魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic26-B聖王のゆりかご攻略戦~Prologue for Episode Ⅴ~
†††Sideなのは†††
「シスター・プラダマンテ、騎士キュンナ。駆動炉の停止の方、お願いします」
聖王教会騎士団から、精鋭部隊の銀薔薇騎士隊ズィルバーン・ローゼの隊長で、最強の剣騎士シュベーアト・パラディンのシスター・プラダマンテと、黄菊騎士隊ゲルブ・クリュザンテーメの隊長で、鎌騎士のA級1位の騎士キュンナ・フリーディッヒローゼンバッハの2名が、ゆりかご攻略戦に参加してくれることになった。
「ええ。教会騎士団の代表として、しっかりとゆりかごの心臓を止めましょう。キュンナ、サポートを」
「了解です、シスター」
ルシル君がフォルセティと一緒にイロウエルでどこかで投げ飛ばされた後、ゆりかごの外壁を破壊して無理やり開けた突入口に降り立ったところで、シスターや騎士キュンナと合流した。お2人が駆動炉の停止を買って出てくれたことで、私とフェイトちゃんは正直助かった。本来、駆動炉の対処はルシル君の役割だったけど、フォルセティがゆりかごの外に居たことで出来なくなっちゃったから。
「武装隊の皆さんも、コントロールルームの確認をよろしくお願いします」
ゆりかごは広大で、全てのフロアを見て回るだけの余裕はない。それに私とフェイトちゃんは艦内で唯一、生命反応のある玉座の間を目指さないといけない。反応は2つあることから、1つはヴィヴィオ、もう1つはプライソンで間違いない。
「でもコントロールルームに誰も居ないことが気になるね」
「うん。てっきりプライソンが待ち構えているんだと思っていたけど・・・」
シスター達や武装隊と別れて、私とフェイトちゃんはAMFに満ちる通路を飛行魔法で翔け抜け、ヴィヴィオ達の居る玉座の間をひたすら目指した。シャルちゃんからユーノ君伝手に届けられたゆりかご内部のマップ通りに進みつつ・・・
「アレは・・・!」
「情報にあった多脚兵器!」
通路の奥からガシャガシャと音を立てて歩いて来るのは、鎌のような両腕を備え付けてる多脚兵器。確かあの機体には飛行機能もあるって話だったけど、どれもこれも歩いてる機体ばかり。しかも私とフェイトちゃんには目もくれない。飛んでるからって理由なら、随分とお粗末な防衛戦力だ。
「なのは。ひょっとしてコントロールルームか駆動炉へ向かうんじゃ・・・」
「かも。シスター達の実力は信用してるけど・・・。数が数だしね」
50機近い戦力を見逃すことも出来ない。私とフェイトちゃんは頷き合って、私はエクセリオンモードの“レイジングハートを”、フェイトちゃんは大鎌形態アサルトフォームの“バルディッシュを構えて攻撃態勢に入った。
「ハーケンセイバー!」
「エクセリオンバスター!」
フェイトちゃんの放った三日月状の魔力刃は兵器群をバラバラに斬り裂いて、私の砲撃で漏れを撃ち抜いて爆散させていく。そうやって兵器群の迎撃を行いながら通路を飛んで、ようやくヴィヴィオの待つ「玉座の間・・・!」の扉が見えてきた。
「思ったより迎撃戦力が少なくて良かったね、フェイトちゃん」
「うん。AMFの所為で余分な魔力を消費しているけど、出撃前の想定がいい意味で裏切られた感じ。ほぼ万全の体勢でプライソンに挑めるし、ヴィヴィオを止めることが出来ると思う」
扉の前で飛行魔法を解除して床に降り立って、警戒しながら扉に手を触れようとすると、扉は「っ!」ゆっくりと左右に開いた。通路も十分に広かったけど、それ以上に広い玉座の間がそこにあった。
「「ヴィヴィオ!」」
数十mという長方形の広間の奥には、両脇に球体2つが浮遊してる玉座がある。そして座らされてるヴィヴィオの姿も。あの子の側には「プライソン・・・!」も居た。見た目は10代前半の少年で貴族風な服装。でもその正体は何十年と生きる、最高評議会によって人工的に生み出された天才。それにドクター、ジェイルさんの兄であり仇でもある。
