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風魔の小次郎 風魔血風録

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136部分:第十二話 聖剣の真実その十


第十二話 聖剣の真実その十

「姫様、それは確かに文に書かれていたのですね」
「四千年の前より定められていたことです」
 四千年前という言葉が出された。
「このことは」
「今度は四千年前かよ」
 話がさらに大きくなっていくのを感じていた。
「一体何が何だか」
「文には確かに書いてあります」
 小次郎の言葉に応えたわけではないが夜叉姫の言葉は続く。
「四千年前よりある十本の聖剣。その正統な所有者こそ」
「俺と」
「この武蔵というわけなのか」
「そうです。だから京介」
 あらためて弟を見て声をかける。
「貴方は手放しなさい。その黄金剣を」
「馬鹿な、姉上」
 壬生はすぐに姉の言葉を遮った。
「私は夜叉最高の剣技の持ち主」
「それはわかっています」
 それは姉であり夜叉の首領である彼女が最もわかっていることであった。
「その私が聖剣を、黄金剣を扱えないとは。幾ら姉上の御言葉でも」
「壬生」 
 今の壬生の言葉に陽炎が顔を曇らせる。
「夜叉姫様の御言葉を疑うというのか」
「いや、それは」
 こう言われては夜叉の者としては言い返せなかった。
「それはないが」
「では早く黄金剣を放せ」
 陽炎もまた言うのであった。
「さもなければ御前はその剣により滅びるぞ」
「滅びる。私がか」
「その通りです。聖剣を持てる者は正統な所有者のみ」
 夜叉姫がまた言う。
「それ以外の者が持てばそれだけで災いがあると書かれていました」
「では私は」
「そうだ」
 陽炎がまた壬生に声をかける。
「今はまだ間に合う。だからこそ」
「・・・・・・いや、断る」
「壬生・・・・・・」
「私は勝つ」
 暗い目だった。暗い炎が宿る目になっていた。
「小次郎に。だからこそこの黄金剣を」
「止めておけ壬生」
 今度は武蔵が壬生に対して言ってきた。
「武蔵っ」
「どうしてもというのなら黄金剣を手放せ。そのうえで小次郎と闘うのだ」
「貴様もまた手放せというのか」
「そうだ。今の御前は剣の力に頼り過ぎている」
 彼が止めるのはそれが理由だからだ。冷静に壬生も剣も見ていたのだ。
「貴様の剣の腕なら小次郎と風林火山といえどあるいは」
「黙れ!」
 激昂して武蔵の言葉を遮った。
「正統な所有者と書かれていたからか、だから私に哀れみをかけるというのか」
「俺は人に哀れみなぞかけはしない」
「いや、かけている」
 もう武蔵の言葉は耳には入っていなかった。
「だからだ。貴様は今私に」
「京介」
 また夜叉姫が弟を止めにかかってきた。
「これ以上の我儘は。例え貴方といえど」
「姉上、御覧下さい」 
 その姉に背を向けて両手で黄金剣を顔のところに右にかざして構えた。
「私こそが。この壬生京介こそが」
 目も血走り殺気が身体を覆っていく。青い氷だ。
「この黄金剣を使いこなせる者だと。御覧下さい」
「壬生っ」
「京介!」
「行くぞ小次郎!」
 今壬生は己のその力を放った。
「夜叉霧氷剣!受けてみろ!」
「むっ!」
 それは彼が放った霧氷剣の中で最も威力の強いものであった。その大きさも速さも小次郎をして驚愕させるに充分のものであった。
「まさか。これが黄金剣の、そして壬生の本当の力かよ」
「私がここまでの力を出したことはない」
 黄金剣を左手に持ち前に思いきり突き出していた。
「これならば小次郎、貴様を倒せる!」
「小次郎!」
「いかん、間に合わん!」
 風魔の者達はその霧氷剣を見て声をあげる。その速さと威力は到底避けられるものでも受け止められるものでもない。そう思ったからだ。
 技はそのまま小次郎に向かう。最早勝敗は決した、ここにいる誰もが思ったその時だった。
 
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