フロンティアを駆け抜けて
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揺れ動く支配者
(アルカさん……きついこと言っちゃったけど、納得してくれたかな)
ジェムは先ほど言葉を交わした自分と同年代の、しかしあまりにもかけ離れた人生を送って来た少女の事を考えていた。アルカにかけるべき言葉を必死に考え、彼女の過去を覗き見た上での結論は彼女に自分たちにしたことを償ってもらう形で一緒に過ごすことだった。
(私達を傷つけるのが好きじゃなかったのは本当、でも誰か人形にしたり殺すことを平気で出来ちゃうのも本当……だから、あのままじゃよくないって思った)
事実、抵抗感を無くしてしまうだけの行為をしなければ生きていけない過去を持っていた。でもそれは、これから変わっていかなければいけないことだ。当たり前のように人を傷つけていれば、ずっとあのような人生を歩むしかなくなってしまう。嘘だと知っていても、初めてのファンだと言ってくれた人にそんな生き方をしてほしくなかった。だから。
(もっと仲良くなれたら嘘をついたことも……謝りたいな)
ジェムはアルカに対してかわいそうだなどと思わないと言った。でもあれは嘘だ。彼女の過去を覗き見て、なんて不幸な人生だろう。なんて苦しかっただろうと思って涙を流してしまった。でも、そういう同情は彼女にとってジェムに毒牙を向ける十分な理由になってしまうから。気持ちを押し殺して、まず理由はどんなものであっても友達になってもらおうとしたのだった。
(その為にも、アマノさんは倒さなきゃいけない。お父様や他の偉い人達じゃなくて……私達が止めちゃえば、罪も大きくならなくて済むはず)
フロンティアのバーチャルシステムを乗っ取ることがどれくらいの悪いことなのかジェムにはあまりよくわからない。それでも自分たちが子供だからこそ、止める意味があるはずだ。
「ダイバ君……頼りにしてるからね」
ラティアスに乗り、自分の前でまだ眠っているダイバを両腕でホールドしながらジェムは呟く。ジェムの小さな体でしっかり支えられる彼は、まだ自分よりもいくつか小さい男の子で。でも自分よりもずっと真剣に戦い続けて、ただ憧れていただけの自分と違って親を超える方法を考えている彼は少し乱暴でそっけないけれど強い子供だと思う。
「ん……」
「……大丈夫? まだ苦しくない?」
「問題ないよ。……上手くやったんだね」
ジェムの声に応えるようにダイバは目を覚まし、周りを見回す。上へ向かうラティアスの背に乗せられていること、ジェムが自分を後ろから抱きしめていることからアルカとの決着を無事に終えたことを察したようだった。
「ううん、まだまだこれからよ。アマノさんを倒して、アルカさんと色んなことをお話しして……少しずつ、仲良くなっていけたらなって」
「……ジェムって変わってるよね。普通なら僕やあの女みたいなのは仲よくしようとせず無理にでも避けるんだけど」
「そうなの? まあいろいろ痛い目にはあったけど……うーん、今まであんまり同じくらいの年の子と会ったことがないからわからないわ」
「ふーん……ご愁傷様」
ジェムはバトルフロンティアに来るまではずっとおくりび山にいた。おくりび山は基本的に墓場だ。子供が来る場所ではないので、ジェムには今まで友達と言える相手はジャックとポケモン達しかいなかったのだった。それを言うとダイバはなんだか小ばかにしたように言う。
「むむ。ならダイバ君はもっと私に優しくしてくれてもいいのよ?」
「……僕より弱い奴になんで優しくしなきゃいけないのさ」
「もう……意地悪なんだから」
彼は全然変わらない言葉で呟くけれど。その声は以前よりもずっと柔らかくなった気がする。だからジェムも、素直に口を尖らせることが出来た。
「そんなことより、もう少しで最上階……この先に、パパとあの男がいるはず」
「どんな状況になってたとしても絶対にアマノさんを止めて、バトルフロンティアをもとに戻そうね!」
「うん、そのためにも……もう一度、作戦について話しておきたい」
ジェムは頷いた。最初の予定ではダイバの両親と戦う予定だったしその二人に勝つための作戦を話してきたが、現在の状況は違う。上を昇っている間ずっと考えていたであろう作戦を、ダイバはジェムに伝えた。
「アマノの手持ちが明確じゃない以上、想定外の事態も多いと思う。だからその時は……」
