ガールズ&パンツァ― 知波単学園改革記
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第七話 プラウダ戦を見ます! その2
前書き
オブラートに包みながら、慈悲のある心でお読みください!お願いします!
試合の火蓋が切って落とされ、数十分たち、観客たちは熱気に包まれていた。
理由は、スクリーンに映る光景である。
そこには、一両のT‐34/76が大洗女子全車両に追撃されている映像が映し出されていた。
追撃に移る前に大洗女子は二両のT‐34/76を撃破しており、そのまま勢いに乗る形で追撃戦を行っていた。
『こちら、囮車!もう少しで目標地点に到着しますだぁ!』
通信機から悲鳴ともとれる声で報告が入ってきた。
「了解しました、そのままこちらに来て下さい御武運を」
『了解しただぁ!』
ふうっと少しため息を吐いたアンナは次なる指示を出した。
「リリア、カチューシャ隊長へ繋いで」
「了解……繋いだよ」
「カチューシャ隊長、こちらアンナ隊。目標集団は間もなくこちらに到達します」
『そう、カチューシャが思った通りに事が進んでるわね』
「はい、その通りですカチューシャ隊長」
『わかったわ!それじゃあ作戦通りに進めてね!』
「了解しましたカチューシャ隊長。では…………はぁ~」
カチューシャとの通信を切った後盛大に溜息を吐いたアンナに操縦手であるレーナが聞いた。
「どうしたの?そんなにため息してたら幸せが逃げちゃうよ?」
「……なぜカチューシャ隊長はこの作戦にしたのかな~って考えてた」
「どうしてって………どうして?」
「それを考えてたの!聞き返してくるな!」
「我々プラウダが得意な長期戦に持ち込みたかったのではないでしょうか?」
アンナは、考えていることを聞き返してきたレーナに対し声を荒げ、砲手のミーシャの答えに反論した。
「それならカチューシャ隊長が得意とする物量戦をやればいいのに……!」
「それもそうですけど……」
ミーシャが困っていると装填手のターニャが小さな声で言った。
「……………来た」
アンナはキューポラから顔を出し双眼鏡で辺りを見渡すと囮のT-34/76が遠くに見えた。
それを確認したアンナはすぐさま指揮下にある全車両に通信をした。
「全車聞け。今、囮を視認した。これより作戦を開始する、全車、予定通りに任務を遂行せよ。プラウダの為に!」
『プラウダの為に!』
元気の良い返事が返って来るのを確認したアンナは戦闘用意を命じた。
囮のT-34/76が段々と大きくなっていくにつれて砲弾がこちらにも飛んできた。
「砲撃開始ぃ!」
次の瞬間、T-34/85が揺れ砲弾が放たれた。
それを合図に指揮下にあるT-34/76二両、T-34/85一両、そしてフラッグ車であるT-34/76が一斉に砲撃を始めた。
しかし勢いに乗る大洗の軍勢に押されていた。
正確に言えばいかにも勢いに押されているかのような行動を執っていた。それでも撃破される車輌が出た。
『85六号車撃破されましだぁ~!』
「チッ……!全車、フラッグを護衛しつつ目標地点まで後退!」
『了解しただぁ!』
「レーナ、後退!ミーシャ、撃て!」
「りょ~か~い!」
「了解」
キューポラから上半身を出しながら、次から次へと指示を出していく中でアンナは、思わず笑ってしまった。
「見つけた……!」
姉の仇であり、この試合の敵の隊長、自分こそが奴を直接叩き潰さなければならないと心に決めた敵……
「見つけたぞ……!……西住みほ……!」
思わずターニャに榴弾を込めるよう命令しそうだったところを、何とか抑え込みカチューシャから与えられた任務を遂行することに集中した。
さっきまでの熱気はどこへやら、歓声ではなく悲鳴に近い声が観客席から上がっていた。
カチューシャの作戦は成功した。
