Fate/Heterodoxy
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S-4 宝具/死闘
《竜殺し》ジークフリート。世界的に有名なニーベルンゲンの歌に出てくる勇者。《邪悪なる竜》ファヴニールを倒し、背中以外に血を浴び、雫を飲み、不死身になったとされている。
世界で最も有名な竜殺しとされていて聖杯戦争で「少しでも有利に立ちたい」時に見られる知名度と言う点でも十分過ぎる立ち位置に居る高ランクの英霊だ。
触媒に使用された黄金塊は『ラインの黄金』の一部であり、ジークフリートが得た、魔力を帯びた莫大な黄金だと言われている。
脳内に、元々有った情報と共にジークフリートによる詳細が流れてくる。違和感はあるが、直ぐに知識となり違和感は消え失せた。
「まさか、こんな早い段階で明かしてくれるとはな」
オレはすこしだけ口角を上げながら呟く。
「そうしないと……俺は俺にはなれないからな……」
その言葉の真意は分からない。恐らく全力を出すために、結果的に真名を名乗らなければいけなかったのだろう。そうしなければ勝てない相手と言うことか。
「俺の宝具の事は勝った後で話す。マスター、俺を信じてもらう」
その言葉にオレは疑いなど持たず頷く。ステータスを本当は見なくとも分かることだが、覗いてみるとセイバー──ジークフリートのステータスは先程とは見違えるようなモノになっていた。
敵の眼が鈍く、紅に輝く。竜のような鱗の外套を纏った巨体がジークフリートと全く同じ姿で怒りを示していた。
それに対してジークフリートの鎧が光輝く。眼は敵を見据え、剣を向けたまま微動だにしない。
『コロス』
そう、呟いた瞬間敵は既に姿を目前から消していた。魔力の流れにより左側に移動したことだけは数テンポ遅れてから分かる。そこから剣の『突き』が放たれていた。
ジークフリートは目線で反応はしたもののその刺突を腹に受ける。敵は剣を抜き、再度突きを放つ。抜き、突き、抜き、突き、突き突き突き突き突き────数度は金属音が聞こえた。しかしそれ以降は風を切る音しか聞こえてこなかった。そう、風を切る音以外はなんの音も発されていなかった。
「これがセイバーの本当の力か……!」
オレは目を見張る。黒髪のセイバーの攻撃で数度血を流したセイバーの防御力は無く、まるでガトリングガンの乱射に思える連続の突きをかすり傷にもしないジークフリートの防御力がそこにはあった。
_スキル判明《竜殺し》竜種を仕留めた者に備わる特殊スキルの一つ。竜種に対する攻撃力、防御力の大幅向上。これは天から授かった才能ではなく、竜を殺したという逸話そのものがスキル化したといえる。ジークフリートは《邪悪なる竜》ファヴニールを殺した逸話により最高ランクを保有している。
『オレ チカラ ウバッタナ』
その言葉から敵の予想される真名とジークフリートの逸話からその意味は簡単に察せた。
ファヴニールを倒したジークフリートは先程も述べていた通り「菩提樹の葉が張り付いていた背中以外の全身にファヴニールの血を浴び、雫を飲み不死身になった」とされている。それが鱗のセイバー──ファヴニールの言う「力」だろう。
「…………」
敵の声にジークフリートは何も答えない。
ジークフリートの肉体は絶えず繰り返される敵の刺突を全く通さず、肉を刺すような音は全く聞こえてこない。攻撃を全くしていないはずのジークフリートの方が圧しているように錯覚する。
「…………」
ジークフリートは依然として何も言葉を発しない。剣の腹で刺突を弾き、反応が遅れるものは無理せず受ける。痕が残るだけで血は流れず、傷も出来ない。
敵は手から炎を噴出させる攻撃も交え何度も何度も刺突を繰り返すが効果は見えない。炎が弱まり、刺突も段々と遅くなり、隙が見えはじめる。その隙をジークフリートが見逃すわけが無かった。がら空きになった脇腹に下段からの斬り上げを放つ。
『Gruaaaaaaaaaaaa!!!??』
先程までは少しは理性を保っていたであろう敵の理性を微塵も感じない大地を揺るがすほどの咆哮。攻撃が意味を為さない事に苛立ち、強力なカウンターを喰らった痛み、それらを抑えきることが出来なくなったのだろう。鮮血を撒き散らしながら敵はなおも吠え続ける。
斬り裂かれれた身体に鱗が即座に覆い、止血する。次の瞬間鱗が剥がれ、痕はあるものの完全に塞がっていた。
『Gaaaaaaaaa!!!』
またも視界から消え失せる程の超スピードを披露する。オレの眼では捉えることなど出来るはずもなく、どの方向に行ったかを数テンポ遅れて確認することだけでも精一杯だ。
その方向から推測をする。──もしかしたらマスターであるオレを狙っているかもしれない。
「……だけど、不安や心配なんてのは要らねぇな」
目の前では何方向からも飛んでくる敵をジークフリートは的確に対処していく。一回だけ敵がオレの元へ飛んできたがジークフリートがそれを身を呈して防ぐ。腹で受けたためかジークフリートは少し声を漏らすが傷を負ったようには見えない。
セイバーは身体を最低限反転させ、剣で弾く、斬る、突く、一拍置いて、ステップで回避、そして生身で受ける。敵は先程と同じように何十、何百もの攻撃は徐々に速度を落としていき、同じく隙が出来はじめた。
多方向からの攻撃が止む。立っているのは一人、先程とは変わって傷は出来ているように見えるが血は流れていない。もう一人はドス黒い血を身体から流し、身を屈めている。しかしその傷は先程と同じように鱗で覆われ、止血された。
