IS―インフィニット・ストラトス 最強に魅せられた少女Re.
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第一話 出逢い
前書き
ここから本編です。
IS
何故か女性にしか扱えない、世界最強の機動兵器。
ほんの数機で国家レベルの戦力と同等とされる究極の戦術兵器。
その高過ぎる性能故、各国はアラスカ条約なる虚構の枠組みを作り上げ、その軍事利用を制限している。
再び膠着状態に陥った各国の代理戦争として、各種国際大会や、その最高峰、《モンド・グロッソ》が開催されている。
けど、
けど、そんな細かい事情『どうでもいい』。
私は、力が欲しい。
そしてISには、絶対的とさえ言える力がある。
その二つの事実があれば十分だ。
私は、最強と言われるISで、最強になる。
この世界の頂点に、《世界最強》に、なってみせる。
「………ハッ!」
斬る。
「………セッ!」
ただ斬る。
「………ハアアアアッ!!」
ただただ斬る。
私と、纏う鋼鉄の衣、そして掌中の一振りの刀。それらが一体化した様な、心地の良い緊張感。
無心に剣を振るう内に、私自身が研ぎ澄まされていくのが分かる。
もっと速く……もっと鋭く!
「……楓!」
私の名前を呼ぶその声に、ハッと我に返る。私の事を下の名前で呼ぶ人間は数少ない。ましてやここは自衛隊の基地内にある訓練場だ。相手は一人しかいない。
「……何の用ですか?柚月。」
若干不機嫌になってしまったが向こうが悪い。折角かなりいい感じに集中していたのに水を差されたのだ。
声の主は長身で黒い長髪のにあう少女。彼女は笹原柚月。私と同い年の代表候補生の一人だ。
「何の用、じゃないわよ。貴女、また博士の呼び出し忘れてるでしょ?」
そう言われて慌ててハイパーセンサーの時計を確認すると、思っていた時刻より二時間ばかり過ぎている。
どうやら想像以上に集中出来ていた様だ。それを切らしてしまった事に口惜しさを覚えるがあのまま続けていれば何時間続けていたか分かったものではない
「わ、忘れてなんかいません。……時間に気付かなかっただけで。」
「それを世間一般には忘れてるって言うのよ。」
反論できない。いかな理由があれ、博士との約束を蔑ろにしたのは事実だ。しかも、これが初めてという訳でもない。
「とにかく急ぎなさい。博士、ぶちギレる寸前だったわよ?」
「ああ………行かなきゃ駄目ですか?」
「当たり前でしょ!」
怒られてしまった。言ってみただけなのに……。博士は怒らせると非常にめんどくさいのだ。まあ怒らせる様な事をした私が悪いのだけど。
「仕方……ありませんね。片付け、お願いしても良いですか?」
纏っていた打鉄を解除しながら柚月に尋ねる。辺りには訓練で斬り墜としたドローンの残骸が転がっている。
「……まあ、いいわ。やっといてあげるから早く行きなさい。」
「ありがとうございます。」
「遅い。」
研究室に入るなり、開口一番それだけが告げられた。
「すみません、訓練に集中していて。」
一応言い訳を試みる。余り効果があるとも思えないけれど。
「いい?貴女が一秒遅れるという事は私の貴重な貴重な時間が一秒奪われるという事なのよ?その一秒があるだけで変わることっていうのは一杯あるの。貴女の時間は貴女だけの物ではないということをもっと自覚してもらわないと私が困るのよ。そもそも貴女は自衛官であり代表候補生でもあるのだから上官でありさらには貴女の専用機を手掛けるこの私の命令には絶対服従絶対遂行が原則であって遅れるなんて事は決してあってはならない事態なの。それを貴女は過去に何回やったの?1…2…3…4………両手の指じゃ足りないわよね?自衛隊という軍事組織の中にあってこれは許されざることよ。それを私の寛大な心によって見逃されているというのに貴女は一向に学習する様子がないのね。訓練に打ち込むというのは悪いことではないけれどそれで重大な約束を忘れるなんて本末転倒も良いところよ。それとも貴女、ひょっとしてわざとやってるんじゃないでしょうね?そうだとしたら貴女は人として、許しがたい最低最悪の行為を行っている事になるわ。いい?貴女がそんな下らない行為を一度する度に私はもとより数え切れない人の迷惑になるのよ?もし貴女がそれを知っててわざとやってるのだとしたら貴女は自らを恥じ、即座に正すべきよ。第一貴女は……」
