、柔拳を習ってみないかね?」
「え?」
ヒアシさんの言葉に俺だけでなくミオさんやヒナタたち、母さんまでもが驚いた表情を浮かべた。
予想外の申し出だった。ヒアシさんは真剣な顔で俺を見つめている。
「もちろん、白眼が使えないハルトくんでは日向の柔拳を完全に納めることは出来ないだろう。だが、すでにそこまで緻密なチャクラコントロールが出来るのなら覚えておいて損は無いと思うが。どうだろうか?」
「いや、俺からすれば願ってもないことですけど、いいんですか? 門外不出とかでは」
「確かに秘伝や奥義などは日向の人間にしか教えることが出来ないな。しかし柔拳そのものは門外不出というわけではないのだよ」
そうなのか。てっきり門外不出の流派だと思ってたわ。
じゃあ、折角の申し出だから受けちゃおうかな。俺も柔拳に興味があるし、戦いの幅が広がるのは良いことだし。
それに、ヒナタと会える機会も増えるしな!
「それじゃあ、よろしくお願いします」
ある程度力が戻ったため、正座をすると頭を下げる。ヒアシさんは力強く頷いてくれた。
こうして俺は週に四日ほど日向家にお邪魔してはヒアシさんじきじきに稽古をしてもらい、気がつけば日向の一員のような扱いを受けることになっていた。
そして、ここで日向の闇――宗家と分家の溝を知り、長年互いを隔てていた壁を呆気なく壊すことになるのだが、それはまた別の話。
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