| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

剣聖がダンジョンに挑むのは間違っているだろうか

作者:沙羅双樹
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第9話(白兎side):解放編

 
前書き
こんばんは、沙羅双樹です。

今話は怪物祭(モンスターフィリア):ベルルートですが、2話に分けてお送りしたいと思います。

ちなみに内容はタイトル通り、解放編です。何を解放するかは本編を読んで確認して下さい。(笑)

あと、本作において斬魄刀の本体の姿が原作「BLEACH」とは異なることがあることを今回の前書きで先に伝えておきたいと思います。 

 



【視点:ベル】



神様とテレシアさんがどこかに出かけて早3日。現在、僕はオラリオで有名なイベントである怪物祭(モンスターフィリア)が開催されているオラリオ東区画に来ている。

昨日までは朝から夕方までアトゥイさんに付き合って貰って迷宮(ダンジョン)に潜ってたんだけど、今日はアトゥイさんのお誘いで冒険者業を休み、怪物祭(モンスターフィリア)を見て回ることになった。

といっても誘ってくれた当のアトゥイさんは少し前から別行動をしてるんだけどね。まさか、アトゥイさんが立ち飲み屋台から動かなくなるとは思いもしなかった。

もしかしたら、僕が知らないだけでアトゥイさんはお酒が大好きな人なのかもしれない。……それにしてもアトゥイさんが動かなくなった屋台以外にも色んな屋台があるなぁ~。

都会のお祭りだけのことはあって、見たことも聞いたこともない屋台がいっぱいだ。所持金にも余裕があるから、僕もどこかの屋台に寄ってみようかと考えていると――


「あっ!そこにいるのはベル君?ベル君じゃないか!!」


背後の人混みから聞き覚えのある声が聞こえてきた。この声は―――


「神様?」
「ベル君、やっぱりベル君だ!ボクの声だと一発で分かるなんて、愛のなせる業だNE!!」


神様はそんなことを言いながら人混みを掻き分け、僕のいる所まで突っ込んできた。正直、最後の「ね」の部分にウザさを感じて少しだけイラっとしたけど、神様が抱き着いてきた際に僕の胸板に押し付けられた圧倒的な質量によって、イラつきは一瞬にして霧散した。


「か、神様!こんな大勢の人がいる前で抱き着くのはどうかと思うんですが……」
「何だい?照れてるのかい?ベル君は初心だねぇ。……っと、余りからかい過ぎると嫌われてしまうね」


神様はそう言うと、漸く僕から離れてくれた。まぁ、胸を押し付けられたくらいで慌てるのは僕も初心だと思うけど、はっきり言われると正直傷付く。


「……で、神様はテレシアさんと3日も何処に行ってたんですか?心配してたんですよ」
「ボク達のことを心配してくれたのかい?やっぱり、ベル君はいい子だね!」
「知神の開催する宴に参加するって書置きだけ残して3日も音信不通になれば普通は心配しますよ」
「……アトゥイ君も心配してたかい?」
「……………」
「ベル君、君の沈黙が全てを物語っているよ。……まぁ、それはさて置き!ボクとテレシア君は知神の宴に参加した後、とある友神に用事があって、その友神の派閥(ファミリア)本拠地(ホーム)に居たんだ」
「他の派閥(ファミリア)本拠地(ホーム)にですか?」
「そうさ!ベル君に渡すこれを完成させる為にね!」


そう言って神様が差し出してきたのは布に包まれた何かだった。僕が布を取ると中から出てきたのは1本の漆黒のナイフだった。


「これはボクとヘファイストス、テレシア君がベル君の為に鍛ち直したナイフさ」
「神様とテレシアさんとヘファイストスさんが…………。へ、ヘファイストス?神様、今ヘファイストスって言いましたか?」
「うん。言ったよ」
「ヘファイストス・ファミリアのヘファイストス?」
「うん、そうだね」
「鍛冶神のヘファイストス様?」
「鍛冶神以外のヘファイストスを僕は知らないよ」
「………そ、そんな凄いナイフを僕なんかが受け取っていいんでしょうか?」
「言っただろう?これはベル君、君の為に鍛ち直されたナイフだって。君以外に受け取る権利のある者なんていないよ」
「………えっと、それじゃあ有難く頂きます」


