提督はBarにいる。
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我が鎮守府のバレンタイン事情~オムニバス編~
前書き
時期も時期なのでアンケートで頂いたネタを消化していきたいと思います。イベント?参加しようか考え中です。
※注意※
今回のお話は後半に進むにつれて甘さが増していきます。皆様、ブラックコーヒーやら苦い抹茶やら、砂糖を吐かない対策を取ってからお読み下さいm(_ _)m
~羽黒の場合~
先に前置きしておこう。俺は贔屓目無しにモテる方だと思う。顔は凶悪と言われても差し支えない顔立ちだし、歳も四十半ばを超えたオッサンだ。だがしかし、ウチの鎮守府の連中で俺に恋慕の感情を持っている奴は多い。最初は親兄弟に向ける親愛の感情だろうと思っていたが、態度やら言動やらがどう考えても『異性』を意識した物だと鎮守府に着任してからそう早くない時期に気付いてしまった。特にもこの時期にはそれが顕著になる。2月14日。バレンタインデーだ。
「ふう……寝るか」
店仕舞いをして部屋を執務室へと戻した午前6時。大淀と入れ替わりに俺は床に着く。いつもと変わらない一日の終わり……の筈だったが、今日は妙な乱入者が現れた。通路の曲がり角からヒョコヒョコと黒髪が覗いている。
「何やってんだ?羽黒。お前今日確か日勤だろ」
「ひゃわっ!?ししし、司令官さん!どうしてここに!?」
「いや、どうしてって言われても……今から寝るトコだが」
隠れて(?)いたのは羽黒。妙高型の四姉妹の末っ子だ。
完璧人妻へと進化した長女、
干物系飲兵衛と化した次女、
餓えた狼から恋する乙女に突然変異した三女と、濃ゆい姉達を持つ彼女は、『引っ込み思案の頑張り屋』というウチの榛名に似た性格の持ち主である。上がり症な所はあるが、指揮をさせると周りへのフォローも忘れないし自身の戦闘能力も高い。ウチの有望株の一人だ。よく見ると、何かの包みを抱えているように見える。
「誰かへの届け物か?こんな朝っぱらからご苦労さん」
「あ……あのっ!違います!これは……そのっ」
「あん?」
「これは提督さんへの物ですっ!どどど、どうぞっ!」
ぐいっと差し出された包みは、綺麗にラッピングされたプレゼントのようだった。仄かに酒の香りと甘い菓子の臭いが漂ってくる。
「あぁ、そういや今日はバレンタインデーだったか。ありがとよ羽黒、大切に食わしてもらうわ」
そう言って頭をガシガシと撫でてやる。もう少しソフトに撫でた方がいいかと思うのだが、少し強めの方が俺らしいから嬉しい……らしい。(撫でられた奴の経験談)
「あ、あうぅ……えへへ」
羽黒も顔を真っ赤にしながら、はにかんだ笑顔を浮かべている。学生時代はこの強面も相俟ってあんまりモテなかったからな、こういうサプライズ的な渡し方をされると、年甲斐もなく嬉しくなったりするワケで。そんな事を考えながら、今日は騒がしくなりそうだと少し心配になった。
~秋津洲の場合~
バレンタインデーのチョコに細工をする、という奴は案外多い。中には自分の手先の器用さをアピールする場と捉えている奴もいるらしい。
「提督、いるー?」
昼までたっぷりと寝て、大淀と今日の秘書艦である熊野から引き継ぎを受けた直後にやって来た秋津洲も、そんな一人だ。水上機母艦に分類されている彼女だが、その艤装は専用機と化している二式大艇を整備する為に戦闘艦というよりも工作艦に近い。航空機への造詣も深い為、航空偵察任務以外の時には明石、夕張とともに工廠に詰める技術スタッフとして励んでもらっている。
「おぅどうした?また新しい工具の申請か?」
「もー、違うかも!今日はバレンタインデーだからチョコ作って来たかも!」
「おいおい、かもじゃあ作って来たのかわかんねぇぞ?」
「“かも”は口癖だからしょうがないの~!チョコはちゃんと作って来たの!」
からかい半分でそうは言ったが、その手にトレイが載っているのを見た時点で何となくは解っていた。
「じゃ~ん!大艇ちゃんを象って作ってみましたー!」
「おぉ、中々良くできてるじゃねぇか」
トレイの上には大艇ちゃんーー秋津洲が装備として使用する1/1サイズの二式大艇のスケールモデルのチョコが鎮座していた。プロペラや機銃まで、再現度はかなり高い。
「えへへー、張り切っちゃったかも!」
作った秋津洲は得意気だ。
「んじゃ早速食わせて貰おうかなっと」
俺が大艇チョコを手に取り、翼を根元から折ろうとした瞬間、
「だっ、ダメええぇぇぇぇぇ!」
「あ!?何で止めるんだよ秋津洲!」
「だってだって!翼は飛行機の命かも!そこをへし折って食べるなんて鬼畜かも!」
その後もどこから食べようとしても何かしらと邪魔をされ、結局味見すら出来なかった。
「……どうすんだこれ」
「んーと、冷凍庫に入れて観賞用にして欲しいかも?」
「商売の邪魔だ、溶かしてチョコフォンデュだな」
「て、提督の鬼~!」
食べられん食品に意味なんざねぇだろうが、ったく。
~加賀の場合~
あまり感情を露にするタイプではなかった筈のオンナが、いきなり積極的になった。そんな劇的な変化が起きたら、まず何かを疑うべきだろう。
