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世界に一つだけの花

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第四章

 若山は最後にだ、協一に言った。
「靖国にいるからな!」
「本土のですね!」
「本土に来たら来てくれ!」
「そこで会いましょう!」
 協一も応えた、そしてだった。
 二人は別れた、その後で。
 激しい戦闘が終わり島民達が島に帰るとだ、島にはその激闘の後があった。日本軍の兵器だけでなく将兵達の死体も横たわっていた。
 島民達はその死体達を見てだ、こう言った。
「弔おうな」
「そうしないとな」
「俺達にあそこまでしてくれたんだ」
「それじゃあな」
「そうしないと駄目だ」
 彼等はこう言って彼等を埋葬し弔った、だがその多くは身元がわからないまでに傷付いていてだ、若山は全てが終わってから言った。
「大尉もいた筈だけれど」
「ああ、わからなかったな」
「あの人がどうなったか」
「戦死されたのは間違いないにしても」
「どうなられたか」
「わからないな」
 こう口々に話す、そしてだった。
 協一は項垂れて皆が蒲公英を植えた場所に向かった、何人かの島民達も一緒だった。そしてそこに行くとだった。
 蒲公英は残っていた、協一はその花を見て言った。
「お花はあるから」
「ああ、大尉の言われた通りにな」
「この花を広めよう」
「今は一つだけでも」
「この島にな」 
 他の島民達も言った、激闘の中でかろうじて残ったその花を見詰めて。ペリリュー島の死闘は激しい戦いとなり日本軍は玉砕してだった。
 後には島民達と一つの花が残った、ペリリュー島を含む島域はアメリカの統治となりやがてパラオ共和国として独立した。
 その中でだ、成瀬協一今はキョウイチ=ナルセという名前になった彼は彼の人生を生きていき今では八十を超えて曾孫もいる年齢になった。そして曾孫の一人であるトミタにだ。
 道の横に咲いている一つの花を指差してだ、こんなことを言った。
「あの花は知ってるな」
「うん、蒲公英だよね」
 キョウイチに手をひかれているトミタは幼い顔で曽祖父に応えた。
「そうだよね」
「そうだよ、あの花は昔はなかったんだ」
「そうだったんだ」
「この島にはな」
「それでどうして今はあるの?」
「日本の軍人さんがわし等にくれたんだ」
 このことを話した。
「トミタの名前はわしが付けたがな」
「そうだったの」
「その名前の人に貰ったんだ」
「僕の名前日本の軍人さんの名前だったんだ」
「ああ、その人がわし等にくれてな」
「今はこうしてだね」
「島のあちこちに咲いているんだ」 
 今はやや曲がっている腰で穏やかに話した。
「最初は一つだけだったがな」
「それがなんだ」
「今は島のあちこちで咲いているんだ」
「そうなんだね」
「そうだよ、本当に最初は一つだけだったんだ」
「それが今じゃあちこちに咲いているね」
「ああ、そうなったんだ」
 暖かい目でだ、キョウイチは曾孫と花を見ていた。
「そして今度ひい祖父ちゃんは日本に行くけれどな」
「皆を連れて行ってだね」
「そこでその軍人さんとも会うからな」
「その人は何処にいるの?」
「神社にいるんだよ」
 やはり優しい目で言う。
「今はな」
「神社って?」
「日本の教会だよ」
 曾孫にわかりやすく話した。
「そこにいるんだ」
「じゃあ僕もその人に会えるんだね」
「会いたいかい?」
「うん」 
 幼い声でだ、トミタは曽祖父に顔を向けて答えた。
「僕その人に会いたいよ」
「そうか、じゃあ日本に行こうな」
「そこにも蒲公英あるよね」
「ああ、あるぞ」
 キョウイチは曾孫にまた答えた。
「日本でも蒲公英を観ような」
「そうしようね」
 二人で笑顔で話した、暑い島国でも蒲公英は咲いていた。そしてキョウイチ達を見て静かにそれぞれの場所で佇んでいた。最初は一つだけだったが今では島のあちこちでそうしている。


世界に一つだけの花   完


                       2017・1・27 
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