僕は神様にそう返事を返すと、漆黒のナイフの柄を掴んだ。すると――――


「!!?」


僕の視界がさっきまでいた東区画の通りから見たこともない綺麗な黄色い花が一面に広がり、その花弁が空を舞っている花畑へと変わっていた。


「ここは…、一体……?」
「君が僕の主かい?」
「!?」


僕が突然の環境の変化に唖然としていると、いきなり背後から耳元で声を掛けられた。

迷宮(ダンジョン)のモンスターにも背後を接触する様な距離まで近付かれたことの無かった僕は、驚きの余り前へと跳び、声を掛けてきた対象から距離を取ると同時に振り向いた。

すると、そこには柄も鍔も鞘も無い大剣を背負った10代後半位の男性が立っていた。その容姿は紅髪碧眼で着ている衣服も白の騎士服ということもあって、瞬間的にテレシアさんの血縁と思ってしまうものだった。


「あ、あなたは?」
「僕の名前は■■――」


僕がテレシアさんと似た男性騎士に尋ねると、男性騎士は名を名乗ろうとするが、何故か名前だけが聞き取れずにいた。


「……やっぱり、君にはまだ僕の名前が聞こえないか」
「き、聞こえないって一体どういう―――」
「次に会う時には是非とも僕の名前を知って貰いたいね。僕は君の■■■なのだから」


男性騎士が苦笑いを浮かべながらそう告げると同時に、凄い花吹雪で僕の視界は奪われ、気が付いたら元々いた東区画の通りに立っていた。


「ッ!」
「……どうしたんだい、ベル君?ナイフを握ってからぼーっとしたかと思えば、急に白昼夢を見た様な顔をして」


元の場所に戻ると、つい先程まで僕の目の前にいたテレシアさんに似た男性騎士も姿を消し、今は心配そうに顔を覗き込んで来る神様が僕の目の前にいる。

白昼夢?あの綺麗な花畑とテレシアさんに似た紅髪碧眼の男性騎士は本当に白昼夢だったのかな?それにナイフを握ってからボーっとしてたって、一体どういうことだろう?

僕がそんなことを考えていると、僕達の背後に上空から何かが降り立った。


「…………う、うわぁあああぁぁ!も、モンスターだぁあああああぁぁぁぁ!!」
「ガァアアアアァァァ!!」


突然現れたのは全長が3mはありそうな純白の毛並みの大猿で、素人目でも明らかに興奮した状態だった。こいつは――


「シルバーバック!?何でこんな所に!!?」


つい先日、アトゥイさんとペアを組んで12階層まで潜った時に僕はこいつを見た。アトゥイさんがシルバーバックと言っていたのを覚えている。

シルバーバックは何かを探す様に周りを見回していたかと思えば、僕と神様がいる方向で視線を止め、笑みを浮かべた。


「!?」


こいつの狙いは僕か神様?冗談だろ?10階層以降のモンスターに恨まれる覚えが僕には無いし、神々は迷宮(ダンジョン)に入ることが禁じられているから、神様もモンスターに狙われる記憶は無い筈だ。

僕がそんなことを考えていると笑みを浮かべたシルバーバッグがこっちに向かって飛び掛かって来たので、僕は咄嗟にすぐ横にいる神様を抱きかかえ、避けた。

瞬間的に目標を見失ったシルバーバックは僕と神様がいた場所の直線状にあった屋台に突っ込み、この場に更なる悲鳴が響き渡る。

覚えはないけど、狙われているのが僕か神様の可能性がある以上、人通りの多い場所に僕達がいるのは一般人を巻き込む可能性がかなり高い。

そう考えた僕は少しでも人気の少ない場所に移動する為、神様を抱きかかえたまま路地裏へと続く道に飛び込んだ。


「ベ、ベル君!?」
「神様、あのシルバーバックは僕達を狙ってるみたいです。大通りにいたら一般人が巻き込まれるので人気の少ない場所に移動します!」
「ぼ、ボク達が狙われてるのかい!?」
「どう考えてもそうですよ!僕らを見た瞬間、笑みを浮かべて飛び掛かって来たんですから!!……ちなみに、神様はシルバーバックに狙われる記憶はありますか!?」
「そんなもの、迷宮(ダンジョン)に入ったこともないボクにある訳ないだろう!?そういうベル君はどうなんだい!!?」
「僕だって先日アトゥイさんに一方的に狩られているのを見たことがあるくらいで、直接的接点なんて全くありませんよ」


