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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第三章 X《クロス》
  奪取


昨晩、と言っても時間的にはもう今日になっていたその時刻に、橘が御坂妹に抱え込まれてきたそのあと。



朝になってから「EARTH」に電話した上条は、魔術師である隣室の友人、土御門に事の次第を相談していた。

彼の所属する必要悪の教会(ネセサリウス)も今は「EARTH」と協力体制を取っている。
なのでここで彼に相談することは何らおかしくはない。


むしろ、上条は戦力として彼に協力してほしかった。



相手がアンデットのようなものであることは上条も理解したし、それがどんな奴らかうろ覚えだったが、御坂妹の説明でしっかりと思いだした。






彼の右手に宿る幻想殺し(イマジンブレイカー)は異能の力を問答無用で打ち消す。
それはアンデットの放つ炎や電撃、さらにはその特性である「不死」をも無効化することが可能だ。

しかし、いくら相手の力を無効化できても、それはあくまで右手首から先に当てなければならないし、そうしたとしても相手の肉体はそうあるだけでも人間のそれを容易に超えている。
拳ひとつで立ち向かっても、無謀であるのは火を見るよりも明らかだ。



ゆえに、取り急ぎすぐに呼べた土御門を連れてきたのだ。



「アンデット?カミやん、オレを呼ぶ気持ちは分かるが、そいつぁ役者不足すぎやしないかにゃー?」

「お前が魔術を簡単に使えない身体だってのはわかってる。でも一刀に連絡はしたから、一時間もしないうちに来るとおもうんだ。だからその間・・・」

「・・・・・・カミやん、カズちんにはなんていって呼んだんだ?」


それを聞いて、土御門が魔術師の――プロの目をして聞いた。
その質問に、上条は一刀を呼んだ時の会話を簡単に教える。


「橘さんが連れこまれて、アンデットがいるかも~って・・・」

「・・・カミやんもカズちんもまだ学生ってことか・・・・」

「は?」

「一時間もあれば襲撃作戦なんて30は仕掛けられる。待ち時間としては長すぎるぞ・・・・」

「お、おいまさか・・・」


ベランダに続く窓をカーテンで遮り、その隙間から簡単に外を見まわした土御門に、上条が心配そうな声をかける。
そして、部屋の周囲に彼がいつも魔術に使う色つき折り紙を設置していった。



「土御門、お前魔術を使ったら・・・」

「へーきへーき。今はまだ準備しているだけだから、スイッチを入れない限り身体に支障はない。ほれ」


そう言いながら、シャツの前を開いて身体に異常がないことを表す土御門。









能力者に魔術は扱えない。


それは彼らの世界の魔術師においては常識だ。

しかし、土御門はこの学園都市に潜入した時、能力開発(カリキュラム)を受けている。
そのために、彼は「能力者」にカテゴライズされてしまい、魔術を扱えば身体が崩壊するということになっている。


かつては陰陽術のエキスパートだった彼は、一つ魔術を使うだけで血を吐き死ぬような思いをすることになってしまったのだ。

しかも開発された能力は、傷の上に薄皮を張る程度の力しかないレベル1という非常に微弱な「自動再生(オートリバース)
これのおかげで魔術を使ってもある程度は大丈夫なのだが、それでも死ぬような思いをするのだ。


「崩壊するということになっている」とはこういうことだ。


しかし、それでも彼は魔術施行の準備をしていた。



「で?襲われたのはそこの・・・」

妹達(シスターズ)、一〇〇三二号のミサカです、とミサカは簡潔に自己紹介をしてテレビのほうに向きなおします」

「はー、うわさにゃきいてたけど初めて見たにゃー」


そういって、彼は話には聞いていた第三位のクローンをまじまじと見て感心したような声を上げる。


「私たちの考えでは狙われたのはお姉様(オリジナル)のほうかと思われます、とミサカは自分の考えを述べておきハキキュアの視聴に戻ります」



『うぬの覇気が、我が五体を刺激しておるわ!!』

『ゆくぞ、フザケンナー!!この世界は私たちが守る!!ォアタァ!!』




「なるほど、古代中国に伝わる魔力「気」を、覇気と称して体を魔術で強化してるんだね。となるとあの服装は・・・・」

「何やら隣からよくわからない解説が出てますが、ミサカは純粋にこの作品を楽しみましょう、と言いながらミサカどうせ勝つであろうハキキュア応援します」



テレビの液晶の向こうで、何やらフリフリの衣装を着た少女(?)が劇画タッチに描かれて激しく戦っているのを、二人の少女が目をキラキラさせて見ていた。
二人のそのキラキラの方向性は少し違う気がするが、とにかく楽しんでいるならいいのだろう。




