ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜
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56部分:ターラの花その一
ターラの花その一
ターラの花
レンスター地方西南に位置するターラはトラキアとレンスター間の貿易で栄える商業都市として知られている。土地は肥え豊かな作物が採れ、西には天然の良港と漁港を控えている。王制を敷かず、ターラ公爵家を市長とする共和制と君主制の中間の様な独自の政治体制を採っている。先の動乱のフリージ軍進駐の折には中立を宣言し自主性を守る事に成功した。しかしターラ公がリーフ王子を匿った咎で帝国に惨たらしい拷問によって処刑されると帝国が送り込んできた代理公主とターラ公の娘リノアン公女を立てようとするターラ市民達との間で対立が生じターラは一触即発の状況となった。だがイシュトー王子がメルゲン城主になりレンスター西方の統治を行なうようになると代理公主は廃されターラに大幅な自治を認めるようになった。ターラに平安が戻った。だがそれは表面的なものであり市民の間には依然反帝国、反フリージ感情がくすぶり続けていた。それが表面化したのはシアルフィ家のセリス公子率いる解放軍によるイザーク解放であった。これにより勇気付けられたレンスター王家の遺児リーフ王子の挙兵に呼応する形でターラにおいてもフリージからの独立の気運が立ち込めてきた。それを見て口実とばかりにトラキア軍が侵攻の気配を見せてきた。これ等の動きに対しイシュトーはイリオス将軍と二万の軍を派遣したがターラは城門を閉ざしフリージ軍を入れようとはしなかった。数日後トラキア軍の精鋭竜騎士団がターラ南に現われターラを包囲するフリージ軍と睨み合う形となった。ターラ、フリージ軍、トラキア軍、三つの勢力の間で膠着していた。
−ターラ城ー
ターラ城は厚く高い三重の城壁に囲まれた城塞都市として知られており、その堅固さは難攻不落をもって知られているレンスターの諸都市の中でも群を抜いていた。そのターラの一番外側の城壁の上に一人の少女が立っていた。
腰まである桃色の髪と赤紫の瞳を持つ気品のある非常に美しい少女である。手袋も上着も足首まであるスカートやマントも全て白で統一されている。この少女こそが前ターラ公爵の娘リノアンである。年齢はセリスと同じ位か。凛とした、だが憂いを含んだ表情で城壁の外を見ている。外には城壁を取り囲むフリージ軍とその外で陣を張るトラキア竜騎士団が見える。
「リノアン様、あまり外に出られてはいけません、危のうございます」
市民達が城壁の上のリノアンの姿を認め思わず駆け寄る。
「すいません・・・・・・。少し考え事をしておりましたので・・・・・・」
レンスターを流れる河の様に澄んだ美しい声である。その声に市民達は今まで元気付けられてきたのだ。
「リノアン様に何かあっては私達は今まで耐え忍んできた意味がありません」
「そうです、リノアン様は我等の宝です。リノアン様あってのわし等です」
市民達は口々に言う。そんな市民達にリノアンはうっすらと微笑んだ。
「皆、有り難う」
だがすぐにその顔を憂いの帳が覆った。
「・・・・・・けれど御免なさい。皆をこんな危機に追いやってしまって」
「危機!?」
市民達は一斉に笑った。
「何言ってんですか、あんなフリージの雑兵なんてめじゃありませんよ」
「そうですよ、わし等にはこの城壁と武器、それにリノアン様がおられます」
「トラキアの奴等なんかこの弓で射ち落としてやる」
「そしてトラバントの野郎からグングニルを奪い取ってやるんだ」
「そうとも、あのハイエナ野郎には神器なんぞ勿体無いわ」
リノアンは勇気付けてくれる市民達に思わず涙を落としそうになった。しかし泣かなかった。
「皆・・・解かりました」
リノアンは必死の思いで喜びの表情を作った。
「頑張りましょう、セリス公子がターラに来られるまで!」
市民達がおおっと叫び声をあげる。リノアンはその喚声の中胸のペンダントを握った。幼い頃父が誕生日のプレゼントにくれた物である。
(父上、ターラを御護り下さい・・・・・・)
少女は密かに祈った。
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