「プリンツェッスィンの母親役の高町なのはと・・・ははっ、俺のプロジェクトFを利用して造られたプレシア女史のお人形も一緒か。まぁそうだろうな、大体の予想通りだ」
「っ!」
「お人形・・・?」
私の胸の奥で渦巻く怒りの感情。これが挑発だとすれば効果覿面だよ。プライソンの表情から見れば素らしいけど・・・。でもこれまでに溜め込んだ彼へのどす黒い感情が爆発するトリガーには十分過ぎる発言だった。
「この・・・!」
“レイジングハート”をプライソンへ向けて、「チェーンバインド!」を発動。プライソンの両脇に展開したミッド魔法陣から鎖型バインドを伸ばして彼を拘束する。フェイトちゃんが「今、助ける!」高速移動魔法・ソニックムーブで、玉座に座るヴィヴィオの元へと向かった。けど・・・
「ぅ・・・あ・・・ぁあ・・・」
――聖王の鎧――
「きゃあ!?」
苦しそうに呻き声を上げてたヴィヴィオに触れようとした瞬間、「フェイトちゃん!?」が弾き飛ばされた。ヴィヴィオも「ぅあ・・・!」苦しそうに身じろぎする。私はプライソンに向かって「ヴィヴィオに何をしたの!」声を荒げる。
「何をしたか、何をされたか、それをお前たちが・・・――」
私たちの神経を逆撫でるようにニヤリと笑うプライソンは、私のバインドを膂力だけで破壊して、腰の位置に空間モニタータイプのキーボードを展開。そして「その身を以って確かめればいい」両手をキーボードに叩き付けた。すると玉座の両脇にある球体が放電して、間に挟まれてる状態のヴィヴィオが・・・
「ふぁ!?・・・あ、あああ・・・ああああ・・・うああああああああ!?」
これまで以上の苦痛の声を上げた。それはもう悲鳴だった。フェイトちゃんが近付こうとするけど、ヴィヴィオから放出される虹色の魔力流によって拒まれてる。
「プライソン、今すぐ止めなさい!」
――エクセリオンバスター――
プライソンへ向けて砲撃を発射。プライソンは防御・回避せずに「ぐはっ!」そのまま直撃して後ろの壁に叩き付けられてドサッと床に落下。そのまま動かなくなった。すずかちゃん伝手で聞いた話だと、ドクターと1対1で戦い、そして一度はドクターの手によって殺された(あくまでドクターから聞いた話みたい・・・)らしいんだけど、でも蘇ってドクターを殺害し返した・・・と。だからあまりのアッサリさに呆けてしまった。
「ママ・・・? ママ・・・! ママ! なのはママ! フェイトママ!」
ヴィヴィオに名前を呼ばれたことで、私の意識はヴィヴィオだけに向く。でもプライソンを放っておくわけにもいかない。だから今度は「レストリクトロック!」で拘束しておく。そしてフェイトちゃんの隣へと向かう。
「「ヴィヴィオ!」」
「ママ!・・・こわいよ、いたいよ、なのはママ、フェイトママ!」
ヴィヴィオの悲痛の叫び声に胸が苦しくなってくる。玉座の両脇に浮いてる球体目掛けて、私は「エクセリオンバスター!」を、フェイトちゃんは「プラズマスマッシャー!を同時に発射。球体は簡単に撃ち砕くことが出来たけど・・・。
「うぁぁぁああああああああ!」
「「ヴィヴィ――きゃっ・・・!」」
一際強く魔力流が吹き荒れると私とフェイトちゃんは吹き飛ばされて、「うぐっ!」出入り口側の壁に叩き付けられた。軽く咽ながら、球状に変化した虹色の魔力にその姿を完全に覆い隠されたヴィヴィオの方を見る。魔力球が音を立てて崩れると、「ヴィヴィオ・・・?」の姿が変わってた。
「ヴィヴィオ・・・」
「その姿・・・」
スバルやティアナくらいの身長くらいにまで成長したヴィヴィオ。防護服まで着用してる。宙に浮いていたヴィヴィオはトンッと床に降り立つと、俯かせてた顔を上げて、瞑っていた目を開けた。翠と紅の光彩異色の瞳だけど、目つきはヴィヴィオのものと違って少しばかり鋭い。
「あなた達が侵入者・・・。力尽くで排除させてもらいます」
明らかにヴィヴィオとは違う口調。誰?と考えると真っ先に行き着くのは「聖王女オリヴィエ・・・」の人格だ。ヴィヴィオが記憶転写型クローン生成技術・プロジェクトF.A.T.E.によって生み出されたなら、有り得なくはない話だけど・・・。
