魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第4章:日常と非日常
第98話「神降しの代償」
前書き
代償と言っても人によっては大した事がないです。
逆に言えば、人によっては死活問題レベル...?
サブタイの割にはシリアスというよりギャグ寄りの展開です。
ギャグなんてセンスないのであまり書けませんけどね!
=司side=
「.........。」
日曜日の朝。私は眠気覚ましついでに体内に霊力を循環させる。
昨日、優輝君達に霊力の扱い方を教えてもらう事になり、とりあえず体内を循環させるように操る事で、霊力に慣れるようにしていた。
今やっているのもその一環だ。
「司、ご飯よ。起きてるかしら?」
「あ、うん。今行くよ。」
お母さんが部屋の外から声を掛けてきたので、私はリビングへと下りる。
「(今日はどうしようかな...。)」
別に霊力を扱えるようになるのは、急いでいる訳でもない。
だから、今日は特に予定がないのだ。
「(まぁ、八束神社にでも行って考えようかな。)」
もしかしたら、優輝君や、久遠とも会えるかもしれないし。
そう考えながら、私は朝を過ごしていく。
「行ってきまーす。」
朝食や身支度を終わらせ、私は家を出る。
学校の宿題も金曜日の内に終わらせておいたので、懸念事項は何もない。
「(そういえば、魔法が使えない以前はどうやって休日を過ごしてたっけ...?)」
外出する場合は、ゲームセンターとかに行ってたっけ...?
他には、前世だと優輝君と遊んだりもしたかな。
家でだったら、録画しておいたアニメとか見て時間を潰してたっけ。
...あれ?今世じゃ、魔法にかまけてあまりそういうのやってない...?
ま、まぁ、すずかちゃんやアリサちゃんの家で偶に遊ぶし...。
「(強くなろうって、強迫観念に囚われてたからなぁ...。)」
誰かを不幸な目に遭わせたくない。...そんな想いで今までは過ごしていた。
そのせいで心にゆとりがなかったし、誰かと遊ぶというのもなかった。
そのゆとりができたらできたで、どう過ごすか悩んでいるんだけどね。
「...っと、着いた。」
考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか八束神社前に着いていた。
「あれ?誰かいる?」
石段を登っていくと、神社に誰かいるのが目に入る。
あれは...。
「椿ちゃんと、葵ちゃん?それに....。」
那美さんは今日はいないみたいだ。...もしかしたら席を外してるだけかもだけど。
でも、いつもは見ない人がいた。
「(優輝君はいない...?じゃあ、あれは...。)」
珍しいと思った。優輝君以外の人と椿ちゃん達がいるのは。
だけど、その人物は....。
「緋雪...ちゃん....!?」
神社の右側の縁側に座っていたその姿を見て、私は驚く。
長い黒髪の女の子。...緋雪ちゃんに、とても似ていた。
「あっ....。」
「っ....。」
私に気づいたようで、女の子も私を見る。
そして、すぐに気まずそうに顔を逸らした。
「(...似ている。けど、違う...。)」
確かに緋雪ちゃんに容姿が似ていた。だけど、雰囲気が違った。
むしろ雰囲気で似ているのは...。
「あー...司に見られたわね。」
「....どう説明しよう...。」
椿ちゃんが頭を抱え、女の子も悩んでいた。
「別に、事情を説明できる相手だからいいでしょ。」
「...それもそうか。」
「そう言う訳よ。だから、説明しなさい。優輝。」
「....えっ?」
今、椿ちゃんの口からとても見知った名前が出たような...。
「どこから説明したものか....。」
「...ま、まさか...。」
頭を掻きながら説明に悩む女の子を、私は震えながらも指さす。
「...優輝、君...?」
「...まぁ、誠に不思議ながら...。」
気まずそうに目を泳がせながら、私の呟きが肯定される。
「ど、どうしてそんな事に...。」
「実は...。」
聞くと、朝起きたら既にこうなっていたらしい。
椿ちゃん曰く、神降しの代償とか...。
「そう言う事で、私は女の子になっちゃったって訳。」
「神降しで、どうして性別が...。」
一人称どころか、今の優輝君は口調まで変わってしまっている。
性別が変わっただけで、そこまで影響があるはずが...。
いや、第一にどうして神降しで性別が変わるのかが分からない。
「まだ憶測でしかないけど、私...草祖草野姫を優輝は降ろしていた。その際、私を標としていたわ。それは分かるわよね?」
「う、うん...。あまり詳しくは知らないけど、大体は...。」
私がアンラ・マンユに囚われていた時、優輝君は神降しをしていた。
それで、解けた時に椿ちゃんも現れたから、どういうものかは少しは分かる。
「そして、優輝は神職者ではない。...つまり、例外的な神降しなのよ。」
「...だから、こうなったと?」
イレギュラーなら、確かに何が起こるかは分からない。
だけど、それだけじゃあ根拠として弱い気が...。
「本体と私は、女性。私を標とし、本体を降ろした優輝にも、それは影響するの。」
「...えっと...?」
「つまり、優輝は神降しの際に、私の影響を受けているの。」
「分かりやすく言えば、優ちゃんがかやちゃんに似た存在に近づいているって事だね。」