僕が神様を抱きかかえて路地裏を走りながら尋ねると、神様には予想通り狙われる覚えがなく、逆に狙われる覚えがないか尋ねられた。


「と、兎に角人気の少ない場所に行かないと」
「人気の少ない場所なんて、この辺りじゃダイダロス通りしかないよ!ベル君」


ダイダロス通り。それは度重なる区画整理で迷宮(ダンジョン)の如く秩序の狂った広域住宅街。住人以外が迷い込んだら2度と出て来られないと言われている。


「………神様、ダイダロス通りにはどう行けばいいんですか?」
「べ、ベル君!?」
「人口迷宮(ダンジョン)と呼ばれているダイダロス通りなら上手く立ち回ればシルバーバックを撒けます。それに市街にモンスターが現れたことは誰かがギルドに報告してる筈です。
冒険者による討伐パーティも組まれてると考えていいと思います。僕達はその討伐パーティが現れるまで時間を稼げばいいんです」


自分で言っててなんだけど、穴だらけの作戦だ。実際の所、討伐パーティは組まれてるだろうけど、そのパーティがどうやってダイダロス通りに迷い込んだモンスターを補足する?

メンバーの中にモンスターの補足と迷宮把握(マッピング)できるスキル持ちが居れば話は別だけど、そうでもなければ討伐パーティはモンスターの所まで辿り着けない。

いざとなれば、神様だけ逃がして僕がシルバーバックと戦えばいい。僕にはアトゥイさんから貰った『水魔の短剣』と神様から貰ったナイフがあるんだ。倒せなくても神様が逃げる時間を稼ぐ位はできる筈だ。


「………分かった。ダイダロス通りに行こう、ベル君」
「はい、神様!」


僕は神様に案内されるままダイダロス通りへと向かった。そして、シルバーバックから逃げ出して十数分後―――


シルバーバックに追い回され、縦横無尽に地上の迷宮(ダンジョン)を掛け回っていた僕と神様は背の高い家屋に挟まれた行き止まりへと辿り着いた。

この状況での唯一の救いは行き止まりとなっている場所がかなり大きい広場の様になっていることだろうか?これだけの広さなら戦闘になっても神様を巻き込まずに済みそうだ。


「……神様、僕がおと―――」
「ベル君、ステイタスを更新しよう」
「―――え?」
「ステイタスを更新して、君がシルバーバックを倒すんだ」
「……な、何を言ってるんですか!?LV.1の―――冒険者になって1ヵ月足らずの僕にシルバーバックを倒せる訳が―――」
「ベル君、君は自分を過小評価し過ぎだ。他の冒険者ができないことでも君にならできる。ボクが保証する。自分が信用できないって言うなら、君の本当の強さを知っているボクを信用しておくれ」


……自分ではシルバーバックを倒せないから、時間を稼ぐ為に無様でも逃げ続け、倒せる冒険者を頼ろうとする情けない僕を神様は信用している。

それだけで嬉しさや情けなさといった様々な感情が入り混じって、瞳の奥から涙が溢れ出そうになった。けど、これ以上情けない姿を見せたくなかった僕は無言で頷き、神様に背を向けることで神様の提案に応えることにした。



【視点:ヘスティア】



5年前、テレシア君が入団してから何度も行ってきたステイタス更新。モンスターに追われた現状でいつも通りにできるか心配だったけど、自分でも驚く程手慣れた動きでベル君のステイタスを更新することができた。

このステイタス更新が完了すれば、ボクの渡した斬魄刀――『■■』君もベル君と共に強化される。問題はベル君のステイタスが憧憬一途(リアリス・フレーゼ)の効果でどれだけ成長していて、『■■』君がどれだけ強化されるかだ。


「神様、来ます!!」


ボク達のいる広場へと繋がる一直線の通路。その突き当りの曲がり角からシルバーバックが現れると同時にボクはステイタスの編纂を完了した。


ベル=クラネル
LV.1
力……F327→D550
耐久…G205→F307
器用…G274→E462
敏捷…E401→C632
魔力…I0→E403

【魔法】
≪   ≫

【スキル】
憧憬一途(リアリス・フレーゼ)


……ッ!全アビリティ熟練度、上昇値トータル1100オーバー!?これなら『■■』君の威力も跳ね上がる!