「参ります」
――電光石火――
ヴィヴィオの姿がかき消えた。これまでに何度も経験してる高速移動からの奇襲攻撃。フェイトちゃんが半球状のバリア「ディフェンサー!」を発動して、私たちを金色の魔力の膜が覆った。直後、直上に気配を感じ取って見上げてみれば・・・
「破ッ!」
――勇猛果敢――
ヴィヴィオが虹色の魔力を付加した右拳でバリアを打ち付ける瞬間だった。拳がバリアに打ち込まれると、一切の抵抗を受け付けないというほどにアッサリと砕いて、そのまま私とフェイトちゃんの間に落ちて来て、床に拳を打ち付けた。
「「くっ・・・!」」
足が浮くほどに強烈な衝撃波が周囲に発せられた。ほんの一瞬だけど体が強張った。その隙を、仮にも古代ベルカ時代において最強と謳われた聖王女オリヴィエの遺伝子を持つ、ヴィヴィオが見逃すわけもなく・・・。
――剛毅果断――
両脚に魔力付加をしたヴィヴィオは跳んで、「きゃっ!」右脚で私を、「ぐぅ!」左脚でフェイトちゃんを同時に蹴った。私たちは咄嗟にデバイスを盾変わりにしたことで直撃だけは防いだけど、その威力によって踏ん張りきれずに蹴り飛ばされた。でも今度は壁に叩き付けられないように飛行魔法を発動して無理やり止まる。
「いっつ・・・」
“レイジングハート”の柄を握る両手が痺れる。ここまで重い一撃を受けたことなんて、数えることくらいしかない。ヴィヴィオは左右に居る私とフェイトちゃんを横目で何度も見ながら警戒中。こちらから攻撃を仕掛けるだけの隙が見付け出せない。
「「ヴィヴィオ!」」
「・・・?」
――勇猛果敢――
名前を呼んでもヴィヴィオは反応せず、小首を傾げるだけですぐに両手に魔力を纏わせて、ゆっくりと伸ばしたままの腕を胸の位置にまで上げた。
――驚浪雷奔――
目にも留まらない速度で外側に振られた両拳から高速で放たれたのは直径2mほどの衝撃波。私とフェイトちゃんはそれぞれ回避行動を取って躱して、思わずデバイスをヴィヴィオに向けそうになるけど、なんとか思い留まった。
「ヴィヴィオ、お願い! 話を聴いて!」
「私の名前はヴィヴィオではありません。私の名前は・・・、名前は・・・、名前?」
本当に判らないって風に呟くヴィヴィオに手を伸ばそうとした時、「なのは!」フェイトちゃんに名前を呼ばれた。フェイトちゃんはヴィヴィオにリングバインドを六重ほど掛けたから、私も「レストリクトロック!」でヴィヴィオを拘束する。
「プライソン! ヴィヴィオの洗脳を解け! 今すぐにだ!」
フェイトちゃんが声を荒げる。床に倒れ伏してたはずのプライソンはいつの間にか立ち上がっていて、私のバインドもすでに破壊済み。
「残念。俺はあくまでオマケで、本件の総指揮を担当しているのはガンマだ。俺を倒せばプリンツェッスィンは元通りになると思ったか? 馬鹿め。なら俺がこんな戦場に居るわけがないだろう。八つ当たりとしてもう1発撃ち込んでおくか? どうせ徒労に終わる」
なんてことを言いながら、プライソンは玉座の間の出入り口に向かう。フェイトちゃんが「待て!」って制止するけど、どうぞ攻撃してください、って風に一切の身構えもなく歩き続ける。
「っ・・・! お前では、本当にヴィヴィオを止められないのか・・・!」
「ああ、止められないな。俺の作品の1体を止めれば、プリンツェッスィンも、スキタリスとシコラクスも、ガジェットも止めることが出来る。名前はガンマというんだが・・・、待ってろ」
ここでなんとプライソンは通信を繋げた。相手は『なに、父さん。ウチ、局と教会の相手してるんだけど』前髪で目元が隠れてる女性。あの人がガンマ・・・。プライソンが「ははは。なんでもない。ただ顔を見たかっただけだ」なんて冗談っぽく言ったから・・・
『は? マジでふざけないんでほしいんだけど。ウーノとクアットロだけじゃなく、ステガノグラフィアとかいう鬱陶しいクラッキングプログラムから総攻撃食らってるし、騎士団もアジト内で暴れ回ってるし。父さんの暇潰しに付き合ってる暇なんてない』
