ガールズ&パンツァ― 知波単学園改革記
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第八話 プラウダ戦を見ます! その3
前書き
オブラートに包みながら、慈悲のある心でお読みください!お願いします!
雪が降るなか莉乃は、ある人物の跡を追っていた。バレないように距離を保ちながら追跡している。
「……どこへ行くきかしら?」
莉乃の視線の先にいた人物は、雪道を堂々と歩いている山口多代の姿があった。
莉乃は、最初に多代と出会ってから、ずっと疑い警戒していた。
戦車道の流派のなかでは目立たない、『意図的に』目立たなくされているはずの『栗林流』の存在を初めから知っていたからだ。
千冬と莞奈が西たちに初めて反抗した日に突然目の前にあらわれ、いきなり試合をしろと言ってきた。
勿論叩き潰した。しかし問題はその後だ。
次の日から当たり前のように千冬の傍にいた。
莉乃は正直ムカついた。多代が千冬と会話をするたびムカついた。多代が千冬に触れただけでイラついた。
まるで最初から居たような態度で千冬と会話をする。非常に腹立たしい。殺意すら沸き上がった。
しかしそれだけの理由で多代の事を警戒しているわけではない。
栗林流について何かを探っている。それが莉乃が多代を警戒している最大の理由である。
栗林流は、開祖にして現家元が中心となって起こした『反乱』をきっかけに大きくなった。しかし同時に敵を多く作りすぎた。
それ故に栗林流は、戦車道界の中では忌み嫌われている流派となっている。
過去に何度も栗林流を潰そうとする動きがあった。
しかし全て失敗した。
全て返り討ちにしたのもあるがそれだけではない。
一番大きな理由は………
唯一、栗林流を二度も撃ち破った流派が反対し続けたからだ。
その流派が西住流である。
島田流、鍋島流、池田流などの極少数の流派除く、多くの流派、日本戦車道連盟、企業、果ては政治家までが頼み込んでも西住流は、栗林流との対決を望まなかった。頑として首を縦に振らなかった。
なぜ西住流が対決を望まなかったのかは、それは莉乃にもわからない。
それを知っているのは、西住流家元と師範、島田流家元、鍋島流家元、池田流家元、最後に栗林千秋、千冬、千雪、栗林流家元だけ。
多代は、その理由を調べようとしている。と、莉乃は考えている。
莉乃自身もその理由は、気になるが問題は身内以外に知られたらどんなことに使われるか分からない事で、もし多代がその理由を知り、それを使い、栗林流を攻撃しようものなら断固として阻止しなければならない。
莉乃は、そう考えながら多代の跡をバレないように付いてきた。
「……何であたいに付いてくるんだ?」
莉乃の存在は、多代にはバレバレだったようだが。
多代は、ある人物に会いに行っていた。
その人物は、中学からの知り合いで、ひとつ年上で、高校生になってからの趣味は格言を言ったり、紅茶を飲むことなどまるでイギリス人のようなことをしている聖グロリアーナ女学院の戦車道を率いている人物で、偶然見かけたので挨拶しに向かっていた。
それだけなのに……
「何で付いてくるんだよ……」
溜め息をつく多代だった。
「まほちゃんはカレーが好きなんだ!私もカレー好きだよ!よく子供たちに作ってあげてるんだ!」
「そうですか」
まほは千秋と会話をしているがほぼ一方的に話しかけられているだけなので、返事を返すだけで会話が終わってしまうが千秋は全く気にする素振りを見せていない。
「まほちゃんは私への質問とか無いの?」
「質問ですか……?」
まほは顎に手を当て考えた。
気になっていることは出会った時からあったが、それを聞いても良いのかを考えていた。大変失礼なことだったら気分を悪くされては困るし、母であるしほが一切触れていないことから、聞いてはいけないことなのかもしれない………
みたいなことをまほは考えていたが聞くかどうか決まった。
