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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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第2章:異分子の排除
  第42話「銀の福音」

 
前書き
この小説での箒は、専用機を持ったからと、浮かれる事はありません。
原作やアニメ程の性能は“今は”ありませんし、その力を手に入れても努力を積み重ねなければ意味がないと理解していますからね。
 

 






       =秋十side=





「どうした?」

「こ、これを!」

 山田先生が慌てたように駆け付け、千冬姉に情報端末を見せる。

「特命レベルA、現時刻より対策を始められたし...。」

「実は...。」

「待て、詳しい事情は後だ。まずは他の先生方に連絡し、生徒たちのテスト稼働も中止させて待機させるように指示を出せ。」

「は、はいっ!」

 千冬姉がすぐに指示を出し、一度俺たちを見る。

「本来なら任せるべきではないが...お前たちにやってもらいたい事がある。」

「っ....!」

 ただ事ではないと、箒や鈴達が息を呑む。
 冷静なのは、俺やマドカ、ユーリに桜さん、後はラウラと...あいつも...だと?

「.....ふふっ。」

 そしてもちろん、束さんも平静だった。
 それどころか、まるで知っていたように束さんは笑った。

「あ、あの...そちらの方は...。」

「篠ノ之束だ...。」

「え、ええっ!?」

 束さんがいる事に山田先生は驚愕する。
 ...あー、そっか。普通なら驚くものだよな。慣れすぎて忘れてた。

「束、お前にも聞きたい事がある。ついてこい。」

「はいはーい!」

 山田先生は生徒への指示や他の先生に事の詳細を伝えるために走っていき、俺たちは千冬姉に連れられて移動した。





「...2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ、イスラエル共同開発の第三世代のIS、シルバリオ・ゴスペル...通称“福音”が制御下を離れて暴走。監視区域より離脱したとの連絡があった。」

 教師が集まり、臨時の対策室として扱われている部屋で、千冬姉が説明を行う。
 他の教師たちは、俺たちと一緒に来た束さんに驚いていたが、今は緊急時なためすぐに平静を取り戻していた。

「情報によれば、無人のISという事だ。」

「無人...。」

 俺はふとクラス対抗戦の時の事を思い出す。
 確か、あの時も無人機が相手だったな。

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2㎞先の空域を通過する事がわかった。」

「.....!」

 そこまで聞いて、なんとなく察してしまった。
 ...これは、俺達に解決させる気だと。

「時間にして50分後。学園上層部の通達により、我々がこの事態に対処する事となった。」

「(やっぱり...。)」

 予想通り、俺達を含めた学園で何とかしなければならないようだ。
 教師たちが福音の被害を出さないように空域と海域の封鎖を行い、肝心の福音の制圧は俺達専用機持ちに託すとの事だった。
 ...さすがに、桜さんも束さんもいるからそこまで不安ではないけどさ。

「そこで会議を行いたいが...束。」

「ん?なーにー?」

「...こうなる事を予測していただろう?」

 半ば確信めいたように千冬姉は束さんに問う。

「どうだろうねー?」

「...はぁ。お前は先程、自分の力が必要になるかもしれないと言った。それはこの事ではないのか?私としても、専用機持ちとはいえ、一学生に何度も事件の対応はさせたくない。」

 元々軍人であるラウラはともかく、他は一般人だ。...最近は一般から離れてるけど。
 そんな一般人にISによる事件の対処など、本来はさせるべきではない。

「まぁ、当たってるけどねー。とある情報から、福音がこうなる事は予測できていたよ。どうせ、テストパイロットのナターシャ・ファイルスを貶めようとか企んでる奴の仕業だよ。」

「なんと傍迷惑な...。」

「全くだよねぇ~。」

 “やれやれ”といった風に束さんは肩を竦める。

「束さんとしては箒ちゃんの晴れ舞台にしたいけど?さすがに第三世代の軍用ISに私が作ったとはいえまだ第二世代のスペックだとねぇ~。」

「そのためにお前がいるのか?」

「だってちーちゃんが出る訳にもいかないでしょ?」

 千冬姉には現場指揮の責任があるため、持ち場を離れられない。
 かと言って、それ以外の人では量産機では勝てない。...封鎖のために使って数もないし。

「だからと言ってさー君が本気を出せば、会社にはいられなくなりそうだしね。私と容姿も似て、その強さはちーちゃん並と来た。色々な所から狙われるよ。」

「っ...ならば...。」

「いくら第三世代の軍用ISとはいえ、こっちにも第三世代のISがあり、その子たちに搭乗する子も腕が立つ者が多い。...しっかりと作戦を立てれば、大丈夫だよ。」

 軍用ISは、文字通りスポーツとしてのISではないため、いくらか普通のISよりもスペックが高い。だけど、こっちにはそれを上回るポテンシャルを持つ者もいる。
 暴走している分、確かにこっちの方が有利だ。