ダイバはそこでジェムの方に振り向いた。ダイバの深緑の眼が、ジェムのオッドアイと見つめ合う。何かを確認しているような彼に、口は挟まず真剣に見返した。
「……お互いの判断で、連携していこう。足は引っ張らないでね?」
「うん、わかったわ!!」
その言葉が、拙いけれども信頼の証。最上階が今どうなっているのかは不明だ。今ならきっと大丈夫だとジェムは信じる。ドラコとアルカ、二人の強敵を退けその過程でジェムとダイバは一方的に命令するだけではない。お互いの目的のために支え合う関係になれたからだ。ドラコが侵入するために撃ち破ったであろう壁のある階を越え最上階、ダイバの父親がいるはずの部屋へと踏み込む。まるでSF映画の中に入ったような、部屋中に色んなグラフや数字が刻一刻と変化するディスプレイに、何がどんな機能なのかわからないほどのたくさんの装置。機械によって蒼と黒で埋め尽くされた部屋は、プラネタリウムさえイメージさせた。
「……宇宙船みたいな部屋」
「ほとんどはフェイクだけどね。パパは――」
部屋の中はもぬけの殻だった。しかしダイバは気を緩めずに周りを見渡す。アマノやその手先がどこに隠れているかもわからない。しかし警戒を嘲笑うかのように。誇り高く、高慢で、不敵な男の声が部屋中に響いた。
「――――ようやく来やがったか。ったくよぉ……待ちくたびれたぜ」
「この声……!」
「パパ……どこにいるの」
ジェムも一度聞いたことのある、ダイバの父親の声。ジェムの父親とは逆の感情がむき出しになった声は、バトルタワーに異常が起こったことを全く問題にしていない。
「上だよ、せっかく自分のガキが挑戦しに来たってんだ。本気で受け止めてやるのが親心ってもんだろ。部屋の中央に乗ってみな。すぐに案内してやるぜ」
「ここが最上階じゃなかったのね……ダイバ君、行く?」
「待って。アマノは? 催眠術師と毒女がここに来たんじゃなかったの?」
ラティアスから飛び降り、すぐにメタグロスを出してダイバは問う。あっさりついていきそうになったジェムはやっぱり自分はまだまだだなあと自戒した。
「なんだよ。俺様があんな小物にやられるとか本気で思ってるのか? とっくにブッ飛ばして縛り上げてやったよ」
「……パパが今操られてないって証拠は?」
「疑り深い奴だな。まあそれでこそだが……仮に俺様が今操られてるとしたら、そもそもお前らはここに来れねえよ。今入った部屋の扉だって、俺様の意思一つでロックがかけられる。なんでわざわざ邪魔者を招き入れなきゃいけねえんだ?」
「それは……」
ジェムには理由が思い浮かばない。確かに乗っ取られているなら直接戦わなくてもジェムたちに邪魔をさせない方法はいくらでもありそうなものだ。しかしダイバは帽子を目深に被って考え始めた。少しでもダイバの考える時間を作る意味でもジェムも思いついたことを聞いてみることにする。しかしまず初対面である以上自己紹介だ。
「始めまして、私ジェム・クオールって言います! ダイバ君のお父様ですよね?」
「この局面で自己紹介とは律儀な奴だな。そう、俺様こそこの天空を切り裂くバトルタワーのブレーン、ホウエンの怪物と呼ばれるエメラルド様だ!」
ダイバの父親、エメラルドの過剰とすら思えるほど自信に満ち溢れた言葉。ホウエンチャンピオンという立場にありながら丁寧で静かな立ち振る舞いをするジェムの父親とは全く違う。
「それで、質問があるんですけど……そこにネフィリムさんはいるんですか? 私達が挑戦するならあなたとネフィリムさんが相手になってくれる……のですよね?」
ジェムは今まであまり敬語を使ったことがない。それは今までの人生で敬語を使う相手がいなかったからかもしれないし、チャンピオンの娘だから無意識的に自分が偉いと思っていたのかもしれない。既に面識のあるゴコウさんには普通に喋ってしまっていたけど、これからは知らない大人相手にはちゃんと丁寧に喋ろうと意識する。そしたらなんだかアルカみたいな喋り方になってしまった。
「あいつならいるぜ? みんなでお前らの挑戦を待ってんだ。あまり焦らすなよ」
「えっと……ならネフィリムさんともお話しさせてもらえませんか?」
「ハッ。疑ってるのか知らんが、言いたいことがあるなら直接面と向かって言いやがれ」
言っていることはわかるのだが、とにかく上に誘導したいらしい。姿の見えない支配者と襲撃者、不透明な状況に不安を覚えるジェム。
「……行こう。上に誰がいるとしても……勝つ」