「………三枝博士、分かりましたからその辺りで……」
この研究室の主、三枝菜々子博士はあの織斑千冬と同じくIS学園の一期生であり、日本屈指のIS研究者だ。あの暮桜の主任設計士でもあり、今までの日本製ISで彼女の手が掛かってない物は存在しないとさえ言われている。
一年前まで倉持技研にいたのだが、方向性の違いから退職。自衛隊で代表候補生監理官に就いている。
そして、彼女は怒らせると非常にめんどくさい。くどくどと長文で説教を始めるのだが、言っている事自体は正論な上、頭の良い彼女はこちらの反論を全て論破してくる為に遮る事が出来ない。
「……いいわ、こんな話をする為に呼んだんじゃないしね。」
幸い、本来の目的を忘れてはいなかった様だ。下手をしたら一時間は拘束されるので助かった、というのが本音だ。
「用件は分かってるわね?貴女の専用機についてよ。」
来年度、私はIS学園への入学が決まっている。目的は先進技術実証機による次世代技術の運用データの収集だ。その実証機には、私が幼い頃から開発に関わったシステムも搭載されている。
なんでも最初は打鉄に搭載するつもりだったのだが、丁度第三世代兵装を決めかねた試作機が倉持技研で埃を被っていたため、国が買い取って様々な先進技術のテストベッドとして改修したのだ。
「詳しい話の前に……これが、貴女の専用機よ。」
三枝博士が手元の端末を操作する。すると研究用機体ハンガーの床が開き、一機のISがリフトアップされてきた。
外観はかなりシャープでシンプルなデザインだ。色は闇の様な漆黒。背面の非固定浮遊部位に当たる大きなウイングスラスターが目を引く。実験機ということでもっとゴテゴテして奇抜な見た目かと思っていただけに意外だ。
「この子が、貴女の為の、貴女にしか扱えない専用機、《玉鋼》よ。」
「玉鋼………。」
その名前を聞いた時、いや、この機体を一目見た時から、私はこの機体に魅せられていた。惹かれていた、と言った方が正確かも知れない。ともかく、私はこの機体を見た瞬間から、まるで一目惚れでもしたかの様に、他の一切が目に入らなくなっていた。
「まずはフッティングとパーソナライズね。大体のデータは打ち込んであるけど。」
ゆっくり機体に近付き、倒れ込む様に身を預ける。膨大な情報が頭に流れ込んできて、それが一つ一つ整理されていく。
そして、段々と体に馴染む。それまで只の羅列だった情報が意味を成していく。
(……ああ、コレは……この子は……)
理解る。このISは、このコアは、何を望んでいるのか。
(…………私に、似てる。)
「……終了ね。問題はない……って、どうしたの?」
「……いえ、ただ………仲良くやれそうだと思って。」
「………?そ、そう。なら良いわ。」
この子、玉鋼は私と同じだ。常に新しく、誰よりも先へ。
要は、私も玉鋼も、負けず嫌いなのだ。
「仲良くやれそう……ね。」
かつて、同じことを言った人を一人知っている。私が設計した中でも最高傑作と断言できる機体に乗っていた人だ。
いま、彼女はあの子達が向かう先でーーーーIS学園で教師をしている。
「……千冬、貴女の教え子は、ひょっとしたら………」
かくて、一人の少女の物語は幕を開ける。これは、彼女が
最強になるまでの物語。
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