「ただ、福音は一対多に向いてるんだよねぇ...。広範囲武装もあるし。」

「それでも数が多い方が有利になる。」

 広範囲武装か...。桜さんなら余裕で躱しまくるだろうな。

「あの...福音のスペックデータはどれほどなのですか?」

「おっと、それは知っておいた方がいいね。ちーちゃん。」

「...決して口外はするな。情報が漏洩すれば、どうなるかはわかっているだろう?」

「...はい。」

 ユーリの質問に返した千冬姉の言葉に、全員が気を引き締める。

「....広域殲滅を目的とした、特殊射撃型...。」

「...セシリアのISと同じ、オールレンジ攻撃が可能...。」

「暴走している分、私のより数段厄介ですわ...。」

 スペックデータを閲覧して、ユーリ、簪、セシリアの順でそういう。

「攻撃と機動の両方に特化した機体ね....。厄介だわ。」

「特殊武装が厄介で連続しての防御は難しい上に、格闘データが未知数なんだよね。そして今は超音速飛行を続けてるから、アプローチも一回が限界。偵察も行えないと来た。」

「....となると、一撃で決めないと厳しい...と。」

 束さんの言葉に、俺がそう呟く。

「....これは俺でも厳しいかもな。」

「え?桜さんでも?」

 あの桜さんですら“厳しい”と言った事に、俺は驚いた。

「ああ。...超音速だと、威力を調節しないと何もかも斬ってしまうからな。」

「あ、そっちの“厳しい”ですか。倒すだけなら問題ないと。」

 “水”を使ったカウンターによる一撃なら、普通に倒せるだろう。
 問題なのは、福音が超音速で動いているため、コアごと斬る可能性があるという事。

「相手が無人機ですから最終手段ですね...。でも、そうなると“水”を使った一撃必殺が使えないんですけど....。」

「“風”を使って接近して、強力な攻撃か...。でも、それだと例え“火”を使ってもSEを削り切れるとは限らない...。」

 エネルギーを斬れる特殊なブレードが俺のISにあるが、それでも難しいだろう。
 それ以上に一撃で決めれそうなのは...。

「...俺の零落白夜ならいけますよ。」

「......。」

 あいつだけだ。
 根拠もなしに自信満々にあいつは名乗りあげた。

「....ま、元よりそのつもりだけどね。」

「問題はどうやって織斑をそこまで運ぶか....だ。」

 ...ん?今、束さんと桜さんが嗤ったような....?気のせいか?

「ん~、紅椿のリミッターを解除すれば行けるけど...。あ、それはさー君にも言えた事だね。こっちの場合は力の制限を、だけど。それにゆーちゃんのスプライトフォームでも行けるね。」

