風魔の小次郎 風魔血風録
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135部分:第十二話 聖剣の真実その九
第十二話 聖剣の真実その九
「そういうことだ。それならばだ」
「だが。俺は」
「逃げることはできん」
逃れようとするがそれも適わなかった。どうしても逃れることはできなかったのだ。少なくとも今は。その間にも武蔵の剣が振り下ろされようとしていた。
そして。その剣が振り下ろされる。これで竜魔は終わりだと誰もが思った。
「死ねっ、竜魔!」
声と共にその長刀を振り下ろす。
「これで最後だ!」
「おのれっ!」
「竜魔!」
「竜魔さん!」
「無理か!」
竜魔と風魔の者達の声が交錯する。そこには姫子と蘭子もいた。誰もが駄目かと絶叫したその時だった。武蔵の剣を止める者がいた。
「何っ!?」
「残念だったな、武蔵」
そこにいたのは小次郎だった。彼はその風林火山で武蔵の剣を止めたのである。それを見て武蔵はその顔を強張らせた。
「何故貴様がここに」
「竜魔の兄ちゃんを助けに来たのさ」
「それはわかる」
己の前で不敵に笑う小次郎に対してまずはこう述べた。
「しかしだ。貴様は壬生と剣を交えていた筈」
「ああ」
「それがどうしてここに。何時の間に」
「どうしてここまで速く動けたかは俺にもわからねえ」
「馬鹿な、こんな筈がない」
今まで彼の相手をしていた壬生も呆然としている。
「何時の間に消えたのだ。しかも瞬く間にそこまで行くとは」
「だから俺にもわからねえって言ってるだろ」
「馬鹿な、わからないで済む話か」
壬生の言葉は実に正論だった。
「この私に気配を気付かせることをさせずに瞬時にそこまで移るとは。一体」
「いえ、それはわかっています」
ここで。新たな声がした。その声は。
「姉上!?」
「京介、今のあの男の動きは説明できるものです」
「それはどういうことですか姉上」
「風林火山です」
そこにいたのは夜叉姫だった。後ろには陽炎と艶のあるくの一が控えている。どうやら陽炎が彼女をここまで招いたらしい。
「聖剣の力なのです」
「聖剣ですか」
「そうです。剣の力です」
建物の門の前に立ちこう言う。その間に陽炎は静かに階段を下りる。そのうえで壬生の横に来たのだった。
「壬生、この闘いは退け」
「何だと!?」
「残念だが貴様には黄金剣は完全に使いこなせるものではない」
強張った顔で壬生に言うのだった。
「貴様の気持ちはわかるがな」
「馬鹿な、そんな筈がない」
壬生はそのことをすぐに否定した。その間に竜魔は鏡から抜け出て武蔵に対して構えていた。小次郎に救われた形であった。
「私は上杉家の者で夜叉きっての剣の使い手だ。この私が黄金剣を使いこなせないということが」
「いえ、陽炎の言う通りです」
夜叉姫の言葉が続く。
「先程。陽炎が送ってきた文を読み終えましたが」
「あれをですか」
「それは聖剣について書かれていました。伝説の聖剣」
夜叉姫は言う。
「それはただ持つ者がその力を発揮するのではないのです」
「といいますと!?」
「聖剣にはそれぞれ正統なる所有者がいます」
夜叉姫はまた言った。
「それはまだ二人しかわかっていませんが」
「その二人とは」
「二人共ここにいます」
ここで夜叉姫の目が光った。
「一人は風魔の小次郎」
「俺かよ」
「そしてもう一人は」
「もう一人は」
「飛鳥武蔵」
壬生にとってもここにいる全ての者にとっても今の言葉は驚くべきものだった。
「貴方達です。貴方達こそが伝説の風林火山と黄金剣のそれぞれの正統なる所有者なのです」
「おいおい、俺はわかるけれどよ」
小次郎は自分でこれを言った。
「何でこいつなんだよ。確かに同じ長刀だけれどこれまで全然接点がねえじゃねえかよ」
「俺にとっても初耳だ」
武蔵は言いながら夜叉姫の方を見ていた。
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