その二人を置いて、土御門がポイポイと折り紙を放りながら設置していく。
適当に投げているようで意味があるらしく、片手で瞬時に折っていくつか放ると、よし、と頷いて上条の隣に座り込んだ。


「もしも誰かがこの部屋に無理やり押し入ろうとした瞬間に発動するようにしたから、とりあえずは時間は稼げると思うにゃー」


土御門いわく、効果としては気配や姿を完全に遮断する結界を張る程度のものらしい。


しかし、その中に上条は入れない。
理由は右手だ。



「だからもしもの事があったら、カミやんはすぐにこのベランダから逃げろ。こっちから来たら玄関からだ」

「お前らを置いて・・・」

「お前がいて、アンデットに吹き飛ばされでもしてみろ。結界にぶち当たったら俺らは丸見え、全員ミンチだ」


その言葉に「う・・・」と言葉を詰まらせる上条。
と、そこにピンポーン、というインターホンが鳴らされ、呼び出されていた御坂美琴がやってきた。



「で?後で話すって言ってたけど、いったいどうして呼ばれたのかしら?」

「ああそれは・・・」



と、上条が中に招き入れて事情を話す。



それを聞き、美琴が驚き、理不尽だという顔をしていた。





「なんでまたあの子たちが狙われなきゃならないのよ!」

「それはわかんねぇって!でも狙われてんだから無視できねぇだろう!?」



思わず叫んでしまった美琴だが、上条の言葉にそれもそうだと落ち着く。



「で?この人はなんなの?」

「ああ・・・妹が連れてきたんだ。助けてもらったみたいで・・・・」



と、そこまで聞いて、美琴が上条の言葉を「シ・・・」と遮った。



「な、なんだよ」

「近くで電磁波が発せられてる・・・・」

「発電機とかのじゃねぇの?」

「違うわ。機器からの電気じゃない・・・これは・・・・生体電気?しかもこの大きさ・・・!!!」



その感知したものの大きさに、美琴が驚いてベランダのカーテンをバサッッと開いて、その先のビルの屋上に、敵を見つけた。


直後




バツゥィッッッ!!!という凄まじい電撃の爆ぜる音がして、上条の部屋のリビングが光に包まれた。



が、直後にそれも消える。

飛んできたのは、電撃の光線。
それを美琴が受け止め、上条が消したのだ。



ビルの向かいには、黒く、ほそ長い体をした、どうやら魚のようなアンデットがいた。



「あっぶなぁ!?」

「へぇ・・・あたしに向かって電撃放ってくるなんて・・・・いい度胸してるじゃないの!!」


ガゴォ!!



そう言いながら、美琴が磁力を使って上条の部屋の壁の中にある鉄骨を、コンクリートごと抉り取った。


「ギャーーー!!御坂さん!?あなたオレの部屋になんてことを!!??」

「いちいちうっさい!!」



そして、上条の不幸の叫びを背に受けながら、美琴がそれを投げ飛ばし、それに対しビルの上のアンデットはそこから一足飛びに上条の部屋へと突っ込んできていた。




躱す術などない。
誰が見てもそうだった。

だが、美琴の投げたそのブロックはアンデットの体に当たった瞬間、ぬるりと滑ってあらぬ方向へと落ちて行ってしまったのだ。



「え!?」

「ちょいちょいちょいちょい!!こっちくんぞぉぉぉぉオオオオオオ!?」



ドゴォ!!!



そのままアンデットは上条の部屋へと突っ込み、美琴へと突進してくる。
が、美琴は部屋中の家電や金属をかき集め、磁力で壁にしてそれを受け止めていた。

上条が振り返ると、そこには土御門やインデックス、御坂妹はおらず、おそらくは発動したという結界内に隠れているのだろう。
魔術が発動したことで土御門の体には反動が跳ね返っているはず。それはそれで心配だが、今自分がやるべきことはとにかく・・・・


「こっちだこの野郎!!おらこいよ!!」


そう叫び、アンデットを部屋の外に誘い出そうとすることだ。
しかし、アンデットは全く上条に反応せず、美琴と向き合って動かない。


「無理よ・・・こいつ、あたしに用があるみたいだから」

「クソッ・・・・」

「あんたは早く逃げなさい!!」

「お前置いて、逃げられっかよ!!」


そう叫んで美琴の隣に立つ上条だが、ぼそりと小さな声でつぶやいた。


「で、でも、できればこの部屋とは別のところでやってほしいと上条さんは提案するのですが・・・」

「相手に言いなさい!!」



バッ、バチィッ!!!