「あの...私の場合防御力が皆無になるので...。」

「そうだったね!じゃあ、ゆーちゃんが運んで、さー君はその護衛でどうかな?」

 束さんの言う作戦に、反対意見はない。
 ...いや、あいつだけ文句があるようだな。

「なんでそいつが...!それと、箒は...!?」

「大事な妹をいきなり戦場に駆り出す姉がいると思う?第一に、箒ちゃんには悪いけど、素人にいきなり実戦っていうのはきつすぎるよ。あ、さー君は別だね。」

 しかし、束さんは呆れたように文句を跳ねのける。
 ...でも、それって...。

「...俺とユーリは...?」

「....正直、すまなかったと思ってる...。」

「えぇ....。」

 あ、束さんも目を逸らしてる...。

「はぁ....ところで、桜さんは二人のスピードについて行けるんですか?正直心配は無用だと思ってますけど、一応聞いておきたいです。」

「そうだな...ま、護衛のためについて行く事はできるさ。ユーリちゃんも無力じゃないし、パパッと行ってパパッと終わらせてくるさ。」

「なるほど...。」

 まぁ、桜さんがいるならそこまで困った事にはならないだろう。
 ...でも、何か嫌な予感がするんだよな...。







「~♪」

「す、凄まじいスピードですわ...。」

 作戦決行までの間、束さんがパネルを操作する。
 セシリアのISに付ける、高機動用のパッケージの最適化を行っているのだ。

「はい終わりっと。これで保険はできたね!」

「...使われない事を祈りますわ...。」

 確かに、使うという事は、イコール作戦失敗するという事だ。
 ならば、使わないに越したことはない。

「......。」

「...どうした?箒。」

 少し離れた所で、近場にあった滝を眺めている箒に、俺は話しかける。

「あ、ああいや....せっかく専用機を貰ったのに、何も役に立てないと思ってな...。」

「専用機貰っていきなり実戦に駆り出されるのはさすがにな...。」

 試験稼働程度じゃあ、実戦に臨める訳がない。
 せめてもう少し慣らしてからでないとな。

「ま、こういう時はどっしりと帰りを待つべきさ。...というか、桜さんがいる事による安心感が凄いんだけど。」

「はは、確かにな。姉さんとあの人、そして織斑先生が組んだら向かう所敵なしだ。」

 むしろ誰が勝てるというのだろうか?

「それよりも、秋十...。」

「...ああ。わかってる。」

 ちらりと向ける視線の先には、あいつがいる。

「自分の命どころか、他人の命も背負っている状態だ。なのに...。」

「...笑っている。何か企んでいるようにしか見えんな。」

 あいつは、まるでこの事件を“待ち望んでいた”かのように笑っていた。
 気づかれないようにしているみたいだが、ほとんどにばれている。

「ちっ...まずいな...。」

「何がだ?確かに、奴が何か企んでいるのは不安だが...。」

 あいつが何か企んでいる所で、桜さんがいるから平気だろう。
 だが...。

「...ユーリが相当緊張している。そっちの方でまずいと思ったんだ。」

「...なるほどな...。」

 どちらか片方だけなら大丈夫だった。桜さんがいるからな。
 だけど、あいつが何か企んでいる状態でコンディションが最高じゃないのはきつい。

「桜さんがいるから大事にはならんだろうが、それでも何か起きるかもしれない。」

「........。」

 かと言って、今更どうにかする時間もない。
 ...信じて待つ他ないか...。

「....悪い、縁起の悪い事言ったな。」

「いや....嫌な予感がするのは、私も同じだ...。」

 束さんがバックアップしてくれるだろうから、大丈夫だろうけど...。









       =out side=





「っ......。」

 ISの待機形態であるめ~ちゅを抱きかかえながら、ユーリは緊張を抑えきれずにいた。
 今までにも、自身が頑張らなければならない場面はあったが、それでも慣れる事はなく、“上手く行くのだろうか”という不安に駆られていた。

「....下手に気を負わない方がいいぞ。」

「桜さん....。」

 大丈夫だと、桜が声を掛けるが、ユーリの顔は優れない。

「私が運ぶ途中で被弾してしまったら、それだけで台無しになりますから...。以前と違って、得意分野ではありませんし...。」

 スプライトフォームの防御力は、一発でも致命的になるほど脆い。
 また、以前のIS学園襲撃の時と違い、解析などのユーリの得意分野でもない。
 その事から、ユーリは不安が拭えないままだった。

「何かがあったら、エグザミアが守ってくれるさ。」

「...そう、ですか...?」

 桜はエグザミアの“意思”を知っているが、ユーリは知らない。
 それでも、大切に思われている事は理解できていた。

「ま、俺も護衛についている。ユーリには傷一つ負わせはしないさ。」

「っ......!」

 優しくそう言われ、ユーリは顔を赤くする。

「...あれ、態とやってない?」

「...態とだろうな。」

 それを遠目から見ていた束と千冬は、溜め息を吐きながらそう言った。

「...あの人もなかなかの女誑しなのね。」

「あはは...しかも桜さん、気づいてない訳じゃないみたいなんだよね。」

「...なお性質悪いわね。」

 鈴とシャルロットは、束と千冬の反応を見て呆れながらそう呟いた。

「.........。」

 そんな中、一夏は隅の方で暗い笑みを浮かべていた。

「(ようやくだ...。ようやく、活躍の場が来た....!)」

 今まで散々出番を潰されてきた(と思っている)一夏にとって、“原作”と同じように“織斑一夏(自分)”が活躍する展開がようやく来たのだ。

「(“原作”での無人機やVTシステムは成り行きによる活躍だったから、出番が潰されてきた...。だが、福音だけは別だ...!)」

 “織斑一夏”が活躍した無人機の乱入とVTシステムの事件は、ぶっちゃけて言ってしまえば、“その場に居合わせたから”活躍できた事だ。
 だが、福音だけは指名された。よって、絶対に活躍できると、一夏は確信していた。