「……一つ、気になる事が……」
「えっ?なに?何が気になるの?」
千秋の笑顔とは対照的に少し緊張した表情で、まほは重い口を開いた。
「なぜ、右目に眼帯をしているのですか?」
その瞬間、まほは後悔した。
すぐに聞かなければよかったと思った。
千秋は笑っていた。すごく目を輝かせながら笑っていた。
「ずっと待ってんだよ!いつ右目について聞いてくるのを!」
待ってましたとばかりにテンションを上げた千秋を見て、顔には出さないがまほは後悔した。
助けを求める様にしほを見たが、しほはまた顔色が悪くなっている。
「千秋さん……まだまほには早いと思いますが……」
少し震えた声でしほは千秋に言った。しほが止めるということは、あまりよくないことだろう。
「えぇ~……なんでしほちゃんが止めるの?しほちゃんは見たくないとしても、まほちゃんが見たいんだよ。それに……」
「それに……?」
「私が見せたい!」
そう聞いた瞬間にしほは激しい頭痛に襲われた。
「なんで見せたがるんですか!?」
「えっ?だってカッコいいし……私にとってはとても大切な『傷』だからね!しほちゃんは嫌な思い出だろうけど、しほちゃんの子供であるまほちゃんには是非見てほしい!」
そんな事を言いながらも千秋は、笑顔を崩さなかったがしほは苦々しい顔となっていた。
「……確かに私にとっては、その傷は思い出したくないとても嫌な思い出です。しかしその傷は人様に見せるようなものではありません!というか見せないでください!!」
苦々しい顔から一転して怒った表情となりながらしほは千秋に向かって言った。
千秋は腕を組み考え、閃いたかのように言った。
「………じゃあ、まほちゃんだけに見えるようにするね!」
「違うそうじゃない!公の場でその眼帯を外さないでください!私はそう言ってるんです!」
「まほちゃん、こっち向いて~」
「無視しないでください!まほ見ちゃダメよ!」
「しほちゃんが私を襲ってくる!まほちゃん助けて~」
千秋はまほに見せようと、それを阻止しようとしたしほが身体に抱き着いた。しほと千秋は背丈がほとんど変わらないため、しほが後ろから千秋に抱き着きじゃれ合っているようにしか見えないまほであった。
アンナはノンナの手作りボルシチを食べた後、上機嫌になりながらプラウダの陣営を見回りしていた。
プラウダは、大洗女子が立て籠もっている教会を包囲するように陣形を敷いているが隊長であるカチューシャの命令で包囲網にあえて隙を作っている。
それを確認するためにアンナが勝手に見回りをしていた。
「ここも異常なし、と……」
地図を見ながら配置の確認をしていたが不安もあった。
「大丈夫かな?この作戦……」
アンナは一人呟いたが理由はカチューシャ本来の戦法ではないためである。カチューシャが最も得意とする戦法は、圧倒的物量で敵を押しつぶすという単純かつ強力な戦法なのだが、今回はそれをしない事がアンナを不安にさせていた。
「得意なやり方でやった方がいいと思うんだけどな……」
一人で考えながら歩いているとニーナたちが操るKV-2のところまで来ていたし、ニーナとアリーナが話をしている姿が見えたので、アンナは配置確認のついでに少し話をすることにした。
「ニーナ、アリーナ、元気?」
「あ、アーニャ!どうしたんだぁ?こんなどころで?」
「ちゃんと布陣されてるか確認してるんだよ」
「そうなのかぁ~、アーニャは働きものだなぁ」
「そんなことないよ」
他愛もない話をしている中でアンナは気になる事があった。
「ねぇ、ニーナ?一つ質問があるんだけど」
「なんだアーニャ?」
「その『ココア』は何?」
「ああこれか!さっき先輩に貰ったんだぁ!」
「先輩?どんな先輩だった?」
「とっても優しい先輩だったぁ!あっ!あと布陣状況を忘れてたみたいだから教えてあげただぁ!」
ニーナは嬉しそうに先輩の事を言うがアンナは何故か不安になった。
そんな優しい先輩なんて居たっけ?
