ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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SAO:アインクラッド~神話の勇者と獣の王者~
神話剣
2018年。世界最大級のゲーム会社《アーガス》が、遂に完全なる仮想空間の創造に成功した。
ニードルスシステムと名付けられたそのシステムは、現実の五感をシャットアウトし、脳から与えられた五感を仮想世界のアバターに伝え、また、仮想世界で得た五感を脳に直接送る。完全なる仮想世界を実現したこれを、人は《フルダイブ》と呼んだ。
開発指導者は若き天才、茅場晶彦。彼の主導により完成した第一世代フルダイブ用機材は、全国の大手アミューズメントパークに設置された。
そして2022年、五月。一般家庭用ゲームハードとしてヘッドギア型に小型化された第二世代フルダイブ機器は《ナーヴギア》と名付けられ、人々を熱狂させた。
しかし、フルダイブ用のゲームはあまりぱっとしない物が続いた。今までのゲーム技術では、なかなか大規模なゲームを作ることが難しかったからだ。
そんなユーザーたちの声を聴いたかのように、そのゲームは堂々と発表された。
《ソードアート・オンライン》。
世界最初のVRMMORPGのジャンルを冠したそのゲームは、たった千人のβテスターによるテストプレイを経て、2022年11月、遂に可動した。
ゲームの舞台は、異世界の大地より切り離された鋼鉄の浮遊城《アインクラッド》。全100層からなるこの浮遊城の最上階迷宮区、《紅玉宮》、《王の間》に待つ最終ボスを討伐すればゲームはクリア。しかしそこに至るまでに九十九の迷宮区、九十九のボスモンスターがプレイヤーを待ち構えている(もっとも、これらの情報はゲーム内で明かされたものであり、現実世界ではアインクラッドの設定に関する情報はほぼ一切流出していなかった)。
このゲームには、過去ファンタジー系RPGには必須と思われていた《魔法》が存在せず、代わりに《ソードスキル》と呼ばれるいわば必殺技の様なものが無数に存在している。その数はほぼ無限に等しい。プレイヤーたちは、自らの鍛え上げたカンと自慢の武器で戦い抜いていかなければならないのだ。
稼働したソードアート・オンライン……通称《SAO》は、一万人のプレイヤーを集めた。彼らはこれからの毎日に期待を膨らませて、冒険を始めた。
しかし。
その日、午後五時三十分。
世界は変貌した。
開発者、茅場晶彦は『このゲームからのログアウトは不可能であるということ』『ログアウトするためには最上階に待つ最終ボスを撃破する必要があること』『今後あらゆる蘇生手段は通用しないと同時に、HPがゼロになる、または現実世界でナーヴギアを外そうという試みが行われた場合、そのプレイヤーは死亡するということ』『すでに多数の死者が出ていること』を伝え、『唯一の現実であるということの証明』として全プレイヤーの容姿を現実のものに戻した。
一瞬にして楽園から地獄へと変わった鋼鉄の浮遊城。
大勢の死者を出しながらも、それはゆっくり、ゆっくりと長い時間をかけて攻略されてきた。
二年が経過した。現在の最前線は七十四層。
これは、その鋼鉄の浮遊城で『勇者』と呼ばれた剣士と、その仲間たちの物語。
*
ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
Swordart-on-line/神話の勇者と獣の王者
*
その少年は突然に現れた。
その日《黒の剣士》ことキリトは、偶然手に入った超高級素材《ラグー・ラビットの肉》を売るべく、旧友で悪友の雑貨屋、エギルのもとに来ていた。
ネイティブ・アメリカンぜんとしたこげ茶色の肌に、なかなかに凄味の在る――――それでいてなかなか笑うと愛嬌のある――――顔をし、唯一SAOでカスタマイズが可能な髪型すらをスキンヘッドにした彼は、雑貨屋ではなく戦士にしか見えない。もっとも、エギルは一流の斧戦士なのだが……。
さて、キリトがエギルの店に行くと、丁度若い男が、ちょっと不当な値段でレアアイテムを買い取られたところだった。
「よう!キリトじゃねぇか」
「久しぶりだな、エギル。相変わらずあくどい商売しやがって……。買い取り頼むぜ」
「キリトはお得意様だからな。あくどいマネはしませんよっと……」
ぶっとい首を伸ばしてトレード・ウィンドウを除いたエギルの瞳が大きく見開かれる。その顔に浮かんだ表情は、驚愕。
「《ラグー・ラビットの肉》じゃねぇか……。S級食材……現物を見るのは俺も初めてだぜ。キリト、お前自分で食おうとは思わんのか」
「思ったさ。多分二度と手に入らないしな……。だけどこいつを料理できる奴なんてそうそういないし、俺の料理スキルの腕前はエギルも知ってるだろ?」
ラグー・ラビットの肉は高級な素材だ。高級な食材故に、取り扱えるものも決まってくる。これを料理できるものといったら、料理スキル九百を超えた物好き程度――――
「キリト君」