それはもう冷たい声色で叱られた。プライソンは悪びれる様子もなく、私やフェイトちゃん、そしてヴィヴィオをチラッと見た後、ニヤリって笑みを浮かべた。何か嫌なことを企んでるってすぐに判った。
「ガンマ。プリンツェッスィンのリミッターを解除しろ」
「「なっ・・・!?」」
『心身ともに壊れる可能性があるけど?』
「構うものか。どうせ用済みだ」
『判った。コンシデレーション・コンソール、起動』
モニターの向こう側でキーを打つ電子音がした。
「やめてぇぇぇーーー!」「やめろぉぉぉーーー!」
私とフェイトちゃんで制止するけど、相手はモニター越し。声だけ出しても意味はなく、「きゃああああああ!」ヴィヴィオが頭を抱えて悲鳴を上げた。首を覆うようにテンプレートが展開されて、さらに魔力が吹き荒れる。
「では高町なのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。生きていたらまた会おう」
それだけを言い残して、プライソンは玉座の間から去って行った。追いかけようにもヴィヴィオをまずは止めないと。心身が壊れる・・・。その前に必ず。ヴィヴィオを捕らえていたバインドが全て弾け飛んで、「倒さないと・・・敵は・・・!」そう呻いた。
「はあああああああ!!」
――勇猛果敢――
両拳に魔力を付加したヴィヴィオが私に向かって駆けて来た。私が「ヴィヴィオ!」って呼んでも、目から光が失われたあの子には全然届いていない。今のヴィヴィオは完全に・・・敵なんだ。
「ゴメンね、ヴィヴィオ。痛いけど、許してね・・・」
私はヴィヴィオに体を向けたまま飛行魔法で玉座の方へと飛んで、「レイジングハート!」のカートリッジを2発とロード。周囲に魔力スフィアを10基と展開。フェイトちゃんも“バルディッシュ”を構えて臨戦態勢のまま、ヴィヴィオの後を追って来る。
「アクセルシューター!」
10発の魔力弾を一斉射出。ヴィヴィオは軌道を見極めてジグザグに駆けて回避して、そのまま私へと距離を詰めてくるけど・・・
――ソニックムーブ――
「はああああああ!」
――ハーケンスラッシュ――
フェイトちゃんがヴィヴィオのすぐ後ろに迫って、“バルディッシュ”を横薙ぎに振るった。だけど「っ!」魔力刃が当たる前に砕け散った。誘導操作してヴィヴィオの背後から当てようとした私の魔力弾も、着弾直前に弾かれて消滅した。
――アクセルフィン――
真っ直ぐ繰り出されたヴィヴィオの拳を急速上昇することで回避。フェイトちゃんが後退したのを確認して、追撃を受ける前に砲撃「エクセリオンバスター!」で迎撃を行って直撃させた。でも魔力爆発の中をヴィヴィオは無傷で突破して来て・・・
「・・・っ!」
――砲煙弾雨――
両手の平に作り出してた魔力弾2発を私に向かって投げつけると、すぐに新しい魔力弾2発を両手の平に作り出して、再展開した魔力刃で背後から斬りかかろうとしてたフェイトちゃんへ向けて投げつける。私たちは念のために防御じゃなくて回避を選択。誘導操作弾じゃないから避けるのは容易い。
「エクセリオン・・・」
「プラズマ・・・」
私は天井近くまで上がって、フェイトちゃんは後退して、ヴィヴィオから距離を取ったと同時に砲撃魔法をスタンバイ。ヴィヴィオが動きを止めて両手の平の間に魔力スフィアを生成しようとしたその瞬間に・・・
「バスタァァァーーーッ!」「スマッシャーーーーッ!」
私たちは砲撃を発射。私の上方からとフェイトちゃんの後方からの砲撃に、ヴィヴィオはスフィア生成を中断して私の砲撃にはアッパーを、フェイトちゃんの砲撃には裏拳を打ち込んだ。
「「っ・・・!」」
なんてことはないその一撃で、私たちの砲撃が殴り返されて来た。慌てて横に移動することで回避。
「まさか砲撃を・・・」
「殴り返すなんて・・・」
しかも大して魔力を付加してない素手で。ヴィヴィオは構えを取って足元ベルカ魔法陣を展開。
――意気軒昂――
そして今まで以上の魔力を放出した。あぁ、この感覚は昔の頃のルシル君だ。圧倒的な魔力の差を見せつけてくる。たぶん、このまま戦っても決定打を与えられない。だから「すずかちゃん・・・」に調整してもらったブラスターシステムを・・・起動しよう。
