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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第4章:日常と非日常
  第97話「霊力と霊術」

 
前書き
4章は、時間を進めると同時に、後々関係してくる話などを展開しています。
他にも、パワーアップしたり、新たな原作キャラも関わります。

PS.普段は予約投稿しているこの小説なんですが、ちょっとした手違いで日にちがずれていました。今回の話が94話の投稿日と同じになっており、そこからずれこんでいました。読者の皆さんには特に影響はないですが、予定を合わせるためにしばらく二話ずつ更新になります。
 

 






       =優輝side=





「それでね、私が四射三中、先輩が二中で見事に私が勝ったのだ!」

「ホント!?やったねアリシアちゃん。」

 すずかの家にて、先日あった競射の話を、アリシアは胸を張りながら話していた。
 アリサもすずかも、結果を何気に気にしてたからな。

「いやぁ、十日間頑張った甲斐があったよー。」

「僅か十日で休んだ分を取り戻すどころか、先輩を超えるなんて...。」

「ちなみに、高校生と同等以上の腕前だぞ。そのレベルは。」

 僕の指摘に、アリサとすずかはさらに驚く。
 ちなみに、今この家に来ているのは他に司と奏、椿と葵だ。

「まぁ、かやちゃんがみっちり教えたのなら妥当だけどね。」

「いや、普通は十日であそこまで上達しないわよ?人間なら先に体が壊れるわ。」

「えっ!?そんな厳しかったの!?」

 衝撃の事実に今度はアリシアが驚く。

「まぁ、アフターケアが良かったからねぇ...。本来なら筋肉痛になっていたんだから、無理するはずだったのに、それがなかったからね。」

「凄っ!?優輝のマッサージ効果凄っ!?」

「っ....!?」

 ...導王時代の経験を合わせてマッサージしただけだが、想像以上の効果だったらしい。
 それと、司と奏がなぜか反応した。

「どうかしたか?」

「あっ、いや、なんでもないよ?」

「....そういえば、前世でやってもらった事が...。」

「司はまだそこまで上手かった時じゃないけど、奏の時は...まぁ、それなりだったな。」

「ええっ!?」

 僕の言葉に、司はバッと奏の方を見る。そんな司に、どこか奏は自慢げに見えた。
 ...何をそんなに意識してるんだ?

「私もやってもらった時があったけど...充分上手かったよ!?それで上手くなかったなんて....今は、一体どれほど....。」

「....恥ずかしくて言葉に言い表し辛いなぁ...。」

「アリシアがこういう程って...余程気持ちよかったのね。」

 なお、僕自身もやってて少し恥ずかしかった。
 そういや、前世でも同僚とかにやった後の会話が気まずかったな...。

「魔法とか霊術の代わり...だったんだけどなぁ...。」

「さすがに卑怯だからやめた...だっけ?」

「そうそう。」

 弓が上手い椿に教えてもらっている時点で十分卑怯とか言ってはいけない。
 そういえば、あの後質問攻めに遭った椿だが、色々とはぐらかして逃げた。

「霊術で思い出したけど、私って結構霊力持ってるとか言ってたような...。」

「言ってたねー。」

 そういや、結局聞きそびれてたけど、アリシアに聞いておきたい事があったな。

「霊力は人間誰しもが必ず持っていて、霊的な才能がある人は常人でも多いらしい。それと、臨死体験とかした人も多いらしいけど...。」

「アリシアはそう言った経験ある?言いにくいならいいけど...。」

「あー...もしかして...あれかな?」

 聞いてみると、20年以上前にあった事故で一度死んだとアリシアは説明してくれた。
 ...って待て、臨死体験ならともかく、一度死んだとか軽く話せる事じゃないぞ?

