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Exhaustive justice

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一話

やっと助けが来た、そう思った少女はこの掃き溜めの地獄で安堵を得たハズだったろう。
始まりは小さな音だった、三人の男達の下卑た笑い声がよく聞こえたその廃ビルに、階段をゆっくりと登ってくる音が聞こえた。
初めからそれに気づいた者は少女しかいなかったがやがて階段を上る音が大きくなるにつれ、男達も気づいたようだ。
「様子を見てくる」、と一人の男が部屋を出た。
暫しの静寂の後、次の瞬間。

階段から急激にこちらに「近づく」、と言うよりかは、飛んできた男の悲鳴と共にその位置と同一から響く駆動音。
そう、見回りに行った男は身体に巨大なチェーンソーが刺さったまま、何か大きな力によって元の部屋へと吹き飛ばされたのだ。

男達は階段の方向を見て息を呑む。
そこからは簡素な足音が響くだけ。
『彼』は何も勿体付けず、特に何も演出もなく、ゆっくりと階段を登りきった。
未だに駆動音と悲鳴が交じる中、男達は『彼』の登場に各々恐怖の顔を覗かせた。

一瞬反応が遅れてはいたが、恐怖の中ながらも「先手必勝」、というように男の一人が『彼』に向かって能力と共に攻撃を仕掛ける。
肉体強化系の能力によって何倍にも肥大化した腕が猛威を振るう、『彼』はそれを冷めた目で瞬きもせずに黙視する。
男が確実に直撃を確信した瞬間、腕は千切れ、いや。背後から悲鳴と共に暴れるチェーンソーによってぶった斬られた。

男が一瞬仰け反った瞬間、『彼』はいつの間にか手に持っていたナイフで頬を横に切断し、蹴倒した。
男が堪らず後ろに転倒すると共に身体にチェーンソーが刺さり暴れていた男も衝撃を受けて地面に倒された。
肉体強化系の男は倒された瞬間に頭を撃って気絶をするが、チェーンソーが刺さっている男はその程度で済むはずもない。地面に身体を強打した衝撃で身体に刺さっていたチェーンソーが上に舞い上がる、空中で一回転した後刃側が下に、直下して新しい傷口を作った。
もう一度大きな悲鳴が上がるが、男が白目を向いて失神すると暫く暴れた後に、チェーンソーが駆動をやめる。

ここでようやく場が静まり返る。
残された男は恐怖のあまりに『彼』を直視することも出来ない。

血を浴びて白のマントや帽子に朱が混じった『彼』は短く言葉を吐く。

「貴様らが犯罪組織の主犯格だな」
透き通るような、しかし低い声で問う『彼』に、男は恐怖から、嘔吐感から、焦りから。何も応えることは出来ない。
何を言おうと潰されることなど知っていた。
しかしどうすることも出来ない、自分の行為を懺悔するまでだ。

「…どうやらわかっているらしいな、では処罰を開始する」
男は目を瞑る。
「いっそ殺してくれ…」

「…殺すわけは無い、それでは意味はないからな」


「あああああああああァァァぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
『処罰』と称された拷問の後に発せられる悲鳴。
そこにいた少女はその悪魔的行為をただ黙って見ていることしかできなかった。
肉体全域全てが感じる恐怖、少女に逃げ出そうなんて考えすら思いつかない、足が竦んで動けるはずも無かった。

最後の男が『生きる肉塊』になった後、『彼』は携帯電話を手に何かを話していた。
今のうちに逃げ出そうと、我に返った少女は壁を背にゆっくりと扉側まで移動する。
しかし、電話は直ぐに終わったようで、『彼』はこっちを振り向く。

「ひっ」と嗚咽と悲鳴が混じった声が出た後にその場にへたり込む。
『彼』が近づく程にその顔色は優れないものとなって行き、挙句の果てに失禁してしまう。
『彼』が何かを言っているが少女には聞こえるはずもない。