「(ここで俺が決めれば、皆俺の方へ.....ははは...!)」

 活躍の場を潰されたせいで、箒たちは桜たちに夢中になっていると、一夏は勘違いする。
 自身で洗脳しておきながら、都合の悪い事は見えていないのであった。





「...よし!事前準備はしゅーりょー!」

 簡易メンテナンスを終わらせ、束がそういう。

「...では、作戦を説明する。まず、織斑をエーベルヴァインが運び、篠咲兄がその護衛をする。福音に織斑が奇襲をかけて、それで終わればその時点で終了だ。」

「....成功しなかった場合は?」

 千冬の説明に、秋十が尋ねる。

「篠咲兄を中心に、応戦。隙を突いて零落白夜を当てるか....。」

「後方にあっ君、まーちゃん、らーちゃんを待機させておくから、撤退しつつ合流...だね。」

 無論、そんな都合よく行くとは限らないと、千冬の目が語る。
 “万が一”を想定し、撤退もできるように考えておく。

「相手は軍用IS。さらにはこれは実戦だ。普段の授業より遥かに命の危険がある。...決して、油断などはするな。」

 釘を刺すように言う千冬に、ユーリが頷いて返事する。
 桜は元より心配の必要がないため、面と向かって言われておらず、一夏は根拠もなしに“大丈夫だろう”と断定していた。

