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Muv-Luv Alternative 帝国近衛師団

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第一話

 
前書き
慈悲のある心でお読みください! 

 
 

 一九七五年 八月十七日

 日本帝国 帝都京都

 有栖川宮(ありすがわのみや)











 時計の針が零時を回る頃、一人の男性が畳が敷かれた部屋を歩き回っていた。男性の表情は、緊張と不安が浮かんでおり落ち着きがない。

「まだなのか……」

 そう呟くが答えは返ってこない。代わりに襖を開けて三人の男性が入ってきた。

「少しは落ち着かないか?隆仁(たかひと)殿?」

 長身で綺麗に手入れされ、ピンッと張っている口髭をした海軍の軍服を着た男性が落ち着く様に言った。

「しかし博恭(ひろやす)殿……愛子が頑張っているのに何もできないなんて……!」
「だから落ち着けと言っているではないか。こういう時は男は何もできん」
「ですが……!」

 博恭と言う名の男性に論されるも隆仁は未だに落ち着かずにいるため、また違う男性も会話に参加し始めた。

「隆仁殿、私も最初はそうでしたが、やはり博恭殿がおっしゃるようにこういう場合には男は何もできません。ただ無事を願う事しかできませんよ」
載仁(ことひと)殿……しかし……」
「まぁ、そういう事だから黙って座っていろ。男はドンッと構えてればいいのだ!」
智忠(としただ)までもそう言うのか………」

 隆仁を優しく論する載仁は、優しそうな垂目と立派な白いカイゼル髭が特徴的な人物で、そして軍服を着ており陸軍の物を着用している。
 そして唯一隆仁を呼び捨てで呼んだ智忠は、何とも悪い目つきで、鷹や鷲のような攻撃的な印象を受ける。やはり軍服を着ており、博恭と同じ海軍の物を身に纏っている。

 ちなみに隆仁の軍服は陸軍の物である。

 三人に論された隆仁は大人しく座布団の上に座ったが………

「……………やっぱり何かしなければ!」
「落ち着け隆仁!そこの襖はダメだ!」
「は、離せ!せ、せめて、せめて愛子の傍にぃぃぃ!」
「邪魔になるからダメだ!」

 隆仁は立ち上がり、最愛の妻である愛子がいる八部屋先の部屋に行くために目の前の襖を開けようとするも、後ろから智忠に捕まれ前へ進めなくなっていた。隆仁は振り解こうと、智忠は解かれぬようにと、お互いの攻防が続いた。

 その二人の攻防を呆れながら見ている博恭とお茶をおいしそうに飲む載仁は、二人を止めることなく話をし始めた。

「空軍の解散は、やはり決定的ですね」
「ええ、その代わり新たに航空宇宙軍が編成されます」
「……空軍には悪いですが、奴らがあんな出鱈目な物を出して来ては、航空機は使い物になりませんからね」
「全く同感です。載仁殿」
「早く我が帝国に戦術機とやらが配備されればいいのですが……」
「最前線である欧州への供給が優先されていますからね……仕方がないと言えば仕方がない事です」

 二人の表情は話をしていくにつれて厳しいものへと変わっていった。
 そんな時に元気な鳴き声が聞こえてきた。

「ふんっ!」
「いってぇぇぇ!?」

 聞こえると同時に隆仁は智忠の足の甲を全力で踏みつけ、怯んだ隙に勢い良く一枚目の襖を開けて最初の部屋に入っていき、智忠は、痛みを抑えきれず転げ回っているが、博恭と載仁は気にすることなく、ほっとした表情になった。

「声を聞く限り元気な子供のようですね」
「ええ、無事に生まれて何よりです」
「では、我々も見に行きましょうか」
「そうですな、智忠!さっさと立て!」

 載仁は、おしめやガラガラなどの子育て道具を入れている紙袋を持ちながら、隆仁が開け放って行った部屋に入っていき、博恭もそれに続く。智忠は、博恭に怒鳴られ、未だに残る足の痛みに耐えながら二人の後を追った。














「愛子!無事か!?」

 八枚目の襖を勢いよく開けた隆仁が目にしたのは、まだ生まれて間もない赤子を優しく抱く妻の姿があった。

「わたしは無事ですよ、もちろんこの子も」

 産後の疲労を感じさせない優しい笑みを浮かべながら愛子は答え、よろよろとおぼつかない足取りで隆仁は近づき、幼き初めての我が子の顔を見た。すやすやと安らかな寝息を立て寝ていた。

 なんと可愛い顔をしているのだろうか!