フラッグ車を囮に廃村へ大洗の戦車隊を誘い込み、隠蔽をほどこし待機していた本隊をもって包囲殲滅しようとしていたが、勝利を確信したカチューシャの気まぐれで、あえて教会のような建物に立て籠もるように誘導、完全に包囲、降伏勧告を出し、三時間の猶予を与えた。
「直ちに攻撃命令を出してください!!」
アンナはカチューシャに向かって怒鳴りながら言った。出会いがしらにいきなり怒鳴られたカチューシャは思わず隣に居たノンナの背中に隠れてしまった。
「ア、アーニャ…!お、落ち着いて……!」
「カチューシャ隊長!攻撃命令を直ちに全車輌へ発してください!!」
「ひぅ……!」
カチューシャが落ち着くように言うが、アンナはそれを無視しさらに大きな声で怒鳴った。
「同志アーニャその辺にしといてください」
「ノンナ副隊長………何故、三時間という長い猶予を与えたのですか!?」
カチューシャを守るように前に出てきたノンナ、そのノンナに詰め寄りながら三時間という長い猶予を与えた理由を聞こうとした。
「それはですね……カチューシャ、少しアーニャと話してきますね。アーニャこっちへ」
ノンナはそう言うと近くの民家に中に入って行き、アンナもノンナの後について行き民家の中へ入って行った。
残されたのは不安そうな表情をしているカチューシャだけとなった。
「それで理由は何なんですか?」
「そう焦ってはだめですよ?同志アーニャ」
「焦ってなどおりません。同志ノンナ副隊長」
二人の間にはピリピリとした空気が流れていたが、ノンナがふぅ……と小さくため息をしたと同時に非常に穏やかな空気に変わった。
「簡単な理由ですよ。カチューシャがお腹が空いて眠かったからですよ」
「なるほど、それでは仕方がありませんね」
ノンナの答えにアンナは納得したように頷いた。
そして聞いた。
「ところでもう食べたんですか?」
「これからですよ。………食べたいんですか?」
「ノンナ姉が作った料理を食べれば私の怒りは収まります!」
アンナが笑いながらそんなことを言ったので、ノンナは大きくため息を吐いた。
「わかりました。じゃあ作るの手伝ってください。あとカチューシャに謝ることこれが条件です」
「わかりました!謝ってきます!!!」
そう言うと生き良いよく民家のドアに突っ込み、ドアを破壊したのも気にせずスライディングしながら土下座した。
その土下座を見て呆然とするカチューシャと思わず頭を抱えていたノンナが居た。
アンナは笑っていたが……
観客席にて
「大洗、ピンチだね……なんだかいい気分になってきた」
「でも姐さん、三時間どうします?暇っすよ?」
「う~ん……何かやりたい人いる?」
千冬たちはこの暇になった三時間をどうするか話し合っていた。
「やっぱ雪合戦でしょ!さっきの続きしよ!」
「何か食べ物でも買ってきますか?小腹も空いてきましたし」
「それなら私が行くよ~」
「靖香に行かせるな!絶対に行かせるな!」
色んな意見が飛び交う中、千冬の隣に多代が来て言った。
「あたい、ちょっと用事があるんだけど…行っていいかい?」
「用事?………人に会いに行くの?」
「!?………なんでわかった?」
「ん~~勘かな?何となくそう思っただけ。うん行って来ていいよ!気を付けてね!」
「うん……行ってくる」
そう言って多代は知人のいるところへ向かって行った。
「ちょっとトイレに行ってくるわ」
「いってらっしゃ~い」
多代が知人のところへ向かって少し経った後、莉乃がトイレへ向かった。
「………」
しかし莉乃はトイレには向かわず一人の少女の跡を付けていった。
別の位置の観客席にて
二人の女性が並んで座っていた。一人の女性は長く美しい髪で上下黒のスーツに身を着ており、もう一人の女性……少女は、黒森峰の制服を身に纏っていた。
そして長髪の女性が立ち上がり言った。