「ちなみに、実際は死んだというより、仮死状態だったらしいよ?どの道、アリシアちゃんはそうなる直前の記憶がないみたいだけど。」

「ふと目を覚ましたら20年以上経っていたから、びっくりしたよ。ママも記憶にある姿よりやつれて老けていたように見えたし...。」

「...その事を口に出して、プレシアさんはショックを受けてたけどね。」

 ...うーん...人一人が死に直面してたとは思えない会話だ...。
 まぁ、本人たちが気にしてないのならいいか...。

「...ついでに言ってしまうと、ここにいる全員霊術が扱える程度には霊力があるわよ?」

「えっ!?あたし達も!?」

 それは僕も初耳だった。司と奏は転生者だから、常人より霊力があるのは知っている。
 だけど、アリサやすずかにまで霊力があるとは思わなかった。

「...でも、“ある”って言われても、いまいちピンとこないのよね...。」

「霊術って...陰陽師とかが扱う御札みたいなイメージしか...。」

「まぁ、普通はそうだよな。」

 実際、御札を介した術も結構あったりする。術式を形成する手間も省けるし。
 デバイスがない分、事前に術式を組んでおくって感じだな。

「僕のイメージとしては、魔法はファンタジー、霊術は神秘って感じだな。霊術は清めとか、(まじな)いとかの側面が強い。」

「似て非なるもの....って事?」

「そうなるな。ただ、司のレアスキルだけは霊術よりだな。」

 祈りを実現するのに使うエネルギーが魔力なだけで、行っているのは概念や感情など、形のないものの具現化だ。それは霊術に近い。

「実際、見せた方がいいな。こっちが魔力の球。こっちが霊力の球だ。」

「んー...パッと見ても、色が違う事しか分からない...。」

「そりゃあ、見た目はそうだろ。」

 それぞれの掌に出した球を見たアリシアの言葉に、僕はそう突っ込む。
 魔力は僕の魔力光である金色。霊力は無色なのだが、今は分かりやすく水色にしている。

「...なんとなく、雰囲気が違うような...。」

「...やっぱり、霊力が人並み以上にあるから、雰囲気がわかるみたいだな。」

 すずかの言葉に、アリシアやアリサも“確かに”と頷く。

「魔力はリンカーコア、霊力は生命力から出るエネルギーだ。例えるなら、魔力は血液、霊力は元気そのものって所だな。だからなんとなく違うってわかる。」

「...あれ?だとしたら、霊力って使い続けたら...。」

「寿命を縮めるわ。私たちが見てきた陰陽師にも、そういった人間はいたわ。...と言っても、余程身の丈に合わない上に無茶をしなければ、衰弱する程度で済むわ。」

 ...なんだか、霊力や霊術に関する講座みたいになってきた...。

「つ、使うのなんだか怖いなぁ...。」

「寿命を縮めるほどの霊力の消費なんて、滅多にないわよ。多分、あったとしてもそれをしなければ死ぬような事態よ。」

「あ、安心できないなぁ...。」

 普通に戦闘する限りでは、そんな寿命を削る事にはならない。
 先に気絶してしまうからな。大規模な術を使わない限り。

「....この際だから、教えちゃう?自衛にもなるよ?」

「アリシアは絶対ね。アリサとすずかはどうするのかしら?」

「えっ!?私、絶対なの!?」

 椿と葵の言葉にアリシアは驚愕する。

「アリシア、貴女の霊力は膨大よ。それこそ、今の優輝を軽く超えているわ。ただ持っているだけでは、アリシアに害もないわ。」

「だけど、その力は霊的なものを引き寄せる可能性がある。だから、霊力を扱えるようにして、いざという時の自衛に使ってほしいんだよ。」

「ゆ、幽霊とかが...。」

 幽霊がやってくるのは嫌なのか、椿と葵の言葉にアリシアは顔を引き攣らせる。

「もちろん、人前では使えないけど...。」

「....あたし、やってみようかな...?」

「...私も...。」

 しばし考え込んだ後、アリサとすずかは椿の誘いを受ける。

「使えるものは使えるようになっておきたいからね。」

「それに...皆が使う魔法とか、結構憧れてたりしたから...。」

 魔法を知っていても、使えない。助けにもなれない事を考えるともどかしいだろうな。
 しかし、憧れているのも事実らしく、大人びてるアリサ達でも子供らしい所があるんだなと、つい僕はそう思ってしまった。

「魔法と関わってから、なのはちゃんとあまり会えなくなってきたよね...。」

「魅了が解けてからは、余計によ。こっちは成り行き上仕方ないけど。」

 すずかの言う通り、三年生の冬辺りから、なのはは魔法へと関わっていったのか、それなりの頻度で休むようになり、付き合いが悪くなっていた。
 その事もあり、魔法を持たない者として、疎外感があったのだろう。