『フェイトちゃん。リミットブレイクモード、行ける?』
『それしかない、か・・・。うん。やろう』
今のヴィヴィオを押さえるには、こちらも相応の限界を突破しないといけない。そう考えての・・・
「レイジングハート! ブラスター2! ブラスタービット展開!」
「バルディッシュ! リミットブレイクモード、ライオットブレード!」
全力全開だ。
・―・―・―・―・―・
“聖王のゆりかご”の後部にある駆動炉の間へと続く通路を走るのは女性1人と少女1人。女性の名はプラダマンテ・トラバント。緋色の長髪は尻ほどまで伸び、毛先に向かうほど外へと向かってはねている。その美しい紫紺色の瞳は、通路の先の先を見据えている。
防護服は、上下ともに真っ白なナポレオンジャケットとスラックス、袖に腕を通さずに肩に掛けただけの白いナポレオンコート。右手に握られているのは、一振りのエクスキューソナーズソード。本来の用途である斬首剣としてのデザインであるため、剣先は尖ってはおらず四角い。カートリッジシステムを搭載していないどころか、造りからしてデバイスですらないようだ。
「この程度がゆりかごの防衛戦力だなんて・・・」
少女の名はキュンナ・フリーディッヒローゼンバッハ。灰色のショートヘア、翠色の瞳。防護服は、白を基調としたノースリーブのブラウス、薄い桃色のヨークスカート、ノースリーブのロングコート。さらにコートの上から乳房の形に合わせたブラジャー型の胸甲を装着している。
両手で握っているのは大鎌の柄。柄頭には50cm程の歯車があり、右側からは曲線を描く刃体1mの金属刃が伸び、歯車の上部先端から左側に向けて刃体40cmの魔力刃が8つと真っ直ぐ伸びている。柄尻にも同サイズの歯車があり、左側から曲線を描く金属刃1つと、真っ直ぐ伸びた魔力刃8つがある。
「資料によれば、ゆりかご防衛の本来の要は鍛え上げられた騎士たちとのことだ。さすがに自立型兵器に期待するのも酷だ」
共に聖王教会の騎士団に所属する騎士だ。プラダマンテとキュンナの通って来た道にはバラバラに斬り裂かれたり、何かに押し潰されたかのようにひしゃげたガジェットⅠ型とⅢ型、加えて元よりゆりかごを護っていた歩行型兵器の残骸が転がっていた。
「考えれば考えるほど、プライソンの裏切りには頭に来ますね」
キュンナがそう怒りに震えた声を漏らした。裏切り。それはつまり彼女もプライソンと繋がりを持っていたということに他ならない。そんな2人の目の前に空間モニターが1枚と展開された。
『お前たちまでもがゆりかごに突入して来るとは。ゆりかごを奪取しに来たのか? それとも、局に倣って破壊しに来たのか? どちらにしても残念だったな。ゆりかごは俺の目的の為に使わせてもらった』
映し出されたのは「プライソン!」だった。10代前半くらいの貴族風の少年だ。キュンナは大鎌の金属刃をモニターに突き付け、「貴様!」と怒声を上げた。対するプライソンは、面倒くさそうに溜息を吐くだけ。それがキュンナの逆鱗に触れたようだ。
「よくも再誕計画を破綻させるような真似をしてくれましたね! この裏切り者が!」
「気持ちは解るけれど待ちなさい、キュンナ。・・・プライソン。お前は今、ゆりかご内に居る。相違ないな」
さらに激昂するキュンナの肩に手を置いたプラダマンテは、プライソンの居所を確認するためにそう訊ねた。プラダマンテの兄から託された特秘任務の中には、プライソンの暗殺も含まれているからだ。局に逮捕され、聖王教会騎士団の幹部とも繋がっていたという事実を漏らされるわけにはいかないからだ。
『ああ。俺の背後に映る通路の内壁が見えるだろ。・・・なんだ、ゆりかご内部や外部に通信が繋がらないのに、俺からの通信は繋がったことが不思議か?』
「・・・」
『その表情は当たっているらしいな。簡単だ。局や教会の使う独自に通信回線と、俺たちの使う回線が同じわけないだろ。逆探知される可能性もあるわけだからな』