「作戦開始時刻に浜辺に集合だ。...遅れるなよ?」

 そういって、一時解散をする。





「....ユーリ、大丈夫かな...。」

「...ボクたちは信じて待つ他ないよ...。」

 通信を行う部屋で待機となっている皆は、出撃する人たちを心配する。
 特に、簪は友人でもあるユーリを心配していた。

「ねぇ、後方待機組でラウラは軍人だからわかるけど、秋十とマドカは...。」

「...えっと、ボクが説明するよ。」

 抜擢された理由がわからない鈴に対し、シャルロットが説明する。

「会社に入った時、社長...束さんから知らされたんだけど、秋十もマドカも実戦経験はあるみたいなんだよ。それに、ユーリもね。」

「実戦経験...。」

 “そういえば、そんな感じの会話をしていたな”と、鈴は思い出す。

「そういえば、先程聞き損ねたな。...詳しく話してくれないか?」

「あっ....。」

 それを聞きつけた千冬が、束達が何をやっていたのかシャルロットに問う。
 “やってしまった”と思ったシャルロットだが、もう手遅れだった。





「なるほど...な。」

「...あー、後でなんて言われるだろう...。」

 粗方聞き出され、シャルロットは疲弊していた。

「....ふむ、丁度いい時間になったな。」

「うぅ...ごめんなさい桜さん...。」

 作戦開始時刻になり、浜辺に到着しているであろう秋十達に通信を繋ぐ千冬。

「では、予定通りに始めろ。」

 千冬のその一言により、作戦が開始された。







「...“エグザミア”。」

「“想起”。」

 ユーリと桜が呟くように自身のISの名を呼ぶ。
 すると、瞬く間に展開を終了する。

「来い!“白式”!」

 そして、一夏もISを展開し終わり、準備が終わる。

〈スプライトフォーム!〉

「...では、行きましょう。」

「じゃあ秋十君、マドカちゃん、ラウラ。先に行ってくる。」

 スプライトフォームになったユーリが一夏を抱え、桜が後続組にそう言って飛び立つ。

「...俺たちも行くか。」

「ああ。」

 後方待機組の三人も、続くためにISを展開する。

「置いて行かれるよ。さっさと行こう!」

「よし....!」

 すぐさま飛び立ち、先に行った三人を追いかける。







「.....!見えました!」

「よし...奇襲を掛けるぞ!」

 先行していた三人は、福音を発見する。
 そのまま、ユーリは猛スピードで接近し....。

「零落白夜ぁ!!」

 一夏が必殺の一撃を命中させる....はずだった。

「っ、回避されました...!」

「ちっ...!予想通り上手く行かなかったか...!」

 だが、必殺となるその一撃は躱され、反撃の射撃が繰り出される。
 すぐさま桜が援護射撃を繰り出し、相殺する。

「(まだ零落白夜は使える...なら。)ユーリちゃん!スプライトフォームを解いて応戦だ!あの機動力じゃ、被弾は避けられそうになさそうだからな!」

「はいっ!」

 まだチャンスをあると見た桜は、隙を作るため応戦する。

「織斑!お前はいつでも攻撃できるようにしておけ!」

「うるせぇ!俺に指図するな!」

 桜は一夏にも指示を出すが、一夏はそれを無視して突っ込もうとする。

「....馬鹿が。」

「桜さん!どうしましょう!?」

「...俺が隙を作る。ユーリちゃんは援護してくれ。」

「はい!」

 ユーリは武器をルシフェリオンに変え、桜が前に出る。

「っ!ちっ...!」

 放たれる弾幕を桜は掻い潜り、ブレードで攻撃を仕掛ける。

「速い...!くそ、“風”だけじゃあ、捉えきれないか...!」

 下手に“水”を攻撃に使えず、高機動なため“風”でも捉えきれない福音。
 ユーリが援護射撃を放つものの、それも弾幕に相殺されてしまう。

「暴走しているのに“風”を扱うか...!相当操縦者と仲良くやっているみたいだな...!」

 一夏が付け入る程がない速度で、桜と福音は攻防を繰り返す。
 ユーリも上手く援護を試みるが、それでも桜が押されていた。

「(制限しているスペックじゃ、押し負けるな...。ユーリちゃんの援護ありで押されているし....。しょうがない、他の属性も使うか。)」

 追加で“火”、“土”を宿し、攻撃を躱すために“水”も宿す。
 それにより、押され気味だった戦況が変わり、拮抗する。

「はぁああっ!」

 高速で動き回る福音に追従するように追いかける桜。
 しかし、速度の差と弾幕で距離を縮めるには足らなかった。

「くっ....!」

 ...実際には、追いつき、攻撃する事は可能だった。
 だが、それをさせてくれない存在がいたのだ。

「はぁあああっ!!」

「っ、織斑!無闇矢鱈に突っ込むな!邪魔だ!」

「うるせぇ!てめぇの方が邪魔だ!」

 そう、一夏が無闇矢鱈に攻撃しようとするせいで、動きが阻害されているのだ。

「(ちっ...!俺が合わせるか...!これなら一人の方がマシだ!)」

 仕方なく桜が一夏の動きに合わせるように立ち回る。
 ユーリの援護も、一夏がいるため、二人が離れた時にしかできなくなっていた。

「えっ....!?」

 その時、ユーリの視界に一隻の船が映り、動揺する。
 それが原因で手元がぶれ、射撃が桜に当たりかける。
 幸い、シュテルが補正をかけたおかげでギリギリ逸れたが。

「っ!?ユーリちゃん!?」

「す、すみません!その、船が...!」

「....!」

 ユーリの言葉に桜も気づく。

「海上は既に封鎖しているはず...密漁船か...!」

 自身にある“知識”と状況から見て、そう断定する桜。

「くそ、こんな時に...!ユーリちゃん!船の護衛を!」

「は、はいっ!」

 すぐにユーリを護衛に就かせ、再び応戦する桜。
 しかし、それを読んでいたかのように、福音が弾幕をばら撒く。

「こんな時に...!」

「っ...!フォローしきれません...!」

 桜が最も危険だと判断したのか、福音は桜に追い打ちをかけるように弾幕を放つ。
 しかも、そこはユーリや船と同じ射線上であり、ユーリの援護も足りない状態だった。

「ぁあっ!!」

 ブレードを振るい、弾幕を出来得る限り斬る事で、船への被害を防ぐ。
 だが、さらに追撃として、福音自身が一夏を振り切って突撃してくる。

「(受け流せば、船とユーリちゃんが危ない...!)ちぃ....!!」

     ギィイイン!!

 本来なら受け流す所だが、位置の関係上、攻撃を受け止めざるを得なくなる。

「桜さん!」

「ユーリちゃんは早く呼びかけを!」

「は、はい!」

 至近距離から放たれる弾幕に、桜はダメージを受ける。
 それでも、ユーリに指示を出し、船を安全圏まで守ろうとする。

 ....だが....。







「は、ははっ...!千載一遇のチャンス...!」

 ...一つの悪意が、桜へと突き刺さる。

     ドスッ

「が...!?」

「ぁ....ぇ.....?」

 福音ごと、桜はブレードに刺された。
 その事に、ユーリは言葉を失う。

「織斑...!お前....!」

「このままだとジリ貧だ。なら、お前一人の犠牲の方がいいだろう?」

「ちっ...!」

 福音を蹴り、その勢いで桜は自身に刺さるブレードを抜く。

「ほらよ!」

「ぐっ....。」

 だが、追い打ちをかけるように一夏が福音を蹴り返し、それにぶつかって桜は海へと落ちていった。

「さ、桜さぁああああああん!!」

 それを見て、ユーリは悲鳴を上げる。
 そして....。





   ―――ドクン...



「【...操縦者に精神崩壊の危険あり。これより“システムU-D”、起動します。】」



 ...その悪意が、“闇”を目覚めさせた。











 
 

 
後書き
ラスボスは福音だと思った?残念!ユーリちゃんでした!
元々ラスボスでしたからね。ちょっと無理矢理とはいえ、こうなりました。 
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