もうダメだ、と少女が悟った瞬間に扉側で誰かが叫ぶ。
「君が綾野か!?」

叫び声に釣られ、『彼』がその男を見ると共に落胆の息を吐く。
「一ノ瀬 零司(れいじ)…また貴様か···邪魔はするな」

「ちと、これはやりすぎだな、風紀委員長、 月雲(つくも) (みかど)!」

『彼』、いや。帝は冷酷な眼光でさっきを帯びて零司を黙視する。
零司の方も殺すような眼圧、その目はまさに太古の戦士のようだった。

一触即発。

先に動いたのは、零司の方だった。
一瞬で帝との距離を詰め、風を切る程の速度のパンチを帝のこめかみ目掛けて放った。
帝はその攻撃に対して、マントから素早く鎖鎌を取り出し、零司の腕に鎖を巻き、腕を引っ張って攻撃の方向をずらした。

「攻撃の方向を変える事に、さほど力は要らない。貴様の桁外れのパワーでさえもな、このまま貴様の腕を鎖で締め上げて木っ端微塵にしてやりたいが、そこまでのパワーは俺には無い」

そう言って帝は鎌を零司の心臓向かって降り下ろした。

「俺にはもう一本腕が有るんだぜ!?」

零司は叫び、拘束されていない左腕で帝の腹を殴った。
信じられない速度だった。零司が拳を握った、と思った直後、拳は帝の腹部を抉っていた。
帝もこれには堪らず、胃液を吐き出して武器を手放して、距離を取った。

流石の帝も咄嗟だったために、着地に失敗して体制を崩して先ほどの衝撃に咳き込む。
「やはり、その圧倒的なパワーとスピード…野放しにしておく訳にはいかんな」

「てめえになら遠慮はしなくても大丈夫だな!?安心しろ、殺しはしない」

「ナメるな」

眉を顰め、帝はそう言い放ち、マントから槍を取り出して、零司へと投擲した。
零司は咄嗟に、両腕を体の前で交差させた、腕に槍が刺さったが体に槍が刺さることは防いだ。

「ジャベリン…投擲に優れた槍だ」

帝はまたもマントから武器を取り出した。
零司は腕に刺さった槍を抜き、攻撃に備える。
帝は取り出したナイフの刃を零司に向けて何かのピンを抜いた。
その瞬間、空を切る音がしたのも束の間、肉を抉る音が聞こえた。

「クッ···クソッ、ナイフを飛ばしてきやがった··!?」

零司の左胸にはナイフが深く刺さっていた。幸い、肺には当たっていなかった様だった。

「油断したな?スペツナズナイフだよ…次は心臓に当てる…」
スペツナズナイフとは、ソビエト連邦の特殊部隊が使っていたとされる、所謂刀身を射出可能とする『弾道ナイフ』と呼ばれる代物である。

帝は再度スペツナズナイフを構える。

しかし零司は不敵な笑みを浮かべてこちらを睨んでいる。
帝は懐にもう一つ武器を用意しており、スペツナズを避けたとしても逃れられない第二矢を用意していたが、

「うおぉぉぉぉぉぉ!」

零司は雄叫びを上げて、帝の元まで走り抜く。帝は突然の予想外な行動に反応が遅れると、零司は帝を通り過ぎ、女性の制服を掴んで近くに有った窓から逃走を図った。

帝は零司が逃走した窓を見つめ、スペツナズナイフをマントの中へとしまう。
走り抜く零司にスペツナズナイフを当てるのは簡単ではあった、しかし、それで急所を撃ってしまったら『殺してしまう』

「…二年の一ノ瀬零司。奴は校則を破ったことは無いため、裁けなかったが…」
零司に殴られた腹部を押さえ、窓を睨む。

「一度、本気で処罰を下さなければならんかもしれんな」

外から救急車の音が聴こえたのを感じ、廃ビルを後にした。 
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