ファイアーエムブレム聖戦の系譜 〜幾多の星達〜
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10部分:天馬と魔道師と盗賊とその一
天馬と魔道師と盗賊とその一
天馬と魔道師と盗賊と
解放軍が峡谷の戦いに勝利を収めガネーシャ城に入城したとの報はいち早くリボー城のダナン王の下に届けられた。
「ハロルドめ、何をやっておった!」
ダナン王は激昂した。その周りにはドス黒い軍服に身を包み胸に犬の首と箒の紋章を飾った者達が控えている。王の親衛隊だ。
散々怒鳴り散らし周りの物を壊し尽くした後ようやく落ち着きを取り戻したダナン王は肩で息をしつつ家臣に命令を下した。
「ヨハンとヨハルヴァに叛徒共を討伐するよう伝えろ、一人も生かして返すなとな!」
「はっ!」
かくしてイザーク城城主ヨハンとソファラ城城主ヨハルヴァに反乱軍討伐の令が下った。使者達はすぐさまそれぞれの城へ向かった、
ーイザーク城ー
ダナン王の次子ヨハンが城主を務めるイザーク城はイザーク南東部にあった。王国の名の由来ともなっているイザーク地方はリボーから見て高地にあり、イザークとリボーの間は長く穏やかな坂になっている。人口密集地であり国都でもあるリボーと比べると流石に劣るがなかなか豊かな地方であり城主ヨハンは多少風変わりながらも父に似ず暴政や弾圧を嫌い、イザークの民からも慕われていた。そんな彼に今深刻な問題が突き付けられていた。
「やはり反乱軍を討伐せよ、と仰ってますか」
青い髪と瞳のまだあどけなさが残る若者がヨハンに問うた。ヨハンの部下であるボウファイター、ロナンである。茶色のズボンと胸が大きく開いた上着の上に白い服を着ている。
「うむ。一刻も早く出撃しろと言って来ている」
茶色の髪に黒い瞳、凛々しい顔立ちの青年が渋い表情で言った。彼こそイザーク城城主ヨハンである。青い軍服に白のズボン、黄色のマントとブーツを身に着けている。
「では早速出撃いたしますか?」
濃茶のやや長い髪と瞳の大柄な若者が主君に問うた。オーシンという。白いズボンに緑のシャツ、その上から肩当を着けている。斧の使い手として知られている。
「そうすれば私はあのラクチェと剣を交えなければならない。それは嫌だ」
「しかし出撃なさらないと王から何を言われるか解かりませんよ。王は実子に対してもお厳しい方です」
やや短めの薄い茶の髪と瞳の男が言った。アクスファイターでハルヴァンという。オレンジのズボンと黄土色のシャツを着ている。ごつい外見に似合わず頭が切れることで知られている。
「そうなのだ。父上は誰に対しても容赦なさらぬ。例えそれが私やヨハルヴァでもな」
顎に手を当てヨハンは考え込んだ。暫くして口を開いた。
「出撃しよう」
「はっ、ですが・・・・・・」
「兵は動かさぬ。迎え撃つという口実でな。それならば父上も文句はあるまい」
「はい」
ロナン、オーシン、ハルヴァン等は出撃の準備に取り掛かるべく部屋を後にした。それを見つつヨハンはひっそりと
呟いた。
「ラクチェ、出来る事なら闘いたくはないが」
深い溜息と共にヨハンは部屋を後にした。出撃してからも彼の表情は冴えなかった。
ーソファラ城ー
イザーク西部はソファラ盆地という。高い山々に囲まれた広い盆地であり丁度ガネーシャとイザークの中間にその入口がある。湖沼が多く土地は肥えているが十分に開拓されているとは言えない。人口もあまり多いとは言えない。その中で最も豊かな地域にソファラ城はあった。
城主ヨハルヴァは短気で口が悪いが豪快で気さくな人物として知られていた。そんな彼にも兄とおなじ難問が飛び込んで来た。
「反乱軍を叩けだあ?冗談じゃねえぞ」
茶の髪と瞳の荒削りな顔立ちの若者が苦々しげに言った。ソファラ城城主ヨハルヴァその人である。緑の軍服を肩に掛け白いシャツとブーツ、緑のズボンを着けている。手首には白い布を巻いている。
「しかしそうも言ってはいられませんよ。王は御自身の仰る事に従わぬ者に対しては残忍極まりない御方です」
小山の様な大男が低くドスの効いた声で言った。ダグダという。元は山賊であったがヨハルヴァの人柄に惚れ込み帰順してその部下になった。怪力で知られまた気概のある人物として有名である。濃い髭が顔を覆い、髪はバンダナで包み白っぽいズボンに濃黄色のシャツを着ている。
「それは俺と兄貴が一番良く知っている。何せ生まれた時から親父の側にいたからな」
「でしたらすぐ出撃すべきです」
茶の髪と黒い瞳の素朴な外見の大男がその外見からは思いもよらぬ小さな声で言った。白いズボンに濃茶のシャツを着ている。
「簡単に言ってくれるな、マーティ。向こうにはラドネイがいるんだぞ」
「すいません」
「いや、謝ることはねえけどよ」
「けど殿下、結局は出撃しないとどうなるか解かりませんよ」
黒いショートの髪と瞳の小柄で少年の様な外見の女の子が言った。赤がかった黄色のズボンに黄緑の上着を着ている。
「おいタニア、殿下に対してそんな言い方は無えだろ」
ダグダがタニアを叱るがタニアは反発した。
「何言ってんのよ、父ちゃん。父ちゃんだって殿下の御前で平気でガラガラと笑ったりむしゃむしゃ熊みたいに食べたりしてるじゃない」
「うっ・・・・・・」
「それに今は率直に言った方が殿下にとってもいいわ。そうでしょう、殿下」
「ああ、まあな」
「ほら、殿下もこう仰ってるわよ。解かった?」
「糞っ、本当に口の減らない奴だ」
「父ちゃんの娘だもん」
「全く・・・・・・。すいません殿下、よく躾ときますんで」
「構わねえよ、俺は体裁や奇麗事が嫌いなんだ。それよりも考えたんだがやっぱ出撃するぞ」
「え!?」
驚いた三人を前にヨハルヴァは続けた。
「ただしソファラの入口辺りで動かない。これで親父の命令は一応果たしているしラドネイとも喧嘩にならない。どうだ、名案だろう」
「はい」
「じゃあ行くぜ」
「おう!」
勇ましい声を挙げ三人とヨハルヴァは部屋を出た。そして出撃しソファラとガネーシャ、イザークの境で進軍を止め動かなかった。
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