「うし、こっちの書類はこれでOK、こっちは……あ?主計課の書類混じってんぞ。おい熊野、これ届けてきてくれ」
「承りましてよ」
今日の日替わり秘書艦である熊野が書類を持って退室する。執務室の中には俺と大淀の2人きりのハズだった……いつもなら。
「……で?何か用か、加賀」
「いえ、特には。提督の仕事ぶりを眺めていたいだけなので」
「……あっそう」
短いやり取りを済ませ、再び書類に目を落とす。執務机には乗り切らず、仕方なく応接セットのテーブルに書類を乗せて、ソファに腰掛けて書類をこなしていた午後3時頃。いつの間にやらやって来ていた加賀は、俺の対面に腰掛けて、何をするでもなくただジッとこちらを眺めている。どっかの悪戯好きな駆逐艦どものように仕事の邪魔をしないだけマシだが、何だかこうジッと見つめられていると……居心地が悪い。
「昨日の演習での戦績と……資材消費に、装備に関する意見具申か。こいつぁ工廠直通だな、大淀頼むわ」
「了解です」
特に何の反応もなく、大淀は書類を受け取って明石の下へと向かった。これで執務室には俺と加賀の2人きり。何か目的があるならここでモーションをかけてくる筈だが……。
「………………提督」
「あ?」
「失礼します」
「ん……おぅ」
そう言って立ち上がる加賀。スタスタと歩く音が響く。このまま退室するのか?何か意図があるのかと思ったが……なんて考えていたら、俺の右隣のソファが沈み込む感覚と、右肩にかかる重量感。加賀が隣に腰掛けてしなだれかかって来ている。押し付けられている柔らかな身体と確かな2つの膨らみの存在を、右腕が感じ取ってくる。ウブな坊やなら狼狽えるのかもしれんが、この位のスキンシップはウチじゃあ日常茶飯事。そんな事で心を乱される程、俺もヤワじゃない。
『ん?この匂い……』
いつもの加賀の体臭と違う香りが漂う。チョコレートの甘い香りに混じり、ふわりと香る匂いがある。
「珍しいな、お前が香水付けるなんて」
「そうですか?チョコの匂いは嗅ぎ付けると思っていましたが……流石は提督」
「普段は汗とシャンプーの匂い位しかしないからな」
普段は香水どころか化粧もあまりしない加賀が、香水を付けている。珍しい事もあったものだと思いながら、書類にペンを走らせる。
「……提督」
「何だ?」
「香水の匂い、お嫌でしたか?」
「いや、珍しいので面喰らっただけだ」
恐らく、加賀の顔は今不安げな顔をしているだろう。だが、俺に『女』として意識して欲しいと願ってする努力のいじらしさを誰が嫌がろうか。
「それがどうかしたか?」
「……いえ、なんでもありません」
「ふふ、今日はおかしいぞ?お前……」
そしてまた沈黙が生まれる。室内に響くのは柱時計のカチコチ言う音と、ペンを走らせるカリカリという音だけだ。加賀とはそれ以上発展する事もなくーーー強いて言うなら加賀が頭を肩に預けてきた位だが、大きな変化はなく、満足したのか熊野と大淀が戻ってくる前に加賀は去っていった。恐らくは尻に敷いていたのだろう、少し柔らかくなったチョコの包みを置いて。
「……まさかあれ、『襲ってくれ』ってアピールだったのか?いや、流石にねぇか」
コーヒーを淹れ、溶けかけのチョコをかじりながら、俺はそう一人で吐き出した。
~???の場合~
また繰り返しになるようだが、俺は強面だが中々にモテる。それにはちょっとしたコツがあるのだが、まぁ今日はそれを実践しよう。仕事終わりの午後6時。店にとある2人を呼び出した。
「あら?伊良湖じゃない。どうしたの、こんな時間に」
「あ、ビスマルクさん。提督さんに呼ばれまして……」
「あら、貴女も?でも提督が見当たらないわね……」
「悪い、待たせたな」
キッチンの奥に引っ込んでいた俺が顔を出す。
「あの、提督さん。ご用は何でしょうか?」
「あぁ、こいつを渡そうと思ってな」
両手に持っているのはバラの花束。21本ずつの花束である。
「て、提督これって……!」
「今日お前ら進水日(たんじょうび)だろ?だからそのプレゼントだ」
目を丸くしたビス子に、悪戯っぽくニヤリとわらってやる。『女は記念日に弱い』……大概の女は記念日を細かく決めたがる。誕生日忘れるなんざ論外だ。俺は艦娘全員、毎年とはいかないが祝ってやってるぞ。
「あぁそれと、俺からの特別メニューだ。バースデーケーキ代わりの『生チョコ風ガトーショコラ』だ」
海外の方じゃあ男が女に告白する日ってイメージの方が強いらしいからな。まぁ、たまにはいいだろう。2人とも感激して1人1ホール平らげてしまった。明日の体重計がちと心配だが、まぁ大丈夫だろう……多分。
後書き
どうだったでしょうか?加賀の話なんかは個人的にはゲロ甘い感じだったんですが(^_^;)
さて、バレンタインデーネタをやりましたので、当然昨年のバレンタインデーにもアンケートを取った『あのネタ』もやります。投稿はホワイトデーからの予定ですが、先着10名のご指名、お待ちしております。
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