「今日だって、管理局の手伝いでしょう?」

「うん。私たちは断ったけど、なのはちゃん達は行ったみたいだね。」

「...あれでは、いつか体を壊すわ。」

 嘱託魔導師として管理局に登録している僕らは、協力を要請される事がある。
 ただし、嘱託であるなら断る事もできるのだ。
 日常生活もあるから、余程じゃなければ断る方向で僕らは生活している。
 なのに、なのはは誰かの助けになる事が嬉しいのか、何度も手伝っている。

「二人から言っても聞かないのか?」

「残念ながら、ね。“ちゃんと休んでるから大丈夫”って聞かないんだよ。」

「子供の時から肉体労働は本当にきついぞ...?よく無茶してる僕だからこそ言える。」

〈その割には自重しませんけどね。〉

「うぐっ。」

 会話に入ってなかったのに、いきなりリヒトからダメ出しされた...。

「...生半可な正義感は身を滅ぼすな。」

「ええ。...クロノや周りの人にそれとなく休ませるように伝えましょう。」

 なのはは、“人を助ける事による喜び”でそれほどまでに管理局で働いているのだろう。
 それではいつか確実に心身のどちらかを滅ぼす。

「プレシアさんやリニスもいるから、きっと大丈夫だとは思ってるけど...。」

「いざという時のための保険は必要だよなぁ...。」

 フェイトやはやても同じように働いているが、そっちは保護者であるプレシアさんやリインフォースさん、ヴォルケンリッターがいるから大丈夫だ。
 だけど、なのはには保険となる人材が傍にいない。
 ちなみに、リニスさんは司の使い魔だけど、普段は魔力を提供するだけで、プレシアさんやフェイト、アリシアの傍にいる事が多いらしい。

「....ついでよ。アリシア、霊術を覚える際に所有者の命を守る御守りを作りなさい。」

「えっ!?私が!?」

 椿の言葉に、アリシアが驚く。
 別に僕や椿が作ってもいいんだろうけど、これは所謂課題だろうな。

「私はともかく、優輝は何かと魅了されている一味には信用されてないわ。姉的存在であるアリシアが、なのはのためにって作った御守りなら、喜んで受け取ると思うわ。」

「そ、そうかなぁ...?というか、それなら椿が作れば...。」

「あ、ついでだから家族全員のを作るのはどうかな?」

「追加課題!?」

 葵の横槍に、椿は頷いてアリシアは戦慄する。

「そうと決まれば、霊術が使いたいなら明日巳一刻(みひとつどき)、八束神社に集合よ。いいわね?」

「決定事項かぁ...。うぅ...。」

 巳一刻...午前9時の事だ。大体は丑三刻しか聞かないから分かり辛いぞこれ。

「あの、私たちも行っていいかな?」

「別にいいと思うぞ?司も奏も、霊力はあるんだし。」

「そっか。」

 どうやら、司と奏も明日来るようだ。
 いつも思うけど、男女比がひどいなこれ。
 だからこそ前世が男の司と会話するんだが...司もあんまり会話をしてくれない。
 まぁ、今は女性として生きているから、“男同士の会話”にはならないから仕方ないと言えば、仕方ないとも言えるが。

「...ところで、巳一刻って何時なの?」

「...午前9時だ。まぁ、分からないのも無理はない。」

「十二支の図を時間に当て嵌めてるからね...。アリシアちゃんには分かり辛いかな。」

 すずかが分かりやすく説明する。...すずかは国語が得意...というか、読書が好きだからそういった知識も身に着けていたみたいだな。

「じゃあ、霊力関連の話については一端終わりだね。」

「そうね。だからって猫の海に飛び込まないの。」

「ぶ~。」

 偶々猫がほとんど集まっていたので、アリシアがそこに飛び込もうとする。
 それをアリシアが止めた。

「ちょうど皆の餌の時間だね。取ってくるけど、皆もあげてみる?」

「いいの!?やってみたい!」

 そういうすずかに、アリシアは目を輝かせながら言う。
 そう言えば、以前プレシアさんに聞いた話だと、アリシアはリニスさんの素体である山猫...所謂生前のリニスさんを飼っていたとか聞いたっけ。
 もしかしなくてもアリシアは猫派なんだろうな。