葵ちゃんの補足に、何とか理解を追いつかせる。
似た存在になる...。つまり、それって...。
「このまま神降しを何度もすれば、優輝の存在は意味消失するわ。」
「意味...消失...?」
「存在そのものが消えるのよ。」
「っ....!?」
“存在そのもの”...。それは、元々そこにいなかった事にされるって事。
私がやった記憶改竄とは違う、正真正銘の存在の消失。
「そんなっ...!?」
「もちろん、今はそうなる事もないわ。」
「でも、神降しの代償が少しずつ蓄積して、今朝その兆候が出たって感じだね。」
まだ大丈夫。...そう、二人は言う。
「少なくとも、まだ一日分の時間は持つわ。...これも予想だけどね。」
「...それでも、安心はできないよ。」
「司....。」
無意識の内に、心配して優輝君の手を握る。
以前に握られた時と違って、女の子らしい手だった。
「...女性になった直接的な訳を言ってなかったわね。簡潔に言うと、優輝には私の“因子”が混ざっているわ。正しくは、“女性の因子”と言った所かしら?」
「それが原因で、優ちゃんは概念的に女性になっているの。まだただの性転換だから、雪ちゃんに似た容姿になったみたいだね。」
兄妹だから、緋雪ちゃんに似た容姿になったという事なのだろう。
とにかく、これで性転換の原因は分かったけど...。
「...戻るの?」
「それが分からないの。椿が言うに、因子が取り除かれれば、私は勝手に戻るらしいけど...。その因子をどうやって取り除くか...。」
うぅ...女の子っぽい優輝君は違和感があるよ...。
前世や以前にも女装姿と演技は見たけど、今はこれが素だから、余計に違和感が..。
「一日で戻るとは....。」
「言えないかな。幸いな事に、基礎体力以外は男の時のままだから、いざとなれば変身魔法で変装すればいいけど...。」
「そ、それは困るよ...!」
優輝君の言葉に、ついそう言ってしまう。
だって、女の子のままだったら...って、私は何を考えてるの!?
「だよね。でも、概念的な性転換かぁ...。」
「普通の性転換なら口調が変わる事はなかったわね。...“普通の性転換”なんて自分からしようと思わない限りないけど。」
性転換と言っても、危機的状況ではないため、皆そこまで困っていない。
私も、そこまで“何とかしなくちゃ”と慌てている訳でもなかった。
「...とりあえず、一日で戻るとは限らないから、事前に士郎さん達に説明しに行っておこうかな。明日の朝にいきなり知らせるのはアレだし...。」
「普通に説明しに行っても驚かれると思うよ...。」
見た目は緋雪ちゃん、実際は女の子になってしまった優輝君。
...うん。驚いて固まる士郎さんが幻視できた。
=優輝side=
「...ところで、優輝君の今の服、どこから持ってきたの?」
とりあえず翠屋に行って士郎さんに説明しに、八束神社を出発する。
その際に、司がそんな質問をしてきた。
「ちょっと緋雪の服を拝借しているの。創造魔法で作れても良かったんだけど、使われてないのはもったいないと思ってね...。」
それに、服を創造して着るってなんかセコイし...。
「ふ、普通に着こなしてるね...。私、転生したばかりは戸惑ってたのに...。」
「私の場合は、因子によって心まで性転換してるからね。その分もあって、着こなせていると思うよ。それに、着方自体は知っているし...。」
主に前世とか、以前の翠屋での手伝いとか...。
...それにしても、女性になるのに違和感がない事に違和感を感じる...。
心まで女性になっているから、男の時との差異に違和感がないのが怖い...。
「.......。」
「どうかした?」
「ううん、ちょっと...。」
先ほどから、司は私と話している時、何度も目が泳いでいる。
なんというか、必死に違和感から目を逸らしているような...。
「やっぱり違和感がある?優ちゃんったら、起床時に驚いてからは、だいぶ順応しちゃってるからねー。あたしから見ても違和感が...。」
「そう言う事かぁ...。なんか、ごめんね?」
「ああいや別に今の優輝君が嫌って訳じゃ...。」
早口でしどろもどろになりながらも、申し訳なさそうにする私に、司はそういう。
「なんというか、なまじ緋雪ちゃんに似ているせいで、重ねて見てしまう事もあって...。そ、それになんだか距離が近い...。」
「えっ?そう...かな?緋雪に似ているのはともかく、距離は...。」
...そこまで言って、確かに近い事に気づく。
「ごめんごめん。嫌だった?」
「ううん!そんな事はないよ!?...う、嬉しかったし...。」
「....?」
後半が聞き取れなかったけど...まぁ、嫌がってないようだし、いいか。
「距離が近いのは...多分、私も女性になったから、同姓という事で近いんだと思うよ?ほら、前世の時に肩を組んだりしたでしょ?あんな感覚だよ。」
「な、なるほど...。」
それだけ私が“女性”になっているという事でもある。
...今だって、心で考える思考でさえ、女性になっているし。
「...と、という事は、優輝君は私を女の子として見てくれてる...!?」
「...?当たり前でしょ?前世が男だったとはいえ、今は女の子なんだから、相応の接し方じゃないとダメでしょ?司が良くても、周りがいいと言う訳でもないし。」
なんで当たり前の事を言われて嬉しそうなんだろう...?
