魔法少女リリカルなのは 絆を奪いし神とその神に選ばれた少年
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第四十一話 彼女は堕ちる、そして少年は……
今現在、全がいるのはアースラ内部にある事情聴取室とも呼べる場所。
全は訳も分からないまま、シグナムによってここに連れてこられた。
いや、何で連れてこられたかは聞いた。だが、その内容が全にとって納得出来なかった。
(俺が………………なのはを、墜とした……?いや、そんな事する理由がないし、まず昨日、俺は夕食を食べた後、ささっと訓練を終えて、就寝した筈……それが、なぜ……)
全は自問自答を繰り返しながら、今から来るであろう取り調べ官を待つ。全の予想ではクロノ辺りが来ると思っている。
「済まない、待たせたな」
「いや、別にあまり待ってはいない。それよりも……現状を聞かせてくれ」
「現状も何も……君が一番知っているだろう?君がなのはを墜とした、そしてそれについて君に聞きたいから君をここに連れてきた、これが現状だ」
「だから、何で俺が高町を墜としたと断言できるんだ?映像でもあるのか?」
「ああ、ある。ヴィータが撮っていたんだ」
ヴィータが?と全は顎に手を置いて、数秒ほど考えた後
「済まない、その映像を見せてくれ」
「ああ、別に構わない」
そう言って、クロノは端末を操作すると、全の目の前にディスプレイが表示される。
まず見えたのは雪だ。今海鳴市では雪など降っていない為映像の世界が別の管理世界か管理外世界である事は容易に分かった。
そして、映像が下に向く。そこにいたのは、二人の子供だった。
ただ、一人は地に臥せっており、もう一人がそれを見下ろしている。そして見下ろしている少年の手には血に塗れた一振りの剣が握られていた。
『てめぇ、橘かぁ!!?』
映像から声が聞こえた。ヴィータの声の物だ。それに気づいたのか見下ろしていた少年はこちらを向いた。
その顔は
「お、れ…………?」
間違いなく、全だった。バリアジャケットも同じ。何から何まで全そのままだった。
『何で、何でなのはをお前がやってんだよぉ!!?』
『………………………』
映像の中の全は何も答えず、ただ醜く笑うだけ。その様に全は少し恐怖を感じていた。
『答えやがれぇ!!!!』
ヴィータがそう叫んだ所で映像は終わった。恐らくこの後、戦闘があったのだろう。
「この後、ヴィータと数度やり合った後、君は転移魔法で逃げ出した……さあ、何か弁解はあるか?」
「………………………」
全は何も言わず、ただ顎に手を置いて考えるだけ。それに若干イラついたのか
「何か言ったらどうだ、橘!?君はいつもそうだ!僕らの声に耳を貸そうともせず、無闇矢鱈に魔力を振りかざして、被害を出すだけ!それだけならよかったが、何もなのはを墜とすまでやることはないだろう!!?」
クロノはバンッ!と机を強く叩きながら怒鳴る。
「……………………クロノ」
「何だ!?」
「さっきの映像の中で……いや、中だけじゃない。後でもその前でもどっちでもいい。俺は声を発していたか?」
「いきなり何を「重要な事だ」……いや、ヴィータからもそういった事は聞いてはいない。君は終始無言だったらしいからな」
「終始無言…………」
全は再び、少しだけ考えた後
「クロノ、おかしいと思わないか……?」
そんな事を言った。
「おかしい、どこがだ?」
「何もかもだ。まず一つ。俺がなぜ高町達が出動する世界の場所を正確に把握していた?俺はまず高町達が出動していた世界も知らなければ昨日出動する事も知らなかった。転移魔法っていうのは場所の正確な把握が必要だ。でなければ、見知らぬ世界に飛ばされるか、はたまた時空の狭間に飛ばされるかだ」
「確かにそうだが……君がアースラの職員から聞いたという証言だってある」
「それはありえない」
証言がある、という言葉を全は瞬時に否定する。
「なぜだ?」
「まず、俺は自分の眼で見て耳で聞いた事しか信用しない。それが他者から聞いた物ならばなおさらだ。俺はそれが確かな情報か確認する。だが、俺に作戦の概要を伝えるような奴が艦内にいると思うか?」
「そ、それは確かにいないが……」
「それに、映像の中の俺が終始無言だったというのも引っかかる。俺は確かに戦闘の最中に言葉を発することはあまりしない。だが、今まで一緒に戦ってきた相手に対して何も思わない程俺は非常じゃない。何かしら襲う理由ないし、何かしら態度に出ている筈だ」