と、直後に両者が同時に電撃を放ち、ちょうど真ん中でそれがぶつかって光を放つ。


「グ・・・む・・・」

「あたしに電撃で張り合おうなんて、調子のってんじゃないわよッッ!!!」



ドォオ!!と、美琴から放たれた電撃が、中間地点を相手の方へと押しのけていく。
上条は美琴の隣で、もしもこちらに弾かれてきたときのガードとして、右手を構えていた。

そんな心配をしている上条に、美琴が自信満々に言う。


「私が負けるなんてことはないから、あんたは早く避難しなさい!あいつと一緒に昇天したいの!?」

「ば、馬鹿野郎!オレは自分の部屋の心配してんだよ!!」



そんな口げんかをしながらも、美琴の電撃はアンデットのそれを押しのけていき、もうすぐで達成するといったところまで行っていた。

それはそうだ。
彼女は学園都市の頂点のレベル5、その第三位なのだ。

彼女に電撃戦を挑んでは、勝てるものはそうそういない。





しかし




「何やら余裕そうだが・・・・後天的に身に着けた発電能力で、俺と張り合って勝てると思ってるのか?」




「え?」

「うそ・・・・」



「ふぬぁっ!!!」


いきなり声を発してきたアンデットは電撃での抵抗をやめ、その体で美琴の電撃を受け止めた。
すると、受け止められた電撃がその全身で吸収されていき、バチバチと爆ぜながらアンデットに蓄電されていっているではないか。



「俺はあらゆる生物の中でも希少な、自家発電することが可能な生物の始祖だぞ。後付けされたその程度の力で、張り合おうなどおこがましいぞ、人間!!!」

「そんな・・・・きゃぁぁああああああああああああ!!!」

「御坂!!!」


吸収された電撃と、アンデットの「そこそこ本気の」電撃が合わせてぶつけられ、美琴が悲鳴を上げてその場にうずくまる。

上条はとっさにその電撃に右手をぶつけ消滅させるが、その電撃による光が晴れた先には、アンデットが腕を振るって立っていた。



「もらっていくぞ。電撃使い(エレクトロマスター)の頂点に立つ少女」

「この野郎!!!」


美琴に手を伸ばすアンデットに右拳を振るう上条だが、それはあっさりと受け止められて逆に上条が殴り飛ばされた。

アンデットはその上条に対し、興味などないといった風に視線を外し、美琴の体を肩に抱えてベランダから出て行こうとする。



「魔導書をその身に宿した少女もここだったはずだが・・・・逃げたらしいな。ではさしあたってはこいつだけでも・・・・」


どうやら上条は結界にはぶつからなかったようで、この部屋にいる別の人間はばれていなかった。
が、その背中に一枚のカードが突き刺る。


振り返ろうとすると、背後から《turn up》という音声が聞こえ、背後に仮面ライダーギャレンが立っていた。



「さ・・・・せん・・・・・」

「・・・封印のカードか・・・・ふん、所詮選ばれたといっても、人間に封印された程度の奴等だったということか」

「クソッ・・・・・」

「その程度のアンデットを封印したくらいで、勝てると思うな。人間」



バッ・・・・ツン!!!!




と、上条の部屋を再び一瞬の閃光が覆い、あとにはブスブスと煙を上げ、バチバチと火花を散らしながら倒れるギャレンと、上条が部屋に転がっていた。





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「そうして、あなたたちが来るまで待っていました、とミサカは話を終えます」



