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ワルツは一人じゃない

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第五章

 しかしその彼女にだ。グンドゥラはさらに言った。
「じゃあ楽しんで。好きならね」
「ええ。それじゃあ」
 こうしてだった。由実は青いドレスを着て舞踏会の中に己を置いた。そうしてだ。
 ワインを飲みお菓子を食べ音楽を聴く。音楽はワルツだった。
 そのワルツに乗りタキシードやドレスを着た学生達が踊っていく。皆楽しげに笑っている。だが由実はそうしたものを見てもだ。やはり楽しめていなかった。
 それで一人だけ沈黙して飲んで食べていた。その彼女はふとだ。
 前にグンドゥラを見た。見れば彼女は困った顔で周囲に言っていた。
「困ったわね」
「相手いないのね」
「次の曲の相手は」
「貴女達皆相手いるわよね」
 女の子達にだ。こう言ったのである。
「次は女の子同士で踊る曲なのに」
「その相手の女の子がいないのね」
「今度は」
「そうなの。参ったわね」
 眉を曇らせてだ。グンドゥラは言っていた。
「どうしようかしら」
「誰か知り合いいないの?」
「誰か」
「ええと。それは」
 グンドゥラは周囲を見回した。そしてだ。
 たまたま由実、ワインをグラスで飲んでいた彼女と目が合った。由実もそのことに気付いた。
 その彼女を見てだ。そのうえで周りに言ったのだった。
「ひょっとしたら」
「誰か見つけたの?」
「相手の娘を」
「ひょっとしたらだけれど」
 それでもだというのだ。
「あの娘に声をかけてみるから」
 こう言ってだ。そのうえでだった。
 グンドゥラは由実のところに一人で来た。そしてこう言ってきた。
「あの」
「私?」
「ちょっと今誰も相手がいなくて」
 正直にだ。由実にたどたどしい日本語で話していく。
「それで。よかったら」
「私がワルツを」
「一緒に踊ってくれるかしら」
 おずおずとした物腰で。グンドゥラは由実に話す。
「そうしてくれるかしら」
「私は」
 断ろうと思った。だが、だった。
 グンドゥラはここでだ。由実にさらに言ってきた。その言葉は。
「ワルツは一人じゃ踊れないから」
「一人で?」
「そう。代理の申し出なんて図々しいけれど」
 由実に対して失礼だと。それはわかっているというのだ。 
 だがそれでもだった。彼女は由実に言うのだった。
「それでも。お願いできるかしら」
「一人じゃないから」
「そう。一人で踊れないから」
 グンドゥラはまた由実にこう言った。
「だからね。お願いできるかしら」
「一人じゃできないから」
 ここでだ。由実はふと気付いたことがあった。それは。
 彼女は確かに学校の仲では孤独だ。それは今もだ。
 しかしここには一人で来たのではなかった。グンドゥラ、他ならぬ目の前にいて一緒に踊ってくれる様に頼んできている彼女が声をかけてくれたからだ。
 一人で来たのではなかった。彼女が誘ってくれたからだ。そのことに気付いた。
 一人では何もならない、今もこれからも。このことに気付いたのだ。
 気付いた彼女はその手を前に出した。次に足も。
 そしてそのうえでだ。グンドゥラの手を握ってこう言ったのだった。
「私でよかったら」
「一緒に踊ってくれるのね」
「ええ、よかったらね」
 微笑んでいた。顔は自然に。
 そしてその微笑になった顔で由実は言ったのである。
「一緒にワルツ踊って」
「有り難う。それじゃあね」
「ワルツは踊ったことがないけれど」
「私もね。殆どね」
 なかったとだ。グンドゥラも微笑んで答えてきた。 
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