「そうね……私達二人で力を合わせれば絶対負けないわ!」
ダイバは顔を上げ、ジェムを見ながら力強く言う。二人で部屋の中央に向かい、ジェムもラティアスから降りるとダイバに手を差し出した。ダイバも一瞬躊躇ったものの、その手を握る。
「やっとその気になりやがったか。それじゃあ……覚悟を決めろよ?」
エメラルドの声と共に、ジェムとダイバ、ラティアスとメタグロスが乗っている部分の床が淡く光り、上昇していく。
「――――――――」
ダイバはそっとジェムに耳打ちした。ジェムはにっこり微笑んで頷く。
(大丈夫、私は……お父様やお母様がくれたポケモンに、ダイバ君たちの事を信じる)
昇っていくと、風が吹き始めた。いや、室内から外に出始めたことで風が感じられるようになったのだ。完全に登りきるとそこは平たく広い屋上だった。床に目立った装飾はないが自分の目線と平行線の場所に白い雲が浮かんでいるほどの高さが生み出す光景は荘厳ですらある。気温は低く、薄着のジェムは寒さに身震いした。
「ママ!」
「ネフィリムさん……!?」
叫んだのはダイバだった。自分たちを迎えるように立っているのはエメラルドと、アマノ。そしてアマノの後ろには、ドレス姿のまま意識を失うダイバの母親、ネフィリムの姿があった。アマノの手持ちであるカラマネロに頭の触手で捕らえられている。ジェムもそちらを見て驚く。アマノは驚く二人を見て、苛立ちと嘲笑の混じった言葉を放つ。
「ふん……まんまと罠に嵌まってくれたな。これで貴様らも私の手駒となる」
「パパとママに何をした……!」
「見ての通りだが? ネフィリムを催眠術にかけ、それをもってエメラルドを脅した。逆らえばこいつの命はないとな。その隙を突いて、エメラルドも催眠術にかけてやっただけの事だ。そうとも知らずにここに誘い込まれた以上、お前達は終わっている。」
「アルカさんや私、ドラコさんだけじゃなくてネフィリムさんまで……どこまでひどいことをするの! そんな人は男の人として最低だってお母様も言ってたし、私だって許さないわ!!」
「え……?」
テレビで見るような、人質を取って脅す作戦。非道を重ねるアマノにジェムは怒ったが、ダイバは怒りではなく本気で意外そうな声を漏らした。
「……パパ、今の話は本当なの?」
「おいおい、そこを疑うか? まさか俺様が自分の妻を人質に取られて平然としてる男だって言いたいのか?」
「いや、だって――」
「大体、仮に嘘ならなんでこの野郎が支配者気取ってんだ? 理由もなしに俺様がこんな奴の言うこと聞いて何になる?」
「……それは」
ダイバは言い返せない。エメラルドのプライドの高さと自分の利益を求める性質はよく知っているからだ。自分が誰かに命令されることを良しとする人ではもちろんないし、バーチャルシステムを停止され、アマノに支配される状態が長続きすればフロンティアの最先端のポケモンバトル施設としてのイメージを大きく損なう。このフロンティアを設立するのにかかった金額は莫大というほかなく、オープンしたばかりで乗っ取られたことが知れれば確実に頓挫、引いては凄まじい損失になる。でも、ところどころに違和感を感じざるを得なかった。
「アマノさん! あなたはどうしてこんなことをするの! バトルタワーを乗っ取ってこのフロンティアを破壊する……そんなことして、誰が喜ぶっていうの!!」
「誰が喜ぶかだと? くだらん! そもそもこの場所はポケモンの力を研究し、より引き出すための軍事施設だった。だがある時を境に徐々にパトロンが減り研究の金がなくなったところにエメラルドに融資の話を持ちかけられ……金を貸すと同時に、今まで他のところにした借金をうちで一つにまとめてやるとな。私はここの職員だった。交渉を成立させて一年も経たないうちに、あのチャンピオンがここをバトルのための娯楽施設にしたいと言い出した!」
「このバトルフロンティアは……お父様が?」
「当然全員で反対した……誰かの笑顔などと言う曖昧なもののために我らの研究を止められる謂れなどないと……それを、この男は!!」
アマノはエメラルドを睨んだ。エメラルドは肩をすくめた後、笑いながら言う。その様は全く悪びれておらず、またこの状況に対する危機感はやはり感じられない。ドラコと同じく、催眠術にかけられたとしても自我を失うわけではないのだろう。
「ああ、チャンピオンとはガキの頃から付き合いがあるからな。……だったら貸した金今すぐ利子つけて返せっつったんだよ。五億ほどな。それが出来なきゃ無理やり潰すってな」