「帰るわ。こんな試合を見るのは時間の無駄よ」
「待ってください」
少女が引き留めるように言った。
「まほ……?」
まほと呼ばれた少女は長髪の女性を向かって言った。
「まだ試合は、終わってません」
まほは、長髪の女性……西住しほの目を見ながら言った。
「そ~だよ。試合はまだ終わってないよ~しほちゃん」
突然後ろから声が聞こえ二人が振り向くと、一人の女性がにこやかな笑顔で立っていた。
右目には黒い眼帯を付けており左目だけで二人を見ていた。
腰まで伸ばした黒髪が風に揺られているのを見て、まほは綺麗な人だと思った。
しほは違った。
しほの表情はみるみる内に変わり、こわばり少し顔色が悪くなり、まるで何かを恐れているような表情となっていた。
戦車道の名門にして日本最古、最大の流派……西住流。
その師範であるしほのことを『ちゃん』付けで呼ぶ人間などこの世に一人しかいない。
「なぜ……あなたがここにいるのですか…?」
しほが眼帯を付けた女性に問うと女性は答えた。
「めんこくて仕方がない自分の娘の晴れ舞台なんだから、見に来るのは当然でしょ?しほちゃんだってそうでしょ?自慢のかわいい娘が試合に出てるんだから」
「あの子は、もう西住流ではないわ!」
「それでもしほちゃんの子でしょ?死ぬまで西住の名を背負っていくんだから」
にこやかな笑顔のまま、答える女性にしほは恐怖を感じていた。
それと同時に昔の記憶がよみがえった。
この人はいつもそうだ。いつも笑っている。どんなことが起きても、戦車に乗っているときも……いつもその目で私を見る。
あの時も……
「お母さま?大丈夫ですか?」
「……ええ……大丈夫よ。まほ」
昔の事を思い出していたしほは、まほに声をかけてもらうまで気が付かず、本人にとっては忌々し記憶を思い出していた。しほは、女性を睨み付けるような目つきになりながら向き直り言った。
「相変わらずお元気そうで……”栗林流”師範……栗林千秋殿!」
「殿なんてつけないで昔みたいに『千秋さん』って呼んでよ~というか毎年あってるじゃん……あっ!わかった!娘が見てるからできるだけカッコよくしようとしてるでしょ!やっぱりしほちゃんは変わんないね~!」
「違いますよ………」
さっきまでのシリアスな空気が消え、しほはいつものように呆れていた。
大体、しほと千秋が出会うとこのようなやり取りが行われる。しほがいくら突き放そうとも、敵意を見せても、千秋は笑いながら近づいてくる。
苦手ではあるが嫌いではない、それが千秋に対するしほの思いだった。
「この子が長女のまほちゃん?大きくなったね~!覚えてる?何回か会ってるんだよ~。昔のしほちゃんみたいで可愛いね~!好きな食べ物は?好きな戦車は?趣味は!?」
「……千秋さん、まほが困っているのでやめてください」
「えっ……何?」
まほに抱き着いて頭を撫でまわしている千秋にしほは言ったが、相変わらずの笑顔で聞き返してきた姿を見て、しほは思った。
昔から何も変わってない人、そう思った。
「いい加減まほを離してください。まほが苦しそうです」
「えっ?本当?ごめんね?ついめんこくて……」
しほに言われると素直にまほを開放した千秋。
「だ、大丈夫です……」
「じゃあもっかい抱き着いていい?」
「それはやめてください……」
すごく嫌そうな顔をされながら言われたが、千秋は気にせず笑顔のまま次の質問をした。
「じゃあ~………一緒に試合見ていい?」
「それぐらいならいいですけど……」
「それじゃあ、私としほちゃんの若かれし頃の話をしてあげよ~!」
「私の話はしないでください!」
満面の笑みになりながら千秋は言うが、それを阻止しようとするしほの姿があった。
試合再開までまだまだ時間はある。
後書き
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