「そこから導き出される答えは…………映像の中の俺は、幻影で俺に成りすました別の誰か、だという事だ」
「バカなっ!?幻覚魔法は確かにあるが、機械をだます程の精密な幻覚魔法を使えるのは管理局でも二人といない!そんな事、ある筈が」
「そしてこれが決定打…………俺は、自分の武器しか、使わない。俺の武器は……シンだけだ」
そう、最後のこれこそが全が自身ではないと思った最大の理由だ。全は自身の武器しか使わない。他人から譲渡された武器など信用が出来ないからだ。それが例え仲間の物だったとしてもである。前世の仲間達はそんな全のこだわりは知っていた為に武器の譲渡などは行わなかった。
だが、映像の中の全が使っていた剣は漆黒の片手剣。明らかにシンの短刀の長さではない。
それらから、全は映像の中の人物が自分ではないと確信したのだ。
「じゃ、じゃあ……昨日の君は、一体誰なんだ……?」
クロノが思考する中、全も別の事を考えていた。
(こいつは一体何を考えている……?……いや、待て。これは偶然か?過去が改変され俺への当たりが強くなった日に起きた俺への容疑……こんなのおかしい。偶然が二つ重なればそれは必然と同じだ……つまり、やはり誰かが意図的に過去を改変し、今回の事を起こした……)
そこまで考えて全はもう少しだけ深く考えてみた。それはつまり、敵の目的。
(相手は何を考えている?俺の信頼を落とすのが目的?いや、それにしては手が込み入りすぎてる。ここまでする位なら他にも方法が……?ちょっと、待て?信頼を落とす……孤独に、する?)
(そうだ、相手は俺を孤立させたいんだ。商店街などでは俺の評価は普通によかった。その過去を改変する事によって俺を町での爪弾き者にした。これで俺は町で孤立したも同然。さらに過去の事件さえも改変……実際の過去では神楽院はあまり破壊活動はしていない。それを改変する事によって管理局内でさえも孤立させた。それは俺の両親の過去の改変からでもわかる。町で孤立し、他の場所でも孤立……じゃあ、最後に犯人がするべき行為は……)
ガタッ!
と、全の考えは結論を出した。だが、それはまさに最悪の結論でありそれが事実ならば今、全はこんな所にいるべきではないのである。
「クロノ、今すぐ俺を家に帰してくれ」
「何?残念だがそれは出来ない。君が無罪だと結論づけれる証拠がない限りは」
「だったら、力づくでも出ていく」
全は言うが早いか、立ち上がって扉に手を掛ける。だが、扉は開かずそれを確認した全は力任せに扉を開け放つ。
「ぐっ……ぐぅぅぅぅ…………ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ダンッ!!!!
叫び声と共にドアが開け放たれる。
「ば、バカな……純粋な膂力だけで開けたのか?」
「はぁ、はぁ……」
全は数度呼吸を整えると、走り出す。
「ま、待て!橘!」
クロノは急いで廊下に出ると、全に待てと言う。
それを聞いてなのかどうかはわからないが、全は唐突に止まると振り返り
「クロノ…………じゃあな」
それだけ言って、廊下を再び走り出した。
クロノSIDE
「じゃあな、だって?なんで……別れの挨拶なんだ?」
今、全は確かにじゃあなと言った。じゃあなは別れの言葉。しかしおかしい。
今この場で最適な言葉はまた後でとかの筈だ。
にも拘わらず、じゃあなと言った。それはつまり今日はもう会わないという事なのか?
僕はそこまで考えて、最悪の考えが頭をよぎり部屋に急いで戻り端末を操作しブリッジに通信を取る。
『何、クロノ君?』
「エイミィ、今海鳴市で何か事件ないし何か不穏な事は起こっていないか?」
『え?何でいきなり?というか、橘君は?』
「その橘がドアを破ってどこかへ行ったんだ。直前の彼の言葉から少しだけ想像してな……それで、何か起こってないか?」
『何かも何も起こってる筈……が…………』
エイミィの声は徐々に小さくなっていき、ついには何も聞こえなくなった。
「どうした、エイミィ?何か起こってるのか!?」
『く、クロノ君……家、が……』
「家?」
『た、橘君の家が………………………………………燃えてる…………!』
SIDE OUT
破滅は近い…………だが、絶望するにはまだ早い。あのパンドラの箱にだって、少しだけ希望があったのだから。だから、見守ろう、彼の最期の時を…………。
後書き
さあ、次回でこの章は終わります。ですが、まだ終わりません。この試練を乗り越え、戦え全君!
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