だが数ヶ所鱗で覆われない箇所があることが分かった。そこは黒髪のセイバーが黄色の短槍で貫いた所だった。
『ナンダ コレ オレ 』
ファヴニールが困惑する。今まで鱗で覆い、治癒された身体が治癒されなかった。その動揺が動きを止めた。
ジークフリートはそうなることが分かっていた。予測できていた。黒髪のセイバーの真名から黄色の短槍の効果を把握し、自身の攻撃力を以てその箇所を的確に斬り裂いた。その結果、ファヴニールの身体は数ヶ所斬られてまま鱗による止血と治癒が不可能になった。
「これで終わりだ。ファヴニール」
ジークフリートが生前の宿敵の名を告げる。剣を両手で持ち、尖端は青空へと向いている。
宝具を使うと言うことは見るだけで分かる。だがセイバーの魔力に変化は現れない、オレの身体から魔力が送られている感覚はあるが先程の真名披露よりも量自体は少ない。
「『幻想────
剣を短く振りかぶる。剣は一瞬で青白く発光し────
大剣────!』」
短い「タメ」から振り下ろされた剣から放たれた衝撃波は半円状に拡がり、黄昏の剣気が視界一杯に広がった。
「……すげぇ」
ほぼ一瞬の出来事。魔力の高ぶりは確かにあった。だがそれもあの威力を出すほどではない。なら何処から?その答えは直ぐに分かった。剣からだ、剣自体が相応の魔力を秘めていて宝具を発動するタイミングで解放、あの攻撃を可能にした。
データで見たサーヴァントの宝具と同等の威力、だがそれに対して消費される魔力が少ない。
ジークフリートを境界として前に広がっていた林は木一本も残しておらず、生い茂っていた雑草も綺麗に消失していた。
「気を抜くな、マスター」
ジークフリートが砂埃舞うフィールドを見据えながらそう言う。オレは目を凝らしジークフリートと同じ方向を見る。
『Guruaaaaaaaaaaaa!!!!!』
咆哮と共に再度起き上がる敵。その身体はあちこちから血を流し、左腕は根本から吹き飛んでいた。
敵は息を吸い、口から炎を吐き出す。その業炎は確実にジークフリートを捉え、燃やし尽くそうとしていた。
「ぐっ……!」
ジークフリートがそんな苦痛の声を漏らす。炎は先程までのものとは違い、火力が桁違いだった。防御を貫通する痛み、炎による身体が焼ける感覚、息の出来ない苦しさがあり今までの攻撃よりも効果的だった。
しかしそんな敵の優勢も数秒で終わりを告げる。ジークフリートが剣を横一文字に薙ぐだけで身を包んでいた炎は消えた。ジークフリートの身体は煙を出し、見るからに酷い火傷を負っている。だが姿勢はなんの変化もなく、依然としてファヴニールを倒そうとしている。
ファヴニールはそんなジークフリートを見て、震えていた。恐怖の色はない。あるのは底の知れない怒りのみ。
『ユル サ ナ イ コ ロス シネ!!!』
ファヴニールの右手が光輝く。禍々しい程の黄金の輝きが辺りを掌握するように広がる。ファヴニールの魔力が爆発的に上昇していく。傷もみるみるうちに塞がっていき、左腕は鱗が無数に増殖して義手のようなものになった。
宝具を使うだろう、そう直感できた。荒々しく触れただけで自我が崩壊する自分の姿を錯覚してしまう。いくら防護魔術を重ねてもこれ以上近付く事は出来ない。
だが、その暴力の塊とも言える魔力源に近づいてく勇者が一人。
「セイバー……」
口から、出会って数日の相棒の通称が溢れた。ジークフリートは少しだけこちらを向き、微笑む。
さっき自分で言ったばかりだった。オレのセイバーに不安や心配なんてモノは────
「頼む!セイバー!!」
「ああ……行くぞ!!」
要らない────
無傷の英雄が巨大な敵に立ち向かう。
数メートルにもなった大木のような腕がジークフリートに迫る。避ける素振りは一切見せず、ただただ敵を見据え、一歩一歩進んでいく。次の瞬間に鈍い音が響く──敵の腕がジークフリートの腕を捉え、振りきる。しかし、その攻撃はジークフリートを少しだけ仰け反らす程度に収まった。否、スキル《竜殺し》と鎧が威力を激減させ、仰け反らす程度の威力しか通らなかった。
ジークフリートは暴風雨さながらの魔力の奔流に逆らい、ゆっくりと、しかし確かな足取りで近付いていく。流石に攻防では圧倒的に勝っていても宝具を発動するレベルの魔力を何の障害とも思わないのは無理なのだろう。それでも、歩みは止まる兆しを見せない。進むにつれて魔力の密度も上昇している筈だが、ジークフリートの歩む速度は落ちていない。
──カッタ────そんな声がファヴニールのいる方向から聞こえた気がした。
その直後、光が一点に収縮────
辺りが、時間が止まったかのように静寂に包まれ────
時間は、音は、再度その役割を果たそうとする────
辺り一帯が純白に染まるほどに魔力が拡散した────
『──シ■■イ──カ■ホ■──■■■────■■──』
そんな音聴こえた────
目が慣れていく。徐々に光は弱まる────
────見えたソレは『ニーベルンゲンの歌』に出てくる幻想種──邪悪なる竜そのものだった────
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後書き
死闘(一方的)
「どうやって勝ったのか覚えてない」
みたいなことを確か何処かで言ってたけどもそれは悪竜の血鎧もスキル《竜殺し》も無かったから?と勝手に解釈。少し文字数少なめなので加筆する可能性大です。
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