「もともと金に困っていた私達にはどうすることも出来なかった……我々の研究成果はあっさりと吸収され、ヴァーチャルシステムというお遊びの道具に成り代わった……だから私はこの屈辱を晴らすと誓ったのだ! 貴様ら全員を私の手駒にすれば、チャンピオンだろうと恐れるに足らん! 私がこのフロンティアを支配し、破壊して元の研究施設へと書き換える! エメラルドの事業も計画も木っ端みじんに破壊して、私と同じ絶望を与えてやるのだ!」
「大人の話はわからないけど……そういうのは、逆恨みっていうんじゃないの!」
「何もわかっていない小娘が知った口を利くなあ!! 私も乗っ取られた当初は仕方ないと思っていた……金を困って借りたのはこちらの方だと……だが真実は違った!」
激昂し、涙さえ流すアマノ。エメラルドがそれを一笑に付して言う。
「何小娘相手にマジになってんだよ中年。……まあわかりやすく言ってやると、そもそも俺様がこいつの研究施設に金を貸す奴らを脅したんだよ。チャンピオン様は軍事施設とか、ポケモン使って血みどろの戦いをするのはお嫌いだからな」
「え、えっと……」
ジェムは突然話された社会の話についていけない。まずパトロンと融資が何かわからなかった。ダイバはわかっているようで口を挟む。
「……だからわざとお金に困らせて、そこに自分でお金を貸して自分の言うことを聞かざるを得ない状況を作った?」
「そういうことだな。……そこへあいつがバトルフロンティアの話を持ちかけてきた。様々なポケモンバトルを演出できる巨大テーマパークを作りたいってな。それを知ってこいつはっこんな復讐を企みやがったのさ」
「何もかも貴様らの手のひらの上だった……だからこそ、私は貴様らとその子供を操る! それが報いだ! アルカが貴様らを捕らえ損なったのは誤算だが……お前達をここへ誘導してくれた以上あいつの役割はこれで十分!」
「アルカさんが……誘導?」
「そうだ! アルカはお前に私を止めろと頼んだが……それこそがあいつの最後の罠。お前達をここまで誘導するために、あえて納得したフリをしただけだ!」
ジェムはその可能性を否定できない。アルカが何を考えて話していたかは、あまりにも違う人生を送ったジェムには想像がつかない。だけど今の言葉は見過ごせない。
「……あなたなんかが、決めつけないで」
「何?」
「アルカさんは私達をここにおびき出したかっただけかもしれない。でも私と一緒に旅をするっていう言葉に納得してくれたかもしれない! もっと別の事を考えてたかもしれないのに……勝手なことを言わないで!」
ジェムにとっては、研究施設やらお金の話よりもそちらの方がよっぽど重要だった。最後に自分に笑いかけてくれたアルカの気持ちを、この男に代弁なんてして欲しくないと思った。
「ふん……お前と言葉を交わすことに興味などない。さあ、自分と友の子供を叩き潰せエメラルド!!」
「ああわかってるよ。ただし……あんまり足は引っ張るなよ?」
「誰に向かって言っている!! 貴様は既に私の操り人形に過ぎないのを忘れたか!」
アマノとエメラルドがにらみ合う。だが既に激情を露わにするアマノに対し、フロンティアのバーチャルシステムを乗っ取られ自身も操られているはずのエメラルドは不遜な笑顔を全く崩さない。ダイバがエメラルドに必死で訴える。
「パパ……! 本当に、パパはこの人に操られてるの? これも……フロンティアの参加者を盛り上げるためのイベントなんじゃないの?」
実際にアマノが自分の母親を捕らえ、このフロンティアを支配している状況に不安を隠せないでいるようだった。それも当然だろう。ここに挑む前のダイバは、まともに戦ったら誰も勝てないと言い切るほど父親の力を信じていたのだから。エメラルドはバツが悪そうに頭を掻く。そしてその後拳を握り高慢に言ってのけた。
「ったく、何そこらのガキみたいな顔してんだ……お前は俺の息子じゃねーか。これくらいでビビッてないで現実を受け入れろよ」
「そうだけど、僕はパパと同じじゃない!」
「だとしても、お前はジェムよりもチャンピオンよりも強くなって上に立ちたいんだろ? だったらそのために邪魔するやつは問答無用で叩き潰してみやがれ。それがこの俺様であってもな!!」
「……!」
アマノのカラマネロが気絶したネフィリムを放り捨て、ジェムとダイバの前に立ちはだかる。エメラルドも不敵に笑いながら躊躇なくマスターボールを取り出した。中かで出てくるのは、宇宙から降って来たような小さな隕石。