その時、キリトの肩に手が置かれ、若い女性――――もとい少女の声がした。
キリトは振り向きざまにその腕をつかみ、
「シェフ捕獲」
と言ってやった。
「な、何よ……」
困惑顔でそこに立っていたのは、栗色の長い髪の毛の美少女。名はアスナ。
SAO最強のギルド、《血盟騎士団》の副団長で、《閃光》の異名をとる、SAO最強クラスの細剣使いだ。
困惑するアスナを引き寄せて、可視モードにしたトレード画面を見せる。
それを見たアスナの両目が見開かれ、口がぱくぱくと開閉される。
「え……S級食材……!?き、キリト君、どこでこんなもの……」
「なぁアスナ、今料理スキル熟練度どの辺?」
するとアスナは、自慢げに胸を張ると、
「聞いて驚きなさい。先週遂に完全習得したわ」
と堂々宣言した。
「なぬ!?」
SAOでは生き抜くことが最優先だ。つまり、武器スキルの熟練度の方が優先してあげられる。それに加えて、熟練度の最高値である1000までたどり着くには相当の時間が必要なのだ。それを、戦闘も関係ないスキルにここまでつぎこんでいるとは……。
キリトは内心「あ、アホか……」と思いつつ、アスナに向かって低く問うた。
「その腕を見込んで頼みがある。一口食わせてやるから、こいつを料理してくれ」
するとアスナはキリトの胸ぐらをつかむと、グイと引き寄せて言った。
「は・ん・ぶ・ん!!」
「お、おう……」
勢いに押されたキリトはそのままうなずいてしまう。
よし!とガッツポーズをしたアスナは、そこでふと表情をゆがめた。
「けどどうするの?キリト君の家じゃそんな大した器具もそろってないんでしょ?」
「……そのとおりでございます……」
料理スキルを全くあげていないキリトの家には、そもそも料理器具というものが備え付けらていない。さらにキリトの家はひどい散らかり様で、とてもでないが人を招ける状態にはない。
するとアスナは
「仕方ないわね。今回だけ食材に免じて、私の部屋を提供してあげないこともないけど」
その瞬間。
「あ、アスナ様!!このようなスラムに足をお運びになるだけでなく、こんな素性の知れない男をご自宅にお連れするですと!?断じて見逃せませぬ!!」
アスナの護衛と思しき長髪の男が前に進み出た。
「あら、この人素性は置いといても実力はたしかよ。確かあなたよりレベルは10以上上だわ、クラディール」
すると、クラディールと呼ばれた男はわなわなと口を震わせると、次の言葉を紡ごうとした。
その瞬間。
「あれ~?キリトにアスナじゃん。うわ、野次馬多いな……ほらほらどいたどいた」
あまりにも場違いな、明るい声が店内に響いた。
「?」
「ぐっ……」
クラディールは出鼻をくじかれて歯噛みする。
いつの間にか集まってきていた野次馬どもをかき分けて、声の主が姿を現す。
男だ。年のほどはキリトより二歳ほど上か。しかし幼げな雰囲気と顔立ちで同年代も見える。どちらにせよ年齢を感じさせないその顔には、笑顔。
茶色のぼさぼさの髪の毛をもった頭に、緑色のバンダナを巻いている。服装は萌木色、というのだろうか。非常に明るい緑色のロングコートだった。淵には赤いラインが走っている。下は白いズボンを穿いていて、腰には赤いさやに納まった物々しい剣とも刀とも取れる刃物。
「久しぶりだな、二人とも。あ、エギルさん、買い取り頼むよ」
「お、おう……」
ほとんど空気と化していたエギルの前にアイテムを出して、それを換金した男はキリト達の方向を向くと、表情を困惑のそれに代えて、言った。
「で?どうなってんのこれ。もしかして俺すっごくでてきちゃいけない場面で出てきた?」
「当たり前だ馬鹿野郎!!」
さらに別の声。野次馬をかき分けて二人目の人物が現れる。
黒い髪に肩の出た黒いコート。キリトのそれと似通ってはいてもどこか異なるそれを纏った男は、肩に赤い子龍を止まらせていた。SAOでは非常に珍しい《ビーストテイマー》だ。
「いつもいつも周りの状況を確認してから行けと言っているはずだ!!まったくお前は周りの空気を考え観ずに……」
「まぁまぁ。俺らの登場が事態をいい方向に持ってくかもしれないじゃん」
「そういう問題ではないんだよ!!」
もう見間違えない。
この二人は、キリトもよく知っている人物だった。
「セモン、ハザード……」
緑の方の少年はセモン。一級の刀使いとして名をはせるプレイヤーだった。腰に差した刀は同時に片手剣としても使える強力な武器、《草薙の剣》。
もう一人の黒い方はハザード。最強クラスのプレイヤーだが、あまり戦闘をしないことで有名だった。肩にとまっているのは彼の使い魔、《レノン》。
二人は、このアインクラッド最強クラスのコンビ、《聖剣騎士団》として名をはせるプレイヤー。
つまりは、この世界最高峰の剣士であるということに他ならなかった。
後書き
書き直しました。セモン君とハザード君が同時登場。結構前と変わっていますね。
アインクラッドの情報はゲーム内で明かされたという記述を追加。禍原さん、ありがとうございました。
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