「むぅ....。」
「大丈夫だよかやちゃん!あたし達だってちゃんと女の子として接してくれてるよ!」
「そう言う訳じゃないわよ!」
「ちょっ、ここで弓を出すのは禁止...!」
葵の言葉に椿がつい弓を出そうとするのを、何とか抑える。
「はぁ...。まったく、着いたわよ。」
「そうだね。」
...さて、どう説明しようか...。
桃子さんでも士郎さんでも恭也さんでもいいけど、驚かれるのは間違いない。
店の妨害にならないように、どう説明しようか悩みどころだ。
「...とりあえず、昼食も兼ねて入っておこう。」
「どう説明するか考えてなかったのね。」
「うぐ...。」
椿にあっさり見抜かれる。
ちなみに、司は事前に家に連絡を入れて、私達と昼食を共にする事になっている。
「とにかく、厄介な相手には会いたくないかな。」
「あー...確かに...。」
織崎とか、王牙とか。
あいつらだと何しでかすか分かったものじゃない。
「...初っ端から鉢合わせしなくてよかった...。」
「今は厨房にいるみたいだね。恭也さんはいるけど。」
高町家で接客を行っているのは今は恭也さんと美由希さんだけだ。
店に入った時はその二人でさえなかったけど。
「厨房にいるなら、向こうが見つける前にこっちから行こうかな?」
「えっ?勝手に行っていいの?」
「気配を消していくから大丈夫。まぁ、注文を頼んでからだけどね。」
ちょうど前を通った店員さんに注文し、私は椿と一緒に厨房へと向かった。
椿が同行するのは、説明するのに適しているから。
もちろん、気配も一般の人にはバレないようにしている。
「(恭也さんとかに気づかれるかもと思ったけど、大丈夫かな。)」
殺気や敵意がないからか、偶然恭也さんにも気づかれなかった。
「...あ、ちょうどよかった。」
「士郎、少しいいかしら?」
厨房の方へ向かう時に、ちょうど士郎さんとすれ違い、椿が話しかける。
「あれ?椿と...その子は?緋雪ちゃんに似ているけど...。」
「...さすが士郎。見間違えはしなかったわね。」
私が話しかけても意味がないので、しばらくは椿に会話を任せる。
「彼...いや、彼女は優輝よ。ちょっと訳ありで性別が変わってしまったの。」
「簡潔にまとめたね。確かに、伝えるべき情報は伝えてるけど...。」
ほら、士郎さんだって“冗談だろう?”って顔してるし。
「....本当なのかい?」
「...お生憎様、本当です。おまけに、ちょっと特殊な性転換なため、思考も含めて女性になっちゃいました。一人称も“私”ですし。」
「....なんというか、つくづく君達には驚かされるよ...。」
もう、慣れてきたのかな?呆れられた...。
「それで、どうして僕に?」
「一日で戻れるとは限らないから、事前に知らせておこうと思ったのよ。」
「明日は学校がありますから、その事も含めて...。」
「戻らなければ、休むから...か。分かった、そういう事なら仕方ないな。」
どうやら、簡潔とはいえ分かってもらえたようだ。
後は、ここで昼食を取るため、しばらく客としている事を伝え、司達の所へ戻った。
「どうだったの?」
「士郎さん、さすがに慣れてきたみたい。そこまで驚かれなかったよ。」
「あはは...。」
元々“裏”の仕事とかもやってたみたいだし、経験もあるんだろうね。
「後は、厄介ごとが起きなければいいけど...。」
「...優輝君、そう言うと、逆に...。」
司がそこまで言いかけた所で、店のガラス越しに見知った人物が通る。
「アリサ、すずか?どうしてあんなに走って...。」
「あっ...。」
なぜ二人が走っているかと思えば、それを追いかけるように王牙がいた。
「...起きたね。厄介ごと。」
「....面倒くさいなぁ...。」
葵に言われ、私は頭を抱える。
司達曰く、今の私はパッと見、緋雪に見えるみたいだしな...。
雰囲気とか、なんとなく別人だっていうのはすぐにわかるみたいだけど...。