「ならば結構。ではプライソン。ヴィヴィオ様と聖王のゆりかごは本来、今回の一件では起動しないという作戦だった。これも相違ないな?」
『ああ。お前も知っての通り、プリンツェッスィンとゆりかごは、後の再誕計画で起動する手筈だった。が、どうせ再誕計画は行われることがない。何せ・・・。フッ。だから元々、本件で起動することにしていた。裏切りではないだろ? ただ、話していなかっただけだ』
キュンナが怒っている理由がそれだった。ゆりかごを起動・運用させるための鍵であるプリンツェッスィン・ヴィヴィオは、キュンナやプライソンの口にした再誕計画と称される作戦を企てた主要人物内で決めていた話の中では、件の計画内で初めて起動・運用されるはずだった。それにも拘らず、プライソンは独自に計画を破綻させるような手段を執った。それが許せないのだ。
「おのれ・・・! 貴様の役目は管理局側に付いて、内側から干渉することでミッド地上本部の評判を落とす事だったのに!」
『落としてやっただろ。レジアス・ゲイズは追い込まれた。あの男はもう、中将や防衛長官という肩書から転げ落ちるしかない』
「ゲイズ中将だけでなく、ミット地上本部そのものが徹底的に世論から叩かれる程のものでなければ、全く意味は無いのです!」
『可愛い顔をして恐ろしい事を言う。まぁ再誕計画は、それを基点にする計画だから当然と言えば当然か』
「それだけじゃないです! 貴様の所為で、騎士団と局でゆりかごの破壊を行うことになった・・・! 本当ならゆりかごでお前の他の兵器を破壊して、その有用性を次元世界にアピールするつもりだったのに。ヴィヴィオ様だって本当は、表舞台には出さずに人知れずその命を消費して頂くはずだった・・・」
『俺の手で生み出してやったのにその態度と言い草。ま、あのハゲにお前を預けた時点で俺の物じゃなくなったわけだが・・・。少しばかり調子に乗っているな、開発コード・カイゼリン』
「そうです、もう私はお前の所有物じゃないです。あの方や計画に賛同して頂いた者たちと一緒にベルカを再誕させ、そしてかつては夢半ばで果たせなかった女王――カイゼリンとなる者。それが私、キュンナ・フリーディッヒローゼンバッハ・フォン・レーベンヴェルトです」
『ふん。これ以上の文句は聞かんぞ。裏切り? そもそも俺のような狂人を仲間に入れようという考え自体が間違いだ』
キュンナの怒声を受け流していたプライソンが開き直ったところで、『ようやく連絡が取れました』新たにモニターが展開され、そのような声が発せられた。映し出されているのは、金色の髪をアシンメトリーにした、20代半ばのスーツ姿の男性だ。
「エーアスト様・・・!」
キュンナが男性の名前を呼んだ。エーアスト・ルター。今は亡き最高評議会が作り出した評議会――権威の円卓のメンバーで、魔導師派遣会社エモーションサービスカンパニーの社長だ。
『お久しぶりです、キュンナ陛下。シスター・プラダマンテも。・・・プライソン、あなたが今回働いた不貞、我が主も大変お怒りです。償いはしっかりして頂くつもりです』
『はあ。さっきキュンナにも言ったが、俺を信じること、味方に入れることがそもそも間違いだ。エーアスト。お前のマイスターであるあのハゲにも伝えておけ。そしてキュンナも聴け。この世界は俺が貰った。俺の為に使わせてもらう。恨めしいか? 憎らしいか? 俺を殺しに来たいのなら来るがいい。以上だ』
プライソンはそう言い放った後、自ら通信を切った。静まり返る通路で、プラダマンテは怒りで肩を震わせている「キュンナ」に優しく声を掛けた。
『キュンナ陛下。ゆりかごはもう諦めましょう。ここまで事が大きくなっては奪取も出来ません。シスター・プラダマンテも、トラバント卿より奪取せよとの指令が下っているそうですが、お気になさらずに。ゆりかごのデータを奪えるだけ奪ってください。それがいつか再誕計画の力となり、それより先の事にも役立つはずです』
エーアストにそう言われ、キュンナは渋々だが「・・・はい」と頷いた。プラダマンテも「了解」と応えた。エーアストも頷き返したところで、彼の映るモニターに激しいノイズが奔り、そしてブツンと強制的に通信が遮断された。