 この後は、皆で猫の餌やりなどを楽しんで、その日は解散となった。











 翌日、僕や椿、葵は一足先に八束神社へと来ていた。

「どうでもいいけど、最近八束神社がたまり場みたいになってる気がする。」

「確かに、最近よく来るよね。」

 先日の事件もそうだし、アリシアの弓の特訓でもよく来ていた。
 ここまで来ていると、その分...。

「那美さんともよく出会うよな。」

「...今度はどんな用なのかな?アリシアちゃんの特訓は終わったと思うけど...。」

 那美さんはアリシアの特訓の時とも出会っている。
 さすがに何度も何かしらの用事で来ているから、今回も何かあると思っているみたいだ。

「優輝の腕の傷の治療と、今日は霊術を教えるのよ。」

「腕の治療と...霊術を?」

「くぅ?」

 いつの間にか来ていた久遠と共に、那美さんは首を傾げる。

「無茶の代償で負った怪我は普通の治療じゃ治らないんです。だから、霊脈とパスを繋いで霊力を腕に流し続ける事で、少しでも治りを早くしているんです。」

「代償って...一体何を...。」

「人の身で神の力を扱ったのよ。これでも軽い方よ。本来なら治らないわ。」

 椿の言葉に那美さんは固まる。
 まさか、そこまでやばいものだとは思っていなかったのだろう。

「なななな、何やっちゃってるの!?」

「いやぁ、さすがに二度はないと思いますよ?」

「当たり前だよ!?というか、一度もやっちゃいけないよ!?」

 見事な驚き様だ。...と、そうこうしている内に来たな。

「...って、皆揃って来たのか。」

「鮫島さんが皆を拾って車で来たんだよ。」

「なるほどな。」

 そしてその鮫島さんは既に去っていると。...執事の鑑だな。

「...結構な大所帯で...。」

「くぅ。」

「あ、那美さん、おはようございます。」

 司がご丁寧に挨拶を交わし、他の皆もそれに倣う。

「もしかして、皆霊術を?」

「アリシアは強制。アリサとすずかは希望。司と奏は見学って所です。」

「アリシアちゃんは相当な霊力を持っているからねー。使えるようにしておいた方が、自衛の意味も兼ねて便利なんだよ。」

 葵が久遠とじゃれ合いながら補足する。

「それにしても、どうしてここを...。」

「あまり人が来ないのと、霊脈がここにあるからよ。それに神社だから、何かと霊術と相性がいいのよここは。」

「そうなんだ...。」

 椿の説明に、漠然とだが理解したらしい那美さん。
 一応人払いの結界を張っているため、見られてしまう事はない。

「じゃあ、早速始めるわよ。まずは、各々霊力を感じ取ってもらうわ。」

「あたしも手伝うよ。あ、優ちゃんは傷を治してて。」

「まじか。じゃあ、口頭だけでも教えるよ。」

 少しでも代償の傷を治しておけと言われたので、大人しく治す事にする。

「私はどうすれば...。」

「見学する、でいいと思いますけど。」

「くぅ。」

 縁側に座った僕の膝に来た久遠を撫でながら、僕は那美さんにそういう。

「霊力を感じ取るって具体的にどうすればいいの?」

「僕の時は契約で感じ取れるようになったけど、多分普通なら霊力を循環させるように流し込んで、どんな感じの力なのか分かるようにする感じかな。」

 これなら人体に害が出る事はないし、安全に確認ができる。

「わ、わ、わっ!?」

「自覚できたかしら?アリシアはそれだけ膨大な霊力を持っていたのよ。」

 すると、椿が僕が言っていた方法を実践したのか、アリシアから霊力が渦巻く。
 ...ホントに、僕を軽く超える霊力量だな...。

「まずは深呼吸をしなさい。まだ扱えないのだから、私が抑え込むわ。」

「う、うん....。」

 アリシアが深呼吸を繰り返すと、その呼吸に合わせて徐々に霊力の波動が治まる。
 その横で、アリサとすずかも霊力を感じ取っていた。

「なんだか、不思議な感じ...。」

「“湧いてくる”っていう表現がぴったりね...。」

「じゃあ、次は抑え込むやり方を教えるよー。」

 アリサとすずかは人並みより多い程度なため、アリシアのようにはしない。
 どうやら垂れ流しの状態で次の段階に進むようだ。

「基本は気分を落ち着けるイメージがいいね。深呼吸して、荒れ狂う海を落ち着けていくように、自身に巡る力を抑えてみて。」