少なくともアンナには思いつかない。
「アリーナはその先輩は見た?」
「見たけど後姿だけだぁ」
「ニーナどんな姿をしてた」
「どんな姿で言っでも………ココアをくれた先輩は癖毛で、もう一人の先輩は金髪だぁ」
「二人いたのか……ちょっと待ってて……」
そういうとアンナは携帯を取り出た。しばらく携帯を使い画面と向き合っているとある事に気が付いた。
携帯の画面に映し出されているのはこの試合に参加している全てのプラウダ隊員の顔写真だった。
なぜアンナが全員の顔写真の画像を持っているかというと全員の顔を覚えるためである。
プラウダの戦車道部の人数はサンダースほどではなくとも強豪校だけに毎年多くの部員が入る。そのためアンナは『せめて試合に出る人の顔は覚えよう』と決め、毎試合ごとに写真を携帯に入れているのだ。
気が付いたことは、この試合に出ている隊員で金髪はカチューシャ隊長『一人』しかいなかったことだ。
それに気づいてしまったアンナは、ニーナに対しての怒りを抑えつつも、ニーナは一年生でしかも初めての実戦であり隊員全員の顔を覚える余裕が無かった、そう判断し怒るのをやめニーナとアリーナ向かって言った。
「ニーナ、アリーナ戦闘準備しといてね」
ただそれだけを言うと早歩きでニーナたちから離れていった。
それをただただ黙って見送るニーナとアリーナ。アンナの姿が見えなくなるとアリーナが口を開いた。
「ニーナ、何にしたんだべ?」
「何って……何もしてないべよ?」
心配な表情を浮かべながらアリーナはニーナに言った。
「でもアーニャの顔、見たか?……あの顔は怒ってるときの顔だぁ!」
「そんなこと言ってもわだしはなんも怒られるようなことはしでねぇよ?」
「じゃあ何であんな怖い顔になってたんだぁ?」
「さぁ……?」
アンナは自分の車両であるT-34/85へ戻っていた。戻った後すぐに寝ているカチューシャではなく、副隊長のノンナに報告した。
「ノンナ副隊長、敵の偵察が我々の陣地に侵入していた模様です」
『その報告は私も聞いています追い払ったようですが、それがどうかしましたか?』
「他にも偵察が居たんですね……こちらは変装し陣地に侵入した奴が二人いたんです」
『……それでその二人は?』
「ニーナが言うには先輩だと思ったそうです。さらに布陣状況も教えてしまったようです」
『……そうですか、分かりました。報告ありがとうございます。あなたはそのまま警戒状態を維持していてください』
通信機越しでもノンナの機嫌が悪くなっているのをアンナにはわかった。
「了解しました。では失礼します。………はぁ~~………」
通信を切ったあと、思わずため息がでたアンナだった。
多代は紅茶を飲んでいた。この寒い中でしかも外で飲んでいたが、外で飲んでいるので温かい紅茶が身体に染み渡るのを感じていた。
「こんなところであなたに会うとは思わなかったわ」
「そうですね。私も会うとは思いませんでしたよ。ダージリンさん」
そう多代は今、聖グロリアーナ女学院戦車道隊長のダージリンと一緒にお茶会を楽しんでいた。
「あなたとこうして話すのはいつ以来かしら?」
「中学以来ですね」
「あら、もうそんなに経っていたのね」
ごく他愛もの無い話をし、昔話に花を咲かせていたがダージリンの隣に座っていたオレンジペコが聞いてきた。
「あのダージリン様と多代さんはどのようなご関係なのですか?」
「ただの先輩と後輩の仲だよ。オレンジペコちゃん」
「そうよ。多代はただの後輩よ」
「そうですか……あとちゃん付けはやめてください」
オレンジペコから何かを警戒する目で見られていた多代であった。
「ところでなぜ多代は、聖グロリアーナに来なかったの?わたくし、楽しみに待っていたのよ?」
「そ、そうだったんですか!?」
「彼女のお婆様もお母様も聖グロリアーナの卒業生なのよ。だからてっきり入学すると思っていたのよ」
何故か驚くオレンジペコとそれを落ち着かせように言うダージリンを横目に多代は答えた。
「私もそのつもりでしたが、祖母と母に反対されまして」
「そうなんですの?理由伺ってもよろしいかしら?」