「・・・お兄様には後で謝らないといけないか・・・」
「心中お察しします、シスター」
大きく肩を落とすプラダマンテに、エーアストのおかげで冷静さを取り戻したキュンナが労わった。そんな2人の背後でカタッと金属片が転がった音がした。ハッとして振り返ると、そこには多脚兵器が1機と居て、頭部には1人の女性が腰かけていた。真紅の前髪と後ろ髪は共に30cmほどあり、女性の顔面を覆い隠している。白のブラウス、赤いリボン、裾付近に白のラインが1本入った黒のプリーツスカートを身に纏い、オプションとして黒のトリミング・コートを羽織っている。彼女の背後にはグレムリンのⅠ型とⅢ型が、20機ずつの計40機が隊列を組んでいた。
「ガンマ・・・!」
「・・・のスペアボディね。ガンマが研究所より出ることなど有り得ない」
キュンナとプラダマンテがガンマ・スペアと相対する。スペアは「やはりお前たちが来たたんだ」そう言って多脚兵器の足元にテンプレートを展開。
――ISクローニングクイーン・メタルダイナストTypeガンマ――
プラダマンテとキュンナが向かおうとしていた通路の先の床がせり立ち、2人のこれ以上の進行を妨げるように封鎖した。
「裏切り者には相応の制裁を!」
「そういうわけだから、まずは駆動炉を押さえさせてもらう」
プラダマンテは右腕を左腕側にまで伸ばすと、ギンっと鈍い音が通路内に響き渡った。音の出所は彼女が右手に持つ斬首剣・“シャルフリヒター”の剣身で、空間が6つの球体状に歪んでいる。
――グラヴィタツィオーン・デッケル――
「はっ!」
右腕を水平に薙ぎ払うと“シャルフリヒター”の剣身から6つの歪みが横一列に斜め前へ放たれた。歪みはスペアの両脇を通り過ぎて行き、グレムリン群の直上にて一斉に爆ぜた。すると何十機というグレムリンが一斉に床に押し付けられ、そのボディが大きくひしゃげ始めた。
「重力・・・!」
「スペア如きが私たちの往く道を妨げようとは!」
キュンナが一足飛びでスペアへと突進。多脚兵器の鎌のような両腕が彼女に向けて振るわれるが、キュンナの振るう大鎌によって紙のように一瞬にして切断された。さらに続けて前脚を切断されたことで態勢を崩し、返された刃で頭部が横一線に切断された。
「くっ!」
――メタルダイナストTypeガンマ――
スペアが崩れ落ちる多脚兵器の頭部から跳び立つと、ガラクタと化したグレムリンや多脚兵器の金属ボディを大小様々な刃へと変化させて、プラダマンテとキュンナへ向けて伸ばした。2人はそれぞれ回避行動を取って刃を紙一重で躱し、キュンナは大鎌でスペアを斬り掛かる。
「せいっ!」
――シルバーカーテンTypeガンマ――
「幻術・・・!」
しかしキュンナの魔力刃が裂いたのは幻術で造られたスペアだった。彼女はすぐに「守護結界!」円柱状のバリアを展開。
――スローターアームズTypeガンマ――
直後に大きなブーメランのような刃が4つと飛来し、キュンナのバリアに四方から襲いかかった。バリアはその一撃で破壊され、彼女はトンッと床を蹴って通路の天井付近にまで跳び上がったことで、その挟撃から逃れた。
『キュンナ。そのままそこに居なさい』
その中でプラダマンテは念話を使ってキュンナにそう伝え、“シャルフリヒター”をバットのように横に構えて・・・
――ラウムシュナイデン・ナーゲル――
「せいっ!」
そして勢いよく振り払った。何事も起きないかと思われたその直後、キュンナを追撃しようとエネルギー剣・ツインブレイズを構えていたスペアが横ストライプのようにバラバラにされた。
「遊んでいる時間は無い。早々にゆりかごを抑える」
「りょ、了解です!」
プラダマンテは行く手を遮る鋼鉄の床に“シャルフリヒター”を突き立て、ツンっと一突き。それだけで壁に成人サイズの穴が開き、2人はその穴を潜って先を急いだ。
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