堕天少女と中二病少年
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黒騎士だからって、いつも余裕にあふれてるという保証はないわ(堕天使談)
焦りにとらわれた我は、とっくの昔に読了した漫画を開いてみたり録り溜めたドラマを鑑賞したりして、現実逃避を図った。
しかしながら時を浪費するのもまたやるせなく――太陽が上昇のピークを過ぎた頃、我は苦渋の決断をするに至った。
「知人に教わるとするか!」
すなわち正攻法、おとなしく勉学へ取り組むことにしたのである。今日の失態は今更どうにもできぬにしろ、多くの教科で超低得点に甘んじるわけにはいかない。黒騎士としてな!
3、4日分鍛練を中止するのは悔しいが、背に腹は代えられぬ。
思い立ったが吉日、というより今から動かないと詰み。早速部屋に置いてある黒刀を持ち、破り捨てたくなる教科書と参考書を手提げバッグにぶちこんで――我は外へ駆り出すのであった。
~~†~~†~~†~~
「ふぅー……」
補助教材の設問に、おそらく正解であろう答えを書いて一息つく。私――ヨハネは家に帰ってきてから、明日も続くテストの勉強をしている。
調子は上々。もちろん集中できているっていうのはあるけれど、やっぱり1週間ぐらい前から取り組んできた成果が大きい。問題が解きやすく、すごく捗っている。リトルデーモンの忠告を聞いておいて良かった。
さっきやったページに戻して、手応えを再確認してみる。答え合わせの終わったそこには、正解を証明する赤い丸がたくさん。眺めていると、達成感が湧いてくる。
――ちょっとヨハネが本気を出せば、イチコロね!
「うふふっ……」
勉強机の椅子から立ち上がり、私はキッチンへ向かう。
少し休憩をはさむことにしたのだ。昨日から冷蔵庫内にとってあるチョコの残りを食べたい――いいえ、魔力の回復が必要だから。
そうして冷蔵庫を開けたとき、ふと唯一のリトルデーモンである彼のことがよぎった。
――湧丞、大丈夫かしら?
テストが終わったぐらいから……彼の様子がおかしくなった。
湧丞は基本的に――まあヨハネと言い合いをしている時とかはともかく、いつも済まし顔。普段はあんまり感情を表には出さない。所謂クールなのだ。だけど、いくらか一緒に過ごしてきた私にはわかった。
彼は絶望していた!
湧丞には追い込まれた際に出るクセがある。それは、右の眉がピクピクってなること。
本人がそのことを認知しているかは定かじゃない。ただ、事実今日もそう。湧丞の眉は元気に動いていた。だからきっと今頃も、彼は頭を悩ませているに違いない。
でも、そこで疑問が浮かぶ。
「だったら、なんで困ってるんだろう……」
さてはまだ遠足のことを――ううん、違う。そりゃあ落ち込んではいたけど、湧丞はすぐに立ち直った。最近は奮起して強くなろうとトレーニングさえしている。その勢いは、やりすぎじゃないのと心配に思うほどに。
じゃあテストができなかった、とか?
……あり得ない。このまえ私に促したんだもの、ちゃんとテストを意識しているあたり対策を怠るなんて考えにくい。
そうよ。抜け目ない湧丞に限ってそんなこと――――
「いや、もしかして……」
そんなこと、あるかもしれない。“トレーニング“、まさにそれが原因かもしれない……?
昨日も一昨日も湧丞は、
『鍛練あるのみだ!!』
なんて張り切っていた。
軽く流していたけど……もし湧丞が本当に全然勉強せず、トレーニングに打ち込んでいたとしたら?
――ピーッ! ピーッ!
「ひゃっ!?」
騒ぎ立てる機械音が、思考の海からヨハネを現実に引き戻した。うっかり冷蔵庫を開けっぱなしにしてしまっていたのだ。私は慌てて目的のチョコを取り、扉を閉める。
「なによもう……びっくりしたじゃない」
なんだか毒気を抜かれた気分になった。冷静になってみれば、何もそこまでヨハネが湧丞のことを案ずる必要もないじゃない……とりあえずチョコを食べようかな。
私は踵を返して部屋へ戻ろうとする。
けどその前に、来客を示す鐘が慌ただしく響いた。
――ピンポーン! ピンポーン!
「――!?」
思わぬ不意打ちにヨハネの心臓が跳ねる。たぶんママじゃない。まだお昼すぎだし、帰ってくるはずはない。
胸中に言いようのない予感が走る。なんとなく、宅配の人でもない気がする。インターホンを鳴らした人物は……まさか!!
私はゆっくりと玄関へ忍び寄って、おそるおそるドアスコープを覗く。
その先には想像した通りの訪問者が映っていた。腰に黒い刀を引っ提げる、見慣れた男が。
腕組みして堂々と立ち、こっちの応対を偉そうに待ちながらも――まるで未熟な果実のように顔を青くした、どうやら完全に余裕を無くしたらしい様子の……ヨハネの黒騎士がそこにいた。
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