「岩タイプのポケモン……?」
「いや違う、これってまさか……!」
岩が、まるで顕微鏡で見る細菌のように小さな糸を生やし変異していく。ごつごつした表面が滑らかに、色は赤と緑に変質し。ヒトガタを思わせるフォルムでありながら体の先は極小のゲノムを思わせるポケモンが登場した。
「気持ち、悪い……あのポケモン、知ってるの?」
「デオキシス……宇宙のウイルスが変化を起こして生まれたと言われてるエスパータイプのポケモンだよ」
「あれがデオキシス……!」
自分の師匠であり、様々な伝説のポケモンを操るジャックから聞いたことがある名前だった。このホウエンにおける最強格の伝説はレックウザだが、それと同等の力を持つものがもう一匹存在すると。それがデオキシスだった。
「さて、最終確認と行くか。あくまでこの野郎の掌握してるのはバーチャルシステムだけ……ネフィリムを眠らせてその立場を乗っ取ったと言え、バトルタワーのルールは無視できねえ。俺とこいつで二体ずつ、お前とジェムで二体ずつ……本来のマルチバトルと同じルールだ。俺たちが勝てばめでたくバトルフロンティアはアマノの物。お前らもこいつに操られるってわけだ」
「何がめでたくだ。どこまでも癇に障る……! いいか、バトル中は絶対に私の指示に従え!」
「当然だろ、俺様が自分の意志で本気を出したら今のこいつらに勝てっこねえ。せめてテメエ程度のお荷物がいねえとハンデにならねえからな」
「き、貴様……!」
「そしてお前らが勝てば俺様は元通り、タワーのシンボルもくれてやるよ。さて、説明はこんなもんか」
子供たちの動揺も、アマノの憤慨も意に介さずエメラルドはルールを説明する。どんな事情があろうと、やはり最後はポケモンバトルで勝つしかない。
「ジェム……やっぱりパパは、アマノに操られていると思う。違和感はあるけど……根本的に、パパが操られてないのにここまで大人しくしている理由がないんだ」
「で、でも……すっごく余裕があるしアマノさんに対しても普通にしゃべってるわよ?」
「それはあのドラゴン使いもそうだった以上、根拠にはならない。バーチャルシステムの停止はバトルフロンティアの昨日の根本を否定する……だから、パパがアマノに操られないならそれだけは戻さないとダメなんだ。でもここに来るまで一回もバーチャルポケモンは出てこなかった……それがパパが操られている証拠だよ」
ダイバは真剣だった。確かにバーチャルが使えなくなればバトルタワーだけではなく全ての施設への挑戦が不可能になってしまう。それではここにいる意味がないのはジェムにもわかる。
「わかった。私よりもずっとダイバ君の方がエメラルドさんの事をわかってるもんね……なら、私はそれを信じるわ! お願いラティ!」
「ひゅうあん!」
「……もう、僕はパパの真似をしたいとは思わない。でも僕は勝ちたい……パパやお前がどんな計画を企んでいて、それを踏みにじることになったとしても……僕は、勝つ!」
「グオオオオオオォ!!」
ラティアスとメタグロスがメガシンカの光に包まれる。ジェムとダイバは己の相棒に、雫の髪飾りと腕のメガストーンを通してありったけの力を与える。
「パラレルライン、オーバーリミット! テトラシンクロ、レベルマックス! メガシンカよ、電脳の限界を解き放ち究極の合理へ突き進め!!」
「ドラコさんにアルカさん、そしてダイバ君や私を支えてくれたそれぞれの想いに応えるために、負けられない! ラティ、力を貸して!!」
ラティアスの体が一回り大きく、更に防御に優れたメガシンカを、メタグロスの体にダンバルとメタングが合体し、腕が大きくなり攻撃に優れたメガシンカを遂げる。
「さあ……こんな野郎にいちいち指示されて苛々してんだ。せめて楽しませてくれよ?」
「ホウエンの怪物を支配した以上、私は負けない……こんな子供たちに負けることなど、あってはならないのだ! 既に支配者は逆転している!」
エメラルドのデオキシスが念力を使い、腕の螺旋がぐるぐると回転を始める。アマノのカラマネロも瞳を光らせ、いつでも催眠術がかけられる状態となった。フロンティアの象徴であるバトルタワーにて、このフロンティアの存続とジェムとダイバの行く道を決定する最終決戦が始まる。
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