「祖母も母も聖グロリアーナのOGなのですが、『マチルダ会』、『チャーチル会』、『クルセーダー会』のどこにも所属していないんです。しかも母は、『OGが原因で戦力増強もできないし増強しようとしても横やり入れられるから違う学園艦に行きなさい』って言われたので仕方が無く知波単に入学したわけです」
『マチルダ会』『チャーチル会』『クルセーダー会』とは聖グロリアーナ卒業生で結成されたOG会で、在校時代の搭乗車輌に因み会派の名前となった。この三会派は資金など提供する代わりに学園艦の運営方針など影響力を保持しており、卒業生の反対から戦力増強のための強力な車両の導入が遅れている。
多代が理由を話し終えると何とも言えない空気になっていた。
「それが入学しなかった理由なんですか……」
「何とも痛いところですわね」
オレンジペコは少し落ち込んでいたが、ダージリンは優雅に紅茶を飲んでいてさほど気にしていないのがわかる。
「でもそれだけではないのでしょ?」
優雅な笑みを浮かべながらダージリンが多代に言った。
多代もすぐには答えず紅茶をじっくりと味わい、全部飲み干してから、カップを静かに置いた。
「ええ、私を理解してくれる理想の上司が知波単に居ましたので」
笑みを浮かべながらダージリンに向かって言った。
「祖母も母も憧れた流派……しかもその跡取りが上司なんですからこれほど光栄なことはありませんから!」
おそらく今日一番の笑顔となりながら多代が言った。
それを真正面で見ていたダージリンは、思わず笑ってしまった。上品に笑っている。
「ふふふっ……相変わらずね多代は昔からちっとも変わらないわね」
「そうですね、よく言われます。紅茶おいしかったです」
そう言うと多代は立ち上がり帰る準備をし始めた。
「あらもう少し居てもいいのよ?」
「それは出来ません。だって……」
多代は視線をダージリンから外し、後ろにある小さな雪山に向けた。
「連れが待っていますので」
「あら、そうだったの?」
「では、お二人とも紅茶ご馳走様でした」
そう言って多代が歩き出すと、ダージリンが言った。
「次に会う時は何時かしら?」
多代は、振り向き言った。
「戦場で!あとローズヒップによろしく伝えといてください!」
そう言って多代は走って言った。
「あのダージリン様、何でローズヒップさんによろしくなんですか?」
「彼女とローズヒップは幼馴染なのよ」
「えっ!?」
暫く走っていた多代はある程度たって止まった。そして振り向き言った。
「バレバレだぜ?いい加減出てきたらどうだ?」
そうすると雪の中から莉乃が出てきた。
「……いつから気づいていたの?」
莉乃は睨みながら聞いたが多代は即答した。
「最初から」
「ウソォぉお!?」
「ホントだって」
「いやそんなのはどうでもいい!あなたに聞きたいことがある!」
そっちから聞いといてどうでもいいとは何なんだ?と思いながらも多代は莉乃の質問を待った。
「あなた、『栗林流』に憧れてるの?」
「正確に言えば『栗林流』ではなく『栗林千冬』そのものに魅了されている」
「千冬に……魅了されている?」
「そう!あたいは『千冬』のことが好きなんだ!小学の頃初めて『千冬』の姿を見た瞬間、虜になった……試合の仕方も素晴らしかった!一切の情けを懸けず、冷徹に淡々とこなしているのに、それでいてどこかに熱い気持ちがある……『千冬』と勝負がしたい、『千冬』と一緒に試合がしたい!そう思ってきたんだ!あたいにとって今の状況は夢のようなんだ!『千冬』の傍に入れる、憧れの存在がすぐ傍にいる、こんなにうれしいことは無い!」
莉乃はこの時思った。
こいつ、すごく、私と似てる。
「山口…いや多代!」
「なんだい!」
「これからも一緒に千冬を支えていきましょう!」
「もちろん!」
二人は握手をした。ここに固い友情が生まれた。
「そろそろ始まるね」
「そうっすね姐さん」
「楽しみだな~」
心の底から楽しそうに笑う千冬。
「どうやってフラッグを潰すのかなぁ~、ねぇ『西住みほ』」
とても可愛らしい笑顔になりながら言う。
「私を楽しませてよ」
三時間経ち再び戦端が開いた。
後書き
励みになるので、ご意見ご感想ご批判等を首を長くしてお待ちしております。
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