「(アリサとすずかにとって、翠屋は一種の避難場所だからなぁ...。)」
並の強盗だと撃退される程の防衛力だからね。
そして、やはりと言うべきか、二人は店に避難してきた。
だが、王牙は店に迷惑を掛けるのもお構いなしに入ってくる。
「あっ、司さん!それに椿さんと葵さんも!」
「すみません、あの...!」
アリサとすずかは私たちを見つけたからか、助けを求めてくる。
...しょうがない。いつも通り対処しようか。...今女性だけど。
「えっ...?」
「今の、緋雪ちゃん...?」
「二人とも、下がって。」
引き寄せるように二人を私の後ろにやり、私は王牙と相対するように立つ。
「お....?」
「......。」
私が立ちはだかった事により、王牙も立ち止まる。
「っ......。」
「(後々黒歴史になるかもしれないけど、仕方ないか。)」
今の私は相手にとっては“見知らぬ誰か”だ。緋雪に似ているけど。
だから、それらしく振舞わさせてもらおう。
「嫌がっている人を追いかけるのは、どうかと思うよ?」
「.........!」
...さて、どう来るかな...?
「わ....。」
「....?」
「悪かった....。」
「ええっ!?」
まさかの素直に謝ってくるという事態に、アリサが驚きの声を上げる。
...まぁ、普段は滅茶苦茶しつこいのに、素直に従ったら...ねぇ?
「ちょ、ちょっと!今まで散々しつこく追いかけてきた癖に、どういう心変わりなの!?」
「........。」
王牙はなぜか私から顔を逸らし、気まずそうに頬を掻く。
「(まぁ、とりあえず...。)これからは、迷惑かけないようにね?」
「っ...!?わ、わかった...!」
そういって王牙は立ち去って行った...。
...ホントに、むしろ気持ち悪いくらいに素直だったなぁ...。
「...まさか...。」
「葵?」
「いやいや、あたしの気のせいだよ。何でもない。」
後ろで、葵が何かに気づいた素振りを見せる。
...それにしても、この後二人にどう説明しようか...。
「...もはや、なんでもありね...。」
「まさか、女の子になってしまうなんて...。それも、緋雪ちゃんにそっくり...。」
「見れば色々違うのだけどね。」
結局、司の時のように簡潔に説明する事になった。
それから、二人も同席して一緒に昼食も取る事になった。
「わぁ、やっぱり昼だから多いなぁ...。」
「幸い、席は空いているみたいだな。」
その時、また来客があった。
「っ....!」
「ゆ、優輝君!?」
「ど、どうしてこういう時だけエンカウントするの...?」
その知っている声に、思わず私はテーブルに頭を打ち付ける。
「よ、よりによって神夜達ね...。」
「空いてる席、近いから気づかれるよ?」
私たちのいる席の左斜め後ろと前が空いており、他は埋まっている状態になっている。
今の私はともかく、アリサやすずかがいるから気づかれるのは必然だ。
「...誤魔化そうかな...。」
「それが一番マシな方法ね。」
「でも、どう誤魔化すの?」
私が優輝だと気づかれなければ、適度にあしらえば済むだろう。
...私相手だから織崎は絡んでくるのだから。
「適当に、親戚って扱いでいいよ。それと、名前は優奈とかで。」
「下手に他人だというより、親戚の方が無難だからねー。」
「じゃあ、それで。司達も頼むわよ。」
そういう訳で、今の私は“志導優奈”という架空の親戚という事になる。
椿たちと一緒にいる経緯は適当に誤魔化して口裏を合わせてもらおう。
「あれ?アリサちゃんにすずかちゃん?」
「司も...?」
そして、席に座った織崎たちが、私たちに気づく。
ちなみに、面子は織崎の他に、なのは、フェイト、はやてだ。
それから、おまけに...。
「(なんで、奏とアリシアまで...!リニスさんも付き添ってるし...!)」
後からその三人も来店してくる。
誰も待ち合わせとかしていないのに、どうしてこんなに集まる...!