「........。」

「........。」

 葵に言われるがまま、二人は霊力を抑え込もうと試みる。
 しかし、少しは抑えられるものの、あまり上手くはいかない。

「まずは霊力を自分の力だと完全に認識する事が重要だよ。二人は人並み以上とは言え、そこまで多くはないから、体中を巡らすようにしながらコントロールを覚えてね。」

「...む、難しい....わね...。」

「霊力がどんな感じかは分かる...けど...。」

 二人が悪戦苦闘するのを、僕らは眺める。

「魔力と違って、コントロールに時間がかかるんだね。」

「魔法はデバイスがあるからな。ある程度のコントロールは感覚だけで出来てしまう。ユーノ辺りに聞いたら、もしかしたら同じような覚え方かもしれないぞ?」

 司の言葉に、僕はそう答える。
 魔力と霊力は色々と勝手が違うからさすがに同じではないだろうけど。
 ...導王の頃が懐かしいな。身体強化が楽しくて色々していた記憶がある。

「うー...アリサとすずか、いいなぁ...。」

「アリシアの場合は、保有霊力が多すぎるわ。そういう類の知識もないから、放出させながら覚えるわよ。とりあえず、私が相殺するから霊力を操りながら使いなさい。魔力弾のような使い方でいいわ。」

「分かった...やってみる。」

 アリシアは感覚と体で覚えさせるのか、とにかく霊力を使わせるようだ。
 ...まぁ、あれだけの霊力を先にコントロールしろなんて、厳しすぎるもんな。

「えいっ!」

「っと...!」

 形があやふやだが、どこか球状の霊力がアリシアから放たれる。
 それを、椿は霊力で張った障壁で受け止める。

「無駄に霊力が込められているわ。今ので放つ感覚は分かったはずだから、今度は出力を抑えてきちんとした形を作りなさい。」

「う、うん...。」

 しばらくは、三人共同じことを繰り返すようだ。
 ...やっぱり、見ているだけだと退屈だな。

「...ねぇ、優輝君。」

「ん?どうした?」

 タイミング良く、司が僕に話しかけてくる。

「私の祈祷顕現って、魔力で使っているけど、霊術寄りなんだよね?」

「まぁ、そうだな...。想いを形にするっていうのは、呪いとかそういう類に似ているから、どちらかと言えば霊術寄りになる。」

「....じゃあ、霊力で祈祷顕現が使えたりしないかな?」

 それは...どうなのだろうか。
 天巫女一族の能力が、魔力依存なのかどうかは、どんな記録にも載っていない。
 第一に、魔力以外で行使した事がないのだからそれも仕方ないのだが。

「どうだろうか...。試してみるか?」

「うん。ついでに、霊力を扱えるようになればいいしね。」

「...司さんがするなら、私も...。」

 結局、司も奏も霊力を扱う事に決めたようだ。
 ...奏の場合、どこか司に対抗心を燃やしてたようだが...。

「那美さんはどうします?」

「私は...いいかなぁ...?私も退魔士だから、霊力については知っているから...。霊術とかは興味あるんだけどね。」

「そうですか...。まぁ、覚えて損はなさそうですね。久遠はどうする?」

「くぅ...やってみたい...。」

 どうやら、那美さんも霊術には興味があるようで、久遠もやってみたいようだ。
 とりあえず、二人は霊力を扱った事があるから、まずは司と奏に霊力を流して自身の霊力を感じ取ってもらおう。

「ふえっ?あ、優輝君!?」

「っ....!?」

「いや、椿と葵も触れていただろ?どうして驚くんだ?」

 二人の手を取ると、何故か驚かれる。
 心なしか顔が赤いが...。

「あ、ご、ごめん。いきなりでちょっと驚いちゃった。」

「...まぁ、いいか。じゃ、行くぞ。」

 二人の手から、霊力を循環させるように流し込む。
 椿に腕を治すように言われたが、この程度なら大丈夫だろう。...多分。

「....うん。なんとなく...掴めたかな?」

「.....私も、わかったわ。」

「さすがに早いな。」

 二人の霊力に僅かに揺らぎが現れ、落ち着いていく。
 いつも魔力を使っているからか、もう霊力の感覚を掴んだようだ。
 特に奏は、以前に葵とユニゾンしたからか、司よりもコントロールが上手かった。