 そう思いながら、隆仁は愛子に一つ質問した。

「こ、この子は……男か?それとも女か?」
「男の子ですよ」
「そ、そうか」

 ホッと息をついた隆仁は改めて、自分の息子の顔を見た。そして優しく抱いた。

 小さい……とても小さい。だがとても暖かい……。

「そうだ私はお前の父親の有栖川宮隆仁だ。よろしく。……………正仁(まさひと)…………有栖川宮正仁」
「正仁ですか……良い名です」
「正しい行いをする、出来る人に育ってほしい。そういう意味がこもっている」

 赤子は正仁と名付けられ、新しい家族を歓迎した。
 そして入るタイミングを部屋の外で見計らっていた三人が入ってきた。

「愛子さん、おめでとうございます。これはつまらぬ物ですが使ってください」
「載仁様、ありがとうございます。ありがたく使わせていただきます」
「お疲れ様です。そしておめでとうございます。愛子殿」
「おめでとうございます!愛子さん!」
「博恭様も智忠様もわざわざありがとうございます」

 三人から紙袋と祝福と労いの言葉を愛子は受けた。そして三人も正仁の顔を覗き見た。

「めんこい顔をしておりますね~。正仁君こんばんわ」
「愛子殿の目にそっくりだな」 
「俺の予想だと、この子は確実にイケメンになる!間違いない!」

 三人とも様々な感想を口にするが、総じてかわいいっと言っていた。その光景を見ていた隆仁は、何故か無性にイラついたので大きく咳払いをしてこちらに三人の視線を向けさせた。

「お三方、そろそろ正仁に自己紹介してはどうですかな?」
「そうでした。まだ名前も名乗っていませんでしたね」
「うむ、それは失礼した」
「いや、今名乗っても覚えないんじゃ……」

 智忠の言葉を無視して二人は自らの名を名乗った。

「私は閑院宮(かんいんのみや)載仁。陸軍軍人をしております」
「私は伏見宮(ふしみのみや)博恭。海軍軍人だ」
「……俺は桂宮(かつらのみや)智忠。博恭殿と同じ海軍軍人だ」

 三人の自己紹介が終わるもやはり正仁は眠ったままだった。




 そしてしばらく正仁を眺めると三人は、夜更けなのでお暇させてもらう、という事で隆仁は外まで三人を見送る事にした。 

「お三方、本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げる隆仁に対し三人は笑っていた。

「お気になさらなくて良いですよ隆仁殿。同じ宮家なのですから」
「そうだぞ隆仁殿、我らは家族も同然。気にすることなどない」
「困った事があったらちゃんと言えよ?先輩父親として助言してやる!」
「お三方………本当にありがとうございます!」

 更に深々と頭を下げる隆仁に苦笑いになる三人であった。その後、二三言葉を交わした後、博恭と智忠は帰って行ったが、載仁は隆仁にある事を聞くために残っていた。

「隆仁殿、皇帝陛下に男児誕生のご報告はいつなさるのですか?」
「はい、明日にでも拝謁を賜りたく思っています」
「それはやめた方がよいでしょう。せめて一週間は愛子さんの正仁君の傍に居てあげてください」
「しかし……」
「皇帝陛下にもご予定がございます。私から皇帝陛下へ拝謁の旨をお伝え申し上げます、それまでは二人の傍に居てやりなさい。いいですね?」
「……わかりました」
「では私はこれで」

 そう言うと、載仁は帰って行った。

 空には月が煌々と輝いていた。美しいと思う感情と憎いという感情が隆仁の心に現れ、悲しい気持ちになった。

「あんなに美しいのに、BETA共の巣になっているのか………悲しいな」

 そう言うと玄関に入り、妻と我が子が待つ部屋へ足を進めた。










 BETA

 正式名称『Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race』日本語にして『人類に敵対的な地球外起源種』

 この世界の人類の戦争相手である。


 今の段階で人類の30%が殺された。


 そんな混迷とする世界に――











 今日、片割れが生まれた。







 
 

 
後書き
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