これまでの時間、御坂妹は土御門の体の具合をできる範囲で診て、飛び出そうとするインデックスを押さえていたのだ。


アンデットの発言から、インデックスも狙いだということは簡単に分かった。
だからこそ、まだ敵がいるかもしれないのに彼女を出すわけにはいかなかった。



「御坂よりも上の・・・・電撃を放つアンデット・・・!?」

「生まれつき、と言っていたので、あの体からしてもおそらくは電気ウナギかと思われます」



そう、敵はエレクトロエェルアンデット
電気ウナギの始祖たるアンデットだ。



しかも




「言葉を発するだけの知能がある?」

「完全に上位アンデット級・・・・しかも俺たちの封印してきたアンデットを「あの程度」扱い・・・」

「ご主人様・・・・」

「ん?」




「囲まれています。数は五体と言ったところでしょうか。おそらくは異形のモノ・・・アンデットでしょう」




と、そこで愛紗が息をひそめるように一刀に報告する。

それを聞き、改めて一刀が耳を澄ませると、確実に人間のモノではない足音と息遣いが聞こえてきた。



「・・・・インデックスは俺が連れて行く。愛紗は俺が戦っている間に全員を逃がして「EARTH」に連れて行ってくれ」

「御意です」

「俺もアンデットのほうに行く。そっちは俺の領分だ」

「助かる」


「え・・・えっと・・・と、とーまと・・・」



「大丈夫だ、インデックス。必ず守ってやるから。また上条と会えるさ」



そういって、翼を開く一刀と変身する剣崎。



一刀の背中にインデックスを乗せ、二人が飛び出して行ってアンデットに向かう。




その隙に愛紗の先導で全員が「EARTH」に向かった。





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ミッドチルダのあるビル内



そこは今「火災現場」と呼ばれる場所に変貌していた。




「や、やめろ!!なんで俺がこんなことに・・・・」



その炎の中で、男が悲鳴をあげてへたり込む。

目の前には、バイザーで顔面上部を覆った長身の女性。

男の利き腕である手には、すでにすべての弾丸を打ち切った銃が、まるでお守りでもあるかのように強く握りしめられていた。




『――――は――――どこですか―――――?』



そこでは先の現場と同じように、スピーカーのような声を出してなおも女性が質問する。



それに対し、男は知らないと叫び、命乞いをしていた。

その男性に対し、女性が最終確認とでもいうかのように、また同じ質問をした。





『教えてください。イクス・・・イクスヴェリアはどこですか』





「し、しらねぇって言ってんだろ!!何なんだよ、そのイクスってのは!?」

『知らない・・・・・そうですか』




そう言って、女性が本当に知らないということを確認し、その場を去る。



「た・・・すかった・・・・?・・・し・・・死ぬかと思ったぜ・・・」


助かったのかと男がその場で安堵し、息をもらす。



しかし



「なんで俺がこんな目に会わなきゃ・・・・あん?・・・・お、おい・・・うそだろおい!!?」



その男性の手にナイフが握られ、その手が徐々に自分の喉仏に向かって持ち上げられていく。



「おいおいおいおい・・・・じょ、冗談だろ・・・とまれ・・・止まれよ俺の腕だろうかよ!!やめろ・・・俺ぁ死にたくなゴブッッ」



男のそれを拒否する声もむなしく、ナイフの刃が喉につきたてられ、そこから血が噴き出してくる。
なおも動く心臓の動きに合わせ、そこから噴水のように血が噴き出してくるが、それも十秒もすれば収まってきて、男が自らの血液でできた池の中に倒れこむ。


コヒュー、コヒュー、という枯れるような呼吸音が弱まり、完全に沈黙する。





その火災現場は、のちに連続放火殺人事件の11件目に数えられる事件で、この放火殺人事件がついにミッドチルダに入ってきた、はじめての事件である。







物語は交差する。



今はまだ交わらなくとも




それはいずれ、新たなる物語を作り出すために。







to be continued

 
 

 
後書き


と、いうわけでいったい何があったのか、でした!!

蒔風
「これで今回、まずは美琴が連れて行かれたわけか・・・・橘さんは何か知ってるみたいだったけどな」


ええ、彼はあのアンデットがどんなものか知っています。



さて、今回で何と何が交差するかわもうお分かりでしょう。

ドラマCD「StrikerS X」と、「劇場版仮面ライダーブレイド Missing Ace」です。


蒔風
「だけど時期が少しずれてるんじゃないか?「X」のほうは「StrikerS」から3年後だし、ブレイドのほうは4年だろ?」


そう、第一部の終わりからと第二部の終わりまでが半年だとしても、まだ約一年半しか経っていないです。


だからティアナは執務官になりたてです。
と、言ってもあんまり変わりませんけどね。


でも、なぜ早く始まったのかもまた謎にしておきましょう。




蒔風
「にしても今回のアンデットにも強弱があるみたいだな」

あるね。
今回のエレクトリックエェルアンデットは、完璧に上級以上です。




ちなみにこんな感じのアンデットはまだ出てきます。
雑兵のアンデットと、上級のです。



蒔風
「次回、ティアナ、ミッドチルダへ。そして薄緑参戦」



ではまた次回

 
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