「あれ?皆?」
「偶然...。」
「珍しいですね。」
席に座る際に、当然のように三人も私たちに気づく。
...さて、そろそろか...。
「あれ?その子は...?」
「........。」
私は壁際の方に座っていたため、先にアリシアのグループが気づく。
...それより、気づいた奏がじっと見つめてくるのが気になる...。
「えっと、優輝の友達かな?私は優奈。優輝の親戚なの。」
「っ....。」
初対面らしく自己紹介する。
こら葵、そこで笑いを堪えない。ばれちゃうよ。
「親戚...?」
「ちょっとこの街に寄る事になって、ついでだから優輝の様子を見にね。聞いた話じゃ、色々苦労しているみたいだし心配だったの。」
「へぇ~それで...。」
いつの間にかアリシアがこっちの席に来ている。
「だから緋雪に似ているんだね。」
「うん。...もう会えないのは、寂しいけどね...。」
「あっ、ごめん...。」
本当の親戚っぽく振舞っていると、同情を買ってしまったようだ。
心苦しいけど、誤魔化せているみたい。
「...本当に演技?」
「優輝君、演技が上手いから...。」
「器用ね...。」
傍でアリサ達がぼそぼそと話している。
聞こえたらまずいから遠慮してほしいんだけど...。
「でも、どうして優輝といないの?」
「それが、留守みたいでねー。そこで家にいる椿と葵に会って、なんやかんやあって今ここにいるの。あ、私の両親は用事を済ませるために別行動だよ。せっかくだから遊んで来いって言われてね。」
「へぇー。」
あれ?アリシアとしか会話してないなぁ...。
まぁ、アリシアはコミュ力もあるから必然的に多く会話するからなんだけど...。
「所で、優輝の事どう思ってるの?」
「優輝の事?」
アリシア、なんでそんな恋愛的な事を聞いてくるの...?
...とりあえず、自分を客観的に捉えて答えるか。
「...手の掛かる弟みたいなものかな。いっつも無茶して体痛めて...。知ってる?優輝ったら、緋雪を助けるために助けも呼ばずに不審者に立ち向かったんだって。幸い、優輝の両親が駆け付けて事なきを得たみたいだけど。」
「それは...確かに無茶だね...。」
ちなみにこれ、実話だったりする。
まだ両親が行方不明になる前に、近所で噂になってた誘拐犯に緋雪が狙われて、誘拐されそうになったのを止めたって感じ。
「....でも、やる事は絶対にやるって、頑固な程に意志を貫く子でもあるね。」
「あ、わかるよ!諦めが悪いっていうか...それに結構優しいって事で評判だよ。」
「あ、そうなの?」
初耳だなぁ...。私、周囲にそう思われてたんだ。
「っと、そうだ。ここに来たのなら、気を付けた方がいいよ。王牙帝っていう、ちょっと...アレな人がいるから...。」
「アレ?」
「かわいいと思った子なら誰でも嫁扱いするんだよ!言い聞かせても意味がないし...!あ、ちなみに容姿は銀髪で顔はいいからわかりやすいよ。」
うわぁ、嫌われてるなぁ、王牙。自業自得だから仕方ないけど。
「あ、それならさっき出会ったかな?でも、店に迷惑だって言ったら、素直に引き下がってくれたけど...?」
「嘘ぉっ!?」
そこまで驚く事?...だね。うん。
織崎のグループも今の話を聞いて驚いていたし。
「しっ、お店の中だから...!」
「あ、ごめん...。にしても、まさか引き下がるなんて...。」
「あたし達も見た時は驚いたわよ。」
私自身、驚いていたりする。まるで様子が違ったし。
「ま、とにかく、普段は本当にしつこいから、気を付けてね?」
「分かったよ。」
念を入れて言ってくるので、とりあえず頷いておく。
この後は、食事しながら会話を楽しんだりした。
椿たちも私の演技に慣れてきたのか、会話に混じるようになった。
ちなみに、アリサや司が所々ボロを出しそうになったけど、まぁ何とか誤魔化した。
そして、しばらくして先に私たちは店を出たんだけど...。
「...ずっと見てたみたいだけど、何か用でもあるのかな?」
「......。」
織崎が、ついて来ていた。
...この調子だと、まだ何か面倒ごとになるなぁ...。
後書き
おや、帝の様子が....?
TS優輝の容姿は緋雪にカチューシャの代わりにリボンを付けた感じです。
パッと見、緋雪ですが、よく見れば違うという感じです。(王牙も違うと即座に理解しました。)
一話完結のつもりが二話に渡るとは...。
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