「えっ!?司さんと奏、もうやり方が分かったの!?」

「力の感じが違うとは言え、魔力をいつも使ってるからかな...?」

 あっさりアリサとすずか以上に扱えるようになったため、二人は驚く。
 司と奏も、魔力を扱っていたからこそ、ここまで扱えるというのは分かっているようだ。

「優輝...?」

「いやぁ、暇だったから、つい。って危なぁっ!?」

「次はないわ。」

「あ、はい。」

 軽く矢が僕の顔面に向けて放たれる。それを頭をずらす事で躱す。
 ...避けられると分かって放ったんだろうけど、心臓に悪い...。

「優輝君...。」

「さすがに実践して教えるのはダメみたいだ。それに、口頭で教えようにも、僕自身椿たちに教えてもらった身。あまり教えられないな。」

「なら、仕方ないね。」

 自分で組んだ術式なら教えられるけど、飽くまでそれは僕に合わせた霊術だからな。
 いきなり応用から始めるようなものだから、教えるのには向いていない。

「くぅ...。」

「久遠?どうしたんだ?」

 結局、まずは霊力の感覚を完全に理解する事に、今日は集中するだろう。
 そう思って、二人に自在に霊力を操れるように要練習と伝えると、久遠が動きを見せる。

「........。」

「....ちょ、まさか...。」

 人型になり、久遠は両の掌を向かい合わせるように構える。
 その瞬間、掌の間に相当な霊力が渦巻く。

「...できた。」

「...見ただけで、コントロールが上がったのか...。」

 純粋な霊力の球。それを久遠は掲げるように持つ。
 今まで久遠は霊力を雷として繰り出していた。
 それを、僕らのやり取りを見ただけで純粋な霊力の球に変えたのだ。

「これが天才か...。」

「....優輝?」

 才能による差をまざまざと見せつけられる。
 実際、僕は大して才能は持っていない。全部経験とかで補っているだけだ。
 だから、まざまざと見せられると、どうも才能の差を感じてしまう。

 そんな僕の様子に気づかず、久遠は何か困った様子で僕に尋ねてくる。

「どうした?」

「...これ、どうしよう。」

 ...まさか、後始末の仕方も分からないまま出した?

「あ、葵!」

「了解!くーちゃん、それ上に投げて!」

「....!」

 葵を呼び寄せ、久遠は葵の言葉に従って上空に霊力の球を投げる。
 すぐさま葵がレイピアを投げ、霊力の球を貫く。

「ふぅ....。」

「久遠、今度からは、やり方をしっかり理解してから試すように。」

「くぅ、わかった。」

 霊力はそのまま霧散し、葵は一息つく。
 その横で、僕は久遠に注意する。まぁ、久遠も悪意があった訳じゃなく、分かってくれた。





「今日はこのぐらいかな。」

「そうだね。」

 しばらく各自で霊力の特訓を行い、今日はお開きとなる。
 アリシアの弓と違い、それなりにのんびりと進んでいる。

「じゃあ、今日はもう帰るの?」

「そうなるかな。」

 アリシアの言葉に、僕はそう答える。
 特にここでやる事がなければ、いつまでも居座る訳にはいかないからな。必要もないし。

「あ、最後に神降ししておくわよ。」

「えっ?どうしてだ?」

 椿が帰ろうとする僕を引き留めてそういう。

「神降しの状態になれば、その傷も治せるかもしれないからよ。」

「神の力の代償だから、神降しして力を行使すれば治る...と?」

「そう言う事よ。」

 なるほど。一理あるな。
 試して、損をする訳でもないので、椿の言う通り神降しをした。







 ...結果から言えば、半分成功、半分失敗だった。
 少しは治せたのだが、全治は無理だった。
 神降しの状態で治しても、元に戻ると傷も開くようだ。

 そういう訳で、何とも言えない空気のまま、今日は解散となった。
 僕らも、そのまま家に帰って、その日は終了となった。













 だが、まさか神降しの結果、あのような事態になるとは...。
 この時、僕も椿も...誰もが、予想だにしていなかった....。















 
 

 
後書き
人間の力も妖怪の力も“霊力”で一括りにしています。ただし、妖怪の場合は“妖気”と呼称する場合もあるという設定です。 
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