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とある科学の裏側世界(リバースワールド)

作者:偏食者X
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second contact
  ep.041 demerit burst 3

「"狙い通り"だと?」

庵鬼はポカンとしているが、先ほどの石版をぶつけようとした行為から何をしたのかを察知した。
すると、庵鬼は構えを解き話し掛けてくる。

「お前がやったことは俺も理解した。 おそらく俺の能力を特定したんだろ?」

悠持は敢えて知らんぷりを演じる。
庵鬼が言っていることは当たっていた。
だが、その分析は完全にはなっていない。
"射程範囲"が分かっていないのだ。
だが、その答えは庵鬼が自ら口にした。

「俺の能力は一般的には"空気操作"なんて言われるが、俺は"キリキリ舞"と呼んでいる。 射程範囲は半径5m。」

これで庵鬼の能力を完全に見破った。
だが、肝心なのは対策だ。
相手は空気を操っているため、射程範囲に入ってしまえば対処することは不可能だ。

悠持は覚悟を決める。
悠持が普段使っているのは能力の80%くらいだ。
理由は単純にあとの20%は身体能力で補えたから。
そして、100%は悠持の体に掛かる負荷が大きくなるため、能力の乱発が不可能になる。

『実際、100%なら俺にも多少能力を掛けられるが、伴う負荷も倍率と同等、2発撃てない技でこれを使えば負荷は2倍。 仮に倒せても負荷で俺も自滅する。』

今の戦況からして自分が倒れることは望ましくない。
ここでいつまでも足止めをされるわけにも行かない。
挙句の果てには、確実に勝てる確証もない。

『仕方ない.....どんな"途中過程"よりも今重要なのは"結果"でしかない。』

悠持は腹をくくった。
若干ふらつく足で地面を踏み締める。

「久しぶりだぜ。 100%の全力を見せるのはお前が二人目だ。」

一人目は勝哉だった。
一度、悠持vs勝哉で全力の試合をした際は"引き分け"という結果に終わった。
近接で力と技のみで戦う悠持とトラップなどを使いながら距離を保って戦う勝哉。
2人の戦い方はほぼ対極と言っても過言ではないため、どちらかが強いという判断も難しかった。

『だが、今は負けることは許されない。』

悠持は能力で脚力を一時的に2倍にする。
悠持の能力は100%で使っても自身にかけられる倍率は2倍までしかない。
それ以上は仮にかけられたもしても使用した際の瞬時の負荷が重すぎる。

「何しようとしてんのかは分からないが、次の一撃で終わらせてやるよ。」

悠持はクラウチングスタートのモーションに入る。
悠持は神経が一点に集中されていくような感覚を感じ、それに連れて外部の余計な情報が絶たれていく。
視界にすら影響が出始め、必要な情報以外は白黒テレビのように色さえつかなくなった。

一方の庵鬼も太刀を構え、姿勢を低くして居合いの状態になる。
庵鬼もこの一撃のために悠持以外に向いている意識をすべてシャットアウトした。

2人は何のタイミングもなく、同時に踏み切った。
しかし庵鬼はここで衝撃を受ける。
踏み切るのとほぼ同時に悠持の姿が消滅したのだ。
つまり、一瞬にしてマッハ3以上の速度に達したのだ。

『さっきまでとは次元が違う。 残像すら見えなく....。』

すると途端に庵鬼の目の前に悠持が現れる。
庵鬼は焦りから出現した悠持を両断するかのように太刀を横殴りに振った。
だが、それは質量を持った残像だった。

『しまっ....!!』

次の瞬間、意識が吹き飛ぶかのような速度で何かが衝突する感覚を庵鬼は体感する。
それは悠持が能力で2倍のパワーと速度にした拳による一撃だった。

人形が宙を舞うかのように庵鬼は宙を舞いながらコンクリート製の柱を何本も折っていく。
普通ならくらった時点で即死している。
それなのに庵鬼は無事などころか、意識を保って立ち上がってきた。
しかし、その体は一撃しかくらっていないなど信じられないくらいズタボロになっていた。

「くっ.........。」

庵鬼は太刀を杖代わりにしてギリギリ立っている。
もはや勝負がついたと言っても過言ではない。
悠持も減速してようやく停止したが、打ち込んだ右腕は根本からだらんとしていて、足にも多大な負荷が掛かったため地に膝を付く。

『これが2倍の負荷...もう右腕と足の感覚がない。』

悠持は立っているのかどうかも分からない状態だ。
もう2本の足では歩けないため、足を引き摺るように地を這いながら庵鬼に近付く。

庵鬼もとうとう太刀を杖代わりにしても立てなくなり、悠持と同様に地を這いながら近付く。
気を張っておかなければ今すぐにでも意識が飛んでしまいそうだ。

「まさか.....まだ奥の手を持ってるなんてな。」

庵鬼が掠れかけた声で話し掛ける。
初めて出会った時から悠持は"まだ人に見せていない何か"を持っていると感じていた。
しかし、その正体は自分の想像を遥かに超えていた。

「これは奥の手なんて言えるものでもない....これは"リスクを持った強化(demerit burst)"と言っても過言ではない。 故にこれを引き出させたお前は相当の強者なことは確かだ。」

互いにジリ貧になりながら目の前まで迫った。
もう立ち上がることも不可能で、相手を殴ることすら不可能なため最後の勝負はシンプルだった。

「もう....ジャンケンで良いか?」

庵鬼が提案した。
悠持も予想外の提案に内心驚いていたが、先ほどの激しい戦闘から考えればジャンケンで勝負が決まるなら文句はないと思った。

「ジャン」

「ケン」

「ポン」

たったそれだけの言葉で勝負は決まった。
庵鬼は"チョキ"を出し、悠持は"パー"を出した。
もう揺るがないと思われた悠持の勝利は一度のジャンケンで敗北へと変わった。

「ふぅ〜、"俺の勝ちだ"と言いたいが、体がこれだと勝てた気がしないんでな...勝利者の権限として仕方なくここを通してやるさ。」

どうも消化不良な状態になってしまったが、悠持の目的は達成された。
庵鬼は強がるように悠持に言ったあと、まるで人形の糸がぷつりと切れたように気を失った。 
 

 
後書き
demerit burstは終了です。
庵鬼は強さで考えるとobjectの中ではだいたい3番、あるいは4番手くらいです。
次回は桐崎が戦います。
お楽しみに。 
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