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歌集「春雪花」

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 夢ぞ見る

  春のまぼろし

   君の影

 追ふは侘しき

    昔なりけり



 快晴の青空…降り注ぐ春の日差しは心地よく、厳しく長い冬を払拭して夢見心地にさせる…。

 そんな景色を眺めればふと…近くに彼を感じたような気がして振り向けば、そこには風にそよぐ若草と、無邪気に遊ぶ小鳥だけ…。

 ここには居ない彼を想い、新たな春に…過去ばかりを思い出す…。


 侘しさだけが傍えに立ち…彼の姿をまた…探しだし…。



 朝ぼらけ

  土ぞ香りし

   春雨に

 何そあなぐる

    君のなき里



 朝方から降り始めた小雨は暖かく…微かに土の匂いを運ぶ…。

 本格的に春になる…雪は溶け、山並みは徐々に若草の春の衣へと変わりゆく…。

 そんな緩やかな春の夜明け…別に何があるわけではない。

 彼がいないのだから…ここに求めるものなぞないのだ…。


 この町に…彼はいないのだから…。



 
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