「さぁ!行くんだ、ベル君。君の力をあの猿野郎に見せてやれ!!」


ボクはそう告げると同時に、ベル君を送り出す様にその背中を押した。



【視点:ベル】



「さぁ!行くんだ、ベル君。君の力をあの猿野郎に見せてやれ!!」


シルバーバックが姿を見せると同時に神様がそう言いながら僕の背中を押し、僕が一直線にシルバーバックへと突撃しようと思った瞬間、目の前の光景が一変した。

先程までダイダロス通りの広場にいた筈なのに、何故か目の前には黄色い花畑が広がっていたんだ。これは東区画の通りで見た白昼夢?


「主神が君を信じているのに、君は自分の力を信じられないのかい?」
「!!?」


僕に話し掛けて来たのは、これまた先の白昼夢で見たテレシアさんに似た男性騎士。


「敵1匹で君も1人。そして、主神は君が勝てると信じている。それなのに何を恐れているんだい?」
「……恐怖を感じることは、敵に臆病であることはいけないことですか?」
「いけないことではないね。それは戦う者にとって必要なことだ。生存本能ともいえる感情だし、言い方を変えれば慎重ということだからね」
「なら―――」
「けど、恐怖に呑まれた者は前に進むことができない。同じことが起こる度、逃げるという選択しか選べなくなる」
「うっ」
「君が本気でテレシア=ヴァン=アストレアと共に歩みたいのなら、恐怖を捨てて前を見るんだ。そして、立ち止まることなく前へと進め!」
「……」
「引けば老いるぞ!臆せば死ぬぞ!叫べ、僕の名は――」


………男性騎士が名を教えてくれた瞬間、僕は心象世界から現実世界へと戻り、自分でもよく分かっていないけど、今まで自分に起こった全ての事象を理解できた。

あの黄色の花畑が自分の心象世界で、男性騎士が僕の相棒であり、力を具現化した姿なのだと。そして、彼の名を呼ぶことで僕と彼は本当の意味で相棒になれるのだと。

だから僕は叫ぶ。相棒の名を!この身に宿った熱い魂で!!


「あいつを一緒に斬り伏せよう!……斬光一閃―――『斬月』!!」



 
 

 
後書き
という訳で、『斬月』の本体が剣まちでは「リゼロ」のラインハルト=ヴァン=アストレアとなっている第9話(白兎side):解放編でした。(笑)
(あと、本編でベル君が「アカメが斬る!」のタツミっぽくなってますが、その点はあまり気にしないで下さい。(笑))

ってか、卍解修得の為には剣聖ラインハルトを具象化させて屈服させるとか、ベル君は剣鬼を越えないといけなくなりました。(笑)
(まぁ、主人公補正で何とかなるかな?)

ちなみに初期設定では斬月本体はヴィルヘルム=ヴァン=アストレアでした。

けど、ヴィルヘルムといえばテレシアという方程式から、『斬月』本体にするのは廃案。ヴィルヘルム=『流刃若火』本体とすることにしました。(笑)

さて、次話は第9話(白兎side):決着編となりますが、『斬月』を解放した以上シルバーバックは瞬殺です。

内容は決着編+後日談のロキ・ファミリア借金取立て編の第9話(白兎side):決着編+αにすべきか悩んでいます。

怪物祭編の後日談として読んでみたい話があれば、感想コメントにでも書いて頂ければ幸いです。執筆できそうな内容なら書いてみたいと思います。
(あっ、ついでに誤字報告などもして頂けると幸いです。(笑))

それでは読者の皆さん、また次話でお会いしましょう。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